スタンロイツ帝国所属の中央騎士団騎士団長であるウィリアムさんは、自らの服装をただし、咳払いをすると改めて口を開いた。
「ドロシー殿。リョウ殿。此度は、この様な機会を授けて下さり、大変感謝しております。無論、これは私だけではなく、明日こちらへ来させていただく騎士達。そして、これから店に来るであろう今回は来られなかった者達の総意であります」
「あー。抽選だったんでしたっけ?」
「えぇ。希望者は騎士団全体の九割を超えましてな。仕方なく抽選という形を取りました。店の広さにも限界はありますし。皇帝陛下の財布にも限界はありますから」
「それは何とも……逆に申し訳ない事をしてしまった様な?」
「ハハハ! それほどお気になさらずとも。此度当たらなかった者には別途手当を出しますよ。それに、初陣で失敗した者達の話を聞く事が出来るので、そこを利点と考えている者もおります」
「あー。なるほど。情報。それは確かに重要かもしれませんね」
「えぇ。何せ我らにとっては未知の戦場ですからな。重要なのは勇気か、情報か、計略か。人により考え方は変わってくるでしょう」
「その上で、一応お伝えしておきたい事がありまして」
「はい?」
「一応、お店の子達は恋愛をするつもりではなく……」
何だか既に駄目そうな気配も出ているが、俺は騎士団長へと警告を出しておいた。
が、どうやらそれは俺の杞憂であった様だ。
「ハハハ! リョウ殿にはご心配をおかけしますな。まぁ、ご心配もごもっともという所ではありますが。我らは騎士。力なき民を護る騎士であります。無論、女性と話す機会を母親以外には持てなかった者が、麗しき女性に心を奪われる事もあるでしょう。ですが、我らは手など出しませんよ。もし出そうと考えている者が居たとしても周囲がそれに気づき、その者を止めるでしょう」
「そうでしたか」
「それでも! 止められない可能性があるのではないか! とリョウ殿もお考えになるかもしれない。ですから。可能であれば、多くの騎士と親交を深めていただけると助かります。誰か一人に異変が生じても、他の騎士へそれを伝えていただければ解決も容易いですからね。もし、伝える先に迷った際には私に伝えていただければ。私が全て解決いたしましょう!」
自信満々で頷く騎士団長さんに俺は、これが騎士かぁ。と高潔な魂に感動を覚えていたのだが。
ドロシーさんは、クスっと笑うと信用しているとは言えない目でジッと騎士団長さんを見つめていた。
「では、ウィリアム様。貴方様が暴走された際には、どの様な対処をすれば良いでしょうか?」
「その様な事はあり得ない! と私はお伝えしますが。まぁ、私に言われても納得は出来ないでしょう。ですから、その際にはどうぞ。リョウ殿へ。単独でジャイアントボアを狩る様な御方だ。私などは容易く倒されてしまうでしょう」
「……ウィリアム様」
「ドロシー殿。貴女は本当に幸運な方だ。スタンロイツ帝国に来る事が出来た事ではない。かの英雄と出会う事が出来た事は何よりも貴女に幸運を授ける事でしょう。噂でも、実際に目にしても感じましたが。リョウ殿は義理堅いお方だ。必ずや貴女の危機に力をかして下さる」
「えぇ……そうですわね」
「ですから、何も心配はいりませんとも。えぇ!」
朗らかに笑う騎士団長さんに、ドロシーさんはホッと安堵の息を吐くのだった。
やっぱり緊張していたんだなと思いつつ、俺は二人と共に、今日の夜について話を始めた。
「では、陛下はこちらの座席にお願いします。ここならば襲撃されても我らが盾となれますから」
「ここなら、まぁ外から聞かれる心配はありませんか」
「そして、私は陛下の隣。そして、逆側には副団長と、順に座っていく想定となります」
「もし万が一。何かあった際に私の妹達が逃げる場所はどうしましょう?」
「基本的には近くに居る騎士が護りますが……その場に居続けるよりは逃げ場があった方が良いですね。確かに」
ドロシーさんと騎士団長の疑問に俺はふむと考えながら部屋の見取り図を見た。
