桜とミーシャ様と共にスタンロイツ帝国の帝都の見回りを行い。
ある程度全体を見る事が出来た俺は、家に戻り、まずはドロシーさんに話かけた。
「あ。ドロシーさん」
「はい。私に何か?」
「実は、一つ相談したい事がありまして」
「ご相談、ですか?」
「はい。あのですね。ドロシーさんのお店に来たいと言っている騎士団の方々が居まして、その人たちを招待したいと思っているんですけど。いつ頃にお店を開く予定かなと」
「ご希望でしたら今夜にでも……!」
「あ、いや。そこまで凄い急いでいるっていうワケでは無いんですけど。開店する日が分かれば調整できるなと思っているワケでして。無論、開店してすぐで無くても良いですし」
「ふふ」
焦りから色々と言葉を並べてしまったが、ドロシーさんにクスリと笑われてしまう。
少し恥ずかしい気持ちだ。
ひとまずは冷静になろうと俺は大きく息を吸って、吐く。
「あー。申し訳ございません。ドロシーさん。ひとまず焦っている話ではなく、宣伝等に良いかと思いまして、話をしていたのです」
「なるほど。お気遣いありがとうございます。しかし……やはり、宣伝という形でしたら、店を開く前のお試しみたいな形が良いかと思いますが」
「ドロシーさんがその方が良いという事でしたら、その様に」
「そうですか。承知いたしました。では、明日の夜以降……都合の良い日を教えていただけますと幸いです。出来れば前日まで教えていただけましたら」
「分かりました。ではその様に伝えておきますね」
「はい。ありがとうございます」
ペコリと丁寧に頭を下げるドロシーさんに俺も頭を下げつつ、早速準備をしようと王城へ向かう事にした。
ドロシーさんの件と、ミーシャ様の件について皇帝陛下に面会の約束をする為……だったんだが。
「なるほど。もう店を開くのか。分かった。騎士団の方には話を通しておこう」
「ありがとうございます」
何故か面会の約束を入れた日に面会をすることとなり、俺は皇帝陛下にドロシーさんの店の話を伝えておいた。
そして、流石に急な話過ぎて連れてきていないミーシャ様の話についても皇帝陛下に話す。
「ただいまお話した件とは別件となるのですが」
「ふむ?」
「実は例の男について、考えていた事がありまして」
「聞こうか」
皇帝陛下はズシリとソファーに深く座り込むと、腕を組んでやや鋭い視線を俺に向けてきた。
そして、続きを話せと促した。
「例の男について、俺と一緒に戦っていた魔術師の方と話をしていたのですが……例の男は普通の人間ではなく魔術で作られた人間の様な姿をした存在では無いかという仮説が出まして」
「魔術で作り出した人形の様な存在……という事か?」
「はい。だからこそ魔力を切り裂く事で撃退する事が出来、さらには斬った感覚が無かったのではないかと」
「なるほどな。それで? 何か対策があるのか?」
「はい。魔術師の方の話では、魔術が使用された時、どの様な魔術が使われたのか。どこで使われたのか分かる魔術があると言いまして。それをスタンロイツ帝国全体にですね」
「……ふむ。私は魔術に詳しくないが、その様なものがあるのか?」
「えぇ。そう聞いております」
「その魔術師はお前から見て、どうだ? 信用できるのか?」
「はい。信用できる方です」
「そうか」
皇帝陛下はふむと顎に手を当てながら瞳を閉じて、しばし考える様な仕草をしていた。
そして、何かしら答えが出たのかゆっくりと目を開いて俺を見据える。
「一度、その魔術師と話がしたい」
「はい。承知いたしました」
「日にちは……お前に任せる」
「はい」
「場所は、例のお前の女が作る店の中だ」
「はい……はい!?」
「何を驚いている。敵に悟られない為には、情報が洩れぬ場所を選ぶのが最適だろう?」
「それは……そうですが、それなら城でも良いのでは?」
「駄目だな。ここは監視されている可能性が高い。下手にその魔術師を呼べば狙われる可能性があるぞ。私の周りに近づく人間など警戒対象だろうしな」
