さて、ココちゃんの問題は解決した訳だが……。
俺はもう一つの問題についてどうするか考える。
が、正直な所、ココちゃんの問題がスムーズに解決したので、これ以上は良いかと話を終わる事にした。
「という訳で俺から話す事は以上だ」
「ん? あれ? ジーナちゃんの事は?」
「え?」
「え?」
「いや、何もないよ?」
「なんでー! ジーナちゃんもリョウ君の家に住むって言ったじゃん!」
ジタバタと暴れるジーナちゃんに、どうしたもんかなと考えていると、桜が不思議そうな顔で尋ねてくる。
「えっと、お兄ちゃん? こっちの人も獣人さんなの?」
「いや、違う」
「そうなの? じゃあ、どういうお知り合い?」
「あー。なんていうかな。偶然一緒に付いてきただけの人なんだ。まぁ気にしなくても良いよ」
「あー! またそんな意地悪言って! ジーナちゃんも独りぼっちになっちゃうよ」
「いや。ジーナちゃんは帝国に家があるでしょ」
「ないもん!」
「無いって、じゃあ今までどうやって生活してたの」
「エリク君のお家に住んでた」
「エリク君……ってスタンロイツ帝国の皇帝?」
「そう」
「じゃあ、立派なお家がスタンロイツ帝国にあるって事だね。はい。じゃあまた今度遊ぼうね」
「やだやだやだー! セオストがいいー! セオストに住むー!」
「ジーナちゃんなら冒険者としてもやっていけるよ。それで家を借りて住めばいいでしょ」
「ジーナちゃん一人じゃなーんにも出来ないもん!」
子供の様に駄々をこねるジーナちゃんにどうしたものかなと俺は考える。
一応引き取るという考えが無い事もないが。
まぁ、無い。
しかしなぁー。このまま放置というのもそれはそれで面倒というか、なんというか。
「よし。妥協案だ。ジーナちゃん」
「……なぁに?」
「隣の家に住めば良い。ご飯くらいなら一緒でも……大丈夫か? 桜。ココちゃん」
「うん。私は大丈夫だよ。ご飯くらいなら」
「ココも、へいき」
「ありがとう。という訳でご飯くらいなら良いよ」
「やーだー! 一緒の家がいいー! ジーナちゃんもリョウ君の妹でしょー!?」
「そんな話、知りませんが?」
「言ったじゃない!」
「ジーナちゃんが勝手にね?」
「良いじゃん良いじゃん! ジーナちゃんが言ったって良いじゃーん!」
駄目だ。まるで交渉にならない。
言いたいことを言っているだけだ。
どうしたものかね。これは。
「どうする? お兄ちゃん」
「さて、どうしたものかね。俺も悩んでる」
「いちど泊めてみる? もしかしたら上手く付き合えるかもしれないし」
「どうかな。正直な所、その最初の一回が最後の一回になる可能性もあるからね。あくまで断固とした態度でいるのが大事だと俺は思うよ」
「……」
「どうしたんだ? 桜」
「いや、お兄ちゃんがここまで頑ななのも珍しいなって思って。だってジーナちゃんって子供みたいな女の子でしょ? 一人で放置したら心配じゃない?」
「いや、そこは心配ないよ。ジーナちゃんは多分俺より強いからね」
「「「え!?」」」
当然と言えば当然だが、桜とフィオナちゃんとリリィちゃんが驚いたような声を出した。
まぁ、ね。
見た目だけだったらね。か弱い女の子だし。
精神は子供だもんね。
気持ちは分かるよ。
でも、ジーナちゃんは普通の子じゃないからなぁ。
「一応ね。ココちゃんとは違う理由でジーナちゃんにも事情があるんだ。だから俺が何もしなくても大丈夫なんだ」
「そうなの?」
「あぁ。まぁ、何というか難しいけどな。とにかくジーナちゃんは大丈夫だ」
流石に魔法使いだというのはまずいか。
と一応気を利かせて話していたんだが、そんな気持ちは当のジーナちゃんによって粉々に打ち砕かれた。
「そうやって! ジーナちゃんが魔法使いだから、虐めるんだ!」
「あ!」
「……? 魔法使い?」
不思議そうな顔でジーナちゃんを見つめる桜に、俺は何とか魔法使いを説明しようとした。
「あー。ほら、アレだ。桜。昔、絵本で見た事があるだろ? 魔法使い」
「うん」
「あんな感じなんだよ。ジーナちゃんも色々な事が出来るんだ。その……魔法でな」
「えへん」
「だから、一人でも大丈夫ってこと?」
「まぁ、そういう感じかな」
どこか納得できていない様な顔はしつつも、一応頷いてくれた桜に安堵していると、また別の場所から爆弾が落とされた。
「ジーナちゃん? ジーナ? 魔法使い……! 帝国の、魔女!?」
そう。フィオナちゃんである。
さっきシーメル王国に居たという話を聞いた時から嫌な予感はしていたが!
