(アレクシス視点)
当初の予定とは大きく変わったが、やることは変わらないと、俺はヴィルと共に世界国家連合議会の関連施設に潜り込んでいた。
オーロから頼まれた依頼の内容は、議会の関連組織が闇神教に関わっているかどうか調査してほしい。との事だった。
まぁ、今回の調査だけで全てが分かるという事も無いだろうが、何かしっぽが掴めれば良いとは思っている。
「しかし、だいぶ運が良かった」
「……まぁな」
「どうした? 歯切れが悪いな」
「いや、どうもうまくいきすぎている様な気がしてな」
「それの何が問題だっていうんだ。良い事じゃねぇか」
「それはそうかもしれないが、気になるんだよ」
「何がだ」
「……アリア姫の事だ」
「姫さんが?」
「あぁ。あまりにも協力的すぎる。まるで俺たちの目的が分かっているみたいな感じだ」
「まぁー姫さんは相当な切れ者だって話だしな。そういう事もあるだろ」
「切れ者って言っても限度があるだろ。シーメル王国にいるアリア姫がどうやってセオストで俺たちが話した事を知る。不可能だ。盗聴だって阻害してたんだぞ」
「……」
「もちろん、偶然色々な事情が重なったのなら、分かる。そういう事もある。だが、思い出してみろ。俺たちはシーメル王国でどういう風にアリア姫と合流した」
俺はヴィルに言われて、シーメル王国で俺たちを明らかに待ち伏せしていた姫さんの事を思い出した。
まるで姫さんは俺たちが来る事を予見していたようだった。
時間もタイミングも、場所も。
そんな事があり得るのか?
と聞かれれば、無くはないだろうと返す。
それは、姫さんが未来予知に迫る様な予測を見せる事が……!
「待て。未来予知?」
「どうした? アレク」
「いや、まさかとは思うが……」
俺は周囲を見渡して、誰の気配もない事を確認してから物陰にヴィルと共に飛び込んだ。
ヴィルじゃないが、俺もこの状況が酷くやばい気がしてきた。
「ちと面倒な事になったかもしれないな」
「どういう事だ? アレク」
「お前も聞いたことがあるだろ? 世界国家連合議会には、裏の支配者がいるって」
「……っ! 勇者パーティの巫女か」
「そうだ。噂じゃああの巫女は未来も予知するらしい」
「……ヤマトの巫女姫と同じ!?」
「そういう事だ。最悪はその未来視が敵になるかもしれん……っ!」
俺は話をしている間に、廊下を誰かが歩く音がして、物陰で息を潜める。
正式な依頼を姫さんから受けているとは、こうもきな臭い状況では見つからない方が安全である。
「しっかし、ミクちゃんも見回りをしてこい。だなんて、いきなりどうしたんッスかねぇ」
「局長と呼べ。局長と」
「はっ! ミクちゃん局長ですね!」
「ミクちゃんは余計だ」
「でも、ミクちゃんがそう呼べっていってたんッスよ?」
「社交辞令という言葉を知らんのか! お前は!」
通り過ぎてゆく者たちの会話で、どうやら既に向こうは動き出している事を知る。
確か、勇者と共に世界を救った巫女の名は『ミク』
ならば、俺たちが警戒していた人物と同じ人物の可能性が高い。
「ヴィル。とにかく今はここから脱出するぞ。オーロには悪いが、この状況はあまりよくない」
「あぁ。そうだな。俺も賛成だ」
俺はこれ以上ここに居るのは危険と判断し、なるべく人に会わない様、注意しながら廊下を走った。
そして、現状をとりあえずヴィルと共有してゆく。
「今のところ、姫さんが敵か味方かは分からん。だが、俺たちが上手く乗せられている事は確かだ」
「闇神教とアリア姫が繋がっている?」
「それは、おそらく無いだろう。連中の味方をしても姫さんが何か得するとは思えん。シーメル王国でも闇神教の連中は人攫いをやってるしな。まぁ獣人ばっかりだから事件にはなってないが、姫さん的には面白くねぇだろ」
「そうだな」
「だから闇神教を潰したいってのは確かな筈だ。しかし、それがそのまま俺たちやオーロの願いと重なるかどうかってのは別の話だ」
「アリア姫はなるべく人命を救おうとするだろうしな」
「あぁ……そう。だから俺たちは同じ道を進めない。俺たちの願いはあの時からずっと変わらないんだからな」
「……そうだな」
俺は……いや、俺もヴィルも、服の中に隠した、アマンダ姉さんから渡された家族の証を握りしめた。
頭に浮かぶのは、かつてあった穏やかな時間だ。
あたたかい陽だまりで、アマンダ姉さんが居て、オーロが居て、弟や妹たちが居て。
血の繋がりがなくても、確かな家族があの場所にはあった。
俺たちの家が、あそこにはあったんだ。
だから、それを奪った連中を絶対に許さないと。
俺はあの瓦礫の中でヴィルと共に誓い、今ここに居る。
復讐者として俺たちの前から姿を消したオーロも帰ってきた。
ヤマトの協力も取り付けた。
エドワルドの爺さんもいざという時は協力してくれる。
全て整っているんだ。
俺たちから全てを奪った連中を、終わりの世界に叩き込む準備は。
だから、敵じゃないのなら、邪魔をするな……!