「……その理屈だと俺も危ないのでは?」
「無論だ。だが、お前ならばその辺りの刺客に負ける事はあるまい」
「それは、まぁ。そうでしょうけれども」
「ならば問題はない。という事だ」
どこか納得できない気持ちを抱えながらも、皇帝陛下の話は終わり、後日騎士団から人を向かわせるという事になり。
翌日。
「いやぁー! 緊張してきましたなぁ」
「本番は夜ですよ。騎士団長」
「それは把握しているのですが、自分は女性と話す機会が少なく……やはりどうしても緊張してしまう物なのですよ」
「なるほど」
俺はピカピカと光る騎士団の服を着ながら両手に抱える様な花束を持っている騎士団長さんを見て苦笑する。
どうやら皇帝陛下の言う通りになったようだと。
そう。
皇帝陛下が言っていたのだ。
内密の話をするのであれば、ドロシーさんの店は非常に都合が良いと。
何故なら、騎士団長が女性に浮かれて向かう様な浮ついた店であるという点と。
広く開け放たれた店内で内密な話など出来るワケがないと思えるからだ。
しかし、現実には店内には騎士団の関係者と俺の関係者しかおらず、話が外に漏れる心配はないし。
一応ジーナちゃんが盗聴とかの妨害魔法を使ってくれているから、聞かれる心配もない。
更に言うのであれば、店の中に居る以上、女性であれば店員と見分けがつかないし。
男であれば客と見分けがつかないからである。
というワケで、まずは浮かれたフリをした騎士団長を招いたワケだが……。
いや、これは心の底から浮かれているのでは? と俺は少しだけ騎士団長を怪しんだ。
が、まぁ。
浮かれていたとしても任務はこなすのだろうし。
その辺りは気にしなくても良いかと、とりあえず、流す。
「では店内に案内しますね」
「は、はい!」
そして、緊張している騎士団長さんを店の中へ案内し、まずはドロシーさんを紹介する。
「こちらドロシーさんです。そして、こちらがスタンロイツ帝国の騎士団、団長の」
「ウィ、ウィリアムです!!」
「っ! 団長さん。声。もっと落として下さい。女性を怖がらせちゃ駄目ですよ」
「っ! こ、これは……失礼いたしました」
「ふふ。とても強そうな方ですね」
「じ、自分は騎士団で最強ですから! ワハハ、ワハハハ!」
「それは頼もしい。ウィリアム様の様な方がいらっしゃるのなら、私も安心ですね」
「無論! 私にお任せ下さい!!! どの様な敵が来ようとも! 私は決して負けません!!!」
「団長さん。声。声!」
「あ……と、申し訳ない。興奮するとすぐにこうなってしまい。驚かせてしまいましたね」
「いえ。私は大丈夫ですよ。ですが、このお店に居る子は、以前の街で男性に……その酷い事をされておりまして、乱暴な男性が苦手なのです。どうか、優しくお声がけいただけますと嬉しいですね」
ふわりと微笑みながら釘を刺しに行くドロシーさんを見て流石だがと思っていた俺であったが。
団長さんはドロシーさんの言葉に目を見開いて、驚愕しながら俺の方へと視線を向けた。
「リョウ殿! 今のお話は!」
「えぇ。真実ですよ。彼女たちは非道な扱いを受けていました。俺も見ましたし、実際に戦いましたが、騎士とは名ばかりの乱暴者ばかりの国でした」
「なん……という……!」
声は抑えている。
が、強い怒りが騎士団長を支配しているのだろう。
手に持っていた花の茎が握りつぶされ、水が腕を伝い落ちる。
そんな騎士団長の姿に、声をかけようとしたが、俺よりも前にドロシーさんが騎士団長へと声をかけた。
「ウィリアム様。どうか落ち着かれてください」
「ド、ドロシー殿」
「過去は過去。私たちは今、皆さんのおかげで幸せの中におります。ですから。どうか……お花も可哀想ですから」
「こ、これは! 失礼をしました!」
団長さんは勢いよく頭を下げて、そっと花束をドロシーさんへと差し出した。
そして、非礼を詫びてから改めて口を開くのだった。