桜とドロシーさんはぶつかり合いながらも、何とか全ての家の管理を決めた。
それは両者共にある程度納得できるものであり、当初考えられていたものよりも大分緩やかな、平和的な物であった。
そう決まった理由には、争わない為のルールだからと桜が語っていて、俺は涙が溢れそうになるのだった。
素晴らしい事である。
そして、相互交流をする為として、スタンロイツ帝国の家の二階にとても広い広間が作られることとなった。
しかも、俺が居心地の良い様にと畳の部屋である。
「でも、畳なんてよく知ってましたね」
「えぇ。リョウさんの出身地の事は調査していましたから」
「いつの間に……」
「ふふ。私の特技ですわね」
「流石というか、何と言うか」
俺は既に出来ているという畳の大広間へと向かい、その広さに驚かされながらも、やや気安い口調でドロシーさんに語り掛けた。
ドロシーさんもまた、言葉遣いは丁寧ながら、気安く話をしてくれる。
「はいはい。離れて。離れて」
「おぉ、桜」
「こんな広い部屋でくっつく必要無いでしょ。ほらー!」
ドロシーさんと並びながら話をしていた俺であったが、桜が俺とドロシーさんの間に無理矢理入ってきて、グイグイと押した為、少し右にズレた場所へと移動する。
そして、俺の腕に捕まりながらドロシーさんを警戒する桜の頭を撫でるのだった。
「あらあら。お子様の機嫌が悪くなってしまったわね」
「誰がお子様さ!」
「鏡が必要なら持ってくるけれど?」
「叩き壊してやる!」
なんか、さっきも見たやり取りだな。
と思いながら俺は、桜が落ち着くようにと頭を撫でる。
が、今日はかなり暴走しているのか、ガルルと猛獣の様に怒りを示していた。
今日は駄目みたいだね。
「そういえば、この部屋は誰でも入れる様に開放してるんだよね」
「ええ」
「なら……これから食事はなるべくこの部屋でとる様にしますかねぇ」
「でしたら、この家に来る為の入口はこの部屋に設置しましょう。その方が皆さん嬉しいでしょう?」
「まぁ、そうですね。時間がずれても、この部屋に来れば誰かが居るのなら、その方が良いですかね」
「であれば、一階の調理場から、ここへの道を……」
「要らないよ。セオストのリビングと直接繋げて」
「……よろしいのですか?」
「あんまり広くはないけど。あそこが一番設備しっかりしてるし。食糧庫はセオストの食糧庫が一番大きいし。その法が効率良いでしょ」
「ですが、私たちも入れてしまいますよ」
「良いよ。別に。リビングくらいなら」
ムスッとした顔でそんな事を言う桜を俺はギューッと抱きしめて、苦しいと桜に怒られてしまうのだった。
そして、ドロシーさんも桜の言葉に少し驚いた顔をしてから小さな声で「ありがとう」とお礼を言う。
「……別に」
そんなドロシーさんに桜も俺に顔をうずめたまま、ドロシーさんに聞こえるか聞こえないかの声で返事をするのだった。
何となくではあるが、和解の道が見えた様な気がしなくもない。
まぁ、根本の部分で多分気が合わないから、仲良くというのは無理だろうけど。
喧嘩をしない。という関係まではどうにか、いけそうではあった。
それから。
せっかく大広間を作ったのだからという事で、シーメル王国に居た子供達や、ユウキちゃん達も呼んで大宴会を開く事になり。
俺はみんなが仲の良い子たち同士で集まっている中、色々な子たちのグループに引っ張られていた。
右を見ても、左を見ても妹。
俺にはちょっと選べないな?
