ココちゃんと二人で雪を見ていた俺であったが、不意にリビングの向こうにある廊下から物音が聞こえて、そちらへと視線を向けた。
「だぅー。さむさむさむさむいぃぃいい。雪が降ってるよぉ」
「どうしたの。ジーナちゃん。家の中はそこまで寒くないでしょ」
「雪が見えるんだよぉー! 見えるとぉー! さむいのぉー!」
「そりゃ難儀な話だなぁ」
俺はジーナちゃんの言葉にどうしたもんかと考えて、とりあえず上着を着てみる? と勧めてみたがお外の恰好をしたらもっと寒くなるとの事だった。
なんとも難しい話である。
どうしたものかと考えていると、ジーナちゃんの奥からもう一人、ガタガタと震えながらリビングに現れた。
そう。世界国家連合議会の災害対策局局長、ミクちゃんである。
こちらは外の格好と同じ厚着をしていたが、それでも寒い様だった。
「ま、まったく、ジーナさんは情けないですね。この程度の、さむ、寒さで」
「震えてる人に言われたくは無いんだけど!!」
「私は我慢出来ています」
「いや、我慢するような事じゃないと思うけど」
俺はミクちゃんの言葉に反論しながら、ジーナちゃんとミクちゃんの状況を考える。
何故、これほど寒がっているのか。
「空調は普通に動いているから寒くはないと思うんだけど」
「そ、そうですね。部屋は暖かいと思うんですけど、何故か震えが止まらなくて」
「何かの病気かな?」
「そういう感じではないです。ただ、純粋に酷く寒いという感じです」
「なるほど」
俺はミクちゃんから話を聞き終わり、ジーナちゃんにも視線を向けると、激しく首を上下に振った。
その勢いは首が取れそうな感じでもあるが、ジーナちゃん自身それどころでは無いのだろう。
震えながら必死に口を開いた。
「寒い原因は、雪が降ってきたからなんだよ」
「いや、まぁ、昨日は大丈夫だったし、今日の朝からこんな状態だから。それはよく分かるんだけど」
「ゆ、雪が、降ると、ね。空気中の魔力が雪の魔力の影響で冷やされて、寒くなっちゃうの」
「魔力……!」
「わ、わた、私と、こっちの、おチビちゃんは、体にある、魔力が、多いから、魔力の影響を受けやすいんだ」
「なるほど。それで俺やココちゃんは普通なのか」
ジーナちゃんの言葉に俺は納得した。
俺はそもそも魔力を持っていないし、獣人も体に多くの魔力を持たない存在だという。
そして、ジーナちゃんは魔法使いで、ミクちゃんも体は小さいが500年も生きている超常的な存在だ。魔力を保有している量が多く、こういう環境変化の影響を受けやすいと。
「空調じゃあ空気は温められても、空気中の魔力は温められないと。そういう事かな」
「そ、そそ、そう」
「なるほど。そういう事もあるのか。なら買っておいて良かったね」
「か、買っておいて?」
「良かった?」
首を傾げるジーナちゃんとミクちゃんに笑いかけて、少し待っててと言いながら俺は倉庫代わりにしていた客間へと向かい、その魔導具をリビングに持ってきた。
中々に重く、運ぶのは大変であったが、まぁ役に立つのなら一秒でも早く持っていきたいものだ。
「はい。コレ」
「こ、ここ、これは?」
「これは魔導ストーブって奴でね。空気中の魔力を集めて暖かい空気を排出する物なんだ。魔導具店の店主さん曰く、凄腕の魔術師が居たら絶対に買った方が良いと言われていた奴でね。その時も色々と説明されたんだけど、理論がよく分からなくてさ。何かがあるまでしまっておいたんだ」
「な、なな、なるほど」
「もう限界みたいだし、点けてみようか」
俺は魔導ストーブの火を入れて、震えているジーナちゃんとミクちゃんをストーブの前に連れて行ってみた。
するとどうだろう。
先ほどまで蒼い顔をして震えていた二人は、魔導ストーブに手をかざし、朗らかな顔をしているではないか。
「は、はわ、はわわ」
「あたたかぁい」
「これは良い買い物だったね」
