異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第86話『冒険者(おしごと)の大変さ』

 さて。

 昨日に引き続き今日も冬支度をする訳だが……ここで一つの問題が発生した。

 

 そう。食料品が買えなかったのである。

 調味料は何とか手に入ったんだが、魔物の肉なんかは全て品切れだった。

 セオストで祭りを開くという話が広まり、やる事のない冒険者なんかが店を開こうとした結果……という事らしいんだが。

 

「冒険者なら、自分で取ってこい。なんて思ってしまいますね」

「あ、あはは……まぁ、秋の終わりは魔物も狂暴化していますから」

「でもその分、狩れば肉は多いワケでしょう?」

「それはそうですが……やはり怖いモノは怖いですからね」

「……まぁ、そうですね。これも仕方のない事ですか」

 

 俺は受付のオリビアさんに愚痴を言いながら、依頼を受けて森へと向かう準備をする。

 依頼が無くても、門から外に行く為には許可証が必要なのだ。

 という訳で、冒険者組合で許可証を発行して貰っていたワケだが……。

 

「ぼーけん、ぼーけん! ぼーけんしゃー!」

「……ジーナちゃん」

「うん? どうしたの?」

「いや、別に無理して付いてこなくても、家で待ってても良かったんだけど。ココちゃんは家で待ってるしさ」

「んー。それも良いんだけどさ。昨日色々買ってもらったしね。お返しはしないと」

「……そうか。分かった。じゃあ無理はしないでな」

「わかってるよー! ジーナちゃんムテキ!」

 

 ジーナちゃんは両手を握りしめ、力をアピールしてから微笑んだ。

 そんなジーナちゃんに笑い返し、俺はジーナちゃんと共に森へと向かうのだった。

 

 そして、無事門を抜け、森に来た俺たちであったが、狩りはかなり難しく、時間のわりに大した量は取れなかったのである。

 

「ん-。こんな物か」

「思ったより駄目だったねー」

「まぁ、ジーナちゃんが居るし、戦闘は問題ないんだけど、獲物が見つからないからね」

「そうだねー。運が悪かった!」

 

 なんて笑いながらジーナちゃんに答えるが、これが運がどうのという話ではない事くらい分かってる。

 そう。俺の技能が低いのだ。

 オーロさんや、アレクシスさん、ヴィルヘルムさん達と森へ行くとよく分かる。

 

 彼らは皆、魔物が通りそうな場所、残した痕跡、魔力の残滓なんかを見て、確認して魔物を追いかけているのだ。

 しかし、俺はそういうのが分からないまま森を歩いているから何も見つからない。

 酷く簡単な話であり、冒険者として致命的な話でもあった。

 

「勉強しないとな……」

「んー?」

「いや、何でもないよ。自分の力不足を痛感しているだけさ」

「そっか」

 

 そして、ジーナちゃんと冒険者組合へ戻って、帰還の手続きと明日再び行くことをオリビアさんに伝えていた俺は、少しばかり懐かしい人に話しかけられた。

 

「おや?」

「ん? あれ。ミクちゃん?」

「はい。例の魔物との戦い以来ですね」

「そうですね。今日は冒険者組合で何か?」

「あー、いえ、そのー」

 

 妙に歯切れの悪いミクちゃんに首を傾げていた俺は、横から聞こえてきたオリビアさんの言葉に顔をそちらへ向けた。

 

「実はですね。リョウさん。ミク様は……」

「あーっと! オリビアさん言わないで下さい! その件は内緒で!」

「何ですか? 何か困りごとがあるというのなら、話は聞きますけど」

「う」

 

 ミクちゃんは一瞬言葉を詰まらせた後、小さくため息を吐いてからぽつり、ぽつりと語り始めた。

 

「実は、非常にお恥ずかしい話なんですが……セオストは冬に殆どの施設が使えなくなるという事を知らなくてですね」

「ほう」

「……冬になってからの居住場所を失いました」

「住む場所がないのなら、西に帰るとか」

「いえ! セオストでやる事がありますから! まだ帰るワケにはいきません!」

「でも住む場所が無いんですよね?」

「それは……はい。そうなんですけど」

 

 ミクちゃんはため息と共に視線をさ迷わせた。

 何とも困った状態の様だ。

 

 とは言っても、俺に出来る事は何も無いし……なんて考えていたらオリビアさんが手で俺を呼び寄せ、耳打ちをしてきた。

 

「リョウさん。リョウさんの家にミク様をお泊めする事は出来ませんか?」

「冬の間ですか?」

「はい」

「それは構いませんけど……ウチは小さい子も多いし、おもてなしとかは難しいですよ?」

「大丈夫です。ミク様は身分などは気にしない方なので」

「……ならオリビアさんの家に泊めるという手段もあるのでは?」

「いやっ! 私の家は……! その、ですね。色々ありまして」

 

