異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第68話『いざ、人類の英雄(エルネストさん)が待つ家へ』

「依頼、ですか? エルネストさんから?」

「えぇ。リョウさんご指名で。入ってますよ」

「内容は……」

「お孫様方の戦闘指南という事ですね」

「あー。そういう名目にしたのか」

「そういう名目?」

「あ、いえ。こちらの話です。この依頼。受けますね!」

「承知いたしました。では処理させていただきます」

 

 俺は冒険者組合の受付で、ようやく来たエルネストさんからの依頼に胸をなでおろした。

 先日はセオスト家に招待され、何とか好印象で乗り越える事が出来た。

 が、本番はここからである。

 

 やはりセオスト家においても、重要視されているのはエルネスト家。

 いや……エドワルド・エルネストさんだった。

 それはやはり、あの人が人類を救った英雄だというのが大きいのだろう。

 

 あれから、暇を見つけて何度か図書館に足を運んで、歴史を調べていたが確かにエルネストさんの功績は凄いモノだった。

 獣人に奇襲をかけられ、絶滅すると思われた国から姫君を救出した、とか。

 その際に追手として現れた数千の獣人をたった一人で食い止め、無事生還した、とか。

 

 獣人は鍛えられた騎士十人と同等くらいの力があるが、そんな獣人を数百相手にしても傷一つ付かず。

 エルネストさんの居る戦場は常に常勝無敗。生存者の数も他の戦場とは比べ物にならなかった、とか。

 

 そして、戦争が終わった際に分かった事であるが、エルネストさんはなるべく獣人を殺さない様に立ち回っていたらしく、けが人は多かったが、死者が非常に少なかった為、和平交渉もこじれる事なく成功した。

 

 などなど。

 伝説を上げてゆけばキリがない。

 

 ただ、まぁ……そんな伝説の人もセオストではただの孫バカなお爺さんな訳だが……。

 逆にそれが人々の心を安心させたと言えば、そうだろうと思う。

 

 という訳で。

 エルネストさんから依頼を受けた俺は、行くメンバーを伝え、正式に日程を決めた。

 それから、あれよあれよという間に行く日が決まり……当日、俺は桜たちと共にエルネスト家に向かうのだった。

 

 

「おう! 来たか! 小僧。それに後ろに居るのはこの前に見た妹と、話してたもう一人の妹か」

「はい。本日はよろしくお願いします」

「あー。良い良い。そういう固い挨拶は」

 

 エルネスト家に来て、早速。

 何故か開いていたエルネスト家の門と、門のすぐ傍で木をいじっていたエルネストさんに声をかけられる。

 

 気安いとかそういう次元じゃない。

 隣家に住んでいるお爺さんが通りすがりに話しかけてきたみたいな空気だった。

 それでいいのか、人類の英雄。

 

 まぁ、良いんだろうな。

 エルネストさんだし。

 

「しかし。時間には正確だな。小僧」

「それが普通ではありませんか?」

「それがそうでもない」

 

 エルネストさんは木をいじる為に使っていた道具を片付けてからストレッチをして、歩きながら腕を回す。

 そして、俺たちに笑いかけながら言葉を続けた。

 

「まぁ、何だかんだとヴィルヘルムやアレクシスなどは時間に正確だがな。冒険者などは皆、時間などそれほど気にしていないだろうな」

「そんなモノですか」

「あぁ。俺も昔は冒険者をしていたからな。よく分かる。森や敵地を駆けている時に時間など気にしている余裕はない。いや、まぁ夜が来るのか明けるのかというのは重要だったがな」

 

 ワハハと笑いながら語るエルネストさんは終始明るいが、言葉の中から伝わる空気は重く、笑いばかりがあったワケでは無いのだと伝わってきた。

 それはそうだ。

 歴史書に残る獣人戦争だって、英雄の話ばかりがあった訳じゃない。

 多くの命が消え、そして、多くの憎しみが今もなお残されている。

 

「よし。ではまず依頼について話すか。家の中に付いてきてくれ」

「はい」

 

 エルネストさんに続きながら、大きな敷地の中を歩き、玄関を通ってお屋敷の中を進んでゆく。

 しかし、奇妙な事。という程でもないが、廊下を歩いていてもあまり人とすれ違うような事が無かった。

 それが少しだけ不思議だった。

 

