世界を終わらせてしまう巨大な人の様なソレの姿を見た瞬間、俺は桜たちに隠れている様に言って、冒険者組合の方へ走り出していた。
俺に出来る事があるのか、それは分からないが……何もしないまま逃げる事も出来ない。
セオストには守りたい物が沢山あるのだから……。
「リョウ君!」
「っ! ジーナちゃん!?」
「ジーナちゃんもお手伝いするよ! 家を守らないとね!」
「……助かるよ」
「そういう事なら私も協力させていただきます」
「ミクちゃん!? 危ないから家に居ないと駄目だよ!」
「また子供扱いして! 言っておきますが、私はかなり強いんですからね!」
「でもジーナちゃんより弱いよね」
「まだ決着はついて無いでしょう!」
少し前に仲直りしたばかりだというのに、また言い争いをしている二人を見て小さく息を吐きながら、行きたいというのなら良いかと俺はひとまず流す事にした。
ジーナちゃんは魔法使いだからか、相当に強かったし。
そんなジーナちゃんと喧嘩をして無事だというのなら、大丈夫だろう。
「どうせジーナちゃんが勝つから意味ないよ」
「そう言うのなら実際にやってみましょうか!?」
俺は喧嘩し続ける二人を放置し、そのまま走り続けた。
喧嘩しながらでも付いてきているのだから、まぁ問題は無いだろう。
そして、冒険者組合の建物にたどり着いた俺は、施設の前で心配そうな顔をしていたオリビアさんに話しかける。
「オリビアさん!」
「その声は! リョウさん! それに……! ミク様! ミク様ではないですか!」
「ミク様?」
「ミクサマー?」
俺とジーナちゃんは声を揃えて、様付けで呼ばれた人を見た。
ミクちゃんはそう呼ばれる事が当然だという様な顔で頷き、オリビアさんに言葉を返す。
「状況はどうなっていますか?」
「組合としては信頼できる冒険者の方に森への調査を依頼しました」
「なるほど。ではその方々が何か情報を持ち帰るかもしれませんね。必要であれば人を増やしてでも無事な帰還を」
「分かりました」
キビキビと指示を出していく姿を見て、俺はジーナちゃんと顔を見合わせた。
先ほどまで見せていた幼い子供の様な顔は何処かに消えており、今あるのは大人と変わらない顔つきで動く、見た目が少し幼いだけの人だ。
よどみなく指示をしていく姿などどこか遠く感じてしまう。
「ん? なんですか? む? むむ。もしかして! また子供みたいって思ってたんじゃないですか!?」
「いや。大人びてるなと思ってたよ」
「大人びているというか、本当に大人なんですが、まぁ良いでしょう。真実が見えたという事なら」
ふふんと腰に手を当てながら自慢げに笑うミクちゃんを見て、先ほどの姿は幻覚かと俺は思い直す事にした。
そして、話をまとめてくれたであろうミクちゃんに、俺たちが何をするべきか聞こうとしたのだが……。
俺が口を開くより前に、壁の方から悲鳴があがる。
俺は急いでミクちゃんやジーナちゃんと共にその場所に向かったのだが……。
「ヴィルヘルムさん!」
「……リョウか」
そこには荒い呼吸を繰り返しながら、持ち上げていた人々を地面にゆっくりと下ろすヴィルヘルムさんが居た。
酷く疲労している状態で、もう立つことも出来ないという様な状態であったが、何とか話を聞くことは出来た。
「新種の魔物が現れた。俺たちはその調査に向かったんだが……既に遅く、奴はセオストに向けて進み始めている」
「はい。あの巨人ですね?」
「そうだ。アレクが足止めをしてくれたが……魔物がこちらへ向かっているという事は、そういう事だ」
「っ!」
ヴィルヘルムさんの言葉に、俺はギュッと拳を強く握りしめた。
覚悟はしていたつもりだが、こうして直接聞くとツライものがある。
「だが、アレクから伝言は受け取っている。リョウ。奴は魔力の塊だ。膨大な魔力を制御しているのは中心部にある魔力石だ。それを破壊しろ」
