挨拶の為にエルネスト家へ来た俺たちであったが、エドワルドさん、ルーカス様、ジーナちゃん、ミクちゃん、俺で話をしているタイミングに、ジーナちゃんが衝撃の発言をした為、俺がジーナちゃんについて話す事になった。
が、まぁ、正直そこまで話す話があるワケでは無いので……。
「俺もそんなに詳しくは無いんですけどね。ただ、一番最初に言っておきたいのは、ジーナちゃんは悪い子じゃないという話です」
「……」
「以前、セオストを新種の魔物が襲った時も、ジーナちゃんはセオストを守る為に最前線で俺と一緒に戦ってました。そして、今も俺の家で悪い事はせずにのんびり生きてます」
俺はエドワルドさんとルーカス様に頭を下げて、続く言葉を差し出す。
「魔女という方々に畏怖するお気持ちはわかります……が、どうか今ここで静かに暮らしているジーナちゃんを排除する様な事はしないでいただきたい」
「……ふむ。リョウ」
「はい」
「もし仮に、嬢ちゃんが暴れた場合、どうする?」
「その様な事は絶対にないと言い切れますが、もし暴れた場合は俺が止めますよ。そして一緒にセオストを出ます」
「なるほどな。そりゃ困る話だ」
「そうですか?」
「あぁ。困るな。なぁルーカス」
「えぇ、まぁ。そうですね。今の話では、おそらく我々がジーナさんと敵対した場合……」
「俺も出てゆきますよ」
「だろうな」
「でしょうねぇ」
俺の返答に、二人は苦笑しながら言葉を零した。
必要以上に自分を持ち上げる気は無いが、俺もセオストを守る戦力の一つとして期待されているという事だろう。
価値を示しておいて良かったと思う。
「という話になるのなら、しょうがない。お前の自由にしろ。としか俺たちは言えない訳だ」
「申し訳ございません」
「謝るな。子供一人受け入れる事が出来ず、セオストを追い出した。なんて話が広まる方が俺たちにとっては不利益だよ。ここは自由商業都市なんだからな。な。ルーカス」
「えぇ、まぁ。私もよく分かってますよ。エドワルドさん。人も物も、犯罪者でなければ誰でも受け入れる。それがセオストの理念ですからね」
「そういう訳だ。とりあえず嬢ちゃんが暴れるまでは安心していていいぞ」
「むー。ジーナちゃん暴れないもん」
「おー。そうか。ならその方がこっちも助かるぜ」
既に軽口をぶつけ始めたジーナちゃんとエドワルドさんを見ながら、俺はホッと息を零した。
そして、そんな俺をそのままに話はまた別方向へ流れてゆく。
「と、俺たちセオストは生きる災害ともいえる魔女の嬢ちゃんを受け入れる事は構わない訳だが、国連議会の方はどうなんだ? 災害対策局局長さんよ」
「私も皆さんと同じ意見ですよ」
「ほぅ。災害を見逃すのかい? 珍しいな」
「確かに彼女が災害を起こす未来が視えた場合、私も行動しますが……今の所、まだ無害な子供ですからね。子供に何かしようとは思いませんよ」
「はー? ジーナちゃんの方が年上なんだけど。おこちゃまに子供、なんて言われたくないね」
「……と、という訳、なので、私は静観しますよ」
「あれぇー? 反論できなくて、だんまりしちゃった! どうしたのかなぁー? あ! おこちゃまだから、どう言えば良いのか分からないのかぁー。なるほどなぁ」
「っ! ちょ、ちょっと、お庭をお借りしますね。エルネストさん。言葉遣いの出来ていない子供! に教育しなくては!」
「構わんが、ほどほどになー」
「えぇ。えぇ。分かっておりますとも」
怒りに震えるミクちゃんはジーナちゃんを引っ張って客間から出て行った。
そして、遠くでおそらくは戦闘の音だと思われる音が響き、二人が争っている事を知る。
が、まぁ二人とも加減は分かっているだろうし、家主も許可を出して居るし、で俺は何も気にしない事にするのだった。
「おぉ、そういえばお前に聞きたい事があるんだった。リョウ」
「はい? なんでしょうか」
「お前、結婚に興味は無いのか?」
「無くはないですけど、妹たちが自立してからですかね」
「そんな悠長な事を言っていると、時期を逃すぞ! 相手を探しながら、嬢ちゃんたちの面倒を見れば良いだろう」
「俺はそこまで器用じゃないですよ」
「それほど不器用にも見えんがな」
「出会いが無いものでして。冒険者の仕事も、個人で動いてますしね。たまに同じチームとして動く方々もいますが、広く浅くという様な付き合いですよ」
「ふむ。一理あるな」
エドワルドさんは少しばかり考える様な仕草をしてから、ルーカス様に視線を向ける。
「ルーカスは誰か良い子を知らんのか」
「うーん。そうですねぇ。ウチのシャーロットとかですかね」
「……お前、それは本気で言ってるのか?」
「当たり前じゃないですか。人を紹介するって時に冗談は言いませんよ」
「シャーロットはまだ子供だろう」
「無論今すぐという事じゃないですよ。将来的な話です」
「……リョウ」
「はい」
「お前、シャーロットに興味があるのか?」
エドワルドさんが俺を見ながら放った質問に、俺はどう答えれば良いか考え込んでしまった。
なんて微妙な質問をするんだ!