そう、願って。
俺たちは自分たちの道を進むべく走っていた。
しかし、どうやら相手の方が一枚上手だったらしい。
俺たちはまんまと誘導され、一つの部屋の前に来ていた。
「災害対策局、か」
「さっきの連中が話していた所じゃねぇか?」
「だろうな。それで? どうする?」
「どうもこうも、行くしかないだろ。こうなった以上」
「逃げ道は潰されている、か」
「そういう事だ」
俺は大きく、深く息を吐いてから扉に手をかけた。
隣ではヴィルがいつでも槍を抜ける様に構えているし。
俺自身、懐の銃はいつでも抜ける様にしている。
だから、何が起きても大丈夫だと俺は扉を開け放った。
「視えていた未来よりも、早く来ましたね」
扉の向こうはそれほど大きな場所では無かった。
人が十人も入れば窮屈に感じてしまうであろう場所で、四つの机を向かい合わせに並べ、一番奥には回りの机よりも大きな机をこちらに向く様に配置されている。
そして、その机の上では一人の少女が指を組みながら俺たちを見て笑っていた。
ヤマトの巫女姫と同じ、金色の瞳を輝かせ、下手するとソラリアくらい幼い少女が俺たちをジッと見据えている。
「はじめまして。ですね。セオストの冒険者ヴィルヘルムさんとアレクシスさん」
「……」
「私は世界国家連合議会所属、災害対策局局長のミクと申します」
俺はヴィルと共に動けず居たが、ニコニコと笑ってばかりの子供に一方的にやられるのも好きではない為、一歩部屋の中へ踏み込む事にした。
未知の存在に近づくというのは、やはり恐怖を感じるが、踏み出さねばならない時もある。
「アレク……!」
「大丈夫だ。お前は後ろに居ろ。何かあった時は、分かるだろ?」
「……あぁ」
そして、俺はヴィルに背中を任せつつ、部屋の中に踏み込んでいった。
相変わらず小憎らしい少女は笑みを浮かべたまま動かないが、だからなんだという話だ。
「はじめまして。と言っておこうか。元勇者パーティの巫女。俺はアレクシス。こっちはヴィルヘルムだ。それで? 俺たちを呼んだ理由はなんだ」
「分かっていて、あえてここに?」
「当たり前だろ。こんな分かりやすい罠。気づくに決まってる」
「そうですか。それは素晴らしいですね。私は少々お二人を侮っていたようです」
「そうかよ」
侮っていたなんて言いながらも一切態度を変えない少女に、俺は動きを見せるべく懐から銃を抜いた。
無論撃つつもりはないが、話し合いをする上で立ち位置をハッキリさせる必要があるからだ。
「悪いが呑気に話しているつもりは……っ!」
しかし、俺が銃を抜いて、少女に構えた瞬間、壁から水の魔術が飛んできて俺の銃を弾き飛ばしてしまう。
まるで魔力の動きを感じなかったという事は、発動自体は前に行われていて、時間差で効果だけが使われたという事だ。
俺が銃を構えるという事を、予知していた……!
「まぁまぁそう言わず、ゆっくりとして下さい。向こうの会議も、まだまだ時間が掛かるでしょうしね」
ニッコリと微笑む少女に、俺は冷や汗を流しながら、小さく頷くのだった。