何の前触れもなく家にやって来たミクちゃんを迎えに行った俺は、玄関でミクちゃんに話しかける。
「先ほどぶりですね」
「えぇ」
「何か御用ですか?」
「もちろん。なので、家に入れて頂けますか?」
ミクさんの言葉に俺は少し考える。
この人は世界国家連合議会の人だし。家の中に入れても良いモノか、正直悩みどころだ。
「どうしたのですか?」
「いえ。ミクちゃんを家に入れてよいモノか悩んでまして」
「っ!? え!?」
「何を驚いているのですか?」
「いや、私、怪しい人じゃないんですけど!」
「そうですか。しかし家に入れるのは不安なので、冒険者組合で話しましょうか」
「いやいや! 別に冒険者組合へ行かなくても良いでしょう!? それとも!? 何か隠している事があるのですか?」
「別に隠している事は……あー、まぁ、無いですが。冒険者組合の方が話しやすいでしょう」
「今の反応! 何か隠している事があるんじゃないですか!?」
一瞬ジーナちゃんの事が頭によぎり、俺は言い淀んでしまったのだが、そこをミクちゃんに突っ込まれてしまう。
何とも面倒な事になってしまった。
何とか誤魔化して家から遠ざけないと……なんて考えていたら、背後から声が聞こえて、俺は隠したい人物をミクちゃんに知られてしまうのだった。
「なに、騒いでるの? リョウ君。ジーナちゃん起きちゃった」
「っ! じ、ジーナちゃん。ここは大丈夫だから二階に行ってて……」
「む!? その声! その姿! 貴女! 帝国の魔女! セオストへ向かう少女と共にいた姿は! やはり見間違いでは無かった様ですね!」
「だーかーら! 魔女って可愛くない呼び方だから止めてって言ってるじゃない!」
「やはり! どういう事ですか!? リョウさん! 帝国の魔女は魔法使い! その存在そのものが災害と同意義です! セオストを滅ぼすつもりですか!?」
「ジーナちゃん! そんな事しないもん!」
「リョウさん!」
「リョウ君!」
前と後ろから同時に叫ばれ、俺は両手を上げながら、とりあえず戦いを止めてもらう様に白旗を上げた。
そして、このままここで叫ばれているよりはマシだとミクちゃんを家の中に招き入れ、ダイニングに入って貰う。
そのまま二人には向かい合う様に椅子に座って貰い、俺は二人のどちらにも座らず、テーブルの端で向かい合う二人を見る形で座り、俺を含めた三人はそれぞれ視界に入る様な形に座るのだった。
「えーっと、ね。まずは落ち着いて話をして欲しいんだけど」
「私は初めから落ち着いています」
「嘘ばっかり。さっきからずっとギャーギャー騒いでたじゃない」
「それは! 貴女という災害が都市の真ん中に居たからじゃないですか!」
「ジーナちゃんはまだ何もしてないもん!」
「まだ!?」
「別にこれからも何かしようなんて考えてないよ!」
テーブルを挟んでギギギと睨み合っていた二人であるが、俺はとりあえず手刀を二人の中央に落とし、二人の視線と感情をリセットしようとした。
しかし、その程度では止まらないらしく、二人は一瞬こっちを見た後で、また睨み合うのだった。
「あの。そもそも何でそんなに敵対しているんですか? 前に何かあったとか?」
「聞いてくださいますか! リョウさん!」
「別にジーナちゃん何もやってないもん!」
ジーナちゃんが腕を組みながら顔を逸らし、ミクちゃんはここぞとばかりに顔をこちらに向けて微笑みながら饒舌に語り始める。
「実はですね。帝国の魔女は、以前、世界国家連合議会に来た事があるのですが、その時、何処かの国の王と言い争いをしたとかで魔法を使い、施設の一部を破壊したのです!」
「……なるほど」
相変わらず無茶苦茶をやっているなと思いながらジーナちゃんを見るが、ジーナちゃんは知ったことじゃないとでもいう様に口笛を吹きながら知らん顔をしている。
