桜とフィオナちゃん、リリィちゃんの今年の仕事も昨日で終わり、今日から家でのんびりと出来る訳だが……。
「あ! リョウさん! ちょっとお手伝いをお願いしたい事があってー」
「手伝い? 良いよ」
「……」
「どうしたの」
「リョウさん。駄目ですよ。内容も聞かずに良いよ、なんて言っちゃ」
「大丈夫だよ。何も聞かずに頷くのなんて家族だけだからね」
「あら! それって私の事も家族みたいに思っているって事ですか?」
「まぁ桜の事とか、ココちゃんの事でお世話になってるしね。もうだいぶ長い間同じ家で生活してるしさ」
「そうですねぇ」
春にセオストへ来てから中々に濃い戦いの日々であったが、俺が戦いに集中出来たのも、フィオナちゃんやリリィちゃんが桜を守ってくれたからである。
そう考えれば、二人を家族の様に感じるのは当然の事だと思える。
まぁ、二人が受け入れてくれるなら、という話ではあるんだが……フィオナちゃんの笑顔を見ていると、問題無いかと思えるのだった。
「という訳だから、手伝いなら何でも言ってよ。何でも手伝うからさ」
「ありがとうございます。じゃあちょっと荷物運びを手伝ってもらおうかな!」
「うん。何を運べば良いのかな」
「実は冒険者組合の食堂で余った食材があって、マスターが今年中に食べた方が良いって言うので、家に持ってくる事になったんだけど」
「量が多いよ。って話かな」
「そのとーり!」
「オッケー。分かった。じゃあフィオナちゃんからのお願いだって伝えれば良いかな。行ってくるよ」
「え!?」
「え。どうしたの? そんなに驚いて」
「一人で行くの!?」
「そのつもりだけど」
「いやいやいや! 二人で運んだ方が効率良いって思うんだけど!」
「それはそうだけど、女の子に荷物を持たせるのは微妙なんだよね」
「家族なんでしょー! ほら、一緒に行きますよー!」
俺はフィオナちゃんに背中を押され、玄関の方までフラフラと歩いていく。
そして、昨日降り積もった雪で白く染まった世界へと飛び出すのだった。
外はやはりというか酷く寒くて、コートを着ているのに震えてしまう程だ。
フィオナちゃんと並びながら歩くが、吐いた息が白く染まる為、フィオナちゃんは寒く無いかと隣を見た。
「フィオナちゃんは寒くない?」
「いやー、寒いですよー! 歩いて、動いて何とか暖かくなれば大丈夫な感じですねー」
「そっか」
「あー、後はー」
フィオナちゃんはニヒヒと少し悪戯っぽく笑うと、俺の左手をギュッと握って来た。
そしてすぐに離そうとしたが、それを握り返して俺のコートのポケットに突っ込む。
「ちょ!? 何を!?」
「んー? 寒いって言ってたからね」
「だ、だだだ、だからって手を握ってポケットに!?」
「最初に握って来たのはフィオナちゃんだけどね」
「それは! そうだけど! でも! でもでもでも!」
「冗談だよ。ごめんね」
俺はポケットから手を出し、フィオナちゃんの白くて小さな手を解放した。
「……ぁ」
「ん?」
「いや、そのー! なんでもない!」
「うん? うん」
動揺し足を止めてしまったフィオナちゃんに合わせて、俺もひとまず足を止める。
そして慌てた様にわたわたとしているフィオナちゃんを見ながら、フィオナちゃんも何だかんだ女の子なんだよなと思い返していた。
何となく桜と仲が良いから本当の姉妹の様に想えていて、桜にする様な対応をしてしまったが。
フィオナちゃんもちゃんと女の子といて扱わないとな、なんて思うのだった。
しかし、女の子として扱うというのがどういう事なのか、俺自身経験が無いからよく分からない所ではある。
そもそも手を繋ぐというのは大人の女性は嫌がるのだろうか。
昔、歩いている女性が女性同士や男の人と手を繋いでいる所を何度か見たし、嫌がっている様な様子は無かった。
恋人同士だからか? という可能性もあるが、そればかりじゃないだろうとも思う。
何となく手を繋ぐ人だっているだろう。
前の世界でも手を繋ぎたがる女の子は居たし、女性も居たし。
なら、人によるのではないかとも思うワケだ。
「んー」
「……」
「フィオナちゃんは手を繋ぐのはイヤ?」
「え!? え! え!?」
「その反応、やっぱり嫌な感じかな」
「そんな事は無いです!!」
「お、おう」
「ただ、その、何事にも順序っていう物があると思うですよ!」
「そうね?」
「なのでっ! 手を繋ぎたい時は、繋ぎたいと言ってください!」
「……」
「言ってください」
「うん」
「言ってください!」
……なに?