ジーナちゃんの事も知っていたらしい。
有名人というのはこういう時に厄介だな!
「むー! その呼び方は可愛くないからヤダー!」
「りょ、リョウさん! 帝国の魔女と言えば! 相当な危険人物として有名ですよ!」
「無視しないでよー!」
「どうしてこんな人を連れてきてしまったんですか!? しかも妹だとか!」
「ジーナちゃんはリョウ君の妹だもん!」
フィオナちゃんとジーナちゃんが交互に叫び、耳が痛みを覚えるほどであった。
しかし、そんな状態でも二人は止まらない。
俺の両耳に向かって叫び、鼓膜を破壊しようと進み続けるのだった。
「帝国へ戻すべきです! セオストがめちゃくちゃになっちゃいます!」
「ジーナちゃんはセオストに住むのー! そう決めたの!」
「だいたい魔女なんて呼ばれている人なら、一人で生きる事は可能な筈です!」
「ジーナちゃん! 一人じゃ死んじゃうもん! なーんにも出来ないから死んじゃうもーん!!」
「魔法使いに出来ない事なんか何もないじゃないですか!」
「いっぱいあるよ! いっぱい、いーっぱいあるよ!」
「じゃあ言ってみてくださいよ! 何が出来ないんですか!? 何と何が!」
「それは、よく分かんないけど! でも!! 一人は寂しいもん! ジーナちゃんだって家族やりたいもん!! 家族が欲しいって思ったらおかしいの!?」
その、最後にジーナちゃんが言った言葉で、会議室はシンと静まり返った。
俺は何とも言えない気持ちのまま、感情が高ぶって泣いているジーナちゃんへと視線を向ける。
そこに居たのは、ただの寂しがりな弱い女の子だ。
「……お兄ちゃん」
「分かってるよ。お兄ちゃんが悪かった」
「うん。私も、ね。だから私は良いよ。ココちゃんはどう?」
「いいよ。ジーナちゃん。良い子だから」
「そっか。らしいよ。お兄ちゃん」
「あぁ」
俺は桜とココちゃんの助言を得て、ジーナちゃんに向き直り、近くに歩み寄った。
そして、涙を流しているジーナちゃんにハンカチを一つ差し出す。
「これ、使って」
「ん、うん」
涙を拭った後、勢いよく鼻をかむジーナちゃんに何とも言えない気持ちが芽生えるが……まぁ良い。
この手を離せば、ジーナちゃんも独りぼっちになってしまう。
そうならば、そうだというのなら。
「ジーナちゃん」
「なぁに?」
「流石に俺よりずっと年上の人を妹には出来ない」
「ぅえ」
「……でも、家族にはなれる。弟ってワケでも無いし。兄ってワケでも無いけどさ。同じ家で住めば、役割の名前が無くても、それは家族だろ?」
「……いいの?」
「何が?」
「だって、わたし、家を壊しちゃうかも」
「それは困るね。家は壊さない様に注意して下さい」
「嫌いな食べ物があったらヤーってしちゃうかも」
「君より年下の子は食べてるのに、君はイヤーするのか!」
「……それは、その、まぁ、たべるけど」
「なら問題ないね」
「でも、でも! でも!」
何故か家に住めるというのに、否定し始めるジーナちゃんがおかしくて、俺はクスリと笑った。
何だかんだと臆病な子なのだろう。
「まぁ良いよ。何かあればこうして話せばいい。喧嘩をすれば良い。それが家族って奴だ。そうでしょ?」
「……そう、かも」
「という訳なので! ジーナちゃんも今日から家族。よろしくね」
「……ヨロシク」
何故か固くなってしまったジーナちゃんに、前途多難だなと思いながら俺は笑みを一つ落とすのだった。