 酷く焦った様子のオリビアさんから、おそらくはミクちゃんを泊める事は無理なんだろうなと察し、俺はふむと考える。

 桜は何だかんだうまくやる子だし、ココちゃんは、たぶん大丈夫だろう。

 フィオナちゃんやリリィちゃんも食堂で働いている子達だ。おそらく問題はない。

 まぁ、後で確認する必要はあるけれど、おそらくみんな反対はしない筈だ。

 

 問題があるとすれば……。

 

「ジーナちゃん」

「んー? どうしたの?」

「実はね。ちょっと確認なんだけど」

「うん」

「ミクちゃんと同じ家で暮らしてても、喧嘩せずにいられる?」

「っ!? リョウさん!?」

「えー」

 

 ミクちゃんが酷く驚いたような顔で叫び、ジーナちゃんが嫌そうな反応を示した。

 何とも微妙な感じだ。

 

「いや! 流石にそれは申し訳ないというか!」

「流石に子供を一人で放置は出来ませんよ。雪が積もるという事は外で寝たら死んじゃいますしね」

「私、子供じゃないんですけど!!!」

 

 ミクちゃんの叫びを流し、俺はジーナちゃんに視線を移した。

 そうだ。

 ジーナちゃんとの仲も心配だが、それ以上に雪の中放置する事の残酷さも自分の言葉で理解してしまった。

 

「ジーナちゃん。どうかな。冬の間だけミクちゃんを家に迎えたいんだけど」

「つーん」

「嫌かぁ」

 

 そっぽを向きながら嫌だと全身で示しているジーナちゃんに俺はしょうがないとため息を吐いた。

 こうなった以上、ウチは厳しいだろうから。

 

「あー、ミクちゃん? ウチは厳しそうだから……」

「ジーナちゃんは!」

「……?」

 

 俺はミクちゃんの家探しに協力するよと言おうとしたのだが、その前にジーナちゃんが俺の言葉を遮った。

 その叫ぶような言葉に俺もミクちゃんもオリビアさんもジーナちゃんを見る。

 

「ジーナちゃんは、お買い物もお手伝いしたし! ご飯を集めるのだって協力した! んーん! してる! 明日もやる!」

「うん。そうだね。とても助かってるよ」

「サクラちゃんやフィオナちゃん、リリィちゃんは、毎日お仕事頑張ってるし、家の料理とかも頑張ってる!」

「……」

「ココちゃんは、まだまだ小さいのに、家のお掃除頑張ってる!」

 

 何が言いたいのだろうかと俺はジーナちゃんの言葉の続きを待った。

 そして、ジーナちゃんはミクちゃんを見て、おそらくは一番言いたかった言葉をぶつける。

 

「そっちのおチビさんはさ。何やるの? なーんにもしないで家でダラダラするだけー?」

「む」

「どこかの国の偉い人か知らないけどー。おチビちゃんより小さな子も頑張ってるのに、おチビさんはリョウ君に甘えて、家に住まわせてもらうんだー」

「何ですか! 人を役立たずみたいに! 私だって働けますよ! 貴女よりもずーっと! ずぅうううっとね!」

「へー。それは凄い。はー。すごいすごい」

 

 ジーナちゃんはバカにした様に両手を叩き、笑う。

 そんなジーナちゃんの姿にミクちゃんは怒り、ジーナちゃんと口喧嘩を始めるのだった。

 

 俺は二人の喧嘩を止めようかと思ったが、止めてもどこかでまたぶつかるだけかと、放置して食堂の方へ向かった。

 そして、ちょうど休憩時間だった桜たちに事情を話し、ミクちゃんが住む事の了解を貰うのだった。

 

 全ての話が終わり、戻ってきた頃には二人の喧嘩も終わっており、ミクちゃんとジーナちゃんは荒い呼吸を繰り返しながら、途切れ途切れの言葉をぶつけあっているのだった。

 

「じゃ、じゃあ、あした……森で、どっちがいっぱい魔物を捕まえられるか! しょうぶ、だよ」

「のぞむ、ところです!」

 

 俺は二人の話を聞いて、明日の申請にミクちゃんを追加するのだった。

 

「では、お願いします」

「それは構いませんが。リョウさん」

「なんですか?」

「いや、よく落ち着いているなと思いまして」

「まぁまだまだ子供ですからね。喧嘩する事もありますよ」

「……」

 

 何とも言えないオリビアさんの視線を受けながら、明日は食料が大量に取れると良いなと明日に思いを馳せるのだった。

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