さて。
ソラちゃんに簡易転移装置がバレた俺は、当然のことながら、俺の家に行ってみたいとソラちゃんに言われ、はてさてどうしたものかと考えていた。
何を考えるかと言われれば、当然ソラちゃんとレイちゃんの安全についてである。
エルネストさんに聞いた話を考えるのであれば、ソラちゃんもレイちゃんも、セオストにいるからこそ、安全が確保されているのだと思う。
もし、セオストから出てしまえば、その安全が消えて、闇神教に襲われる可能性だってあるのだ。
ならば、お前が守れば良いだろうと言われれば、それはそうなのだが。
一度俺の家に行って、色々な場所に行ける事を知って、それではい終わり。となる可能性は低い。
楽しいと感じたら、何度でも行ってみたいと感じるだろうし。そう行動するだろう。
そうなれば、俺が見えていない時に、別の国へ行ってしまい大変な事になる可能性だってあるワケだ。
それは何としても避けなくてはいけないだろう。
「んー」
「ねーねー。お兄ちゃん」
「何かな? ソラちゃん」
「あのねー。お願いがあってねー?」
「俺の家に行って、転移装置で別の国にある俺の家に行ってみたい。っていうお願い以外なら聞くよ。聞くだけかもしれないけど」
「ぶー! なんで、分かったの!」
「そりゃ分かるよ。話の流れを考えればさ」
俺はフッと笑って、不満そうなソラちゃんに言葉を返した。
そして、ふむと思考しつつ頼子さんへと視線を向ける。
「ちなみに、頼子さんはソラちゃんやレイちゃんがウチに遊びに来る時に一緒についてくるとか」
「勿論出来ますが、私はそこまで強くないですからね。何かあった際に、出来る事は少ないですよ」
「そうですか……いや、まぁ、そうですよね」
普通の女性である頼子さんに無茶を言うべきではない。
と、自省しつつ、俺は次なる策を提案してみる事にした。
「例えば、だ。ソラちゃん」
「はい!」
「俺の家の転移装置を使って、別の町に移動できるとして」
「はい!!」
「家から外に出ないで、家の中だけで楽しむっていうのは、出来るかな? 約束出来る?」
「それは……ドウカナー」
ソラちゃんは目を逸らしながら、うむむと声を漏らす。
その行動は、まぁ、どう考えても外へ飛び出していきたいというアレだろう。
「約束は出来ないって事だね」
「い、いや! 出来ない事も、ないよ? 出来るかもしれないし、出来ないかもしれないけど、多分、出来る方に気持ちは転がっている様な気がしていて」
「……」
「はーい! レイちゃんは出来ます! 家で、ごろごろー」
「れ、レイちゃん!」
「ん? どしたの? ソラちゃん」
「それだと、ソラちゃんだけ置いてきぼりになっちゃうから!」
「しかたないね」
「仕方なくないよっ!」
ソラちゃんは隣に座っているレイちゃんの肩を掴んで、勢いよく左右に揺らす。
それで、レイちゃんは激しく揺れながら「おー、おー」と言葉を繰り返していた。
そのまま平行線となってしまった、ソラちゃんとレイちゃんであったが。
まぁ、ここまでは想定通りだ。
いや、レイちゃんが頷くのは想定外だったけど。
「じゃあ! 一つ約束が出来るのなら、外に出ても良い事にするけど、どうする?」
「おー!? 何々!?」
「おー」
「それは、外に出る時には、必ず誰かと一緒に行く事。それも俺とか、エルネストさんとか、ヴィルさん、アレクさん。リリィちゃんとか。その辺りの人と」
「えー。過保護だなぁ」
「かほごー!」
俺の言葉に反対する様にソラちゃんとレイちゃんは手を上げて抗議するが。
まぁ、こういう反応が起こるだろうなと考えてからの先ほどの話だ。
「嫌なら良いんだよ? 外出禁止でも」
「う……!」
そう。
本来は二択では無いのだけれど。
こうする事によって、まるで二択かの様に思いこませる事が出来るのだ。
