冒険者組合でミクちゃんと会った次の日、俺は争うミクちゃんとジーナちゃんを連れて、森へ狩りに向かった。
正直な所、ミクちゃんの冒険者としての力もそこまで凄い事はなく、魔物を痕跡から追うなんて事は出来ていなかった。
が、戦闘力は非常に高かった為、出会う魔物、出会う魔物、全てを確実に仕留め、ジーナちゃんと互角の争いをしていた。
競い合う二人のお陰で食料は十分集まり、俺達は無事冬支度を終える事が出来たのだった。
そして、仕事が無事に終われば、後は遊びの時間である。
という訳で俺は、第一回セオスト祭りの気配を感じながら、桜やココちゃんと共に街の中を歩くのだった。
大通りには多くの人が集まり、即席の出店を作って看板なんかを作っている。
「明日からいよいよセオスト祭りだね。桜のお陰でみんな楽しそうだよ」
「私だけじゃないよ。ソラちゃんやシャーロットちゃんのお陰でもあるよ」
「うん」
「それに、お兄ちゃんやヴィルヘルムさんやアレクシスさん。エドワルドさんとか、ルーカスさんとか。色々な人が手伝ってくれたし、セオストの人たちも乗ってくれたしね」
「そうだね」
多くの人に感謝の気持ちを向ける桜に、俺は心の底から感動した。
溢れそうになる涙を必死にこらえ、空を見上げる。
この世界でも桜は健全に成長し、人として大切なものを見つけています。
俺は多くのものに感謝しながら、何とか感情を落ち着かせ、再び口を開いた。
「でも、良かったよ。祭りの当日に桜たちの仕事が無くて」
「そうだね。私も良かった。お祭りをお兄ちゃん達と回れて。ねー。ココちゃん」
「うん……良かった」
「明日はどんな店に行こうか。楽しみだね」
「あ! そうだ! 今のうちに偵察に行こうよー! どんなお店があるかさ!」
「それは良い。ココちゃんもどうかな」
「うん……! てーさつ、いいね」
桜の提案に頷き、俺は桜やココちゃんと共にセオストの大通りを歩いて色々な店が出来ていくのを見学していた。
いくつかの店は既に看板を取り付けているので、何の店なのか把握する事が出来た。
「にーくーやーきー」
「肉焼き?」
「たぶん肉焼きだね。何の肉を焼いてるのかは分からないけど」
「ただ、焼くだけなのかな。味付けとか気になるよね」
「確かに」
俺はココちゃんが読んだ字をもとに、桜を色々な考察をする。
が、正直なところ、考えるだけで答えは出ない訳だが……。
まぁ明日になればきっとどういう店か分かるだろうと思いながら、再び歩き出して次の店に向かってゆくのだった。
それからいくつかの店を見たが、やはりというか何というか食べ物屋がとにかく多い様だった。
これは前に住んでいた世界でも同じだった様な気がする。
まぁ食欲は誰にでもあるモノだし。とりあえず店を開くというのなら手っ取り早いのかもしれない。
「なんか食べ物ばっかりだね」
「そうだね。どこで食べるか迷っちゃうね」
「うーん。どこが美味しいんだろう」
「悩むところだね。匂いとかで決める方が良いのかもね」
なんて会話をしながら歩いていた俺は、ふと食べ物屋ではない店を見つけて、看板を見上げる。
「金魚釣り?」
どこかで聞いたことのある名前だなと思っていたら、前の世界で見た金魚すくいだと思い出した。
小さなプールで泳いでいる金魚をすくって、すくえたら、家に連れて帰る事が出来る。みたいな遊びだった筈だ。
「お兄ちゃん。このお店って、前に言ってた奴?」
「うーん。どうだろう? 完全に同じ遊びがあるのかな」
何せこの世界と前の世界は別の世界だ。
色々な物が違っているし、この店も名前だけ似ていて実は違う物という可能性はいくらでもある。
が、気になるな。
俺は店の人もちょうど居るみたいだし聞いてみる事にした。
「すみませんー!」
「んー? なんだい」
「このお店なんですけど、どういうお店なんでしょう」
