何だかんだと勢力を拡大している我が家であるが、基本的に俺がいい加減な人間である為、秩序よりも利便性を優先したり、気分で我が家の外の世界に存在するルールを破ったりという事が当然の様に行われている。
だが、そんな我が家において、秩序の番人ともいえる人が存在していた。
それこそがミクちゃんであり、我が家の住人達に、我が家以外にもルールが存在している事を思い出させてくれる存在である。
「時間に関する魔術は禁じられています」
「そうなの?」
「ジーナちゃんは何物にも縛られないよ!」
「縛られてください!! ルールですよ! ルール!」
「え~。ジーナちゃん。どこかの知らない奴が作ったルールなんて知らないモーン。ねぇ? リョウ君。リョウ君もそう思うよね?」
「まぁ……」
そうだねと頷こうとした俺であったが、鋭く俺を射抜く視線に気づき、言葉を飲み込む。
危うくミクちゃんの終わらない説教に自ら飛び込むところだった。
「ま、まぁ。でも、ルールは守った方が良いと思うな。うん」
「え~? 普段はバレなきゃ何やったって良いんだよ。みたいに言ってるのに」
「リョウさん?」
「いやいや。そんな事言ってないよ。何かやるときはバレない様にやろうねって言ってるだけで」
「同じ事でしょうが!!」
秩序の番人は今日も元気であった。
元気にお説教をしようと、まずは自らの正しさを証明するべく激しく攻撃を仕掛けてきていた。
しかし、援護の部隊が思わぬところから現れ、ミクちゃんに横合いから攻撃を仕掛ける。
「ルール、ルールって今更じゃない? リョウさんの家じゃルールなんて簡単に捨てられちゃうしさ」
「モモ! そういう意識が駄目なんですよ! 守ろうとする強い意志を持たなくては秩序はすぐに崩壊してしまいます」
「いや、秩序って言うけどさ。言うほど秩序守られてる? 世界」
「守られていなければ、人々は平和に暮らす事すら出来ていません!」
「いやいや。それこそ欺瞞でしょ。えーっと、なんだっけ? 最近リョウさんが拾った人たちが居たでしょ?」
「あぁ。ドロシーさん達の事?」
「そうそう。ドロシーさん達。彼女たちは国が秩序を保てていなかったから生きる為に体を売るしか無かったんでしょ? それを見て、よくもまぁ、秩序なんて言えたもんだと思うけど」
「うっ……うぅ……」
俺たちの援護として現れたモモちゃんは激しい一撃をミクちゃんに与えた後、連続で攻撃を繰り返し、ミクちゃんをボロボロになるまで追い詰めていた。
もはやミクちゃんは泣きだしてしまいそうであり、非常に可哀そうな事になっている。
「ま、まぁ。ほら。完璧な物は無いんだしさ。ミクちゃんも一生懸命頑張って秩序を守ろうとしているワケで、確かに手が届かない場所もあるけど、だからといって現状より悪くする理由はないよね」
「……リョウさんさぁ。どっちの味方なの?」
「う」
「まぁ、良いけどさ。まったく。秩序の番人様はすぐに、優しいお兄ちゃんに甘えるからなぁ」
「甘えていません! リョウさん。手出しは無用です! ……というか! 元々リョウさんが始めた事じゃないですか!」
「いや、まぁ。そうね。じゃあ大人しく俺はミクちゃんの敵サイドに行こう」
俺はハイと頷きながらミクちゃんの敵に回った。
そして、コホンと咳ばらいをしてから優しく反撃をする。
「えーっとですね。確かに時間がどうのって言うと、凄い事みたいに聞こえるかもしれないんだけど。実際には冷蔵庫の延長線上の魔道具みたいな利用しかしないんだよ」
「と、言いますと?」
「作った料理を適温で保存しておく場所が、今俺たちは欲しいんだ。ミクちゃんも家に来てから長いだろうから何となく分かるだろうけどさ。フィオナちゃん達の負担も結構大きくて。このままじゃずっと台所に居なきゃいけなくて。それを何とか解消したいんだ」
「……なるほど。確かにフィオナさん達の負担は大きな問題です」
