フィオナちゃんとミクちゃんの提案で、年末(仮)の挨拶に向かう事にした俺たちであったが。
既に外はそれなりに雪が降り積もっており、歩くのも大変な状況である。
が、明日は今日よりも降り積もるだろうし、行くなら今日。という話だ。
「じゃあ、最初はエルネスト家とセオスト家に行こうか」
「そうですね。あんまり雪が積もると向こうも迷惑でしょうし」
「あぁ、ミクちゃんもお知り合いなんでしたっけ」
「えぇ。勿論です。私は偉い人ですからね」
えへん。なんて胸を張りながら語るミクちゃんは、相変わらずただの子供にしか見えないが……まぁ周りの反応を見ると確かに偉い人なんだなというのは分かる。
納得はしにくいけれど。
「……まぁ、そうですね。偉い人。偉い人ですね」
「なんですか? そのとりあえず頷いておいてやるか。みたいな反応は」
「そんな事、少しも考えてませんよ。少しも。えぇまったく!」
俺はジーっと疑わしい物を見る様な目で見てくるミクちゃんから視線を逸らし、雪を踏みしめて楽しそうに歩いているココちゃんと桜の元へ向かった。
二人は手を繋ぎながら仲良さそうに歩いており、その姿はとても安心出来るものである。
やっぱり、この姿は本当の姿で、さっき家で桜が叫んでいたのは気持ちが暴走してしまっただけなんだなと俺は結論を出した。
喧嘩する姉妹など我が家にはいなかったのだ。
素晴らしい事である。
という訳で、何だかんだと雪道を楽しんで歩いた俺たちは、大人数で歩いている事もあり、微妙に注目されながらも、まずはエルネスト家にたどり着いた。
ちなみに、これはセオスト家を後回しにした。という様な事ではなく、単純に家から歩いていくとエルネスト家の方が近いというだけだ。
本当に他意はない……!
って、誰に言い訳をしているんだ、俺は。
「さて、じゃあ呼び鈴を鳴らしてみるか……アポ無しだけど」
「あんまりエルネスト様はそういうの気にしないイメージですけどね」
「あんまり貴族な感じはしないね」
「まぁ、フィオナちゃんとリリィちゃんがそう言うのなら、臆せず行ってみよう」
俺は呼び鈴を鳴らし、少し待つ。
しばらくして、遠くに見える玄関が開き小さな影がこちらに向かって走ってきた。
まぁ、エルネスト家から飛び出してくる小さな影という事で、よく考えなくてもその人物が誰かはすぐに分かるワケだが……。
「リョウお兄ちゃん!」
「あぁ、ソラちゃん。わざわざ悪いね」
「良いよ! 遊びに来たんでしょ!?」
「いやー。今日は遊びに来たわけじゃなくて、冬ごもりをする前の挨拶に来たんだ」
「えー。面白くないの―」
不満を言いながらも門を開け、中に案内してくれるソラちゃんにお礼を言い、エルネスト家へと足を踏み入れた。
玄関の中ではレイちゃんと……何故かシャーロットちゃんも居た。
「あれ? 今日はシャーロットちゃんが遊びに来てたんだ」
「はい! そろそろお家に閉じこもる頃ですからね。お父様と一緒に挨拶に」
「それはちょうど良かった。ルーカス様とシャーロットちゃんにも挨拶がしたかったから、このままお二人とも話をさせて貰おうかな」
「まぁ! それは嬉しいですわ!」
「ちぇー。リョウお兄ちゃんもシャーロットも同じ事言って、おもしろくないのー」
「挨拶は大事。レイちゃんも挨拶はちゃんとする。おはよー」
「うん。おはよう。レイちゃん」
「えへん。挨拶完了、レイちゃん偉い」
胸を張るレイちゃんに笑いかけ、ソラちゃんに案内されるまま俺たちはエルネスト家の客間へと向かった。
ちょうど中ではルーカス様とエドワルドさんが酒を飲みながら話をしていたらしく、俺もその話に混ぜてもらう事にする。
「じゃあ、お兄ちゃんはこっちで話をしてるから、みんなはソラちゃん達と話をしててね」
「はぁーい」
