(桜視点)
お風呂場で始まった話は、盛り上がりを見せ始め、会話はあちらこちらへと飛んで行く。
「だから別にヤマトだからって特別な事はないよ? 服が違うくらいなんじゃない?」
「えー! 私がヴィル君に聞いた時は、全然違うって言ってたけどなー」
「見た目はね? 中身は同じだよ。神様に永遠の愛を誓って、はい。夫婦になりました。って話」
「見た目が違うのは結構重要じゃないかしら」
「そう言われると確かにそうかもしれないけど……だからってセオストでヤマト風の結婚式をやるのは難しいんじゃない?」
「でも、ヤマトの事情に詳しい人は結構いるし。何だかんだ上手く出来るんじゃないかしら。私は逆にこの事業に未来を感じるわ」
「うーん」
「ほらー! サクラちゃん。結構ヤマト服に憧れてる女の子は多いんだよ。シュッとしてるし、綺麗だし。なんか、格好いいじゃない?」
「格好いいかどうかは微妙だけど。ソラリアの言う通りね。セオストでウケれば、世界にも広げてゆけるし、結構儲かるんじゃない?」
「ふむ……」
シャーロットちゃんとソラちゃんと私の三人で、ヤマト式の結婚式をやる事業について考えたり。
その間、レイちゃんはココちゃんとぬる湯に入りながら、二人でふゆふよしていた。
「そうなると難しいのは料理じゃない?」
「でも、ヤマトとセオストで料理はそんなに変わらないんじゃないの? さっきサクラちゃんもそう言ってたし」
「バカね、ソラリア。肝心な事を忘れてるわ。ヤマトにしか存在しない調味料があるって話があったじゃない」
「あ」
「それだけじゃないよ。結婚式となったら甘いお菓子とかも必要になるじゃない。それはどうするの?」
「お、おかし……!」
お湯の中に顔をばちゃーんとぶつけて、ソラちゃんはノックダウンした。
知らない文化の事ではどうやっても答えるのが難しかったからだ。
だが、ソラちゃんは負けじと顔をぐぬぬと上げながら再び口を開いた。
「でもさ。ならさ。セオストとヤマトの料理を合体ー! させるのはどう?」
「がったい?」
「混ぜ合わせるって事? 多分美味しくなくなるけど」
「いや、合体って、合わせるって事なんだけど! そうじゃなくて!」
「うん?」
ソラちゃんが必死にお湯を叩きながら訴える言葉に私とシャーロットちゃんは耳を傾ける。
「例えばさ。普通のご飯はヤマトの料理を使って、ケーキはセオストのケーキを使う。とかさ! そういうのも良いんじゃないかって思うんだよ」
「なるほど。妙案を思いついたわね。ソラリア」
「ま! ソラちゃんは天才だからね!」
「はいはい。面白い面白い」
「別に面白い話はしてないよぉー!」
ソラちゃんの訴えを無視して、私はシャーロットちゃんと言葉を交わす。
「実際どれくらい現実的?」
「セオストで調味料を作る事が出来れば、かなり現実的な話かなって感じ。問題は結局そこだからさ」
「ならヤマトから料理人を連れてくるのが一番かしら」
「いや、一番はセオストで結婚式を挙げる人の数じゃない? 多くなかったらあんまり儲けは出ないでしょ」
「そこはブランド化すればいいじゃない。セオストだけの結婚式! ってやったら貴族なら興味を持つわ」
「そう考えると、結婚式って限定して考えるのがもったいない気がする。もっと他に無いかな」
「じゃ、まずはレストランとホテルの複合施設から始めよう」
「……」
「ふふん。どう?」
ドヤ顔のソラちゃんに、私は僅かにイラっとして……ん?
