街のパトロールをしていたところ。
謎の老女から不吉な予言を貰い、その老女に再び話を聞こうと同じ場所へと訪れた結果。
今度は謎の子供を拾った。
何だか嫌な事が重なって続いている様な感覚であるが、だから何かがどうにかなるという事もない。
確かに妙な事は起きているが、それが直接何かのトラブルに繋がっているという事でもないのだ。
というワケで。
俺は、ひとまず子供を家に連れて帰って、スタンロイツ帝国の家にある何かが起きても何の被害も起きないであろう部屋で、その子供と夜を過ごす事にした。
まぁ、外でテントを張るという考えもあるのだが……外はそれなりに冷えるし。
子供をその様な環境に置く事を俺自身が許せなかったという事もある。
なので、子供と並びながら寝ていたのだが、子供が酷く寒そうにしていた為、その子を抱きかかえ、毛布を上からかけて寝る事にした。
毛布だけで十分かもしれないが、子供には見守る存在が必要だろうと考えた為だ。
そして。
子供が俺の服をギュッと握りながら、どこか安心した様な顔をして眠り始めたため、俺も休もうと目を閉じて眠りについた。
一応、何かが起きればすぐに対処できるようにと、周囲の気配を感じながら。
翌朝。
俺はふと懐で何かが動く気配に、眠りの世界から目を覚ました。
「ん?」
「……ん」
腕の中では俺の顔を見ながらジーっと視線を向けている子供が居て、俺はその子供に視線を合わせながらひとまず待つ。
こういう時にこちらから話しかける方が良いんだろうが、無駄に圧は与えたくないものな。
なんて考えていると、子供がそっと口を開いた。
「ママ?」
「いや……どちらかと言うと、お兄ちゃんかな」
「ママ……?」
「……パパとか」
「ママ……」
「……あぁ、ママだよ」
よく分からんが、今日からママになった。
まぁ、正直な所パパでもママでも大して変わらんだろうしな。
このくらいの子供にとっては、護ってくれる存在は全てママだよ。
つまり、俺もママというワケだ。
「ママ」
「あー。まぁ、とりあえず風呂にでも入ろうか?」
「ふろ?」
「体を綺麗にするって事だね」
俺は体を起こして、子供を抱き上げた。
ギュッとしがみ付いてくる子と一緒にお風呂場へと向かう。
そして、お風呂で体を洗ってあげて、一緒に湯船につかり……暖かいお湯の中でぬくぬくとしている子に、ひとまず名前を聞いてみる事にした。
まぁ、何かが出て来るとは思わないけど……。
「君。自分の名前は言える?」
「なまえ?」
「そう。名前」
「なまえ……ノーラ」
「ノーラちゃん?」
「ノーラは……ノーラ」
なるほど、ノーラちゃんね。と思いながら俺はぬくぬくとお湯の中で気持ちよさそうにしている姿を観察する。
奇妙な子供だ。
子供を一人にしておく事は出来ないと家に連れてきたが、ノーラちゃんは非常に奇妙な子供であった。
あの様な路地裏で寝ていたというのに、彼女の柔肌には傷一つない。
それこそかすり傷一つ無いのだ。
彼女の上には木材が積まれていたし。
下に潜り込んだにせよ、上から落ちて来たにせよ、傷が付いているのが自然だ。
まぁ、彼女が木材の上に寝てからそっと上から木材を重ねたという事であれば傷が付いてない理由にも納得がいくが……。
いや、木材の重さを考えればあざの一つでも残っている方が自然だろう。
しかし、彼女の肌は白く……まるで箱入りのお嬢様という様な綺麗さがあった。
どちらにせよ、あり得ない話だ。
「んー」
「んー?」
俺はうーんと腕を組みながら考えていたのだが、俺の声に合わせてノーラちゃんも、歌うようにんーと重ねる。
そして、俺に寄り掛かりながら「はふー」と息を吐いた。
少し眠そうな感じだ。
温まって眠くなってきたのかな?
