スタンロイツ帝国に家を作ってから、様々な事があったが、ひとまずみんなの日々も安定し。
俺もまた、定例の仕事を貰って、落ち着いた日々を送れる様になった。
スタンロイツ帝国を狙う者の存在は確認されているが、今の所動きはなく、平和そのものである。
というワケで俺はミーシャ様と共にスタンロイツ帝国の見回り任務をこなしているのだった。
「いやぁ、平和ですねぇ」
「そうですねぇ」
まぁ、見回りとは言っても、事件が起きなければただ歩いているだけなので、ミーシャ様と散歩をしているだけと言えば、しているだけだ。
例の大冒険をした子供達とも、見回りの仕事が始まってからすぐ会いに行き、再度お礼を言われたりした。
そして、もう二度とこんな危ない事はしないと両親の前でしっかりと誓い、何か見つけたらすぐ俺に伝えてくれる様になった為、子供たちの事件は解決した……と思われるのだが。
「それでね。それでね。ここはね。暗くて、怖いの」
「そうなんだねぇ。じゃあ、しっかり見回らないとなぁ」
「えぇ!? で、でも、怖い場所なのよ?」
「だからこそ。みんなが安心して住めるように、お兄さんが確認するんだ」
俺の手を引きながら一生懸命街を案内していた少女は、俺の言葉に不安そうな顔をしながら瞳を揺らし怜太。
その様子にミーシャ様が俺の所まで近づいてきて、俺と繋いでいない方の手を取り、女の子を安心させる様に笑うのだった。
「では、怖いところはお兄さんに任せて、みんなは私と一緒に待っていましょうか」
「え……でも」
女の子は俺とミーシャ様を交互に見て、やはり不安そうに、悲し気に眉をひそめた。
「大丈夫。お兄ちゃんは凄く強いからね。怖い物が出てきても、心配は要らないよ」
「……うん」
女の子は少しだけ安心した様に笑って、俺の手を離した。
そして、そのままミーシャ様の手をキュッと繋いでジッと俺を見つめる。
どこか期待を混ぜた様な瞳だ。
だから。
「大丈夫だよ」
ともう一度繰り返して俺は暗い路地裏へと向かおうとしたのだが。
「お、俺も怖くなんかねぇよ!」
「僕だって! こんな所、怖いもんか!」
素直に怖い物を怖いという女の子とは違い、男の子たちは元気に俺に飛びつきながら叫んでいた。
なんともまぁ。
君たちはもう危ない事をしないと約束したんじゃなかったのかい?
と聞きたくなったが、ブルブル震えながら勇気を振り絞っている男の子たちにそんな事を言うのも可哀想かと、そのまま一緒に向かう事にした。
が、まぁ何も無いだろうな。
という予測通りに、その裏路地には何もなく。
一応奥まで行って左右を見て見るが、やはり何もなかった。
「どうやら、ここはただ暗いだけの場所の様だね」
「へ、へぇー。ま、まぁ俺は怖くないから平気だけど!」
「僕だって全然怖くないよっ!」
先ほどよりも強く俺の服を握りしめながら叫ぶ二人に苦笑しつつ、じゃあ戻ろうかと言おうとしたのだが。
瞬間、俺は何かの気配を感じて暗闇に顔を向けた。
すぐに抜ける様にと神刀にも手をかける。
「え? え? えっ!?」
「なに!? なになに!?」
「二人とも。動かないで」
俺は怯える少年たちに短く告げて、意識を集中させた。
例え攻撃が来たとしてもすぐに切り捨てられる様にと。
だが。
「ヒッヒッヒ。そう殺気をふりまくなよ。小僧。痒くなるわ」
「……貴女は?」
「この辺りに住んでるタダのババァさ。お前さんの様なものが気にするほどの大物でもない」
「そうですか」
一応警戒は外さないままに、老女を見る。
どうやら武器なんかは持っていない様だ。
なら警戒は要らないか? とも思うが、まぁしておいて損は無いからな。
神刀から手を外しつつも、いつでも抜けるようにはしておいた。
外から見れば、完全に戦闘態勢を解いた様に見えるだろう。
