スタンロイツ帝国の皇帝陛下に出会ってすぐにミーシャ様の正体がバレてしまい。
少々危ない事態となってしまったが、皇帝陛下はあまり気にしていない様で、話は本来の場所へと戻ってゆく。
「では、陛下。ミーシャ様の話はひとまず横に置いておいて。魔術の話をさせて下さい」
「そうだな。私もその話をしに来たのだ。出身がどうのという面倒な話は横においておくとしよう」
「ありがとうございます」
俺はペコリと頭を下げて、ミーシャ様へと視線を送った。
ミーシャ様はまだ緊張が隠せていない様子であったが、ゴクリと唾を飲み込んで気合を入れてから口を開く。
「えっと、ですね。まずは私が存在する事を認めて下さってありがとうございます」
「いや」
「それでですね。私が提案する魔術は、魔術に反応する魔術です。これを帝都の全域に仕掛ます」
「ふむ」
俺が置いた地図の上にペンを走らせながら細かい魔術に関する話をしてゆくミーシャ様と、一つ一つの細かい説明に頷いている皇帝陛下を見ながら俺はテーブルの上においてあった紅茶を手に取り、口にする。
そして、何が何やら分からない話にも一応耳を傾けるのだった。
それから。
一通り魔術の説明が終わった様で、ミーシャ様は緊張からか流れた汗を拭いながら大きく息を吐く。
「如何でしょうか」
「悪くはない。あくまで魔術の管理はこちらが行うという事だしな。まぁ、一応魔術式は持ち帰り調べさせるが、構わないか?」
「も、勿論です。私は素人ですから、専門の方に見ていただければ……と」
「違う」
アセアセとミーシャ様が軽く焦りながら返した言葉にm皇帝陛下は冷たい目と言葉で返した。
その瞳には静かな殺意が混じっている。
「貴様の魔術が、我が国にとって不利益となるかどうかを調べると、私は言っている」
「っ!」
「まだ疑ってたんですね」
「当然だ。我が国の人間では無い物の差し出した物を簡単に信用できるものか」
皇帝陛下は吐き捨てる様にそう言ったが、ミーシャ様はホッと安堵する様な息を吐いた。
そして、朗らかに微笑みながら言葉を続ける。
「そうですよね。安心しました」
「安心だと?」
「はい。魔術は非常に危険なので、スパイの可能性がある。破壊活動の可能性がある。という観点からじっくりと調査していただければ、問題点もある程度は見つかると思いますので、その方が私は良いと思います」
「疑われているのにか」
「えぇ。その程度は些細な問題です。万が一国民の方が苦しむ様な事になってはいけませんから。可能性は全て見るべきだと私は考えます」
ジッと睨みつける皇帝陛下に、微笑みながら言葉を返すミーシャ様はとても格好良く。
俺は思わず二人のやり取りを緊張しながら見つめてしまうのだった。
そして、少ししてから皇帝陛下はソファーに深くもたれかかりワハハと笑い始めた。
「やはり、リョウが連れて来る人間は、面白い者ばかりだな!」
「そ、そうでしょうか?」
「あぁ。自分で分かっていないのか? まったく無自覚な奴ばかりを見つけて来るな。お前は」
「それは褒められているんでしょうか?」
「褒められていると感じるのであれば、褒めているんだろうよ」
どこか投げやりな言葉で笑う皇帝陛下に、俺は何だかなぁと思いながら頷いた。
そして、ひとしきり笑ってから皇帝陛下はテーブルの上に置いてあった地図を回収する。
「さて。中々に面白い時間であった。が、まぁ、ここから先は私の役目だ。お前たちはゆるりと帝都の見回りを継続するが良い」
「承知いたしました」
「あぁ、それと……面白い話を聞かせて貰った礼だ。一つ良い事を教えてやる」
「良い事、ですか?」
「あぁ」
ニヤリと笑う皇帝陛下に、俺は何だろうかと首を傾げていたのだが。
彼から聞こえて来た言葉は俺の想像をはるかに超える物であった。