テーブルや椅子が置かれ、それぞれの部屋に繋がる入り口もある。
「キッチンだと、ちょっと狭いですよね。そうなると大広間に行くのが妥当ですかね」
「……そうですわね。ですが、部屋の右側に居る子が左側まで行くのはかなり厳しい気がします」
「確かに。そう考えると全員が全員同じ場所に逃げるというよりも、右側の子はキッチンんへ、左側の子は大広間へ。状況を見ながら安全だと思う方へ逃げる方が良い気がしますね」
「そうですわね。あ、でも……キッチンにはフィオナさんやリリィさんがいらっしゃいますし。逃げ込むのはあまり良くないでしょうか」
「あー、まぁーそうかもしれませんが。二人も冒険者ですからね。多少の危険は大丈夫かと」
「それなら、良いですが……」
「事前に、そういう時もあるという事はみんなに伝えておけば良いかと。それである程度覚悟も出来ますしね」
それにまぁ。リリィちゃんが居れば滅多な事にはならないだろう。
リリィちゃんは正直、その辺の奴じゃ勝てない……どころか傷一つ付けられないだろうしな。
と、いう事は表に出さず、俺は話を進める。
「では、当日の配置はこんな所ですかね? 緊急事態の対応も話せましたし。後は当日。という所ですか」
「えぇ。良いと思います。予想外な事は……まぁ、何とかしましょう」
「そうですわね。私達も初めての試みですし」
俺たちは笑い合い、ひとまずの話し合いを終わらせた。
そして……翌日となり、昼から色々と準備をして……夜、プレオープンという奴をする事になった。
試験的な営業開始。という奴だな。
騎士達が多くやってきた店内で、俺は自然に歩いているフリをしながらミーシャ様と共に皇帝陛下が待っている場所へと向かった。
店の奥の奥である。
「お待たせしました。皇帝陛下」
「いや。帝都の見回りをしてきたのだろう? ならば時間がかかるのも問題はない。敵の目を逸らす必要もあるしな」
「そうですね」
俺は皇帝陛下と軽く話をしながらソファーへと座り、皇帝陛下と話をしていたであろうドロシーさんに軽く頭を下げた。
ドロシーさんは俺が来たことを確認し、騎士団長と共に隣の席へと移ってゆく。
これで、このテーブルには俺と皇帝陛下とミーシャ様しか居なくなったワケだ。
「では、紹介しますね。皇帝陛下。こちらミーシャさん。俺と一緒に活動している魔術師の方です」
「ふむ」
「初めまして。スタンロイツ帝国の皇帝陛下」
「初めまして……? では無かろう」
「……!」
「以前にも会った事がある。確か……デパルダムの王子と言っていた筈だが、今は女か」
「何故……!」
「何故と問われてもな。魔力が同じだ。『見れば』分かる」
何を言っているんだ。当然だろ。とでも言う様な顔で皇帝陛下は言葉を向けていたが。
驚き、固まっているミーシャ様の反応を見る限り、あまり当然の事では無いのだろうなと思った。
「魔力の違いってあるんですか? 皇帝陛下」
「あぁ。ちなみにお前からは何も見えん」
「でしょうね」
「ヤマトの民には生まれながらに魔力を持たぬ者もいるという話を聞いていたが、実際に見た時は少し驚いたな」
「そうでしたか。それで……ミーシャ様の事は」
「あぁ、以前デパルダムに行った際にな。会った王子の魔力と同じだ。例え双子であったとしても、魔力は個人で違う。故にお前とは初対面ではないと返したのだ」
「なるほど」
「しかし、デパルダムには王子が一人と聞いていたが……まぁ、双子の妹がいたという事か。なるほど。呪いから逃れようとしたか」
「へ、陛下! 私の事は!」
「心配するな。貴様が何者であろうと、私は関係がない。貴様がスタンロイツ帝国に刃を向ける存在でなければ、な」
「は、はい……!」
「いや。そういう意味で言えば、リョウを引き抜く可能性があるから危険と言えば、危険だが……」
「陛下。相手は王族ですよ。あり得ないでしょう」
「今一つ信用が出来ん言葉だな? リョウ」
フッと笑いながら強烈な言葉を撃ち返して来た陛下に、俺は苦笑する事しか出来ないのだった。