「まったく。最近のガキは、人の話を信じようとしない」
「……!」
「なに驚いてるんじゃい。お前さんが警戒を解いていない事など、一目瞭然じゃろうが」
「そういう言葉を聞くと、余計に警戒を解けないですが……」
「甘ったれなガキじゃな。まぁ良いじゃろ。それで? ここに何の用じゃ」
「いえ。用事というワケでは無いんですが、スタンロイツ帝国の見回りをしております」
「ほー。という事はお主、騎士か?」
「いえ。自分は冒険者ですね。依頼でやってます」
「ふぅん」
あまり興味は無さそうだ。
まぁ、それもそうか。
家の近くになんか来たから見に来た。
程度のものだろうしな。
「ですが、特に異常も無さそうなので、我々はこれで」
というワケで、俺は老女に一礼をしてから立ち去ろうと子供達の背を押しながら路地裏から出ようとした。
しかし。
「お主。呪われておるな」
「え?」
「せいぜい食われん様に気を付ける事だ。ヒッヒッヒ」
「え!? ちょっ!」
俺は唐突に謎の不吉な予言をぶつけられてしまい。
何事かと手を伸ばしたのだが、老女はそのまま闇の向こうに消えてしまうのだった。
どういう事なのか!
「リョ、リョウ! はやく、いこう!」
「な、なぁ!」
「あ、あぁ。分かったよ」
俺は子供たちに引っ張られて、そのまま路地裏を出て行くことになってしまった。
そして、帰ってきた俺に女の子が飛びついてきて、そのまま俺の手を取って、路地から離れてゆく。
結局さっきの話は何だったのか。確かめる事が出来ないまま。
そんな形で放置されてしまった為、俺は気になって夕方の遅くに、昼間来た路地へと再び来ていた。
目的は勿論、老女に呪いの話を聞くため……であったのだが。
「なんだ……これ?」
その場所は確かに昼間来た場所であったのだが、老女の姿は愚か、昼間見た奥へと伸びる暗い路地奥が無くなっており、乱雑に木材等が置かれていた。
まさか道を塞ぐために置いたのか? と、その奥を覗きこんでみるが、あるのは薄汚れた壁だけで道はない。
夢でも見ていたのだろうか。
もしくは場所が違う?
俺は周囲を見ながら自分の記憶と照らし合わせてゆく。
だが、どう考えてもこの場所が昼間に訪れた場所であり、老女が消えていったのも、木材が積まれている場所にだった。
何がどうなっているんだ……?
意味が分からず俺は路地の中で立ち尽くしてしまった。
が、特にそこで何かが生まれるという様な事もなく、俺は大人しく家に帰ろうとしたのだが。
不意に積み上げられた木材の辺りで何か気配がした。
「っ!?」
その気配に俺は、思わず積み上げられた木材の所へと行き、俺は何かが木材の下に埋まっている事に気づいた。
そして、やや急いで木材をどかして下を見ると……そこには一人の子供が眠っていた。
服はボロボロで、木材の下に眠っているからか全身が薄く汚れている。
俺は一応気を付けながらその子供を木材の上から抱き上げてうつ伏せで倒れていた子供の顔を伺った。
顔色は悪くない。
呼吸もしている。
「しかし、なんでこんな所に……?」
寝ている子の頬に触れてみるが、特に起きる気配も無さそうだ。
スタンロイツ帝国は夜冷えるし、このまま放置というワケにはいかないか。と俺はその子供を家に連れて行くことにするのだった。
「ハァ……なんだかなぁ」
『だから、それがお前さんの呪いなのさ』
「ん?」
路地の奥から何かが聞こえた様な気がして振り返ったが、そこには何もなく。
俺は気のせいだったかと家に向かうのだった。
そして、当然と言えば当然の話であるのだが……ドロシーさん達から少し呆れた様な顔をされてしまった。
しかし、何か危険があるとしても俺が一緒に寝ていれば大丈夫だろうと、この日はこの子と一緒に少し離れた場所で寝る事にするのだった。