ドラゴンもどきの解体だが、俺達が大きく解体している間に桜たちが骨と肉を切り離す作業をしてくれており、何だかんだと昼過ぎには作業が全て完了した。
「骨は大きく砕いて、鍋で煮ます」
「ふむ」
「そして、骨の中に詰まった魔力や匂いを周囲に散らして、ジャイアントボアを呼び寄せるワケですね」
「なるほどな」
「つまり、煮始めたら、いつジャイアントボアが来てもおかしくないって事か?」
「そうなりますね」
「分かった。じゃあひとまず撤退の準備を進めるぞ。ミラたちは呼び寄せる準備をしてくれ」
俺達はオーロさんの指示に従い、リュックに肉を詰めてゆく。
ドラゴンもどきの肉も料理には使えるらしく、これも持って帰る予定だ。
しかし、山の様にあった肉が全て一つのリュックに入っていくのを見ると、異世界の技術というのは凄いんだなぁと改めて驚くのだった。
これなら旅をするのも楽なんだろうなと一瞬思ったが、こっちの世界は魔物が出るし、旅人を襲うからそれほど楽では無いかもしれないと思い直した。
そして、サクサクと荷物を纏めて、それらをフィオナちゃんやリリィちゃんに託し、俺は進んでいく鍋の準備に気持ちを戦闘へと移行する。
ここから、いよいよ本番の戦闘が始まるのだ。
気合を入れなくてはいけない。
桜たちは少し離れた場所へ避難するが、桜たちが隠れている方へジャイアントボアが突撃すれば桜たちが傷付く可能性がある。
それは絶対に起こしてはいけない事だ。
何も起こさない様に、精神を集中させよう。
「だいぶ気合入ってるな」
「えぇ」
「まぁ、それほど心配しなくてもジャイアントボアは前にお前らが従わせた奴と同じ奴だぞ」
「それでも、油断をして何かがあったら嫌ですから」
「そうかい。まぁ、その方がお前らしくて良いかもな」
「はい」
アレクシスさんと軽く会話をして、俺は先に話しておいた戦闘位置に移動した。
鍋のすぐ近くにはオーロさんが、そしてオーロさんのすぐ後ろに俺と瞬さん、ヴィルヘルムさん達が隠れている場所と俺達の中間にはアレクシスさんだ。
指示を出しつつ、防御役としてオーロさんが立ち、俺と瞬さんが攻撃役である。
そして状況を見ながら援護をするのがアレクシスさんだが……まぁ、正直な所、俺と瞬さんだけで十分だろうというのがみんなの意見だ。
俺もそう思っている。
だからこそ、その期待には十分に応えたいと思うワケだ。
という訳で、俺は桜たちが逃げていく背中を見ながら神刀の鯉口を切り、神刀を抜いた。
「っ!! 来るぞー!!」
そして、オーロさんの言葉に、ドタドタと騒がしい音のする方へ視線を向け、戦闘状態へと移行する。
俺の身長の数倍はある木をなぎ倒しながら現れた巨大なイノシシは、やや興奮した状態でオーロさんと鍋を見ていた。
アレクシスさんが前に俺が戦った奴と同じ奴だと言っていたが、とんでもない。
俺が戦った奴の数倍は大きなジャイアントボアだった。
同じ種族でもここまでサイズに違いが出るのか!
