しばし、シャーロット様とダニエルの口論? というよりは、じゃれ合いを見ていた俺であったが、少ししてから正気に戻ったのかハッとした顔で俺の方を見て頭を下げた。
「申し訳ない! 客人を放置して……!」
「申し訳ございません!」
「いえいえ。ついつい話が盛り上がってしまう事はありますからね」
俺は問題ないと返しながら、スッとテーブルに置かれたお茶を一口飲んだ……。
って、あまりにも自然に出されたから思わず飲んでしまったが!
やらかしたか!?
と俺は周囲を自然な仕草で伺うが、特に気にしている人は居ない様だった。
危ない危ない。
どれだけ仲良くなったとはいえ、セオスト家は貴族家だ。
友好的な関係も、ちょっとした事で壊れてしまう事もある。
ちゃんと気を付けよう。
「いやはや。恥ずかしい所を見せてしまったな。これではリョウの友人を名乗っても良いものか」
「いやいや。俺はそれほど大した人間じゃないよ。今回はちょうど上手くいったけどね」
「君も大概強情だね。まぁ、それが君の良い所なのかもしれないが」
「そうそう簡単に人間性は変えられないから、そこは諦めて欲しいな」
「まったく。そんな事では大きな利益を逃してしまうかもしれないぞ?」
「まぁ、俺としては目立たず静かに生きてゆきたいね。妹が幸せになる道を邪魔したくも無いし」
「英雄が目立たない? 無茶を言う。君はこれから否が応でも目立ってゆくさ。英雄らしくね」
「その辺りは是非とも他の人に願いたいものだよ」
「ふふ。英雄らしく責務と向き合いたまえ」
俺はダニエルと共に軽く笑いながら、ダニエルに合わせてお茶を飲んだ。
なんだかダニエルと話していると本当に他人の様な気がしない。
やはりどんな世界であっても気の合う人間というのは居るという事か。
「むー……」
「おや? どうしたんだ。シャーロット」
「お兄様ばかり楽しそうにお話しして! 私がリョウ様をご招待したのですよ!」
「おっと、これは悪かったね。では。シャーロット。リョウなら大抵の事は快く応えてくれるだろう。好きな質問をすると良い」
「……」
そう促されて、シャーロット様はダニエルから俺に視線を移し、ジッと見つめる。
言葉はない。
ただ、ただジッと見つめる。
そんなシャーロット様を急かすことなく、俺もまた静かにシャーロット様を見つめた。
「……リョウ様は」
「はい」
「その……魔物と戦うのは怖くないのですか?」
「怖いですよ」
「え!?」
驚いた顔をするシャーロット様に俺は桜へ向ける様な微笑みを浮かべると、ゆるやかに口を開いた。
「魔物は、こちらの命を狙ってきますからね。やはり恐ろしいです。振り回せば容易く俺の命を奪うであろう腕や爪も、噛みつかれれば動けなくなってしまうだろうその巨大な牙も、やはり相対すれば怖い物です」
「では……何故、リョウ様は戦われるのですか?」
「守りたいものがあるからです」
「……! 守りたい、もの」
「はい。俺が戦っている以上、俺の背中には守るべき人がいる。だから俺はどれほど怖くても戦うのです」
「それは、あの、新種の魔物と戦った時も、そうだったのですか?」
「えぇ、無論ですよ。俺の背中には確かにセオストの街とそこに住む人々が居ましたから」
俺の言葉を聞いて、シャーロット様は熱に浮かされた様に頬を赤く染めながら小さく頷いた。
その反応を見て、とりあえず好意的に捉えてもらって良かったなと思う。
野蛮人だと嫌われるよりも、良い人なんだと思われている方が活動していてもプラスだろうし。
なるべくなら自分への評価は高い状態を維持しておきたいものだ。
「あー、そういえば」
「うん?」
「今日我が家にリョウを呼んだのは、君の冒険譚を聞くことが目的だったのを今思い出してね」
「なるほど。そういえばそんな話だったね。じゃあ大したものも無いけど、どんな話が聞きたい?」
「ふむ。そうだな……じゃあ君が一番苦戦した相手はどんな相手だったんだい?」
「セオストに来てから。という話なら、やはりエドワルド・エルネストさんじゃないかな。正直、勝てる気がまるでしなかった」