これは、アレなの?
言った方が良いの?
寒さのせいか頬を赤くしながらチラチラとこちらを見ているフィオナちゃんを見て、ふむと考える。
もし、間違えたとしても恥ずかしい思いをするのは俺だけだし、まぁ良いか。
「フィオナちゃん」
「ひゃ、ひゃい!」
「実はフィオナちゃんと手を繋ぎたくてたまらないんだ。良いかな」
「っ! ど、どどど、どうぞ!」
フィオナちゃんは顔を真っ赤にしながら左手で自分の胸を押さえ、恐る恐るという空気で俺に右手を向ける。
俺は、そんなフィオナちゃんの右手を握り、ゆっくりと下に下ろした。
震えながら強張っているフィオナちゃんがこれ以上緊張しない様に、それほど強く握らず軽く握るだけにしておいた。
そして、緊張して目をキュッと閉じているフィオナちゃんに優しく語り掛けるのだった。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
俺はフィオナちゃんと手を繋ぎながらいつもよりもゆっくりと歩いてフィオナちゃんに歩調を合わせる。
歩いていればその内、フィオナちゃんも慣れるだろうと考えていたのだけれど、結局冒険者組合の建物に着くまでフィオナちゃんが慣れる事はなく、建物に入り、オリビアさんにそれを指摘された瞬間、ハッとなって俺の手を振り払うのだった。
「わ、わた、私! 食堂に行って、マスターに話してきます! ここで!! 待っててください!」
「あらー」
「行っちゃいましたね」
「追いかけないんですか?」
「いや、待っていてくれって言われましたから」
「……」
「……」
「それはきっと乙女心だと思うんですよ。恥ずかしいけど、追いかけて欲しい。みたいな」
「そうかもしれませんが、妹の言う事を拡大解釈はしませんよ」
「妹?」
「はい。妹です」
「……妹?」
「そうですよ。オリビアさん」
怪訝そうな顔をしているオリビアさんに俺はハッキリと伝えた。
妹。
そう。妹だ。
「でもフィオナちゃんはとても可愛いですよ?」
「そうですね。ですが、妹です」
「じゃ、じゃあ、リョウさんの好みはどういう子なんですか? リリィちゃんですか?」
「っ! ……オリビアさん! みたいな方ですね」
「……」
「……」
「実は、ここだけの話なんですけど、私、恋人が居まして」
「……なるほど。これは失礼しました」
「いえ。あの、好意を向けて下さるのは嬉しいですから」
大人な態度で、俺は何とかオリビアさんと会話を続けたが、体が砕ける様な衝撃を受けた。
俺が爆弾であったならば、もはやセオストが粉々に砕けてしまう様な勢いで爆発していただろう。
しかし、耐える。
砕けそうな心と体を何とか繋ぎとめて笑い続けた。
「じゃ、じゃあ、俺、そろそろフィオナちゃんの所に行きますね」
「えぇ……えっと、ごめんなさいね?」
「何も謝る必要ないですよ。では!」
俺はフィオナちゃんが居る食堂へと走り、そして、マスターと話す事で落ち着いたと思われるフィオナちゃんと共に大量の食材を家まで持って帰るのだった。
それを繰り返す事で何とか心を保つことが出来た、
だが、この世界に来て初めて奪われた心を取り戻すには少しばかり時間がかかりそうであった。