(アレクシス視点)
姫さんと元勇者パーティーの巫女によって完全に誘い込まれた俺とヴィルであるが、逃げようと思えば逃げられる状況だ。
確かに未来を視る力は驚異的だが、それだけで戦闘に勝てる程甘くはない。
どうやっても勝てない相手というのは存在するのだ。
俺はヴィルに視線だけで合図をして、俺が巫女の相手をすると伝えた。
「それで? 俺達に話というのは何だ」
「闇神教の事についてです」
「だろうな」
「率直に言います。彼らから手を引いてください」
「断る」
やや驚いた顔をしている巫女に俺はフンと鼻を鳴らしながら、ハッキリと告げた。
「俺達が何をしようと、考えていようと。お前たちには関係ない。そうだろう?」
「それは、そうですね」
「という訳だ。話は終わりか?」
「いえ。今目の前にある命を見捨てる様な事は出来ません」
「はっ、俺達が? 連中に負けて死ぬって? そう言いたいのか」
「そうです」
「舐められたもんだ。俺達は冒険者だぜ? このままじゃ死ぬって言われて、怖くて逃げましたなんて事じゃあ話にならねぇんだよ!」
「……死を恐れないと」
「あぁ。連中をぶっ潰せるのなら、命なんて要らねぇな」
真っすぐに睨みつけた瞳は、巫女とぶつかり、互いに一歩も引かぬまま意思をぶつけ合った。
「そもそもお前には関係がないだろう? 俺達が生きようが、死のうが。それとも? 勇者の仲間であるアンタには小さな命が消えてゆく事、全てが許せないとでもいうのかね」
「まぁ、否定はしません。そして、本心を全て語れば、あなた方の命が大切だからというのも、理由の全てではりません」
「ほう」
「これは災害対策局局長としての判断も含まれています。あなた達が自分勝手に動く事で状況が動く事を良く思っていません」
世界国家連合に所属する胡散臭い組織の長として、俺達の介入が気になるという言葉に、俺は目を細めた。
まぁ、何となく察していた事ではあるが、本命はそちらだろう。
小さい命が消えるのが気になるという事なら、もっとやるべき事があるだろうからな。
「ただ、お二人の事が心配というのも嘘ではありません」
「前置きは良い。早く本題の話を聞かせてもらいたいもんだな。アンタや、姫さんは闇神教の事をどこまで掴んでるんだ」
「……少し前に、私とアリア姫様の友人である少女が、闇神教に襲われました」
「ミラ・ジェリン・メイラーか?」
「っ! ご存知だったのですか」
「あぁ、今ミラと一緒に居る奴が、俺らの知り合いでな」
「ミラさんと一緒に居る? ……という事は、オーロさんですか」
「……あぁ」
どうやら本当にミラの嬢ちゃんやオーロと知り合いらしい。
俺はヴィルに視線を送り、交渉役を交代した。
ここから先は俺よりもヴィルが話す方が良いだろう。
「後は任せた」
「あぁ。分かったよ」
そして、災害対策局局長殿は、俺が下がった事にも特に文句は言わず、笑顔でヴィルへと視線を向ける。
「ここからは俺が話しますよ。ミクさん」
「はい。どうやら、話をしても良いと思えるくらいには信用して頂けたようで、良かったです」
「アレクの無礼を詫びさせてください」
「構いませんよ。私が怪しい存在であるという事は確かですし。まだ信用出来ないというのも分かりますから」
長い話が始まりそうだなと二人を見ながら俺は壁に寄りかかり、周囲を観察しながら耳を傾けた。
「では改めて、同じことを伝えさせていただきますが、闇神教の件。手を引いてくださいませんか? オーロさんの事でしたら、私たちの方からもお話させていただきますから」
「残念ですが」
「……」
「俺達が闇神教を追うのは、オーロの手伝いをしたいから、というだけじゃないんですよ。俺達自身の復讐でもある。だから、何を言われようと退くことは出来ません」
「……どうしても?」