「いくぞ!」
「分かりました。戦闘開始……ですね!」
俺はオーロさんの合図に瞬さんとは逆方向である右側へ走り出した。
そして、ジャイアントボアがオーロさんへと突撃するのを見ながら、回り込む様にしてジャイアントボアに向かって走る。
「まずは俺からいきますよ!」
巨大すぎる体に阻まれて見えない瞬さんやオーロさんに向かって一言叫び、俺は神刀を振りかぶって、ジャイアントボアに斬りかかった。
が、やはり体が大きく、斬ったとしても表面を傷つけるばかりでダメージは少ないように見える。
だが、少なかろうが、痛みはあるようでジャイアントボアは雄叫びを上げながら俺の方へと顔を向けた。
そして、前足で地面をかき、勢いよく突撃してくる。
しかし、分かっている突撃なら避けるのは容易だ。
俺は、横に飛び込んでジャイアントボアの突撃をかわした。
が、避けるのが遅すぎたのか、ビリビリと揺れる空気に巻き込まれ、地面を激しく転がる事になった。
近くを通っただけでこの衝撃だ。
直撃すれば命はないだろう。
俺は冷や汗が背中に流れるのを感じながら、改めて強く神刀を握りしめる。
「大丈夫か!? リョウ!」
「はい! 大丈夫です!」
「無理はするなよ! ……瞬、奴を牽制してくれ!!」
「分かった! 避けろよ! 亮!! 居合……一閃!」
瞬さんの声と共に飛んできた斬撃が、ジャイアントボアの後ろ脚を傷つけ、ジャイアントボアが土煙を巻き上げながら地面を転がった。
だが、巻き上がった土煙を全身で吹き飛ばしながらジャイアントボアが立ち上がり、キッと瞬さんへと顔を向けると再び突撃の体勢となり、走り出す。
その勢いで地面が揺れ、ジャイアントボアの雄叫びで木々が揺れるのだった。
俺は、瞬さんに向かって突き進むジャイアントボアに向かって走り、その背に飛び乗った。
そして、神刀を首元に向かって突き刺す。
ジャイアントボアは耳を破壊するかの様な雄叫びを上げ、俺を振り下ろそうとしたが、それよりも前に走り寄って来た瞬さんが神刀を振り上げた。
その刃が首を狙っている事に気づいた俺は神刀を引き抜き、瞬さんとは逆側に飛び降りる。
「これで、終わり、だ!!」
そして、落ちながら刃を振り下ろし、ジャイアントボアを仕留めるのだった。
一瞬の戦いであった様な。
長い長い戦いであった様なジャイアントボアの狩りも終わり、俺は地面に座り込んだ。
目の前には地面に横向きで倒れた巨大なイノシシが居る。
デカいとかいう言葉では表現できない様な大きさだ。
このままの姿ではセオストの門を通すのも難しいだろう。
「良くやったな。リョウ」
「はい。ありがとうございます。でも、殆ど瞬さんのお陰みたいな感じですね。俺は瞬さんに合わせただけなんで」
「ふっ、謙遜の多い奴だ。アレクシスにも見習わせたいくらいだよ」
「はは」
俺はオーロさんの言葉に微妙な顔で笑いながら地面に倒れた。
非常に神経を使った戦いだった。
ジャイアントボアの突進は、ぶつかった瞬間に死が確定するくらいの圧があり、避けるのもかなり命がけだったのだ。
「あー。生きてる」
「おう。お疲れ」
「アレクシスさん。ありがとうございます」
「後は寝てろ。解体は俺らがやるからよ」
「……ありがとうございます」
俺は一気に疲れが襲ってきて、深い眠気の中、夢の世界に落ちて行った。
どれくらい寝ていただろうか。
俺は物音で目を覚まし、体を起こそうとした。
が、誰かの手で引き戻されてしまい再び仰向けで寝る事になってしまった。
「まだセオストに行くまでは時間が掛かる。そのまま寝ていろ」
「……瞬さん?」
「あぁ。俺も提案に甘えてな、こうして大人しく運ばれている」
瞬さんの言葉に俺は周囲を見て、なるほどと納得した。
今現在、ジャイアントボアは横たわった状態のままセオストに向けて運ばれているらしい。
かなりの重さがあると思うのだが、おそらくは運ぶ為の魔導具があるのだろう。
改めて凄い技術力だなと思いながら俺は空を仰いで息を吐いた。
「これで祭りの食料は足りますかね」
「問題は無いだろう。以前俺も似た様なサイズの魔物を狩ったが、フソウの人間だけで食べ終わるのに十日程掛かった」
「それは、良かったです」
「あぁ。こいつはどんな味がするのか、楽しみだな」
「そうですねぇ」
瞬さんにもうまいご飯が楽しみだ。なんて人間らしい感情があるんだな。
なんて酷く失礼な事を考えながら俺は笑った。
とりあえず今日も生き残り、明日もうまいご飯を食べる。
そんなこんなで、俺は今日もこの世界で元気に生きている。
桜と共に。
「っ! そうだ! 桜は!?」
「戦闘には参加していないんだ。怪我一つない」
「それは良かった……」
俺は再び安堵と共に深い眠りの中に落ちて行った。