「俺が」
「お前の持っている神刀なら、あの表面を切り裂く事が出来る」
「魔術ではダメなのですか?」
ヴィルヘルムさんの言葉に、ミクちゃんが問いかけるが、ヴィルヘルムさんは静かに首を横に振るだけだった。
「魔術ではほぼ意味がないと」
「そうですか……任務、ご苦労様です。情報ありがとうございました」
ヴィルヘルムさんの話は終わり、周囲の人々はヴィルヘルムさんがここまで連れてきた冒険者の人たちを連れて行った。
全員怪我をしているらしく、まともに動けない状態の様だ。
彼らをここまで運んできたヴィルヘルムさんはもう動くことは出来ないだろう。
「リョウ君。どうするの?」
「決まっているさ」
俺は刀に手をかけながら、遠い空の向こうにいる巨人を睨みつけた。
「託されたからには、俺がやる。俺が奴を斬る」
「ふふ。格好いいね。じゃあジーナちゃんも協力するよ」
「良いのかい?」
「とーぜん! ここにはジーナちゃんの新しいお家があるんだから」
「そうか。嬉しいよ」
「にしし。ジーナちゃんにお任せ」
ふわりと浮きながら笑うジーナちゃんに俺も笑みを返しながら、遠くにいる巨体へと視線を戻して、どうするべきか考える。
今のままでは巨人を倒す事は出来ない。高さが足りないのだ。
あの巨体の胸辺りにある石まで飛び跳ねたとしても届かないだろう。
「ジーナちゃん」
「ん-? どうしたの?」
「例えばなんだけど、俺を空に飛ばす事は出来る?」
「出来るよ」
「なら……!」
「でも、正直あんまりオススメはしないかなー」
「何故?」
「ジーナちゃんが飛ばすと、ジーナちゃんがリョウ君の体を操る事になっちゃうから。自由に動けないでしょ?」
「それは確かに」
「だからさ。足をあげるね」
「足?」
ジーナちゃんの言葉に首を傾げていると、すぐにその理由が分かった。
足が地面に吸い付く様な感覚がある。
「凄いでしょ?」
「あぁ。これなら……!」
俺は滑る様に壁へ向かって走り出し、その勢いのまま大壁を登ってゆく。
勢いがあるのもそうだが、足は地面に落ちる事なく壁に吸い付いて俺の体を支えていた。
「ちょ!? リョウさん!?」
後ろから聞こえてくるミクちゃんの声を置き去りにして、大壁の上に飛び出すと、大勢の騎士たちの中に落ちる事となった。
「うぉ!? なんだ!?」
「あぁ、申し訳ないです。冒険者なのですが、巨人をよく見たくてここまで来ました」
「走って? 上ってきたのか!? この壁を」
「はい。お仕事の邪魔はしませんので、これで失礼します」
俺は一つ頭を下げてから、大壁の中のさらに高い場所へと駆け上がり、巨人を見据えた。
「どう? 良い感じ?」
「あぁ。完璧だよ」
「これなら胸の魔力石まで行ける。後は、どうやって魔力石を斬るか……だね」
敵は分厚い水の塊で出来た体を持っている。
魔術は効かないという事だが……魔術を直接ぶつけない方法ならいけるのでは無いだろうか?
例えば石を直接魔術で飛ばしてぶつけるとか……そういう手ではどうなのだろうか。
なんて考えながらジーナちゃんに問いかけようとした時、別の声に呼びかけられた。
「リョウさん! 作戦があるんですから! 一人で先行しないで下さい!」
「作戦?」
「そうです! 一人で突っ込まず、全員でこの局面を乗り越えなくてはいけません。災害対策とはそういうものです!」
「なるほど。ちなみに作戦は何かありますか?」
「それは……その、これから考えます……が! みんなで考えれば必ずいい案が!」
「であれば、お願いしたい事があります」
「ふぇ!? な、なんですか!? いきなり!」
「大事な事なんです! あの巨人を倒すための作戦! 俺も思いついたんですよ!」
「……っ! 聞かせて下さい!」
そして俺はミクちゃんに先ほど思いついた作戦を伝え、その為の準備を行って貰うのだった。