桜たちが長い風呂から上がり、俺は再び鬼ごっこの話をしようかと思ったのだが、どうやら桜たちは別の話題で盛り上がっている様だった。
という訳で、俺も鬼ごっこからそちらに話を移す事にする。
「セオストでヤマトの結婚式をやる?」
「そう。そういうお仕事があったら面白いんじゃないかって」
「うん。良いんじゃないか? とは言ってもお兄ちゃんは手伝いしか出来ないけど」
「もちろん! お仕事は私たちでやるよ! お兄ちゃんには、まだ何をお願いするか決まってないけど」
「まぁ、決まったら言ってくれれば良いよ。俺に出来る事なら手伝うからさ」
「うん!」
俺の言葉に桜たちは嬉しそうに微笑みながら頷く。
そして、その流れでまた桜とシャーロットちゃん、ソラちゃんが三人で話し合いを始める。
どうやら商売は三人がメインで行うようで、レイちゃんやココちゃんはそこまで頑張ろうという感じでは無いらしい。
一応手伝いはするみたいだが。
「レイちゃんやココちゃんは、そこまでやる気ないんだね」
「んー。レイちゃんは結婚とか興味無いからねー」
「そうなんだ」
「うん。だって、どうでもいいし」
「好きな人とか居ないの?」
「好きな人なら居るよ? ソラちゃんにお母さんにお爺様。それに最近はリョウ君もお気に入り」
「それは嬉しいね」
「あと、ココちゃんもサクラちゃんもロッティちゃんもお気に入りだね」
「そうか。レイちゃんは家族や友達が好きなんだね」
「うん」
俺はお風呂上りで疲れたのか、うとうとしているココちゃんを抱き上げて、眠れる様にしてからレイちゃんと言葉を重ねた。
盛り上がっている桜たちに割り込むのも微妙だしな。
「レイちゃんから見て、どう? 結婚式の仕事は上手くいきそう?」
「なんとも言えない。セオストに結婚式を専門で行う人は居ないから、結婚式がいっぱいあれば大儲け」
「ふむ」
「でも、セオストで結婚に興味がある人がそんなにいない」
「そうなの?」
「うん。あんまりいない」
俺はお茶を飲みながらなるほどと考える。
セオストで結婚に興味が無い人が多いのは何故か、と。
「そうか。出会いが無いのか」
「そうなの?」
「多分だけどね」
俺は冒険者としての仕事やセオストが四つに分断されている状況を考え、理由の一つに思い至る。
この街は一つである様に見えて、実はそこまで一つでは無いのだと。
「俺からすると、この街は少し寂しく見える」
「寂しい?」
「あぁ。同じ場所に住んでいるが、同じ世界で生きていない様に見えるな」
俺は空に広がる白い雲を見ながらふぅっと息を吐きながら思う。
昔、俺が生きていた場所……世界では、ここに居ても良い安心感があった。
しかし、ここは、この世界にはそういう空気感がない。
「……祭りをやろうか」
「おまつり?」
「そう。お祭りさ。俺の世界では、神様に捧げる為の儀式としてあったんだけど」
「うん」
「でも、嬉しい事があった時にお祭りをやる事もあったから、そういうお祭りをこっちでも出来れば良いんじゃないかなって思うんだよ」
「お祭りって、美味しい物食べられるの?」
「あぁ。出店があるから、色々食べられると思うよ」
「んー。ならレイちゃんは賛成だね」
レイちゃんはニコリと笑って、頷く。
そして、離れた場所で話をしている三人を呼びよせる。
まだ、思い付きの段階だから、もう少ししてから話をしたかったが、呼んでしまった物は仕方ない。
俺も三人に先ほど思いついた話をする事にした。
「結婚式の事業を始める前に、ひとまずセオストの出会いを増やすべきなんじゃないかってレイちゃんと話しながら思ってさ」
「それは確かに」
「え? 出会いって少ないの?」
「じゃあ聞くけど、ソラちゃんは結婚したいなぁーって思う人は居るの?」
「え」
