エルネストさん家で、祭りについて話をした次の日。
俺は早速エルネストさんに冒険者組合へと呼び出され、組合長らを交えて話をする事になった。
部屋には、エルネストさん、ルーカス様、冒険者組合長と、俺よりも遥かに偉い人間ばかりで、何とも気後れしてしまう。
「これじゃちと小僧が話しにくいか。組合長。ヴィルヘルムとアレクシスも呼んでくれ」
「分かりました」
そして、エルネストさんの気遣いにより、新人の冒険者と訓練していたヴィルヘルムさんとアレクシスさんも会議室にやってきて、いよいよ話の始まりである。
「随分と面白い面子が集まってるが、何か事件か? にしちゃ組合は静かだが」
「別に事件じゃない。とりあえず座れ、アレクシス」
「へーへー。んじゃ失礼して」
アレクシスさんは俺の隣に座ると、正面に座った組合長とルーカス様を眺め、少し離れた場所に立つエルネストさんへと視線を送る。
が、やはりこのメンバーが集まる理由が分からなかったのか、俺に小声で尋ねてくるのだった。
「お前は事情を知ってるのか? リョウ」
「えぇ」
「なら話せよ。このままじゃ居心地が悪くて仕方がない」
「分かりました」
俺はエルネストさんに視線を向けて確認をするが、エルネストさんは指で全員から見える位置に先を向けて、そこに立って説明しろと合図を送ってきた。
俺はそれに了解し、立ち上がる。
どうやらちょうど良いタイミングでヴィルヘルムさんも入ってきた様だった。
「えと? この集まりは」
「良いから座れ。ヴィルヘルム。今から小僧が説明する」
「え? はい」
訳も分からないままヴィルヘルムさんがアレクシスさんの隣に座った事を確認すると、俺はゆっくりと深呼吸してから口を開いた。
異様に緊張するメンバーだ。
緊張する様な事は何も無いのかもしれないが、それでも緊張はする。
「えー。では説明をさせていただきます」
「そんな固くなる必要はない。気楽に話せ」
「この部屋で緊張するなってのは無理があるでしょ」
「やかましいぞ。アレクシス。余計な口を挟むな」
「へーへー」
「ん! んん。では、話をしますね」
俺はちょうどよく置いてあったセオストの地図をテーブルの上に広げながら、水で洗えば消えるペンでまずは冒険者組合の近くにある壁を丸で囲む。
「つい先日、新種の魔物が暴れた事により、壁が崩壊しました」
「あぁ」
「しかし、その修復も後数日で完了します。そこで、修復祝いを兼ねて、セオストで祭りを開催出来れば良いと考え、提案したいと考えています」
「祭り?」
「はい。祭りです」
俺はヴィルヘルムさんの問いに頷いたが、実際言葉の意味が通じているかは分からない。
言葉を自動で翻訳してくれるのは便利だが、間違った意味で伝わっている可能性も零では無いのだ。
「その、祭りとやらの概要が知りたいな。俺らもヤマトの話はそこまで詳しくなくてよ」
「そうですね。凄くサラッとした概要にはなるのですが、例えば、このセオストを十字に走る大通りに出店を出します」
「出店?」
「食べ歩き出来る食べ物を売る専門の店みたいなものです」
「なるほど?」
「そして、細い通りには、手軽な遊具屋みたいな店を出して遊べるようにするとか」
「手軽な遊具屋ってのは、どういうんだ?」
「そうですねぇ。手のひらサイズくらいの輪を投げて、棒の中に輪を通したら景品とか、数本の紐を用意して、当たりに繋がっている紐を見つけるとか」
「……なるほどな」
「何か悪さをする奴が増えそうな話だな?」
「その辺りはもう、良心に任せるしかないかなと思いますね」
俺はアレクシスさんのツッコミに両手を挙げて答えた。
悪さをする人間というのはどこにでもいる物だし。完全に全てを規制する事は難しいだろう。