「双子の呪いなどという物は、存在しない」
「は……!」
「全ては人が起こしている『事件』である」
「いや、でも……! 世界中に存在したんですよ!? 事件は!」
「ならば問おうか。リョウ。真実、双子の呪い等という物があるのなら、何故そこの女は無事生きている」
「それは……」
「誤魔化していたから、か? しかし、変装程度で誤魔化せるのなら、それは世界が相手では無いという事だ。人の手が関わっている」
「……」
「過去にも王族や貴族で双子であるという事実を周囲から徹底的に隠し、生き延びた例はいくつもある。まぁ、公開はされていないがな」
俺は、皇帝陛下の言葉に、ふと酷く身近にいた双子の姉妹の事を思い出していた。
それはヤマトに住まう楓ちゃんと、俺の家に居る桜の事だ。
確かに二人には色々な不幸があったが、それは双子だからというワケではなく、ヤマトという国が。
そして姫巫女という役目が引き起こした物だろう。
ならば、呪いは彼女たちを選ばなかったということになる。
ならば……! 呪いはヤマトまで届いていない。セオストよりも北。そして、西側諸国にだけ及んでいるという事だ。
「だから……人の手によるもの」
「ですが、古くは千年以上前から存在している呪いなのですよ?」
「あぁ。だから。敵は、千年以上前から存在しているという事だ。今回お前たちが倒した敵の様に、な」
「俺達が……って、まさか、奴の正体が何か分かったのですか?」
「あぁ」
皇帝陛下は緩やかにカップを手に取りながら紅茶を飲み、小さく息を吐いてから再び口を開く。
「連中の使う魔術について、一つの資料を見つけてな。聖女『イザベラ』が戦い、聖女『オリヴィア』が記録として残した書籍。『闇神教について』という本に奴らの魔術について書かれていたのだ」
「闇神教……?」
どこかで聞いた事のある名前だなと考えていた俺であったが、そうだ。
リメディア王国での依頼で出会った者達が名乗っていた名だと思い出していた。
そして、皇帝陛下が世界の危機として危惧していた名前でもある。
「ですが、何故闇神教の者達は、双子の呪い等と言うものを広めたのでしょうか」
「予言があったのだ」
「予言……」
「そうだ。奴らの信仰する神は、力ある双子により、滅びる事になるという予言がな」
その言葉に、俺は一瞬桜と楓ちゃんの事が頭に浮かんだ。
が、それを口にすれば嫌な予感が現実となってしまう様で……俺は何も言わず黙って話の行く末を見守る。
「しかし、千年以上も前にされた予言なのですよね? 未だに彼らはそれを?」
「あぁ。連中は自らが崇める神こそ絶対だからな。その存在を害する可能性がある物を放置する事は絶対にない。千年だろうが、二千年だろうが、忠実に世界から双子を排除しようとするさ」
「な、なるほど……」
皇帝陛下の話に、ミーシャ様はやや引きながら頷いた。
しかし、それを聞いてしまうと気になってしまうのがミーシャ様の今後だ。
「皇帝陛下。ミーシャ様はあの闇の男に顔を見られてしまっているのですが、大丈夫なのでしょうか?」
「それに関しては分からん。私は連中の全てを知っているワケでは無いからな」
「それは……まぁ、そうですよね」
「だが、まぁ……連中も世界中の人間を知っているワケでは無いし。そこまで心配は要らんだろう。それに、イザとなればお前が何とかするのだろう? リョウ」
「それは……まぁ、確かにそうなりますが」
「ならば心配は要るまい。どのみち、連中と戦った時点で敵対対象として覚えられているのだ。今更な話でもある」
投げ捨てる様に言い放った皇帝陛下の言葉が、俺には深く刺さり、なんだか苦しい気持ちになってしまうのだった。
そして、皇帝陛下はそのまま店を後にして、俺たちは何だか重い静寂の中に取り残されてしまったのである。