そして、桜たちと別れ、俺は客間に入ったのだけれど……何故かジーナちゃんとミクちゃんも残っており、こちらに入る様だった。
「あれ? 二人は向こうに行かないの?」
「行かないよー。ジーナちゃん子供じゃないし」
「前から言ってますが、私も子供ではありません」
なんて、フィオナちゃんと同じくらいの年齢に見えるジーナちゃんや、桜たちと同じ年代に見えるミクちゃんに言われると、何とも奇妙な感覚になる。
まぁ、本人たちが良いのなら、良いけれど。
「そっちに突っ立ってないで座れよ」
「……では失礼して」
俺はエドワルドさんの言葉に頷いて、一つのテーブルを挟んで向かい合っている二人とは別の面に座り、まずは挨拶をした。
「今年は色々とお世話になりまして……」
「あー、良い良い。そういう固い挨拶は」
「はぁ」
「まずは、ホレ。飲め」
「いや、俺未成年なんで、まだ飲めないですね」
「あー? まだガキだって? 冗談言うなよ。もう十分大人だろうが」
「いや、俺の住んでいた場所ではそういうルールがあったんですよ」
「問題ない! この街では俺たちがルールだ。俺たちが良いと言えば、良くなる」
なんという暴論。
と思いながらも、渡された物を飲まないのも失礼かと思い、軽く一口飲んだ。
が、喉が焼ける様に熱く、鼻の奥でもツーンとした熱が生まれて、俺は目に涙を浮かべた。
「わっはっは! なんだ、酒は初めてだったか!」
「っ、だから! 最初にそう言ったでしょう。けほっ、けほっ」
「すまんかった。ほれ、水だ。飲め飲め」
「ありがとうございます」
俺はエドワルドさんに礼を言いながら水を飲み、何とか喉の奥に広がった熱を冷やす。
だが、腹の辺りに落ちた熱は変わらずジクジクと妙な感覚を生み出しているし、喉の熱も変わらず俺を焼いているのだった。
何だか頭が少しクラクラする様な感覚もある。
「まぁ、初めてで倒れなかっただけマシだな」
「エドワルドさん。あんまり無茶をさせないで下さいよ。リョウ君が可哀想だ」
「何を言う! どうせ来年になれば例の魔物についての詳細が世界中に知れ渡るだろう。そうなれば討伐したまだ無名の新人に注目が当たる。そうなればどうなる?」
「きっと冒険者としては無名なだけで、別の場所で活躍していたのだろうと想像した人々がリョウさんを呼び、話を聞こうとするでしょうね」
「と、嬢ちゃんの言った通りな訳だ。そうなれば、その場所で酒を飲まなきゃいけなくなるだろうし、酔いつぶれたら、力を欲しがっている貴族の家に囲まれるぞ? 既成事実と共にな」
「……笑えない話ですね」
「ま、そういう事もあるって事だ。少しは鍛えておけ。リョウ」
「まぁ、分かりました。潰れない程度には鍛えておきます」
「よし」
よしじゃないと思いながらも、一応正論の部分も多かった為、俺は素直に頷いた。
そして、エドワルドさんの興味が俺からジーナちゃんへと移る。
「あー。それで、だ。そっちのお嬢ちゃんは何者だ?」
「私? 私はジーナちゃん! 魔法使いだよ」
「ま、ままま、魔法使い!?」
「ほー。魔法使いか。こりゃ懐かしい。久しぶりに見たな」
「落ち着いている場合ですか! エドワルドさん!」
「慌てても仕方ないだろう。慌てて何かが生まれるか?」
「それはそうですけど!」
「それに、もし敵対する意思があるのなら、こんな所で呑気に自己紹介なんてしないさ。そうだろ?」
「とーぜんだよ。攻撃するなら、上から大きな石を落として、家をぺっちゃんこにするね」
「な?」
「な? じゃないですよ。もう……!」
動揺しながら、ジーナちゃんとエドワルドさんを交互に見るルーカス様に、俺は色々な事情を話す事にした。
ちょうどいい機会だし。
計画した事では無いのだけれども。
「ちょっとジーナちゃんが話してしまったので、俺からも説明をさせて下さい」