ノーラちゃんの導きによりエルネスト家へと来た俺であったが、エルネストさんが近づく事を異様に怖がるノーラちゃんにより、少々困った事になっていた。
無論、これはノーラちゃんが悪いという事ではなく、俺がどうすれば良いかと困っているだけである。
「しかし……酷く怖がっているな。何がそんなに恐ろしいのだ?」
「さぁ……? 俺もよく分からないんですよね」
「ふむ?」
「やっぱりお爺様のお顔が怖いんじゃないの?」
「なぬ!?」
「雰囲気が怖いのかも」
「なんと!?」
そして、エルネストさんは容赦のないお孫さん方によって追い詰められていた。
鋭い刃物の様な言葉で何度も貫かれ、床に両手をつきながら悲しみを全身で示している。
哀れというか、何というか。
非常に悲しみにあふれた姿だ
「エルネストさん?」
「なんだ。リョウ。可愛い孫との戯れの時間を邪魔しおって」
「あぁ、戯れでしたか。本気でダメージを受けているのかと思いましたよ」
「流石にな。獣人戦争の英雄だなんだと言われ始めた頃から、人間獣人問わず恐れられ、避けられたものよ」
「それは、何ともおいたわしい」
「構わん。その畏怖で守れる命もある」
「なるほど」
「お前もその内、似たような事になるだろう。今のうちに覚悟しておくんだな」
「まぁ、そうですね。嫌われる覚悟、ですか。まぁしておきますよ」
俺はキャッキャと手を叩き合いながら笑い合っている双子の少女を見やった。
ん?
双子?
「あの、そういえば。ふと思い出したんですけど」
「なんだ?」
「エルネストさんは双子の呪いって知ってますか?」
「無論知っているが?」
「ソラちゃんとレイちゃんは……?」
「双子だな」
「……呪いは?」
「その様なもの。全て切り捨ててきたわ」
フッと笑いながら堂々とそう言い放つエルネストさんに俺は流石だなと思いながら、別に浮上した疑問を投げかける事にした。
それは、皇帝陛下が俺に言っていた事から生まれた疑問だ。
「エルネストさんは、呪いの原因とかご存知なのですか?」
「あぁ。知っている。闇神教の者たちだろう? 双子を排除する事に命を燃やしている様だな」
「知って、いたんですね」
「当然だろう。ソラリアとレイシリアを傷つけようとする存在だ。調べぬワケが無い」
まぁ、それはそうか。
ある意味で当然というか。
当たり前だろう。という話だ。
「それで、異様に過保護だったというワケですね?」
「いや、それは別に関係がないな」
「え」
「連中は闇の中でしか活動出来ん。セオストは連中が入り込む事の出来ぬ様に、影が出来にくい作りになっているし。出来るとしてもごくごく狭い空間だけだ。照明も、その様に配置している」
「……闇の中でしか動けない?」
「あぁ。まぁ、幹部クラスならば光の下でも問題なく活動出来るがな。双子を狩る為に行動しているのは大抵が下っ端だ」
「なるほど……それで、ですか」
エルネストさんから聞いた話を元に考えるのであれば、あの闇をまとった男は闇神教の下っ端なのでは無いだろうか?