「しかも、それだけじゃなく、魔女は! 彼女を止めようとした災害対策局のメンバーを吹き飛ばし、私との戦いの途中にも、お腹が減ったから帰ると言って何処かへ消え去ったのです! その後、施設を修復するのにどれだけ時間が掛かったか……!」
苦労がにじみ出る様な言葉に俺は酷く同情しながら頷き、チラッとジーナちゃんを見た。
しかしジーナちゃんは知ったことじゃないという態度を続けており、俺は溜息を吐きながら言葉をかける。
「ジーナちゃん」
「ふーん」
「そうか。聞こえていないか。ならしょうがないな。悪いことをして反省出来ない子は、また同じ事をするかもしれないから、家から出て行って貰わないといけないかな」
「っ!? なんで!!」
「家族の安全の為だよ。ジーナちゃん」
「……! でも! でも、すっごい! すっっっっっごい! 酷い事言われたんだよ!? 今だって、ずーっと前の事なのに、ネチネチ、ねちねち!」
「でも悪い事はしたんだろう?」
「それは、そう……だけど!」
「だけど?」
「でも、ジーナちゃん悲しかったし」
「そうだね。うん。分かるよ。だからまぁジーナちゃんが世界国家連合議会の施設を壊したって話も別に今ここで大きく責める気はない」
「えぇ!? リョウさん!?」
「少し黙っててください。ミクちゃん」
「黙っててって! 私は!」
「良いから。そっちはまたこの話が終わってから話しますから」
「むー!」
俺はむくれるミクちゃんをそのままに、ジーナちゃんへ再び語り始めた。
「だからさ。やってしまった事は仕方ないって思うんだ。正直な所、世界国家連合議会がどうなろうと、俺の知り合いは居ないし知ったことじゃないしね」
「リョウさん!」
「分かってますから」
「んー!」
俺はまた騒ごうとするミクちゃんの口を塞ぎ、静かにさせて再び言葉を続けた。
「でもね。ジーナちゃん。家を壊す事は悪い事なんだよ。それは分かるよね?」
「……うん」
「だからさ。やってしまった事は仕方ないとして、それでも反省はしないと駄目。それは分かるよね?」
「……反省しないと、また同じ事をやっちゃうから?」
「そういう事。前は知らない人達だったかもしれないけど、今度は桜やココちゃん。フィオナちゃんやリリィちゃん、それに俺みたいな家族が傷付くかもしれない。それは分かるよね?」
「……わかる」
「だから、まぁ、悪い事は悪い事として、ちゃんと反省して、ごめんなさいをして、次は同じことをしない様にちゃんと考えましょう。という話だね」
「……はーい」
俺はしょんぼりしたジーナちゃんを見て、ミクちゃんの口を解放すると、ホラとジーナちゃんに視線を送る。
ミクちゃんは訝し気な顔をしていたが、ジーナちゃんがちゃんとしょんぼりした顔をしたまま、ごめんなさいと謝罪をすると目を見開いて驚いていた。
「え!? あ、あの魔女が謝罪を!?」
「ミクちゃん……」
「リョウさん。これは凄い事ですよ! 今まで歴史上誰も魔女を!」
「ミクちゃん!」
「は、はい!」
「ジーナちゃんは、『魔女』と呼ばれる事を酷く嫌がっています。ですから、どうか。呼ぶときはジーナちゃんと呼んであげて下さい」
「……」
ミクちゃんは心底驚いた様な顔を浮かべたまま俺とジーナちゃんを交互に見て、小さく分かりましたと呟いた。
そして、まるで魂が抜けた様な顔でジーナちゃんを見つめる。
「ジーナさん」
「……なぁに?」
「えっと、ごめんなさい。私、ジーナさんが魔女と呼ばれる事を嫌がっていたとは気づかず」
「別に良いよ。みんなジーナちゃんの事とか聞いてくれないし」
「……ごめんなさい。これからはジーナさんと呼ばせて貰いますね」
「別に、良いけど」
ジーナちゃんは顔を逸らしながら素っ気なく言うが、顔は何処か嬉しそうな表情を浮かべていた。
それから二人が一応の仲直りをしようと手を握ろうとした瞬間。
家が揺れた。
いや、違う。
揺れているのは家じゃない。
セオストだ。
俺は二人をそのままに家の外に飛び出し、塀の遥かな向こうに見える巨体を見て、目を見開くのだった。