エルネストさんからやや怖い話を聞かされた俺であったが。
ソラちゃん達の所へ戻ってみても、何か事件が起きているという事はなく、ノーラちゃんが鼻の頭に白い粉を付けながら俺の方にパタパタと走って来ただけだった。
俺はそんなノーラちゃんを受け止めて、ハンカチで顔を拭いながらそっと抱き上げる。
「お菓子作りは順調かな?」
「まぁね。後は焼くだけでクッキーが完成するよ」
「おー。それは凄いね」
どれどれ? とオーブンに近づいてみれば、中で高熱の中、熱せられている丸く平べったい何かがあった。
おそらくはクッキーだろう。
後は焼き上げて、終わり。という言葉の通り、オーブンの中からは良い匂いがしてきていた。
後、どれくらいで出来上がるか分からないが、どこで待つべきかは悩ましい所である。
「もうテーブルの準備は終わってるけど、どうする? こっちで待つか、向こうで待つか」
「ん-。向こうでも良いけど、クッキーが焼きあがるのを待たなきゃいけないし……」
「あら。それなら、私が見ているから大丈夫ですよ」
「お母さん!」
「はい。お母さんですよ」
ニコニコと微笑みながら部屋に入って来た頼子さんに、ソラちゃんは嬉しそうに飛び上がり、駆け寄る。
レイちゃんもソラちゃん程元気では無かったが、顔を上げて、「おー」と口にしていた。
「ほら。リョウさんとお話するの、楽しみにしていたんでしょう? こっちの事は私に任せて、お茶会していらっしゃい。後でとっても美味しいクッキーを届けるからね」
「はぁーい! ありがとう! お母さん」
「いえいえ」
「じゃあ、レイちゃんもソラちゃんと一緒に行ってるね」
「はい。分かりましたよ」
「では、頼子さん。大変申し訳ございませんが」
「大丈夫ですよ。リョウさんの方がきっと大変ですから」
元気な二人の相手をするのは。と言葉の外に意味を置かれて、俺は苦笑しながら応えた。
まぁ、ソラちゃんもレイちゃんも元気であるし。確かに大変と言えば、大変だろう。
だが、しかし。
だとしても俺は妹の相手には慣れているのだ。
故に何も問題は無いだろう。
というワケで、俺はソラちゃんレイちゃんと共にノーラちゃんを抱えたまま庭へと向かい。
お茶会用に置いた椅子に座りながら二人の話を聞こうとしたのだが。
「今度はさ。お兄ちゃんの話をしてよ!」
「俺の話?」
「そ! 冒険してきたんでしょ!? いっぱい!」
「いっぱいかは分からないけど。まぁ、それなりには冒険してきたね」
「聞きたい聞きたい!」
「たいー」
「じゃあ、最初はリメディア王国のドラゴンの話でもしようか」
俺はそう言えばお茶のセットを忘れたなと思い出しながら、ゆっくりとリメディア王国で起こった事を詳細に話した。
それから。
冬ごもりからこちらまで色々あった事を話していたのだが。
流石というべきだろうか。
俺が話す話の矛盾に彼女たちは気づいた様だった。
「んー」
「どうしたの? ソラちゃん」
「なんか。おかしいなって思ってさ」
「おかしい?」
「そう。お兄ちゃんはシーメル王国に居たのに、それからスタンロイツ帝国に移動したり、またシーメル王国に移動したり。なんか移動が早くない?」
「そうかな?」
「うん。そう思うよ。どう考えてもおかしい。何か嘘吐いてる?」
「嘘なんか吐いてないよ」
「じゃあ、黙っている事があるんだ」
「……」
「あー。だんまり! ズルいの!」
「ズルいのが大人だからね」
「えー。話してよー! 何か秘密があるんでしょ!? だって、スタンロイツ帝国からセオストに戻ってくるのだっておかしいくらい早いモン!」
「歩くのが早いからね。俺は」
「ぶー! そうやって誤魔化すんなら門の騎士さんに聞いたって良いんだからね!? いつ頃入ったのかって!」
のらりくらりと話を逸らしていた俺であったが、遂に確信へ近づく為の言葉を向けられてしまい、俺は大人しく白旗を上げようとした。