「どういう店って、書いてある通り、金魚釣りの店だよ」
「……なるほど」
「ん? あぁ、そうかセオストの人は知らんのか。金魚釣りってのはヤマトに伝わる伝統の遊びでな。金色の魚を釣る遊びさ」
「金色の魚を!? 釣る!?」
「あぁ。書いて字の通りという奴だな」
大きく頷く店の人を見ながら、俺は昔の事を思い出していた。
そう、前に生きていた世界で行った祭りでの金魚すくいについてだ。
確か、あの時見た魚は赤い小さな魚であり、金色の魚では無かったはずだ。
そもそも金色の魚が何なのかがサッパリ分からないという話でもある。
少なくとも俺は金色の魚なんて見た事が無いし、そんな魚が存在するのかという驚きもある。
やはり異世界は色々と違うんだなと異世界ショックを受けながら俺はなるほどと頷くのだった。
「まぁ、気になるなら祭りが始まってから来てみてくれよ」
「そうですね。また来ます」
「おう」
そして、金魚釣りの店を後にして俺たちは再び歩き出した。
セオストの中心にある大通りの十字路に差し掛かる頃には人もかなり増えていて、祭りは明日からだというのに既に楽しんでいる人も居る様だ。
「なかなか人が増えてきたね。二人とも俺から離れちゃだめだよ」
「うん」
「はーい」
「良い返事だ」
そして俺は二人の手を両手で握りながら、群衆の中をかき分けて、冒険者組合に向かうのだった。
冒険者が店を開くなら、やはり冒険者組合の近くだろうと思ったからだ。
それから人の群れをかき分けて、十字の大通りを南下し、冒険者組合の建物を目指して俺たちは進み続けた。
「こっちは少し人が減ってきたね」
「……そうだね! 人が、すごい! ココちゃん。大丈夫?」
「うん。だいじょうぶ」
「無理させちゃったね。帰りは裏通りから行こうか」
「うん……!」
何とか人の多い通りを抜けて、冒険者組合のある通りに出た俺たちは、少し歩く速度を落としてゆるゆると色々な店を見る。
やはりというか、ここも食べ物屋が多い様だった。
しかし、ちらほらと知り合いの冒険者を見つけ、俺は話しかけてみる事にした。
「どうも」
「おー! リョウか! なんだ。お前も屋台出すのか?」
「いやいや。俺は出さないよ。祭りでどんな店が出来るのか先に見ておこうと思ってさ」
「なるほど。慎重だな。じゃあ俺の店で買っていってくれよ。旨いぜ?」
「内容次第かなー」
「ふ、ふふ。当然の反応だな。そう。内容次第。だからこそ俺たちは考えたのだ。誰にも出せない料理を出せば、売れるのではないかと!」
「ちょっと嫌な予感がしてきたね」
「そう! 俺たちの店が出すのは!! 冒険者料理! 冒険者以外は真似できない料理だ」
「まぁ、真似は出来ないだろうね。真似は。問題は味だと思うんだけど」
「その点は問題ない。俺たちが森で食べている料理をそのまま出す」
「それは、料理と呼べるものなのか」
「食べられるんだから料理だろ」
「……さ、行こうか桜。ココちゃん」
「おいー! 何だその反応は! 旨いぞ! まさかあの食材でこれほどの料理が!? みたいな料理が出てくるぞ」
俺は知り合いの言葉を全力で流し、その場を後にした。
ギリギリ食べられるという様な物を料理とは言わない。
そもそも冒険者でまともな料理を作れる人は少数なのだ。
何故冒険者組合の食堂が混雑しているのか。その理由を考えれば自然と答えは出てくるだろう。
冒険者の料理は美味しくないのだ。
ただ、それしか食べる物が無いから食べている。
ただ、それだけなのだ。
俺だって森で桜の料理が食べられるのなら、それを食べるからな。
誰が好き好んでギリギリ食べられる料理を食べたいものか。
この辺りの料理屋は危険かもしれないな。
なんて、俺は一人そっと思うのだった。
そして、これ以上の偵察は不要と、俺たちは明日に備えて早めの帰宅をするのだった。