スタンロイツ帝国の皇帝陛下との話も終わり、微妙な空気のままソファーに残された俺とミーシャ様であったが。
このままでは良くないと、俺はミーシャ様に言葉を向ける事とした。
「ミーシャ様」
「なんでしょうか?」
「申し訳ございません。何やら面倒な事に巻き込んでしまった様で」
「いえいえ。巻き込まれた。なんて思っていませんよ。むしろ私が巻き込んでしまったかと考えているくらいです」
「ミーシャ様が?」
「えぇ。元々双子の呪いに関するお話は私が元となっておりますし。冒険者のお仕事も私が興味があると言った事でリョウ様も依頼を受けたのでしょう?」
「それは……いえ。どちらにせよ。ジャイアントボアの討伐依頼は俺が受けたでしょうから」
「では、互いに悪く、互いに悪くはなかった。という事で決着としませんか? その方が納得も出来るでしょう?」
なんて、微笑みながら提案をされてしまえば、ノーと言うコトは出来ず。
俺は分かりましたと頷きながら、ミーシャ様の提案を受け入れた。
そして。
俺は改めて今後の話について、ミーシャ様にする事にした。
「こうなってしまった以上、ミーシャ様には心苦しいのですが……デパルダム王国へ一人で帰る事は難しくなってしまったかもしれません」
「そうですね」
「無論、帰国する際には俺も護衛として参りますので」
「いえいえ。それほど急がなくても良いでしょう」
「え?」
「せっかく外の世界へ出たのですから。まだまだ外の世界を楽しんでいたいです」
「え、いや……よろしいのですか?」
「えぇ。よろしいのですよ。このまま国の中で隠れて一生を過ごすか。もしくはどなたか口の堅い方の家に嫁ぐ事となったでしょうから。これで良いのです」
「……」
「嫁ぐ際も、おそらく正妻としては難しかったでしょうし。どこか影の世界で生きていく事になるという事であれば、今は自由でとても楽しいですよ」
「それなら……まぁ、良いんですけれどね」
「えぇ。このまま平民として生きてゆく事も、私は一つの可能性として考えておりますよ」
ふわりと微笑むミーシャ様に。
本当にそれで良いのかと俺は一瞬考えたが……まぁ、ミーシャ様の人生なのだから俺がとやかく言うコトでは無いだろうと意見は飲み込む。
そして、その日はそのまま店が閉まるまで、これからミーシャ様がしたい事などを聞いて過ごし。
夜は待ちぼうけをしていたからか、少し不機嫌なノーラちゃんを抱きしめながら一緒に眠った。
翌朝。
俺はいつもの様に心地よい陽気の中で目を覚まし、ノーラちゃんを抱き上げたまま朝食を食べようと食堂へ向かったのだが。
「あ。リョウさん。ちょうどいい所に来た!」
「ん? ちょうどいい、ところ?」
「うん! 例のアレが完成したんだよぉー!」
「例の、アレ?」
何のことだろうかと首を傾げながら食堂に入ると、食堂の奥、キッチンの手前に何やら巨大な箱が存在していた。
なんだアレは……と口にしながら、俺は例のアレについて一つ思い当たるのだった。
「あー。これ。もしかして、自動販売機?」
「そう! ジーナちゃんとミクちゃんの共同開発!」
「へぇー。遂に完成したんだねぇ」
俺は驚きと喜びを同時に感じながら自動販売機に触れた。
フィオナちゃんもどこか嬉しそうであり、早く使ってくれと言っている様でもあった。
「これは、どうやって使うのかな?」
「えーっと待ってね? ミクちゃんのメモ見るから」
「うん。って、そういえば、ミクちゃんとジーナちゃんは?」
「徹夜で最終作業してたから、今は二人で並んで寝てる」
「へぇ。随分と仲良くなって」
「いやぁー。それはどうかなぁ。多分疲れすぎて、そういう事考えられないだけだと思うよ。起きたらまた喧嘩しそう」
「あー、はは。まぁありそうな話だね」
これから起きそうな事に苦笑していると、フィオナちゃんが早く自動販売機の話に戻れ!