満足満足と頷きながら、ついでだし、他の暖房器具も用意するかと俺は再び客間へ向かい、一つの大きなテーブルをリビングに運ぶ。
どうにか元の世界と似た暖房器具は無いかと探し、ヤマトで発明されたというコレを見つけたのだが。
まさかこんなに早く出番が来るとは思わなかった。
俺はさっそくコレが使える事に喜びを覚えて、リビングへと急ぎ向かった。
「おまたせ!」
「お兄ちゃん。それは?」
「これはね。コタツっていう暖房器具なんだ。俺の故郷ではよく使っていてね。セオストで見つけた時は感動したよ」
「そうなんだー」
ココちゃんは興味深そうに俺の持ってきたテーブルと布のセットを見ており、魔導ストーブの近くに座っていたジーナちゃんとミクちゃんも同じ様にコタツへと意識を向けている様だった。
俺はとりあえず今のテーブルを横にずらし、下にまず大きな布を広げてからテーブルを置き、その上に再び布をかけ、布とテーブルを挟む様に一番上にテーブルと同じサイズの板を置く。
これだけで完成である。
電気も練炭も要らないこの優れものは、魔導ストーブと同じ様に空気中の魔力を集め、それを元に熱を生み出すのだ。
なんて素晴らしい発明!
ありがとう! ヤマトに住んでいるコタツを発明した人!
俺は遠い空の向こうで、俺と同じ様にコタツで温まっているであろう人に感謝を告げながら、コタツのスイッチを入れた。
そして、動き始めたコタツに足を突っ込み、ココちゃんを呼ぶ。
「この布団みたいな布に足を入れて……そうそう。そこ」
「……!」
「どう? 暖かいだろう?」
「うん! すごい! お布団の中にいるみたい!」
「そうなんだ。コタツの一番素晴らしい所は、この安心感。そして心地よさ。まるで眠ってしまえる様なぬくもりなんだ!」
俺はコタツに入りながらまるで演説をする様に叫ぶ。
そんな俺の言葉に、みんなの反応はイマイチであったが、まぁ良い。
これからコタツを使っていけば嫌でも分かることだ。
わざわざ何度も言う必要は無いだろう。
ふふふ。
「なんか、珍しくリョウ君が凄いね」
「えぇ。それだけ故郷の暖房器具が好きだったのでしょう。故郷が好きだったのかもしれません」
「なるほど」
何やら微妙な顔をしながら、うんうんと頷いているジーナちゃんとミクちゃんに一瞬何かを言おうかと考えたが……止めた。
どうせ、コタツに入れば全ての過去は消えるのだ。
誰もコタツの魔力には勝てない。
「んにゃ……なんか眠くなってきちゃった」
「あー。コタツで寝ると風邪ひくよ……って、もう寝てしまった」
気持ちよさそうに横になったままスヤスヤと眠り始めたココちゃんに注意したが、間に合わず、ココちゃんはコタツという名の魔物に食われてしまうのだった。
恐ろしい。
後で起こすか、そのまま眠っている様なら布団に運んでおこう。
なんて考えながら俺はこちらをジーっとみているジーナちゃんとミクちゃんに視線を向ける。
「コタツ。気になってるんでしょ? 入ってみる?」
「……」
「魔導ストーブはそのまま置いておけばこっちも暖かいだろうしさ」
二人はジッとコタツを見たまま動かない。
しかし、そんな凍り付いたような時の中、ミクちゃんが静かで消えそうな声を出した。
「ま、まぁ。災害対策局としては、見た事のない魔導具を調べる必要がありますね。安全の為に」
「……いいよ。別に。ジーナちゃんが見てあげる。弱いおチビさんじゃ何かあった時、対処出来ないでしょ」
「は!? 誰が弱いですって!? 私はこれでも歴史に名を残した英雄の一人なんですよ!」
「はいはい。えいゆー。すごいねー」
「キー! バカにして!」
何故か喧嘩を始めてしまった二人を見ながら、俺は一人呟いた。
「いや、別にコタツは逃げないし、スペースもいっぱいある大きな奴を買ったから、仲良く入れば良いでしょ」
が、二人は俺の言葉など聞かず、喧嘩を続けるのであった。