俺達冒険派遣業 ~黒いのは会社だけで充分だ~   作:八切武士

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 邪神殿に封印されていた死霊兵器からぎりぎり逃げ延びた九郎。
 しかし、彼が担いだ巫女、翠の魂を狙い比良坂を昇る黄泉醜女の如く死霊兵器が追いすがる。
 果たして派遣社員達に逆転の目はあるのか?


業務契約 12:~最後の一手~

 

 異常に曲がりくねった道をよたよたと走る。

 首の後ろに人間をのっけてる体勢じゃ、呼吸がままならないし、ついでに、引っ張りすぎて緩んだ翠の小袖が纏わりついて邪魔臭い。

 背後では戦闘の物音がずっと聞こえる。

 流石に引き離すのは無理だ。

 しかし、やたらと曲がりくねってるお陰で、図体のでかい武者像は小回りが効かずに、遅れを取っている。

 ありがたいが、生憎と、俺の体力の方が地上まで保ちそうにない。

 俺は、新しいマスクを買って金が余ったら、翠に何かダイエット……って言ったらひっぱたかれそうだから、フイットネスクラブの回数券でも買って、福引か何かで当たったって事で渡そうと思う。

 朦朧とした頭で考えていると、背後でひときわ大きな物音が二回、いや四回程して、がしゃがしゃと歩く音しか聞こえなくなった。

 どうなったのか、あんまり想像したくない。

 俺は今にも口から心臓が飛び出してきそうだったが、できる限り足を速めた。

 

(ちく、しょう……やばい)

 

 今は曲がり角でなんとかなってるが、この坂を出たら間違いなく追いつかれる。

 

(いや、扉、閉めれば……何とかなるか)

 

 あの魔法のかかった扉を閉めれば何とかなるかも知れないが。

 三衛門とフリードリヒがまだ中に居る。

 

 まだ生きているかどうか。

 

 しかし、手を打たなければ、全滅だ。

 俺は背後に重い物音を聞きながら坂をよろめき出てぶっ倒れ、受身を取れずに翠の胸をクッション代わりに使ってしまった。

 息が苦しすぎて、充分な衝撃吸収力を楽しんでる余裕もなく、むしろもがいて立ち上がる時に思いっきりお手つきまでしたが、感じたのは焦りだけだ。

 そこまでやっても、抗議の拳が飛んでこないという事はまだ目を醒ましていないのだろう。

 俺は翠の様子を見る間も惜しんで扉に飛びつき、重たい鉄扉を何とか閉じる。

 扉の黒い輝きが復活してほぼ間もなく、内側から扉が歪んだ。

 規則正しく、重々しい打撃。

 

「ばけもん、め……」

 

 どうやら長持ちしそうにない。

 俺は脚を引きずって翠の近くにしゃがみこみ、首筋に手を当てた。

 まだ、脈はちゃんとあるし、息もしている。

 気を失ってるだけだ。

 俺は呻きながら、もう一度翠を抱え上げ、扉から少しでも離れる為に歩き出した。

 生活区画を這う様に移動する。

 

(どうする?どうする……?)

 

 壁に寄りかかって、少しだけ息を整える。

 背後の乱打音に嫌な軋みが混じり始めた。

 

(逃げ切れんな、こりゃ)

 

 流石に暗澹たる気持ちに胃の引きつれを感じながら顔を上げた俺は、右前方に兵器庫の鉄扉を見る。

 

(そうだ、アレなら、絶対やれる……って、アレしかねぇ)

 

 俺は全力で通路を横切り、武器庫の中に入り込んだ。

 部屋の奥に翠を今度は丁重に下ろし、五七式電磁誘導架線加速長銃が入った箱にとびつく。

 

(畜生、がっちりやっちまったなぁ)

 

 箱には俺自身の手により鍵穴を潰した南京錠がくっついている。

 俺は自分の偏執的な警戒心を呪いながら、半べそかいて装具ベルトからミゼットカッターを引き抜いた。

 頑丈そうな心棒を力を込めて切断していく。

 ひいこら言いながら二箇所切断した所で何かガラスが割れ、放電する様な音が鳴り響いた。

 単なる棒になった心棒を引き抜いてケースを開け、ジェネレータのスイッチを入れる。

 頼もしい励起音がして、チャージメーターがちまちまと溜まって行く。

 俺がランドセルを担いで本体を取り上げていると、背後で小さなうめき声がした。

 

「ここ、どこ?」

「お目覚めか、きっつ、重かったぜ……」

 

 翠が頭を抑えて身じろぎしていた。

 眠り姫のお目覚めだ。

 

「下に居た武者像に追っかけられて、逃げてきた……銃も何にも、きかねぇ」

「他の二人は?」

「……分からん」

 

 翠が上半身を起こした時、洞窟を揺るがす破壊音が轟いた。

 

(黒い太陽の封印も大した事はねぇな……)

 

 レールガンのチャージはまだ半分程度しか済んでない。

 

「奴は、巫女が狙いだ……歩けるんなら、わりぃが、一人で外行ってくれ……」

 

 俺は深呼吸して武器庫の外に出る。

 

「……あんたはどうすんのよッ」

 

 よろめきながらついてくる翠に俺はレールガンを掲げた。

 

「一発……撃ちてぇ」

「あんた馬鹿、この銃キ○ガイ、馬鹿、ばっかじゃないの……馬鹿なの、死ぬの」

 

 いつも、不機嫌の混じった冷静さを保っている彼女にしては珍しく、混乱して、半分泣いている様な声。

 

(フリードリヒの奴が聞いてたら喜んだろうな……)

 

「かもな……もう、遅い」

 

 ぐねぐねに壊れた鉄扉を押しひしいで入ってくる武者像は傷だらけだったが、まだ五体満足だった。

 

「チャージ、おせッ」

 

 まだチャージは七分だ。

 本当に馬鹿の俺は死ぬ事になりそうだった。

 

 翠の祝詞の声が聞こえる。

 

 もう破魔矢は俺が通路にぶちまきながら逃げてきたので、照魔鏡しか残っていない筈だ。

 闇に激しい陽光の輝きが満ちたが、武者像は動じない。

 対抗策が施されているのか。

 

 チャージは8分ほど。

 

 奴が腕を振り上げた。

 こんな装備をつけていてはよけられるもんじゃない。

 

(しかし、これじゃ、巫女さんと心中したみたいな死に様だな……)

 

 走馬灯が浮かぶなんざ嘘だ。

 間抜けな考えしか浮かばんじゃないか。

 その時、坂の中から何かが喉から声を絞り出しながら飛び出してきた。

 武者像の背中に飛びつき、喉首を締め上げ、頭を捻じ曲げる。

 

 血まみれのフリードリヒだった。

 

 全身の力を込めた捻り上げは武者の首からみしみしと異音を生じさせ、無視できない痛痒を課す。

 更に震えるときの声を上げながら坂からよろめき出た三衛門が、右腕に握られた手斧で激しく膝を打ち据えた。

 左腕はぶらぶらになり、鎧はへこみ、全身朱に染まっている。

 ピッという素っ気無いビープ音が、俺には天使の口笛に聞こえた。

 

To Be Countinued...

 




 次回、最終回となります。
 思ったよりヤバい仕事に巻き込まれてしまった派遣社員達の運命は?

 次回、フリードリヒ死す!(?)
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