「ただ、まぁ。俺たちも参加して色々な所を見て回ってますからね、何かトラブルがあれば適宜対応で良いと思いますよ」
「ふむ」
「あー。店に関してだが、私から意見がある」
「何ですか? セオスト様」
「今回の祭りに関してだが、セオスト家である程度の金銭支援を行うつもりだ」
「何ですか。全額支援してくれないんですか?」
「おい! アレクシス! 失礼だろう!」
「いやいや。組合長。構わないとも」
「ですがっ!」
「まぁまぁ。あー。それで何故私が全額支援をしないのか。という話だったね。アレクシス君」
「えぇ」
アレクシスさんは組合長に睨まれても動じることなく、平然と頷く。
そんなアレクシスさんにルーカス様は微笑みながら言葉を続けた。
「今回のお祭りだが、実はちょうど良い機会だと思っていてね」
「ちょうど良い機会、ですか?」
「あぁ。セオストに住んでいる貴族は、どこか世捨て人の様な者が多くてな。あまり世界の事に関わろうとしていない。だから、こういう機会に巻き込んでいこうと考えているんだ」
「なるほど。それで、まずはお金から。という事ですか?」
「あぁ。私が金を出した以上、彼らが出さないという選択はほぼ無いからな。特にセオストを守った者たちへの礼だという事にすれば、皆払うさ」
「そして、払った以上は、関わった以上は、祭りがどの様な物か興味が出るだろうし、子供がいれば直接行く事もあるだろう。という話だ」
ルーカス様の言葉に、エルネストさんが補足して、俺はなるほどなと頷いた。
とりあえず場所の問題と金の問題は大丈夫らしい。
しかし……。
「そうなると、お前たち三人が遊んでいる暇は無いかもな」
「あん? なんでそうなるんだ」
「貴族が群衆の中に出かけるんだぞ。護衛を雇わない訳が無いだろう」
「貴族様には騎士が居るだろうが、騎士がー」
「こういう機会でも無ければ、英雄と呼ばれるような冒険者と関われないからな。依頼はほぼ確実に来るだろう」
「めんどくせぇな。俺たちの休みはどうなるんだ。こちとら街を救った英雄だぞ!? 俺らだって遊ぶ権利はあんだろうが!」
「そう言うな。また別の機会があれば……」
「どうせ、また別の機会があっても俺らは駆り出される気がするがな。違うかい? 組合長さんよ」
「う……ま、まぁその時になってみないと分からない事ではあるからな」
ジト―っとした目で組合長を見るアレクシスさんに、俺は何となく珍しいなと思っていたが、一つ思い出した事があった。
そう。孤児院の子供たちの事である。
セオストで祭りをやっているとなれば、子供たちもそこで遊びたいだろう。
しかし、アレクシスさんやヴィルヘルムさんも依頼で外せないという事になれば、遊びに行くことは難しい。
俺だって桜たちが人の集まる場所へ行くとなれば、反対したいし。
「なら……一つ相談なのですが、ルーカス様」
「何かな? リョウ君」
「祭りを一日ではなく三日等にする事は可能でしょうか? そして、三日間のうちどれか一日は自由に過ごす日があっても良いという風にする。冒険者も、騎士も」
「ふむ」
「無論、自由ですから依頼をする冒険者が居ても良いと思います。騎士も同じ。しかし、家族との時間を過ごしたい人はそれを優先する事も出来る様にしていただきたい」
「……分かった」
「ルーカス様……!」
「私とて家族の居る男だ。家族を放置して行う仕事の虚しさはよく分かるつもりだよ」
ルーカス様は微笑みながらそう俺たちに告げてくれ、アレクシスさんは両手をテーブルの上に勢いよく付きながら頭を下げる。
「助かります!」
「いやいや。アレクシス君には我々がいつも世話になってるんだ。こういう時くらいはな」
「ありがとうございます!」
かくして、俺たちは祭りに向けての初回話し合いを終わらせたのだった。