子供が目撃した場所は暗い路地裏であったし、俺が戦ったのも夜であった。
そして、以前リメディア王国で戦った男の様な不思議な力はなく、ただ、抵抗も少ないまま斬られて消えていった。
下っ端だから安心というワケでは無いだろうが、夜や暗闇には気を付ける必要があると知っているだけで行動が大分かわる。
これはかなり大きな情報だったのではないだろうか。
俺は思わぬ収穫に、うんうんと頷きながら、満足していたのだが……エルネストさんは奇妙な顔をしながら俺をジッと見つめていた。
「しかし、リョウ。何故その様な事を聞く?」
「あ、いえ。少し前にですね。スタンロイツ帝国で双子の呪いについて聞きまして。エルネストさんなら何か知っているかなと」
「……興味本位か?」
「えぇ。まぁ。そうですね」
「なら良い」
「は、はぁ……」
「だが、もし興味本位ではなく、双子と関わっているのであれば、気を付けろ。呪いはお前が思っている以上に厄介だ」
「それは……どういう?」
「連中はな。正気を失っているのだ。長き時をただ一つの目的だけで生き、他の生き方が出来なくなっている。連中は妥協もしなければ諦めもしない」
「で、でも……ソラちゃんとレイちゃんに関しては諦めたんですよね?」
「いや」
エルネストさんはまだ昼の明るさが見えている窓の外を見ながら少しだけ重い声で呟いた。
その言葉には、まるで実際に重さがあるかの様な感覚があった。
「連中は諦めてなどいない。今もジッとこちらの隙を伺っているのだ。こちらが油断すれば、闇から襲い掛かってくるだろう」
「……」
「だから、まぁ。お前がソラリアやレイシリアと共に居るのならば、安心だ。見てやってくれ」
「はい。勿論です」
俺はエルネストさんが微笑みながら向けてきた言葉に頷いた。
そして、必ずや二人を守ると誓う。
俺の事を兄と慕う二人の事を。
それから。
エルネストさんはさっさと二人の部屋から出て行って、部屋には静寂だけが残った。
が、俺はここにきて、ある子の嘘について、何となく感づいていた。
「おや。おかしいな。エルネストさんが俺に何か話があるって聞いてたけど」
「どきっ……!」
「ねぇ、どうしたんだろうねぇ? ソラちゃん?」
「あー、えっと、そのーねー? これにはふかーい理由があるんだよ」
「ふぅん。じゃあ聞きましょうか? そのふかーい理由という奴を」
俺はニコニコと笑いながらソラちゃんの前で座り、ソラちゃんをジッと見つめる。
ソラちゃんは最初アハハと笑っていたが、やがて限界が来たのか、ごめんなさい! と素直に頭を下げるのだった。
素直なのはとても良い事である。
「別に嘘なんか吐かなくても俺はソラちゃんと一緒に遊んだのに」
「だってぇー! お兄ちゃん、すぐどこかに行っちゃうから、お爺様が呼んでたよ! って事にすれば絶対に来てくれると思ってぇ」
「んー。これはソラちゃんが、わるい」
「えぇー!? そんなー! レイちゃん!」
「ソラちゃんは悪い事をしました」
うむと呟きながら毛布を被りつつ頷くレイちゃんにソラちゃんは、違うんだよー! と言っていたが、どうにも受け入れられない様だった。
更に、罰として何故か俺がレイちゃんと遊ぶことになり。
俺はノーラちゃんを抱えたままレイちゃんへと顔を向けた。
そして、ソラちゃんは罰として見ているだけであった。
「ひぃん」
「それで? レイちゃんさんは、何で遊ぶのかな?」
「んー。どうしようかな? なにが良い?」
「あーなるほど。特に決まってはいない感じなのね?」
「うん」
「なら……おままごと、とか?」
「ソラちゃんみたいな子供じゃないからなー。レイちゃんは」
「なんだとー!? レイちゃん! ソラちゃんは子供じゃないよ!」
「残念ですが、ソラちゃんはお子ちゃまなのね」
「ムキー!」
「まぁ、まぁ喧嘩はせずに。ならお話でもする? さっきもやったけど。今度はお茶も淹れて、お茶会とか」
「んー。それは良いかも。やろう」
「あ、あ! じゃあ、ソラちゃんもお茶会やりたい!」
レイちゃんとお茶会をする事になったのだが、ソラちゃんが仲間外れは嫌だと抵抗したことでレイちゃんは、仕方ないなぁと言いながらソラちゃんを受け入れてあげていた。
そして、何だかんだと仲良しな二人と一緒にお茶会をする事になる。
だが、その前にお茶菓子を作ろうという事になり、お菓子という言葉にノーラちゃんがバッと顔を上げて満面の笑みで頷くのだった。
「おかし、おかしっ」
「あら。ノーラちゃん。お菓子好きなの?」
「うん。ノーラ、おかし、すき」
「そっか。そっか。じゃあ一緒に作ろうね」
そして、嬉しそうなノーラちゃんにソラちゃんは微笑み、一緒にお菓子を作ろうと言ってくれるのだった。