「どうしても」
局長殿とヴィルは少しの間視線をぶつけ合っていたが、やがて局長殿が溜息を吐きながら諦めたような笑みを零した。
「オーロさんに聞いていた通り、無謀な人達見たいですね。あなた達は」
「オーロが何か?」
「えぇ。私が何を言ってもお二人は話を聞かないだろうと言っていました」
「流石、オーロは俺達の事をよく分かってますね」
「まったく。困ったものです。しかし、こうなった以上は、お二人に協力していただきたいですね」
「断る事は?」
「構いませんが、お二人が少々活動しにくい事になるでしょうね。私は冒険者組合の方にも顔が効きますから」
「……性格が悪いな」
「ふふ。アレクシスさん。私は自分の性格が良いなんて一言も言った覚えはありませんよ」
俺は先ほどまでの雰囲気はどうしたのか、いたずらっ子の様な笑みを浮かべながらとんでもない事を口走った。
そんな局長殿の言葉に肩をすくめながら俺は、軽く笑う。
「それで? 性格の悪い局長殿は俺達に何をして欲しいんだ?」
「まずは情報の共有を」
「オーロから聞いてるんじゃないのか?」
「無論オーロさんから聞いている話もありますが、お二人しか知らない話もあるでしょう?」
「未来視で視れば良いじゃないか」
「残念ながら未来視も万能では無いのですよ。全てを知る事は出来ません」
「案外使えないモンなんだな」
「えぇ。ですから、お二人の様な方の協力が必要なんですよ」
「……」
「……」
「最初に、闇神教には首を突っ込むなと言っていただろうが」
「しかし、私が言った程度では止まらないのでしょう? なら、協力していただく方が良いですよね?」
「……チッ」
「アレク。お前の負けだ」
「チッ。口の回る小娘だ」
「残念ながら、アレクシスさんよりも私は長く生きてますよ。小娘ではありません」
「なんだよ。若作りババアか」
「ばっ!? 誰がババアですか! 誰が!!」
「年を取るとそんな事も分からなくなるのか。哀れだな」
「な! な!? なぁー!?」
先ほどまでの冷静沈着な姿をどこに置いてきたのか。
局長殿は小さな体を暴れさせながら怒りを露わにしていた。
それほど気にしているという事なのか。
幼い見た目をしていても、精神は女という事なのかもしれないな。
なんて考えながら、暴れている局長殿に更なる煽りをぶつけるべく俺は思考を巡らせた。
が、そんな俺の思考を読み取ってから、ヴィルが待ったをかけるのだった。
「アレク。それくらいにしておけ」
「まぁ、年寄りをイジメるのはこれくらいにしておくか」
「っ!! 私は、確かに長く生きていますが! 年は変わってません!! 身体能力も思考も昔と何も変わってません!」
「ふぅん」
「あ! 信じてませんね!? ちゃんと! 私はちゃんと!!」
「大丈夫。俺は分かってますし。アレクシスにもちゃんと言っておきますから」
「ふー! ふー!!」
ヴィルにまあまぁと声を掛けられ、何とか局長殿は落ち着いた様だった。
そして、局長殿が落ち着いた事で俺達は再び情報の共有を行うべく、話をする事にした。
「まぁ、こんなモンか」
「そうですね。私たちとしても情報が増えて助かります」
「あぁ、それで……世界の面倒くさい場所は俺達が行くが」
「はい。世界国家連合議会の内部に関しては私の方で調べましょう……とは言っても、既に一度確認はしているのですが」
「だろうけどな。まだ胡散臭いぜ」
「……そうですね。リョウさんという方を襲った魔導兵器は、確かに怪しい」
「あれだけの物を作るのにはそれなりの施設が必要だ。そして、それだけの施設を隠すなら」
「議会の関連組織……という事ですね」
「そういう訳だ。という訳で、そっちの調査は任せた」
「分かりました」
そして、俺達はここで話した事を秘密にしつつ、部屋を出てゆくのだった。