「でしょ? それでさ。ジーナちゃんが提案してくれたのが、対象の時間を停止させる魔道具ってワケなんだ」
「理解しました。正直手段が過激なのではないかと思いますが、必要性は感じます」
「でしょ? だからさ……」
「しかし。時間に関する魔術は禁止されております」
「……ミクちゃん」
途中まで説得がうまくいっているかと思われたが、ミクちゃんは厳しい顔をしながらぴしゃッと言い放つ。
それに、俺は少しばかりがっかりした反応をしたのだが。
「ですから。魔道具を作る際には、私が監視させていただきます」
「ミクちゃん……!」
ミクちゃんはしっかりと俺達の事を考えて、答えを出してくれるのであった。
流石は秩序の番人という所である。
「おチビちゃんって、ホント素直じゃないよね」
「誰がおチビちゃんですか。誰が!」
「一人しか居ないと思うんですけど?」
「そこに直りなさい! ジーナさん! こら!」
「いやだよぉーん!」
それから、ミクちゃんをジーナちゃんがいつもの様に煽り、そんなジーナちゃんを追いかけて、ミクちゃんが走っていくという光景を見つつ、話し合いは終わる。
そして、話し合いも終わりという事で、その保管庫を作ろうという話になったのだが、それに待ったをかけたのはジーナちゃんであった。
「保管庫作るならさ。ついでに例の家。作ってみない?」
「あー。例の家?」
「そう。そうすれば大きな食堂も作れるでしょ? 何かあった時に絶対安全な場所になるし」
俺はジーナちゃんの提案に賛成し、うんうんと頷いていたのだが、桜達は何の話かと疑問をぶつけてきた。
その為、ジーナちゃんと計画していた話を桜達にも伝える事にする。
「それがさ。色々な場所に家を作ろうって話になった時、ジーナちゃんがお母さんにすぐ会いに行ける場所に家を作りたいって言ってて」
「へー。良いんじゃない?」
「うん。それでさ。その場所はかなり広いから、大勢が食事できる食堂なんかも作ったら良いんじゃない? って話でさ」
「あー。大広間とは別にね? 食事用の場所って感じ?」
「そう。まぁ、場所が森の中なんだけど」
「は?」
「いや、だから……魔物が出る、俺達冒険者が仕事でよく行く、森」
「「はぁぁああああ!?」」
まぁ、そんな反応が返ってくるだろうなとは思っていたのだけれど。
思っていたよりも予想通りの反応が返ってきてしまい、俺はうーんと唸ってしまった。
いや、気持ちはよく分かるんだけどね。
魔物の森だからって、ジーナちゃんだけ駄目だよっていうのも可哀想だしね。
何とかしたいのだけれども。
とりあえずは説得からスタートって感じかねぇ。
「魔物の森って危ないじゃん! ご飯食べてたら、ご飯になっちゃうよ!?」
「まぁ、確かに。その心配はあるよね? ジーナちゃん?」
「大丈夫だよぉ。魔物とか全然居ないもん」
「そうなの?」
「うん。だってママがいるのは、神域って呼ばれる場所だから、魔物なんかは近づけないよ」
何やら不穏な言葉が聞こえた気もするが。
俺はひとまず桜達の方へと顔を向けた。
そして、いかがでしょうかとお伺いを立てる。
「神域、神域? それって、あれですよね? 伝説の神獣が住むって言う、魔物なんか比べ物にならない危険地帯」
「あー。そうなんだ」
「そうなんですよ!」
「でも、ほら。神だろうがなんだろうが、獣なら俺は殺せるから」
「ちょっとーリョウ君? ママを傷つけたら怒るよー?」
「それは気を付けるから」
俺はハハハと笑いながらジーナちゃんの言葉に返事をして、やはりかと心の中で頷いた。
そして、俺が気づくのならば、優秀な妹たちが気づかないワケがなく。
「え? ちょっと待ってください? 今の話って……いや、でも、そう考えると納得が……」
「おや? どうしたのかな?」
「あの、もしかして、ジーナさんのお母さんって、神獣だったり……なんて」
「うん。その通りだよ」
「~~!?」
飛んできた確信に迫る質問にジーナちゃんが肯定を返した瞬間、皆の混乱は頂点に達するのだった。