順調……とは言い難い旅を終えて、俺たちは世界国家連合議会の建物へと到着した。
ここに来るまで、ジーナちゃんが暴走したり。
ジーナちゃんが暴れたり、ジーナちゃんがトラブルを呼んできたり。
と、様々な事があったが……まぁ、何とか無事たどり着く事が出来た。
しかし、多く存在したトラブルのお陰で、アリア姫様やレオさんとも親交を深めることが出来た事を考えると、まぁトラブルもそれほど悪いものでは無かったのだろう。
しかし、それをジーナちゃんに言えば、また反省せずに暴れる可能性があった為、世界国家連合議会では大人しくしている様によく言い含めておいた。
そのお陰か、ジーナちゃんはココちゃんと共に、静かな空気をまといながら、大人しくしている様になったのである。
そんなこんなで世界国家連合議会に乗り込む事になった訳だが……。
世界国家連合議会の建物は、白い透き通るような壁の巨大な城であり、神聖さと歴史を感じさせるものであった。
「では行きましょうか」
そんな場所で、俺はひとまずアリア姫様の護衛という事で中に入り込む事になった。
ヴィルヘルムさんとアレクシスさんは依頼の為に別行動であるが、俺は二人の行動を悟らせない為にも、アリア姫様と行動を共にする事となったからである。
という訳で、道案内の人に続いて、広い廊下の真ん中をアリア姫様。俺とレオさん。そして後ろにメイドさん達。と連なりながら歩いていたのだが、ある所で小さな問題が発生した。
そう。正面から別の王族と思われる者たちが現れたのである。
向こう側の道案内の人が焦っている所から、どうやら不慮の事故らしいという事は分かったのだが。
流石はアリア姫様。
自然な仕草で廊下の端に移動すると、速やかに道を譲った。
まぁ、無駄にプライドをぶつけあっても仕方がないという事だろう。
だから、俺もレオさんも、そしてお付きの人たちもみな避けたのだが、どうも様子がおかしい。
道は開かれたというのに、向こう側の王族はニヤニヤと汚い笑みを浮かべ、アリア姫様を見たまま動かないのだ。
「行きましょうか」
しかし、そんな状況でもアリア姫様は変わらず前に進み始めた。
まだ子供だというのに凄いな、と心の中でアリア姫様に驚いていると、やはりというべきか。向こう側の王族が邪魔をしてきた。
無礼にも、アリア姫様の前に騎士を立たせ行く道を塞いだのだ。
「……何か、御用ですか?」
流石に、道を塞がれては無視する事も出来ないと、アリア姫様は足を止めて大人びた笑顔を浮かべたまま敵の王族を見やる。
「別に用という事もない。ただ、そう。挨拶も無しに通り抜けるとは、いかがなものかと思っているだけだ。なぁ? シーメル王国のアリア姫」
「これは失礼いたしました。バクーシ皇帝。私はシーメル王国第二王女。アリア・テオドーラ・ルチア・シーメルと申します」
「知っておる」
「……」
男との意味不明なやり取りに、アリア姫様はやや困ったような顔で止まってしまった。
俺はといえば、いつでも刀を抜ける様に準備だけはしつつ、アリア姫様の言葉を待つ。
「ふむ」
「……?」
「東の田舎国の姫など大した価値は無いと思っていたが、良いだろう。お前ならば認めてやろう」
「えと、何を」
「貴様を我のモノにしてやろうと言っているのだ。バクーシ帝国に住まう名誉をくれてやろう」
「お断りします」
「……なに? もう一度言ってみろ! このバクーシ皇帝の前で!」
当然と言えば当然の話であるが、アリア姫様はまだ幼いながらも一国の姫君であり、どこの誰とも知らない男が何を言おうが好きに出来る筈もない。
なのだが、なぜか男は酷く驚いたような顔をしているのだった。
どうやら頭も相当に悪いらしい。
「お断りさせていただきます」
「貴様!」
「私はシーメル王国のアリア。我が国を離れる時は、この命が尽きる時だけです」
「生意気な! おい!」
男は自分の騎士たちに命じると、アリア姫様の元へ向かわせる。
が、俺はそいつらが踏み出すよりも早く刀の鯉口を切りながらアリア姫様の前に飛び出していた。
「レオさん。アリア姫様はお願いします」
「あぁ。だが、殺すなよ」
「大丈夫ですよ。命は取らないです」
そして、刀を一閃。横に振るうとそのまま静かに構える。
