(桜視点)
おかしい!!
お兄ちゃんがおかしい!!
「絶対、ぜぇーったいおかしいよ!」
「そうなの? ジーナちゃん、全然気づかなかった!」
「ココも」
私はリビングで全員を集めて作戦会議を開いていた。
この家始まって以来の大事件! 小峰家の大事件を!
何とかしなくてはいけない!!!
「とにかく! 今のお兄ちゃんは何かおかしいんだよ!」
「おかしいって、何かあったの?」
「なでなでしてくれなかった!!」
「……? え?」
「なに? どうしたの?」
「いや、それだけ?」
「それだけ。も何も、大事件じゃない。なでなでしてくれなかったんだよ?」
「……」
何か呆れたような顔をしているジーナちゃんを放置して、私は味方を増やすべくココちゃんへ視線を向けた。
何をするにしてもまずは数を増やすことが大切だ。
世界を変えるにも救うのも、人の力が必要なのだ。
「ココちゃん!」
「っ!」
「ココちゃんなら、これが大事件だって分かるよね!?」
「え、と……ココは」
「ほらー。ココちゃん悩んじゃってるよ。カワイソー」
「ジーナちゃんは黙ってて!」
「ふぁーい」
「ココちゃん。良い? よく考えて! お兄ちゃんはいつも夜寝る前におやすみってココちゃんに言ってくれるよね!?」
「……うん」
「でも、今のお兄ちゃんはココちゃんがお休みって言っても、頷くだけでそのまま部屋に入っちゃう感じなんだよ!?」
「っ!!?」
ココちゃんはとてもビックリした顔で私を見つめた。
そして、消え入りそうな声で呟く。
「だいじけんだ」
「ね!? そうだよね!?」
「うーん。どうかなぁー」
首をひねりながら、私の言葉に疑問を落とすジーナちゃんを私は流し、更なる味方を得るべく、キッチンでおやつを作っていたフィオナちゃんとリリィちゃんを呼んだ。
「フィオナちゃん! リリィちゃん! 二人の何かおかしいって思ったでしょ!?」
「私は、別に」
「おかしいと思ったでしょ」
「全然」
「もー! リリィちゃんってば我儘なんだから!」
「いや、今この場で一番ワガママだし、何言ってるのか分からないのはサクラちゃんだけどね?」
「私は良いの!」
私はリリィちゃんが味方になってくれなかった事にショックを受けつつ、ジーナちゃんのツッコミをかわして最後の希望に目を向けた。
何か知っているのか、深刻そうな顔で考え込んでいるフィオナちゃんをだ!
「フィオナちゃん!」
「……っ! はい!」
「もしかして、フィオナちゃん。何か知ってるんじゃないの!?」
「え? いや、私は何も知らないよ。全然! これっぽっちも! サッパリ!」
「でも、昨日お兄ちゃんとどこかに出かけてたよね!?」
「それは、ほら。食堂にさ。食材を取りに行ってたんだよ。マスターから言われてたでしょ?」
「……確かに」
「ほら。だから、別に荷物を運んでただけだよ。何もない。なーんにもない」
「あれ? フィオナ」
「っ! な、何かな。リリィ」
「そういえば、さっきリョウさんが庭で修行してた時、話しかけに行ってたじゃない?」
「む!? むむむ!? ギロギロギロ!」
私はフィオナちゃんがコソコソ隠れながらお兄ちゃんに近づいていたという密告を受けて、フィオナちゃんをジーっと見つめる。
何か知っているという訳ではなく、フィオナちゃんが犯人だった!?
真実を見極めるべく私はフィオナちゃんを見つめた。
それこそ穴が開いてしまいそうなほどに、見つめた。
だが、フィオナちゃんはそんな私の視線を受けてもなお、笑顔を作り、否定する。
「私は何も。ただ、そう。サクラちゃんと同じで、リョウさんの様子がおかしいから見に行っただけだよ」
「ふぅーん」
何か知ってそうである。
あるが、それを言うつもりは無いようだ。
どうやって言わせるか考えたが……こういう時のフィオナちゃんは口が固い。
おそらくは何をしても真実を喋らないだろう。
ならば、私自身の手で真実を見つけなくてはいけない。
おそらく事件があったのは昨日だ。
二日前のお兄ちゃんは普通だったし、冒険者組合へ行く前のお兄ちゃんも普通だった。
冒険者組合で何かあったんだ。
でも、冒険者組合はお兄ちゃんもよく行ってるし、今更何かが起きる事なんて……!
