派手に登場し、暴れまわっていたソラちゃんとシャーロット様であったが、ややしてから落ち着き、何とか立ち上がる事が出来たのだった。
しかし、服は汚れで酷い事になっている。
「二人とも。楽しく遊ぶのは良い事だけど、お客様がいる時にやってしまうと恥ずかしい事になってしまいますよ」
「だって! ロッティが!」
「ソラリアが!」
「結局二人で恥ずかしい思いをしているのなら、変わらないでしょう?」
「う」
「うぅ」
頼子さんのお説教にソラちゃんとシャーロット様は落ち込みながら頷く。
まぁ、頼子さんの言っている事は全て正論だからな。
当然と言えば当然か。
そして、ある程度話も終わったところで、頼子さんからチラッと視線が向けられた。
これは! 話を切り替えて欲しいの合図!
と思われる。
「頼子さん。そろそろ……」
「あら。私ったらお客様を放置してしまって……申し訳ございませんね」
「いえいえ。誰しも熱中してしまう事はありますからね」
別に頼子さんは熱中もしていないし、忘れてもいないが、こういう演技をする事で二人は多少救われた気持ちになるだろう。
という訳で、空気も切り替わったことだし、俺は依頼について話す事にした。
「……さて、人も揃った事だし、依頼の話をしたいのだけれど、良いですかね」
「依頼……確か、ソラちゃん達に戦闘指南をという事でしたか」
「そうですね。俺としては護身術的な事を教えられれば良いかなと思ってますね」
流れる様に頼子さんと語り合いながら話を進めてゆく。
ソラちゃんやシャーロット様。それに遊ぶのを止めて近づいてきたレイちゃん達も無言でジッと俺たちの会話を聞いていた。
そんな視線を受けながら俺は落ち着かない気持ちは胸の奥に押し込めて普通な顔をして語る。
「先日の魔物事件もそうですが、セオストとて完全な場所ではありません。何かがあって魔物や危険な人間が入り込む可能性はあります」
「ですが騎士や冒険者の方々は居るでしょう?」
「無論。街を守るために彼らは居ます。しかし、俺を含めて街を守るために騎士や冒険者が存在している以上、個人にまで手が回るかと言われると微妙です」
「……なるほど」
「まぁ、そんな事態にはならない様に俺たちも戦うつもりなんですが、何かあった時の準備というのは、しておいても損が無いですからね」
俺は微妙に重くなってしまった空気を軽くするべく、口調や表情を明るくしながら切り替えるのだった。
「ま! とは言っても、本当に怖い魔物と戦う様な事は無いでしょう。そういうのは俺たちが何が何でも食い止めるので」
「……!」
「なので、ここで教えるのは俺たちが見逃してしまうかもしれない弱い魔物に対処する方法についてです。上手く戦えば、一人で魔物を倒す事が出来るかもしれません」
「ホント!?」
俺の言葉にソラちゃんが嬉しそうな声を上げる。
が、その瞬間どこか遠くから刺すような視線を感じ、小さく息を吐きながら笑う。
「勿論。ただ、これは緊急時の方法だからね。この方法を覚えたからと言って森で魔物と戦えるわけじゃないという所は要注意だよ」
「うん!」
分かっているのか、いないのか。
ソラちゃんは満面の笑みで元気よく返事をする。
そんなソラちゃんを見ながら微笑ましいなと思っていると、どこからか俺の足元目掛けて何かが飛んできた。
おそらくは雇い主から、仕事をしっかりやれ。という合図だろう。
……ずっと見ているな。
そんなに見ているのなら、自分でやればいいのに。
なんて、考えていると、続く何かが二個三個と飛んできた。
「っ」
俺はそれらを上手くかわしながら、遠方は睨みつけたが、既にその姿はなくどこかへ消えたようであった。
まったく……魔物みたいな人である。
「リョウお兄ちゃん?」
「……! いや、何でもないよ」
「でも変な動きしてたし……」
「ソラちゃん。ソラちゃん」
「ん? どうしたのレイちゃん」
ソラちゃんが俺の動きを怪しんでいると、俺の背後からレイちゃんが小走りに駆けて行って、ソラちゃんの傍まで行く。
そして、周囲にも聞こえるようなマイペースな声であるが、ささやいた。
「きっと、先生は刺客に狙われてるんだよ」
「しかく!」
「刺客!?」
レイちゃんの言葉に、ソラちゃんとシャーロット様がかなり嬉しそうな声を上げた。
いや、なんで嬉しそうなんだ。
知らない間に嫌われていたのだろうか……。
いやっ! 違う!