という様な顔をしていた為、その希望に応えるべく、俺は再び自動販売機へと意識を戻した。
「っと、ごめんね? それで、使い方。教えて貰えるかな?」
「良いでしょう!」
フフンと笑いながら腰に手を当てて、実に嬉しそうな顔でフィオナちゃんは微笑んだ。
そんな愛らしいフィオナちゃんに思わず笑みを零しながら、俺は彼女の指示を待つ。
「えっとね。まずは自動販売機に触れて、食べたい物を思い浮かべます」
「ふむ。これは具体的な食べ物を思い浮かべた方が良いのかな?」
「ううん。なんとなーく、こういうのが食べたいな―で良いんだって」
「なるほど」
俺は自動販売機に触れながら、なんか朝食に良い奴と思い浮かべる。
するとどうだろう。
何の前触れもなく自動販売機が一瞬光り、中央にある小さな扉がゆっくりと開いたのだ。
そして、中からふわふわのパンとスクランブルエッグ、ソーセージなどが乗った皿が木の板の上に乗って、出て来る。
「おぉー」
「これは、リョウさんが望んだ朝食……?」
「です!」
「やったー! 成功だー!」
「ちなみに、この料理ってフィオナちゃんやリリィちゃんが作ったんだよね?」
「うん。そうなんだけど。この魔導具の凄い所はね。私もリリィも、料理を一個一個作っただけなんだよ」
「ん? どういう事?」
「えっとね。つまり、パンと、スクランブルエッグと、ソーセージはそれぞれ別々に沢山作って中に保存してるんだけど、リョウさんが食べたい物で考えた時に、まとめて適量で出てきたの!」
「それは……とんでもないね」
「でしょー!?」
ニコニコと笑うフィオナちゃんに、俺は本当に驚きながら「はぁー」と感嘆の声を上げる。
とんでもない。
とんでもない魔導具だよ。これは。
食べたい物を思い浮かべるだけで、それに近しい物を、頼んだ人の望む様な量で出す事が出来る。
夢がそのまま形になったみたいな魔導具じゃないか。
「これならさ。大量に一品料理を作っておいて、中の残量気にしながら追加するだけで良いし。凄い楽になったよ」
「それでも結構負担が大きそうだけど、大丈夫? 沢山作るのって大変でしょ?」
「まぁ、それはね。でも、人ではいっぱいあるし。何だかんだ大丈夫じゃないかなって思う。むしろ、これが出来て、夜食を食べたいっていう子が好きな時間に好きな物を食べられる方が良いと思うよ。私もリリィも夜は寝るの早いしね」
「なるほど」
「それに。中の容量考えると、二日くらいかけて一気に作れば何日か何もしなくても大丈夫な時間も出来るし。これは革命ですよ。革命!」
実に嬉しそうなフィオナちゃんが喜びの悲鳴を上げ、俺は良かった良かったと頷いた。
そして、ノーラちゃんにも朝食を食べようと告げて、ノーラちゃんの食べたい物を自動販売機魔導具に出してもらう。
それはクッキーの様なお菓子の朝食であったが、ノーラちゃんは非常に嬉しそうだった。
そんなワケで、満足のいく朝食を食べ、俺は今日も一日活動を始めるのだった……!
と、したかったワケだが。
家の中を歩いていると、ノーラちゃんが俺の服をクイクイと引っ張りながら何処かへ導こうとしている様だった。
何だろうかとノーラちゃんと共に家の中を歩いて、スタンロイツ帝国から、シーメル王国、そして、セオストまで来た俺は……久しぶりにセオストの街を歩く事になった。
本当はスタンロイツ帝国に居た方が良いのだが。
何かノーラちゃんが気になる事がある様で。俺は大人しくノーラちゃんの示す方へと向かう。
そして……。
俺は久しぶりに、ちゃんと話をしなければいけない子と会う事になるのだった。
その子の名前は……ソラリア・シュノール・エルネスト。
エルネスト家の元気なお姫様である。
「あー!!! お兄ちゃん!! もう! ようやく見つけた!!」
その元気な声に。
俺は随分と長い間放置してしまったなとため息を吐くのだった。