「それはそうだろう。エルネスト様は人類の英雄だからね。そんな相手と戦って、生きているだけでも信じられない様な事だよ」
「それほどかい?」
「あぁ。無論だとも。何せ、エルネスト様と対峙して無事だった者は数える程しかいない」
俺はぶつかり合ったエルネストさんの評価を受け、他の人たちの評価も思い出し、あの人が超人的な存在……化け物の様な存在として扱われていて、少し良かったと思っていた。
正直な所、あの人クラスがゴロゴロしているとなっては、この世界で生きてゆくのも大変だと思ったからだ。
いや、しかし……。
「今、ふと思い出したのだけれど、エルネストさん程では無いけれど、かなり危険な相手と戦った事があるね」
「君がそんな風に言う相手か。気になるね。魔物かい?」
「いや。アレクシスさん達は魔導兵器だと言っていた」
「魔導兵器?」
ダニエルとの会話の途中に、やや驚いたような顔でルーカスさんが言葉を零す。
「リョウ君。その魔導兵器というのはどの様な見た目だったのかな」
「見た目、ですか? ロボットの様な見た目でしたね」
「ロボット?」
「あー。えっと、ですね。体は城壁の様に固くて、石で形を作った様な姿をしていました。そして空を飛んで、高熱の光を発して攻撃してくる様な魔導兵器でした」
「高熱の光というのはどういう攻撃だい?」
「あぁ、なんていうかな。暗闇で明かりを付けると、光の線が出来る事があるだろう? 分かるかい?」
「あー。何となく分かるよ」
「そんな光の線が熱を持っていて、触れたものを燃やす。という様な感じだね」
「……それは、恐ろしいな。防ぐ手段はあるのかい?」
「防ぐのは難しいだろうね。俺の持っている武器が魔術を切り裂くモノだから、何とか対処出来たけれど、普通であればどうにもならなかっただろう」
「それは中々」
ダニエルはビームの説明を聞いて、腕を組みながら考えはじめ、話を振ってきたルーカスさんは難しい顔をしたまま新しい質問を投げ込んでくるのだった。
「リョウ君。その兵器はどこから来たか、分かるかい?」
「どこから来たか。というのは分かりませんが、戦った場所はスタンロイツ帝国でした」
「スタンロイツ帝国……か」
「かの国が何か?」
「いや、スタンロイツ帝国がどうこうという話ではないが、兵器として開発している事はあり得るだろうなと思ってな」
「……もしや、国同士の戦争という様な事もあり得るのですか?」
「無いとは言わん。その可能性はいくらでもある。それを防ぐための世界国家連合議会ではあるが……平和な時代が長すぎたからな」
「平和になれた人が、争いを起こしてしまう事もあり得ると」
「あぁ。かのスタンロイツ帝国の皇帝は、まぁ、理性的だが……シーメル王国の王は獣人戦争の時代を知らないからな……まぁ、私も実態は知らないから立場としては同じだが」
「それでも、平和を大事にするべきだと考えているルーカス様は偉大だと思いますよ」
「普通の事だ。と思いたいがね。私の様な考えをしている者が減れば、世界は容易く破滅へと進んでしまう」
「はい」
「だがまぁ、ダニエルやシャーロットには歴史と物事を正しく考える方法を伝えているつもりだ。セオストから争いが起こる事は無いだろうと思うが……」
「巻き込まれる事はある。という事ですね」
「そういう事だ」
「……ならば」
「うん?」
「もしセオストが戦火に巻き込まれ、どうしようもない時には、またここに来ます。命が残れば希望は繋がりますから」
「すまないな。……だが、もしその様な事態になっても、私とフレイヤは置いて行ってくれ。主導者が居なければ終わる戦いも終わらない」
「……分かりました。ではその時は、シャーロット様を確かにお守りいたしますね」
「っ!?」
「おいおい。リョウ。僕の事は見捨てていくのかい?」
「なんだ。ダニエルも姫君みたいに守って欲しかったのか。ならそうするけど?」
「いや、それは少々気恥ずかしいな。自分の身は自分で守るとしよう」
俺はダニエルの言葉に笑い、いつか、もしかしたら起こるかもしれない未来に想いを向けた。
良い人たちだ。
この人たちが争いに巻き込まれ悲しむような事が無いようにと、俺はただ、願ってしまうのだった。