アリアちゃんから教わった手法である。
まるで悪魔みたいな発想であるが、非常に便利なのでこれからも利用させて貰おう。
「俺はどっちでも良いけど。ソラちゃんはどうする?」
「う……うぅ」
「ふふ」
「もーお母さん! 笑ってないでよー! すごーい、難しい問題なんだよ!?」
「そうですね。ふふ」
何か、頼子さんには俺のやっている事が気づかれている気がするが。
まぁ、言わないでいてくれるという事は、赦されたという事なのだろうと思う。
なので、俺は特に気にしないまま突き進む事にした。
「じゃあ、ソラちゃんが決められたら、案内するって事で良いかな? 決まったら言ってね」
「え、えっ! ま、待ってよ!」
「大丈夫だよ。俺はソラちゃんが決めるまでゆっくりと待ってるから」
俺は紅茶の入ったカップを手に取り、スッとお茶を飲む。
んー。流石というか何というか。
高級そうな茶葉を使っていますね。味はよく分からんけど。
匂いが凄い。
美味しそうな匂いをしておる。
そして、クッキーも手に取り、食べてみるが、焼き立てというのは非常に美味しい様だ。
サクサクと遠慮なく行けてしまう様なおいしさがあった。
「うーん。うーん」
「ソラちゃん。良いんだよ。無理して今日答えを出さなくても」
「それは、そうかもしれないけど! お兄ちゃん、またどっか行っちゃうじゃん!」
「……まぁ、確かに」
俺は紅茶を再び口に含みながら頷いた。
言われてみれば、今日セオストに来たのは、ノーラちゃんが俺を連れて来たからであり。
特にそういう用事が無ければここに来る事は無かっただろうと思う。
ならば、次の機会がいつになるか分からない以上、悩み、苦しむのは当然の様に思えた。
そういう事なら。
俺は第三の選択肢を用意するべきかと口を開く。
「じゃあ、ひとまず俺の家に行く事だけは出来る様にする? そうすれば、少なくとも俺と連絡は取れるし」
「良いの!?」
「まぁ俺としては、ソラちゃんとレイちゃんの安全を確保したいだけだからね。別に家に二人が来るのを止めたいワケでは無いんだよ」
「なら! なら行ってみたい!」
「分かった。けど。一応エルネストさんに許可を取ってからね。それと、セオストの家だけど、外に出る事は駄目。あくまでエルネスト家から直接セオストの家に行って、直接帰る。これだけね」
「うんうん! 分かったよ! じゃあ、それで!」
ソラちゃんは満面の笑みで何度も頷き、俺はひとまずエルネストさんに許可を貰うべく椅子から立ち上がった。
そして、エルネストさんの執務室へとソラちゃんやレイちゃんと共に向かい、許可を貰うのだった。
だが、まぁ。
当然と言えば当然の話であるが、転移門をエルネスト家に置く場合には条件があり、ソラちゃんとレイちゃんだけで移動する事は緊急時以外禁止。もし二人だけで使用している事が発覚した場合は、撤去という事になった。
これにはソラちゃんが文句を言っていたが、嫌なら無しと言われてしまえば受け入れるしかなく、渋々頷いていた。
かなり不満がいっぱいという様な状態であったが、実際に転移門が置かれるとなれば、気持ちは喜びの砲が強くなるらしく。
ソラちゃんは非常に嬉しそうな満面の笑みで転移門をニコニコと見つめていた。
そして、いよいよ設置と設定が終わり、ソラちゃんは笑顔のまま転移門を起動させて、俺の家に転移するのだった。
何だかんだとソラちゃんもレイちゃんも俺の家に来る機会は無かったし。
はじめての家にワクワクとしている様で、俺はセオストの家について端から順番に説明してゆくのだった。
プールもあるし。温泉もあるし。
セオストの家だけで満足して欲しいなという想いを込めながら。
「すごーい! すごーい! じゃあ、次の家に行こう!」
「え」
しかし、その願いは儚くも散っていくのであった。