コタツを導入してからそれほど時間もかからず、家に居た全ての人間がコタツの魔力に負け、コタツに下半身を喰われながらまどろんでいた。
流石コタツだ。
やはりこれ以上の暖房器具は無いだろう。
「あぁーうぅー。もう冬はずっとここにいよう」
「そうですねぇ」
しかも、だ。
コタツの凄い所は暖房器具として優秀という事だけではない。
先ほどまで争っていたジーナちゃんとミクちゃんがコタツに入るだけで争いを止め、穏やかな顔をしながら談笑し始めたのだ。
世界平和もきっとコタツが連れてくるだろう。
間違いない。
そんなこんなで、コタツに包まれながら世界平和について考えていた俺は、玄関から来客を告げるチャイムが鳴った事に気づき、コタツを出た。
まぁ、どれだけコタツが最高であろうと、客を無視するわけにはいかないからな。
という訳で玄関まで来たのだけれど、来客は俺がよく知る人物であった。
「オッス! だらけてるか?」
「アレクシスさんじゃないですか。今日はどうしたんですか?」
「ちょうど近くまで来たからな。様子を見に来たんだよ」
「それはそれは、わざわざありがとうございます」
「おー」
アレクシスさんは右手を軽く上げると、軽い調子で返してくれた。
そして、俺はアレクシスさんを家の中に招き入れようとしたのだが、それは断られてしまう。
「まぁ、本当に寄っただけだからな。長居する気はねぇよ」
「そうなんですか。残念ですね」
「はっはっは! そう言って貰えると嬉しいもんだがな。生憎と俺は忙しくてね」
「なるほど」
「だから今日来たのは確認と土産を渡しに来ただけってワケだ」
アレクシスさんはそこまで言うと、懐から一つの魔導具を取り出して俺に渡して来た。
その箱の様な魔道具は重さも感じないし、どういう機能があるのかも分からない謎の箱だった。
「お前の家、いくつか転移扉があるだろ?」
「ありますね」
「その中の一つにソレを付けておいてくれ。冬の間に使うからな」
「……はい。分かりました」
「ん。助かる。後は……そう、確認だ。リョウ。お前暖房器具は何か買ったか?」
「えぇ。買いましたよ。買った方が良いというアドバイスを聞きまして、魔導ストーブとコタツを買いました」
「買ったか。なら良いわ。俺から言う事は何もねぇよ。楽しく冬を過ごしな」
「心配して下さったんですね。ありがとうございます」
「まぁ、お前はセオスト一年目だからな。知らない事も多いだろうと思ってよ。先輩面しに来たってワケだ」
何だかんだと言いながら優しいアレクシスさんにお礼を言い、それからいくつか言葉を交わした。
そして、雪が強くなる前に帰るというアレクシスさんを見送り、俺は貰った土産を適当な扉に付けるのだった。
「いったい何の装置なんだろうな。ジーナちゃんかミクちゃんに聞けば分かるかな……あー、でもまぁ良いか。アレクシスさんから貰った物だし。時が来れば分かる」
俺は自分で自分を納得させて、再びジーナちゃん達の所へと戻ろうとした。
しかし、廊下に用意した時計が既に夕方を指している事に気づき、雪も降っているし、桜たちを迎えに行くかと考えるのだった。
「ジーナちゃん。ミクちゃん。悪いけど、ココちゃんの事見ててもらえるかな?」
「いーけどー。リョウ君はどうするの?」
「雪も強くなってきたし、桜たちを迎えに行ってくるよ。傘を持って行かないとね」
「……なるほど!」
一瞬迷ってからジーナちゃんは頷いた。
もしかしたら一緒に行こうかと考えたが、やっぱり止めたという様な感じだろうか。
流れでミクちゃんの方に視線を向けると、ミクちゃんはコタツに入りながら顔をしかめていた。
「ミクちゃんは……」
「っ!? わ、わたしですか!? くっ、行かないと、駄目ですよね」
「いや、別に家でゆっくりしててくれればいいよ。ほら、何かあった時、家を守ってくれる人は必要でしょ?」
「確かに! 確かにそうですね!」