ソラちゃんは桜に問いかけられ、腕を組みながらうーんと考える。
目を閉じながら頭を回すが、良い人は思いつかない様だ。
「お子様ソラリアに恋愛はまだ早いと思うけど、私はしっかりと将来の事を考えた方がいますわよ」
「ふーん。じゃあお兄ちゃん以外でどんな候補が居るの?」
「え」
「お兄ちゃんだって一人しか居ないし。もう適齢期なんだから、シャーロットちゃんを待っててくれるかどうかは分からないよ」
「……そんな!」
悲鳴の様な声を上げたシャーロットちゃんはソラちゃんと同じ様に腕を組んでうーんと唸りながら考え始める。
二人くらいの子はちょうど出会うのが難しい頃なのかもしれない。
まぁ、この世界には学校みたいなのが無いみたいだしね。
そうなったら子供での出会いは難しいだろう。
「だからこそ、お祭りをやろうって考えたんだ」
「「お祭り?」」
「そう。お祭り」
「それって昔やってた神社のお祭りみたいな奴?」
「うん。まぁ神社は無いし。目的は神様への捧げものじゃなくても良いと思うけどね。セオストの街全体で盛り上がれる何かがあれば良いんじゃないかって思うよ」
「何かって?」
「お祝い事って奴かな」
「お祝い事かぁー」
俺の言葉にソラちゃんがハッとした顔で一つの提案をする。
「ならさ。例の魔物からの襲撃で壊された壁が今度直るから、それのお祝いっていうのはどうかな!」
「なるほど。それはとても良い案ね。ソラリア」
「でしょ!?」
「えぇ。魔物の襲来から壁の修復まで多くの者が関わっていますし。セオスト家としては、今回の事件で目立った活躍はしていませんから、丁度良いでしょう。そのお祭りとやら。セオスト家が中心となって行おうではありませんか!」
「ちょっとシャーロット。リョウお兄ちゃんの案なのに、そんな勝手な事言うのは良くないんじゃないの?」
「はっ! も、申し訳ございません! リョウ様!」
「いやいや。全然構わないよ。というよりもセオスト家が先導して動いてくれるならありがたいくらいさ」
「……そう、なのですか?」
「あぁ」
俺はちょうど良いと、今考えた案を重要な役割をお願いする事になるシャーロットちゃんとソラちゃんに告げる。
「実際。俺みたいな流れ者が言うよりも、この場所でしっかりと街を支えてきた人が開催する方が参加したいという人も増えると思うんだよ」
「そんな事! 無いとは言えないですけど」
「むしろ冒険者の人とかはリョウお兄ちゃんがやろうとしてるって方が嬉しいんじゃないの?」
「そっちはね。確かに。そういう事もあるかもしれない。でもさ。貴族の人なんかは俺より、エルネストさんやセオストさんの方が信じられるだろ?」
「……確かに」
「だから、そうだね。セオスト家とエルネスト家でお祭りをする事にして、俺がそれに協力しているっていう事にすれば、全体としても良くなるんじゃないかな」
「……それでリョウお兄ちゃんは良いの?」
「勿論。理由は何だっていいよ。これで色々な人が仲良く出来るだろうし、そうすれば結婚する人も増えるし、桜やソラちゃん。シャーロットちゃんの仕事も上手くいくだろう?」
「うん」
「じゃ、それが一番さ」
俺は笑って、右手を差し出した。
これからセオストが大きく変わっていく。
そんな予感がある。
そして、そんな変わっていくセオストの中で、未来を導いていくのはソラちゃん達だろう。
「じゃあ、ひとまず目標はセオスト復興祭りという事になるのかな」
「うん。私はそれで良いと思う」
「私も、リョウ様の意見に賛成ですわ」
「私は当然お兄ちゃんの考えに賛成だよ!」
「ん」
ソラちゃん、シャーロットちゃん、桜。
のんびりと頷くレイちゃん、寝ているココちゃんも含めて、意見が固まる。
そして、俺達は第一回セオスト祭りの準備を始めるのだった。