いや、私とシャーロットちゃんはドヤ顔のソラちゃんにイラっとして、話を流した。
「そうだ! 高級なホテルを作って、そこで食事を出す案にしましょう。なんかどこからか降りてきたわ」
「ソラちゃん! ソラちゃんのアイディアね!」
「うん。良いと思うよ。シャーロットちゃんの意見」
「でしょ?」
「いや、だから、ソラちゃんのアイディアね。天才の、ソラちゃんのアイディア!」
「……」
「むふー」
「と、まぁ、アイディア元はどうでも良いとして、それなりに良いんじゃないかしら。私は賛成」
「そうだね。とりあえず試してみるってことで私も賛成かな」
なんて私はシャーロットちゃんと言葉を交わし合いながら手を握り合った。
何となく話し始めた話題であったが、知らない間に事業の話にまで膨れ上がり、実際にセオストでやってみる事になった。
これは燃える。
「ふふ。サクラさん。貴女とはとても良い関係を築けそう」
「そうだね。私も、シャーロットちゃんはかなり接しやすくて好きかな」
「ねー! ねー!? 私も! ソラちゃんも仲間に入れてよー!」
「あわれな……すいー」
「あわれなー」
「ちょ! レイちゃん! ココちゃんまで酷い!!」
それから私はソラちゃんをちゃんと仲間に入れ、五人でセオストホテルについて考える事になった。
とは言っても、まだ草案だし、お金も無いしで考える事はいっぱいである。
が、友達と何かをして遊ぶというのは非常に面白い事かもしれないと私は考え始めていた。
「でも、やっぱり直接話してみると違うわね」
「何が?」
「サクラさんやココちゃんのこと」
「私たちの事?」
シャーロットちゃんの言葉に、私とココちゃんは何のことだろうと首を傾げる。
最近こういう挙動が姉妹でよく似てきたとお兄ちゃんにも言われる様になってきた。
が、まぁいいや。今はそっちの話じゃなくてシャーロットちゃんの話だから。
「獣人の話とか、セオストの外の人の話とか。聞いている話だけだと怖い人ばかりだとか、争いが好きな人が多いとか聞いてたから。ソラリアやレイシリアだってそうでしょう?」
「ま、まぁ」
「お爺様は怖がりだからね。すぐそういう言葉をソラちゃんやレイちゃんに吹き込む。でもレイちゃんは賢いので、自分で見た物しか信じない。すいー」
「レイシリアはそうでしょうけど。私は……いえ、私とソラリアはやっぱり信じてたのよ。外の世界は怖いんだって」
「……」
「でも、それも全部が全部真実じゃないって、分かったから、良かった」
落ち着いた様な笑顔でそう告げてきたシャーロットちゃんに、私はなるほどと頷いて微笑みを落とす。
しかし、私は依頼の事を思い出して一応忠告はしておくことにした。
「確かに。私やココちゃんやお兄ちゃんは良い人間かもね」
「……っ!」
「でも、それは今、私たちの身の安全が保障されてるから、だよ。何かがあれば私たちはセオストから居なくなるし、もしかしたらセオストと敵対するかもしれない」
「そんな……!」
「もしも。の話だよ。勿論今のままならそんな事は無いけどね」
「……うん」
「だから、シャーロットちゃん。ソラちゃん。レイちゃん……は分かってそうだけど。人をそんなに簡単に信用しちゃダメだよ。って、これは友達からの忠告」
「……」
「世の中っていうのはさ。怖い人がいっぱい居るから。素直な子ほど、狙われやすいから」
だから、なんて続けようとした言葉はハッキリとしたシャーロットちゃんとソラちゃんの声に遮られた。
「でも! サクラちゃんは信用できる」
「それにリョウさんやココちゃんもね」
「……二人とも」
「私たちだってバカじゃないわ。ちゃんと現実は見えてる。その上で、やっぱりサクラさん達は信じるに値するって言ってるの」
「これで裏切られても、後悔なんか無いよ。ま。怒りもするし、捕まえようともするだろうけどさ。それでも、その時、また理由を聞くよ」
「シャーロットちゃん……ソラちゃん」
「そういう訳ですから。安心しなさい! なんて言うのもおかしな話ですが。サクラさんも私たちを信じてください」
なんて、アッサリと言葉を返されて、私は負けましたと両手を上げ、微笑みの中、三人を受け入れるのだった。