とても嬉しそうにミクちゃんは頷き、大いに頷き、控え目な笑みを浮かべた。
やはり行きたくなかったんだな。
まぁ、迎えに行くのは俺がやりたいからだし、別に無理には誘ってないんだけど。
二人とも妙な所で気にするんだなぁ。
「んじゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃーい」
「お気をつけて」
「うん」
そして、俺はリビングを出て冒険者組合の建物へ向かおうとしたのだが、視界の中に居たココちゃんがモゾモゾと動きながらコタツから外に出た。
「ココも、行く」
「でも、外は寒いよ?」
「だいじょうぶ。ココ、強くなれるから」
「うーん」
「ココも、お姉ちゃんたち、お迎えに行きたい……だめ?」
「……駄目じゃないよ。じゃあココちゃんも一緒に行こうか」
俺はコタツの中に居たココちゃんがゆっくりとコタツから出てくるのを待ち、一緒に先ほど外に出る際に着ていた服が置かれた場所へ向かうのだった。
そして、外へ雪を見に行った時の様に一枚ずつココちゃんに着せてゆく。
明るいオレンジのコートを着たココちゃんは非常に可愛らしく、ココちゃんもコートが気に入った様で、回りながらひらりと舞い上がるコートを見て楽しんでいた。
とても良い事だ。
買ってよかったと、こういう瞬間によく思う。
それから最強装備に満足したココちゃんの手を握り、俺は傘を三本持って外へと向かう。
ココちゃんには濡れない様にフードを被せ、俺は傘を差して雪が薄く積もった大通りを歩くのだった。
フード付きのコートを着ている為、別に傘の下に居る必要のないココちゃんは、俺と手を繋ぎながらも、白く積もった雪の上を歩き回り、足跡を付けては笑う。
大きく足を上げながら歩くココちゃんは実に楽しそうで、そんなココちゃんを見ている俺も楽しくなってしまうのだった。
歌を歌うのが好きだったら、口ずさんでいた事だろう。
そして、そんな風に楽しそうなココちゃんを見て嬉しくなるのは俺だけじゃないらしく、大通りを歩ていた人たちもココちゃんの姿を見て、穏やかな微笑みを浮かべていた。
突然の雪で焦った様な、苛立った様な様子で歩いている人たちもココちゃんの笑顔に癒されている様だった。
「ココちゃん」
「~~♪ ん!」
「楽しいかい?」
「うん。ココ、今すっごくたのしいよ!」
「それは良かったよ」
俺はココちゃんの答えに心の底から溢れる喜びを感じて、楽しい気持ちのまま大通りをココちゃんと一緒に歩き続けた。
そして、セオストの中心にある大通りと大通りが交わる十字路を曲がり、冒険者組合のある建物を目指して歩く。
この辺りまで来ると出歩いている人もそこまで多くなく、そろそろセオストも本格的な冬ごもりが始まるんだなぁと思うのだった。
「あ! お兄ちゃん!」
「あぁ、ちょうど良かった。食堂の仕事は終わったのかな。桜」
「うん。今日のお仕事は終わり」
「そして、明日から春までずーっとお休みだよ。リョウさん」
「ゆっくり出来るね」
「それは良かった。はい。みんな分の傘を持って来たから」
「ありがとう! ホント! お兄ちゃんは気が利くなぁ」
桜とフィオナちゃんとリリィちゃんは俺から傘を受け取り、喜んでそれを差して冒険者組合の建物から外へ出た。
そして、俺の隣でニコニコと笑っているココちゃんにも微笑みかける。
「ココちゃんも。お迎えありがとうね」
「うん!」
「私はお姉ちゃん想いの良い妹を持ったよ」
「えへへ」
桜は笑みを浮かべたまま自然とココちゃんに手を伸ばし、その小さな手を握った。
手袋越しであるが、二人の姉妹は雪の中ゆっくりと家に向かって歩き始めたのだった。
俺はそんな二人の小さな背中を見ながら、フィオナちゃんやリリィちゃんと今日の話をするのだった。
新しい暖房器具は二人も気になるようで、家に帰ってからの反応が楽しみである。
まぁ、ただそれはそれとして。
「みんな今日までお疲れ様。明日からはのんびりしよう」