「……っ! リョウさん! 殺めてはダメですよ!」
「大丈夫ですよ」
いや、レオさんにしても、アリア姫様にしてもそうだが、俺ってそんなに簡単に命を奪う人間に見えるのだろうか。
だとしたら少しショックだ。
……なんか前にもアレクシスさんに似たような事言われたし。
狂人か何かかと思われてるんだろうか。
「くっ、コイツ……! 何者だ!」
「名乗るほどの者じゃないですね。ただの雇われ冒険者ですよ」
「冒険者風情が!」
俺は騎士が振り下ろしてきた剣を、刀で斬り、騎士たちの武器を破壊して無力化してゆく。
訓練された動きという奴は、読みやすく、実戦経験が薄ければ、単調で面白味もない攻撃だった。
故に。
偉そうな男が命令してからそれほどせずに、騎士たちは全員武器を破壊され、攻撃手段を失ってしまうのだった。
まぁ、やろうと思えば拳で戦う事も出来るだろうが、そこまでやる気があるのかは不明である。
「もう良いですよ。リョウさん」
「分かりました」
そして、アリア姫様から合図を貰った俺は刀を鞘に納めて、アリア姫様やレオさんの後ろに下がる。
まぁ、レオさんならここから何かがあってもアリア姫様を傷つけない様に動くくらいは余裕のはずだ。
ならば、俺は何かが起きた際に対応できるよう、準備をしている方が良いだろう。
「では、私たちは失礼しますね」
「っ! きさま……!」
「バクーシ皇帝。ここは世界国家連合議会。話し合いをする場所です。どうかこの様な軽率な行動は今後控えていただけますと助かります」
「生意気な! この様な行い! 許されると思うなよ!弱小国のシーメルが! 貴様ごとき東方の未開国家が! 我が国に逆らうとどういう事になるか!」
「東方の、未開国家? なかなか面白い事をいう奴がいるじゃないか」
「っ!」
愚か者の叫び声を遮って、アリア姫様と、やかましい男の前に現れたその若い男は、涼しげな顔をしながら冷たい瞳でやかましい男を見やった。
瞬間、突如周囲の気温が下がり、やかましい男の辺りが凍り付く。
まず間違いなく、若い男が何かをしたのだろう。
しかし、この若い男が何者か分からない以上、動くことは出来ない。
と、俺は状況変化を見守っていたのだが、すぐ後ろから声が上がった。
「エリク君じゃーん! こんな所で何やってるの?」
その、まるで空気を読まずに言いたいことを言う子供の様な声に、その若き男は動きを止め、俺の背後をジッと睨みつける。
そして、やや驚きに目を見開きながら、ジーナちゃんの名を呼ぶのだった。
「ジーナ? お前こそ、こんな所で何をしている」
「お仕事をやってるの! 見たら分かるでしょー!」
「仕事? お前が? メイド服を着ても、仕事をしたことにはならないぞ」
「ぶー! それくらい分かってるもん!」
ジーナちゃんと気安く言葉を交わすその青年は、逃げ去ってゆく男たちを見送り、口元に小さな笑みを浮かべてアリア姫様へ視線を送った。
「どうやらウチの魔女が世話になっている様だな。シーメル王国の姫君」
「……あなたは」
「あぁ、こうして直接会うのは初めてか。はじめまして。と言っておこう。私はエリク・サーロイフ・スタンロイツである。名前くらいは聞いた事があるだろう?」
「不死の皇帝、ですね?」
「まぁ、そんな風にいうものも居るがな。私など精々が500年程度しか生きておらんよ。聖女セシル殿や、ジーナに比べれば子供の様なものさ」
「……」
「だが、まぁ。そうはいってもそれなり長く生きているつもりだ。これ以上争う事が無意味である事くらいは理解している。ここは言葉を交わす場、だからな」
「助かります」
「いやいや。この程度は王として。というよりは人間として当然だ。何せここは人間が話し合う場所。どこから紛れ込んだか分からない獣で無いのなら、争う必要は無いだろう」
スタンロイツ帝国の皇帝という男が、アリア姫様と語らいながら右手をこちらに向けた瞬間、その手の先からつららの様な物が生まれ、真っすぐにココちゃんへ向けて放たれた。
俺は即座に刀を抜き、それを両断して消滅させるが、男は静かな笑みを浮かべ手をこちらに向けたままだ。
「何のつもりですか!」
「害獣を駆除しようとしただけだが?」
「彼女は!」
「獣人だろう? ならば、人類の……敵だ」