「相変わらず大人気ですね。リョウさん?」
「あぁ、ミクちゃん。お久しぶり」
「本当に。お久しぶりですね。そして、お久しぶりついでに聞きたい事があるのですが?」
「なんでしょうか?」
「この部屋から外を見た時、とても見覚えのある場所だったんですね。そう。まるでスタンロイツ帝国の様だなと」
「あ」
俺はミクちゃんが笑顔のまま怒りを示している事に気づき、しまったと心の中で失敗を悟る。
そう。そう言えば、そうだった。
ミクちゃんはルールを重んじる人間で、シーメル王国の家から扉を一個くぐるだけでスタンロイツ帝国へと来てしまった現状に怒りを示しているのだ。
転移魔術の許可なき個人利用もそうだが、他国への不法侵入なども大問題である。
「前々からおかしいなとは思っていたんですよね。家にいる人が増えたり、減ったりしていましたから。それが! まさか!! こんな事に繋がっていたとは!!」
「いや、これは何も悪いことをしているワケでは無いんですよ」
「しているでしょうが!! 今、まさにここで!!」
ミクちゃんの怒りは凄い。
とても凄い為、俺はひとまず最強の切り札から切ることにした。
「実はさ。許可が出てるんだよね」
「誰の!」
「シーメル王国のアリア様と、スタンロイツ帝国の皇帝陛下の」
「~~!!」
ミクちゃんは突如として現れたビッグネームに、色々と言いたいことがあるだろうに、全部飲み込んで、怒りを示す様に足で床を強く叩いた。
相当に怒っている。
おそらくは俺だけでなく、皇帝陛下と、アリア様に。
「世界秩序をなんだと思っているんですか!? まったく!」
「そうカッカしないの。ミク」
「その反応! モモ! 貴女、知ってましたね!?」
「うん。知ってたよー。ちなみにリンもね」
「僕は知らなかったよ!」
「あー、はい。ユウキはそうでしょうね」
「うん!!」
元気よく返事をするユウキちゃんにミクちゃんはなんだか疲れた様な顔で頷く。
そして、気勢を削がれたのか、後でアリア様とエリク皇帝とリョウさんで話し合いをしますよ。なんて言って、去っていった。
酷く疲れている様子だった。
大変そうだなぁ。
なんて考えていたら、当代の勇者様が何かを期待した様な顔で俺の腕を引っ張る。
「ね! ね! ここ、スタンロイツ帝国なんだよね!」
「うん。そうだね」
「ならさ! アレ、売ってるの!? アレ! あの冷たくて甘い奴!」
「あー。アイス? 売ってると思うよ」
「なら買ってきても良い!?」
「それはまぁ、良いけど……」
なんで俺に許可を? なんて思っていたら、ユウキちゃんが満面の笑みを浮かべながら俺に両手を差し出していた。
それを見て、あぁ。と察する。
俺は懐からお金を取り出して、ユウキちゃんに手渡しながら、一つお願い事をする事にした。
「じゃあユウキちゃんにお使いをお願いしようかな」
「お使い?」
「そう。ここに居る子たちの分もアイスを買ってきてくれたら、おつりはユウキちゃんにあげる」
「ホントにー!?」
「あぁ。嘘は言わないよ。みんなの分を買ってきても、半分以上は残るだろうから。大事に使うんだよ」
「うん!!」
ユウキちゃんは笑顔でタタタっと走っていった。
そして、シーメル王国の子供達の元へ行き、一緒にアイスを買いに行く人ー! と呼びかけて、子供達と一緒に買いに行った。
何というか。子供たちのリーダーという感じだな。
なんて思いながらうんうんと頷いていたら、再び怒りの化身が舞い降りた。
「リョウさん!!?」
「うぉっ! ビックリしたー! どうしたの。ミクちゃん」
「今、ユウキにお金渡してましたよね!?」
「う、うん。アイスが食べたいっていうから、みんなの分も買ってきてねって」
「どうしてそんな甘やかすんですか!? これからお夕飯を食べるんでしょう!!? 先にアイスなんて食べたら食べられないでしょうが!」
お母さんみたいな怒り方だな。と思いながら俺はドロシーさんに店の冷凍庫を借りられるか聞いて、ユウキちゃん達が買ってきたアイスを入れても良いか確認した。
そして、怒り狂っているミクちゃんを見てからドロシーさんはクスリと笑い、許可を出してくれる。
これで無事解決だなと思っていたのだが、ミクちゃんのお説教はまだ終わっていない様だった。
「リョウさん! そもそもですね! そうやって容易くお金を渡してしまうから! ユウキは甘える事ばかり覚えてしまうんですよ!」
「聞いてますか!?」
「大人の見本として、リョウさんがしっかりしなくてはいけないんですよ!」
「聞いてますか!!?」