ある!
一個だけある!!
お兄ちゃんが冒険者組合に行くたびに意識している女!
他の受付の人には話しかけず、絶対にお兄ちゃんが話しかける女!
オリビアだ!
「……冒険者組合、受付?」
「っ!」
私は確信を持ちながらも、今気づきました。という様な顔をして呟いた。
その言葉に、フィオナちゃんが露骨に反応する。
やはり!
やっぱりそうなんだ!!
あの女がお兄ちゃんを傷つけたんだ!
ゆるせない!
「復讐してやる」
「ちょ! ちょっと待って! サクラちゃん!」
「待てないよ! お兄ちゃんに何かやったんでしょ!?」
「いや、それは……確かにそうなんだけど、オリビアさんが悪いって訳じゃないんだよ」
「じゃあ何?」
「それは……その、ね? オリビアさんにも事情があって」
「何? 事情って」
「えーっと」
「何? 早く話して」
私は言いにくそうにしているフィオナちゃんに言葉を投げつけ続けた。
どんな事情があろうがお兄ちゃんを傷つけたのなら敵だ。
お兄ちゃんの敵は私の敵だ。
どんな手段を使ってでも……!
「もう! 他で絶対に言っちゃ駄目だよ! オリビアさん、恋人が出来たから、その事をリョウさんに伝えたんだと思う!」
「……は?」
「ほら、リョウさんってオリビアさんの事気にしてたでしょ? だから、それでショックだったんじゃないかなーって……「お祭りだ!!」え?」
「こんなにめでたい日は無いよ! 最高! 今日はハッピーディだね!」
「……」
「……」
「なになに? どうしたのみんな! そんな暗い顔して! こんな良い日にそんな顔してたら良くないよっ!」
「いや、サクラちゃん。もうちょっと人の心を持とうよ」
「持ってるじゃない。どこからどう見ても」
ジーナちゃんが相変わらず呆れた様な声を向けてきたが、私は正論で打ち返す。
私のどこに人の心が無いというのだ。
サッパリ分からない。
「はぁー。リョウお兄ちゃんがカワイソ」
「何を言ってるの! ジーナちゃん! 私とココちゃんっていう最高に可愛い妹が二人も居て! 可哀想なんて事は! 少しも無いんだよ!」
「実に可哀想だと思うよ」
「むー! ココちゃん!」
「ひゃい!」
「ココちゃんはどう思う? 私たち、お兄ちゃんにとっての最高の妹だよね?」
「え、っと……ココは」
「正直に言った方が良いよ。ココちゃん。言わないとサクラちゃんってば何も分からないみたいだから」
「こ、ココは……!」
「ちょっと! ジーナちゃん! そういう発言は良くないんじゃない? 私ほど多くの事が分かってる常識的な人間はいないよ?」
「サクラちゃんはちょっと自分大好きすぎるかな」
「自分で自分を好きにならなきゃ! お兄ちゃんが最高に私を大好きになってくれないでしょ!」
「ナルホド」
私の訴えに、ジーナちゃんは既に興味が半分くらい無くなっているのか、ふよふよと浮きながらリビングの向こう側へ、廊下の方へ飛んで行った。
お昼寝でもするのだろう。
そして、私がジーナちゃんを目で追っていた隙にココちゃんも姿を消しており、この場にはリリィちゃんとフィオナちゃんだけが残された。
「じゃあ、事情も分かったし、お兄ちゃんを立ち直らせよう! そして、やっぱり外の女じゃなくて、桜が最高なんだなって思い出してもらおう!」
「……亮さんは桜ちゃんの事、ただの妹としてしか考えてないんじゃあ」
「リリィちゃん!?」
「冗談。冗談だよ。桜様最高! それが世界の真理だよ」
「リリィ!? 大丈夫!?」
「大丈夫だよ。フィオナ。私は大丈夫」
私はどこかやる気のない虚ろな目をしたリリィちゃんと、微妙な反応をしているフィオナちゃんをそのままに、お兄ちゃんを惚れさせるぞ作戦を開始するのだった。