しかし、その前に頼子さんがやってきて、美味しそうなクッキーをテーブルの上に置く。
これにより、ソラちゃんとレイちゃんの視線はクッキーへと向けられ、話は中断された。
さらに、ノーラちゃんもクッキーから目が離せないようで、一個、慎重につまんでから口に入れて、震え。
もう一個、もう一個とクッキーを食べていた。
実に可愛らしい光景であるが、あんまりノーラちゃんばかり食べていても、ソラちゃんとレイちゃんが食べられない。
という事で、俺は、ノーラちゃんにお茶も勧めつつ、ソラちゃんとレイちゃんにも食べる時間を作ろうとするのだった。
そして、無事お菓子も皆のお腹の中に入り、お茶会も終わりが近づいて来たころ。
すっかり忘れていると思っていたソラちゃんが、思い出したかの様に先ほどの話を口にした。
「それで? どうやって街と街を移動してたの?」
「あら。忘れて無かったのか」
「トーゼンだよ! ソラちゃんは気になる事は何でも調べていくんだから!」
「そうか……じゃあ、まぁ、仕方ないかな」
「うんうん」
ソラちゃんは満面の笑みで、俺の答えを待っており。
レイちゃんと頼子さんはそれなりに興味がある程度の感情で俺を見ていた。
故に。
「実は、ソラちゃんだけに打ち明けるんだけど」
「うん!」
「俺は……」
「うんうん!」
「凄く足が速いんだよね」
「っ! ちょっとぉー! それ! さっきも言ってたでしょ! 違うって言ってたでしょ!!!」
「んー。やはり騙されないか」
「当然でしょ! ちゃんと分かってるんだから!!」
プンプンと怒り心頭という様な様子で、ソラちゃんは声を荒げた。
そして、早く早くと俺を煽って、真実を聞きだそうとしている。
流石にこれ以上騙すのは難しいかと俺は本当に真実を話す事とした。
これ以上は、余計な事まで知られてしまう可能性があると考えたからだ。
「仕方ない。ソラちゃんの情熱に負けたよ。真実を話そうか」
「今度こそ、今度こそ! 本当の事を話してよ!?」
「分かってるって」
俺は少しばかり深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから口を開いた。
「実は、俺の家はセオストとシーメル王国とスタンロイツ帝国にあってね」
「うん。そうだね。さっき聞いた」
「それで……それぞれの家が簡易転移門で繋がってるんだよ」
「え?」
「うん。だから、それぞれの家が、転移門で繋がっているんだよ。だから、殆ど時間差無しでそれぞれの街に移動が出来るという訳なんだ」
「えっ、えぇぇええええ!!?」
大きな声を上げながら驚愕するソラちゃんに、俺は頬をカリカリと掻きながら、話してしまったなぁと心の中で呟いた。
そして、やや驚き目を開いている頼子さんやレイちゃんにも軽く視線を向ける。
「あらあら」
「というワケでして」
「それは、確かにお話するのが難しい事でしたね」
「えぇ。あまり良い事ではありませんからね」
「リョウ君、わるものかー」
「んー。まぁ、確かにね。悪者かもしれない」
「なるほどなー」
レイちゃんはあんまり興味が無いのか。ボーっとしたまま話を聞いており。
頼子さんもそこまで深い事情に首を突っ込むつもりもないのか。静かに頷いていた。
が、ソラちゃんだけは別である。
ソラちゃんは瞳をキラキラと輝かせながら、良いな―! 良いな―! と騒ぎ始めたのだ。
しかし、どれだけ良いなと言われても。俺に出来る事はそれほど多くは無い。
というよりも、どれだけ羨ましがっても、セオスト以外にソラちゃんを連れて行く事は出来ないのだ。
それはエルネストさんの過保護が壁となる話もそうだが。
双子の呪いも同じである。
というワケで、俺はサクサクとソラちゃんのイイナー! 攻撃をかわしていくのだった。