これはあれか! 子供の時に、憧れた秘密の組織とか、そういう組織と戦う人っていうアレか!
「……いや、違うよ。今のはちょっと足の運動がしたかっただけなんだ」
「ほら、見て。地面が濡れてる。きっと水の魔術で狙われたんだ」
「おー」
「流石レイシリアね!」
駄目だこりゃ。
既に話で盛り上がっている。
しょうがない。ここは三人よりも年上の桜に話をして貰おう。
と後ろに振り返ったらキラキラした目の桜に見つめられていた。
うーん。こっちも駄目だったか。
「お兄ちゃん……! 刺客に狙われて、隠れて撃退してたの……!? 私の為?」
「いや、別に襲われてないんだって」
「でも、地面濡れてたんでしょう? 攻撃されてたんだ」
「……攻撃かと言われると微妙な所なんだけど」
「この程度じゃ攻撃とは言えないな。って事?」
「そういう意味でも無いねぇ」
俺はほぼ話の通じない桜にどう説明すれば良いものか考えていたが、エルネストさんが姿を消しながら攻撃を仕掛けてきている以上、どうにもならないかとため息を零す。
どうやっても証拠がない。
えぇい。人類の英雄が無駄な所でその能力を遺憾なく発揮してくるな……!
「……リョウ、お兄ちゃん」
「どうしたのかな? ココちゃん」
「ココも、見えた。お爺ちゃんが意地悪してる」
「っ! ココちゃんには見えたのか!」
「う、うん。少しだけだったけど」
子供であっても流石は獣人というところか!
俺は感動に打ち震えながらも……すぐに冷静さを取り戻した。
ここで雇い主が俺を襲撃しようとしていた。
なんてバレたら面倒な事にならないだろうか?
まぁ、そんな事で報酬を減らす様な人では無いだろうが……余計な仕事が増える可能性はあるのでは?
あり得る。
十分にあり得る。
ならば……!
ココちゃんには申し訳ないが、エルネストさんを見た事は内緒にしておかないと。
「ココちゃん。申し訳ないんだけど、さっき見た事は内緒に」
「……え? うん。分かって」
「え!? ココちゃんは見えたの!? お兄ちゃんを襲った刺客!!」
「っ!? さ、さくら、おねえちゃ」
しかし、俺がココちゃんに言葉を掛けた瞬間、桜が大きな声を上げ、その声にソラちゃんやレイちゃん、それにシャーロット様も反応した。
これはあれだ。
未確認生物がいる、いないという話で盛り上がっている所に、目撃者が現れた時のあれだ。
ココちゃんは四人の少女たちに目を付けられ、ジリジリと追い込まれる。
その動きは獲物を追い詰めるハンターの様な動きであり、ココちゃんは怯えながら逃げ場所を探していた。
俺はそんな中、咄嗟に体を落とし右腕を地面に向けて、体で小さな台を作り出した。
意味はココちゃんならすぐに察する筈だと信じて。
「っ!」
そして、ココちゃんは俺の意図を正確に理解し、包囲されるよりも前に俺に向かって全力で走り、腕から肩までを足場として桜やソラちゃん達の包囲網から外へと飛び出した。
自由に空を飛ぶその姿は、ココちゃんがもう何にも縛られること無く、自由に生きていける証の様であった。
「なぁー!?」
「と、とんだ……!」
「こ、こらぁーお姉ちゃんに大人しく捕まりなさーい!」
「~~!」
それからココちゃんは庭の中を適度な速さで駆けまわり、桜たちはココちゃんを追いまわしていた。
が、体力の差が大きいらしく、一人、また一人と脱落し。
最後の一人であったソラちゃんも体力が尽きて地面に転がる事になった。
気が付けば立っているのは軽く呼吸を乱したココちゃんだけという状態になっていたのである。