いや、シャーロットちゃんの父親であるルーカス様がこの場に居るのに、興味がないなんて言えるわけないだろ!
「……ま、まぁ? シャーロットちゃんは可愛い子ですからね、まったく興味が無いとは言いませんよ? ただ……」
「おまえ! まさか! ソラリアやレイシリアにも手を出そうとしているんじゃないだろうな」
「出すワケ無いでしょう!!」
「いーや。シャーロットに興味があるのなら、ソラリアやレイシリアにも興味がある筈だ。無いわけがない!!」
「そう言い切られても困るんですけど」
「思えばお前の家に集まっているのも、子供ばかり……! リョウ! お前!」
「嫌な所と結びつけないで下さい。俺は子供に手を出すような趣味はありませんよ!」
「しかし、先ほどシャーロットに興味があると言っていただろう」
「ある。とは言ってなかったでしょう! 無い事はない。です! それに、まだ彼女は子供だから未来の事は分からないですね。と続けようとしたんです! そしたら、エドワルドさんが暴走したんでしょう!」
「そうか。それはすまんかったな」
俺の言葉にエドワルドさんは落ち着きを取り戻し、半ば立ち上がっていた体を再び椅子に沈めた。
しかし、即座にハッとした顔で目を見開き、再び立ち上がる。
「という事はお前! ソラリアやレイシリアが成長した後を狙っているという事か!?」
「なんでそうなるんですか!?」
「お前が言っていたじゃないか」
「またこの流れですかっ!」
俺はなんて面倒な人間なんだと心の中で文句を叫び、表面は落ち着いて、あくまで冷静に話をする。
「良いですか? 俺は可能性を否定していないだけで、それを望んでいるというワケじゃないんですよ」
「ほー。じゃあ聞くが、お前が好意を抱いている相手はいないのか?」
なんて面倒な質問なんだと思いながら、俺は目の前にあった酒を飲み、ため息と共に吐き出した。
つい先日あった悲しい話を。
俺の未熟が生んだ悲劇を。
「……居ました」
「ほう。どこのどいつだ」
「冒険者組合の……受付の」
「あぁ、オリビアさんか」
「えぇ。その通りですよ。ルーカス様」
「しかし、オリビアは確かリカルドと良い仲だった筈だろう?」
「えぇ、だからフラれたんです!」
「なるほど。それは残念だったな。月並みな言葉だが、人間なんてその辺にいくらでもいる。オリビアはお前の運命じゃなかっただけの話さ」
「……まぁ、そうですね」
俺はエドワルドさんの励ましを聞きながら、しれっと聞いてしまった人の名を飲み込み、姿を思い出す。
冒険者組合の新人教育をしているリカルドさん。
俺が冒険者として登録する時に戦った人だ。
そうか。あの人が、オリビアさんの相手だったのか。
とても良い人だ。
気さくだし、いつも新人の冒険者を気にしているし。
確か、オリビアさんとも幼馴染なんて話を聞いたな。
そうか……とてもお似合いの二人じゃないか。
「……」
「まぁ、今日は飲め。飲んで忘れろ。それが一番だ」
「そう、ですね」
俺はコップを手に取り、それを飲み干すのだった。
蘇った悲しみと共に。