「そろそろお風呂を出ようか」
「んー。ママ……」
「大丈夫。俺は一緒に居るよ」
「うん」
ギュッと小さな手で俺の腕を握るノーラちゃんに言葉を返しつつ、俺はノーラちゃんを抱き上げてお風呂を出た。
そして、タオルで体を拭こうとしたのだが……。
「ママ。それ、なぁに?」
「タオルだよ。ノーラちゃんの体を拭くんだ。水が付いてると、服が濡れちゃうからね」
「みず? これ?」
俺の行動に疑問を覚えたノーラちゃんが手の上に乗った水の雫を俺に見せながら問うてきた。
その純粋な瞳に、俺は頷いて応えたのだが、次の瞬間……ノーラちゃんの手の上にあった水が消えていた。
「え?」
「みず、ぜんぶ、けしちゃうね」
「あ、あぁ……」
そして、よく分からないままノーラちゃんの言葉に頷いた俺は、ノーラちゃんの体に付いていた水滴が全て焼失したのを目撃する。
信じられない様な事だ。
信じられない様な事であるが、現実に起こっている事でもあった。
「これは……! 水が……消えた?」
「うん」
「ノーラちゃんが、やったのかい?」
「うん」
「そうか……ノーラちゃんは、偉いね」
「えへへ、ノーラ、偉い?」
「あぁ。とても偉いよ。自分で体を綺麗に出来るなんて」
「ままー。ノーラ、えらいー」
ギュッと抱き着いて来たノーラちゃんをそっと抱き返して。
何だかんだまた濡れてしまったなと思いながら、俺はノーラちゃんの体をサッと拭き、ドロシーさんが用意してくれた子供用の服を着せる。
そして、両手を広げて俺に向けているノーラちゃんを抱き上げて、お風呂場から出るのだった。
「リョウさん」
「っ」
お風呂の扉を開けると外にドロシーさんが立っており、笑顔で話しかけて来た。
だが、ノーラちゃんはドロシーさんに怯えた様な顔になって俺に抱き着きながら顔を埋めてしまう。
その様子に、ドロシーさんは状況を察したという様に笑顔で頷いて、後でと言うのだった。
相変わらず凄い人だなと思いつつ、俺はノーラちゃんと共に部屋へと向かおうとしたのだが、廊下の先でフィオナちゃんがこっちに来い! と示していた為、出来たばかりの食堂へと向かう事にした。
「ノーラちゃん」
「ん」
「まずはご飯を食べようか」
「ん」
ノーラちゃんは俺に抱き着いたままであるが、ご飯を食べるという提案に頷いてくれた。
それから、俺はギュッと抱き着いているノーラちゃんを抱えたまま食堂がある三階まで上がり、一番奥の席に座るのだった。
「何食べる?」
「どうかな。食べやすい物、ある?」
「まぁ、何か作るよ。サンドイッチとかさ。スープは……まぁ、難しいだろうし」
「そうだね」
俺はフィオナちゃんが話しかけて来た事で、更に強く抱き着いて来たノーラちゃんを見て苦笑する。
そして、フィオナちゃんもノーラちゃんの様子に苦笑して「分かったよ」なんて言いながら用意をしてくれるのだった。
そんなこんなで、俺は人が殆ど居ない食堂で、ノーラちゃんと一緒に朝食が出来るのを待つ。
「……まま」
「ん? どうしたの?」
「おいしい、におい」
「そうだね。きっと美味しいご飯が出て来るよ」
俺の言葉にノーラちゃんは少しだけ勇気を出して、俺に抱き着いたままキッチンで動き回っているフィオナちゃんとリリィちゃんを見やるのだった。
しかし、料理が出来て、フィオナちゃんがこっちに来る時には、やはり怯えが勝つ様で、俺に抱き着いたまま顔を埋めていた。
そんなノーラちゃんにフィオナちゃんは笑みを零しながら色々なメニューをテーブルの上に置いてくれる。
出て来た料理は全て手軽に食べられるモノばかりで、流石はフィオナちゃんとリリィちゃんだな。と頷きながら料理を手に取って、ノーラちゃんに話しかけるのだった。
「じゃあ、ご飯を食べようか」
「ん」
「はい。あーん」
「あん……ん。……ん。おいしい」
「それは良かった。じゃあいっぱいあるから、好きな物を食べよう」