「何か気になる事でもありそうだな? 小僧」

「あ、いや」

「この家の使用人が少ない事が気になったか」

「……えぇ、まぁ。そうですね」

「ふむ。まぁ、他の貴族家に比べれば少ないだろうな。基本的に家の管理は最低限の人数でしか行っておらんし。俺たちも自分の事は自分でやるからな」

「そうなんですね」

「あぁそうさ。俺もな。昔からお貴族様だったワケじゃない。外では一応お貴族様らしく振舞ってはいるがな。本質は平民だよ」

 

 ワハハと軽く笑いながらそんな風に語るエルネストさんに、俺はなるほどと頷きながら屋敷の中を見た。

 綺麗に整えられて、掃除もされているが、セオスト家にあった様な絵画とか彫刻みたいな物は無い様に見える。

 エルネストさん自身も言っている様に、貴族らしいあれこれにはあまり興味が無いんだろうな。と思った。

 

 それから。

 特に会話も無いままエルネストさんは廊下を進み、応接室と思われる場所に入った。

 俺も桜やココちゃんと共に部屋に入り、案内されるまま一つのソファーに腰掛ける。

 

 正面にはエルネストさんが座り、テーブルを挟んで話を始めた。

 

「さて。今回の依頼についてだが」

「はい」

「既に冒険者組合の方から話は聞いているな?」

「えぇ。お孫さんの戦闘指南とか」

「あぁ。そういう事になっている」

「……」

「こういう名目にでもしないとソラリアが嫌がるからな」

「なるほど」

「という訳で、お前には一応何か戦闘技術の様な物を教えてやって欲しいが……」

「危ない事はやるな。ですか?」

「その通りだ。よく分かってるじゃないか」

「まぁ、何となく察するところではありますからね」

「そうでなくてはな」

 

 エルネストさんはフッと笑いながら足を組んで足の上で指を組む。

 

「という訳だ。小僧。お前の役目はソラリアやレイシリアの話し相手という所だが、主な目的はソラリアの興味を外から内に向けることだ。その為にそちらのお嬢さん達にも協力願いたいんだが」

「……はい。お兄ちゃんから聞きました。私たちに出来る事があれば」

「そうか。助かるよ」

 

 エルネストさんは桜に柔らかい笑みを浮かべると頭を下げた。

 そして、エルネストさんが座っているソファーの裏に向かい、戸棚を開くといくつかの袋を取り出してテーブルの上に置く。

 

「小僧。茶の好みはあるか?」

「いえ。俺も桜もココちゃんも、ありませんよ」

「そうか。なら、まぁ何でも良いか。菓子も好き嫌いはあるか?」

「特に無いですね」

「そうか」

 

 エルネストさんは頷きながら持って来たカップに用意したお茶を入れ、皿の上にお菓子を出して俺達の前に置く。

 

「とりあえずソラリア達は今、セオスト家のお嬢ちゃんと話をしてるからな。終わるまで待っててくれ」

「セオスト家のお嬢さんというと、シャーロットちゃんですか」

「なんだ。知ってたのか。って、そうだったな。セオスト家に行ったワケだし知っているか」

「えぇ。ソラちゃんとシャーロットちゃんは仲が良いんですね」

「まぁな。生まれた年が同じでよ。レイシリアを含めて三人で姉妹みたいな関係だな」

「レイシリア……?」

「ソラリアの双子の妹だ。独特な空気の中で生きている子だが、良い子だ。ソラリアと一緒に頼むぞ」

「分かりました」

 

 双子の妹も居たのか。

 と内心で驚きながらも、俺はエルネストさんの言葉に頷き、桜やココちゃんに出されたお菓子を一つ摘まんで口に入れた。

 甘いお菓子は口の中で溶けて、香りと確かな甘さを残してゆくのだった。

 

 しかし、甘い物が好きそうには見えないエルネストさんの部屋に、こういう甘いお菓子があるのは……やはりソラちゃん達が遊びに来た時の為なんだろうか。

 なんて、おいしそうにお菓子を食べる桜たちを見ながら考えるのだった。

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