アイサツは大事。
別世界の古事記にもそう書いてある。
多分ビジネス書にもそう書いてある。
多分。
とりあえずクライアントの田沢さんの前でイロイロと取り繕う羽目になるのは回避された。
三衛門のおっさんが幾らつついても起きなかったので、バンの中に放置してきたからだ。
念の為、フリードリヒを番につけている。
しかし、次の問題は立会人だ。
浮動遺跡出現が疑われる様な案件には、行政、まぁ、警察かその天下り団体の遺跡調査影響度監査委員会の委員が俺達みたいな信用のおけないゴロツキ共が無茶なおいたをしでかさないか、調査の立会人としてついてくる。
仕事としては、遺跡の入り口で調査作業の書類をチェックして、調査の開始と終了、または調査中異常事態が生じた場合の書記官への連絡、後は、調査終了時に俺たちが遺跡からサルベージした戦利品の記録と保管庫への移送という所か。
しかし、たまに妙に熱心とか酔狂な奴は遺跡の中までついてこようとするから困る。
ずっと見ていられるのは居心地が悪いし、怪我でもされたら面倒だ。
ちなみに、遺跡、遺産の取り扱いに関する法律、手続きは殆どの国で同じだ。
公的機関が立会い、後に情報を宇宙軍に引渡し、宇宙軍がそれを監査する。
遺跡の除去、遺産技術の公開非公開決定権は宇宙軍にある。
遺跡の除去、破壊の通達が出ちゃったら、クライアントなみだ目。
戦利品の遺産技術が非公開になっちゃったら、俺達なみだ目。
遺跡の戦利品は宇宙軍関連の国際法にのっとり、普通の拾得物とは別枠で宇宙軍預かりとなるが、宇宙軍の拾得物処理課で一定期間情報公開された後(ま、長くて6ヶ月、短くて3日って所だ……普通は2週間位か)に遺跡の探索業者、すなわち俺達に直接下げ渡されるからだ。
ま、直接とは言っても、結局後藤のおっさんに渡す訳だが。
遺産の審査と所有者探しの告知、ついでに依頼者と雇用者との取り合い、それを全部クリアしなくちゃならないんだから、現在の冒険者なんて面倒くさいもんだ。
ハック&スラッシュだったっていう昔の冒険者が羨ましくなってくる。
拾ったもん、すぐさま総取りだからなぁ。
うらやましい限り。
今回の立会人は鼻が赤く酒焼けした人の良さそうな駐在さんだった。
後藤のおっさんから預かった調査作業許可書を渡すと、駐在さんはざっと目を通して判子をついてくれた。
「どうも」
「いやぁ、この辺で作物食われるは、そうそう、田沢さんとこの番犬居なくなるわで、猟友会も槍と銃磨いとったんですが、流石に遺跡となると入りたがる連中も居なくてですなぁ」
あっけらかんと笑う駐在さんに翠が微妙な顔をする。
確かにぽっと出のわけの分からん遺跡に踏み込もうなんて奴は俺たちみたいな業者か、リスクジャンキーな自殺志願者、非合法のトレジャーハンター、後は分別の無いド阿保位だろう。
さっき、タキオンバロメータで空間安定率をみてみたら20%以下だったから、ま、遺跡全体が突然消滅することも無いだろうが。
まぁ、局地的な安定率は違うだろうし、遺跡の安定率なんて割とコロコロ変わるもんだ。
遺跡の“時滑り”に巻き込まれて行方不明になる連中は毎年届出がある業者だけでも、50件は下らない。
どっか訳分からん国に再出現した遺跡から脱出できたり、数年後にタイムスリップ状態で出てくる連中も居るが、本当の本当に帰ってこない連中が多い。
そういう連中はどうなったのか?
わからん。
今の所、それが正答だ。
ま、スカイクリーナの暴走と共に、遺跡の浮動率が劇的に酷くなったのを根拠に広島とか長崎の市民と同じところに行ったのではという学者も居るが、眉唾なもんだ。
とりあえず、近代の記録には未来人が遺跡から出てきたって記録は無いので、過去へは移動できない様だが。
実際、空間の安定率が怪しくなると多く発散される怪しいわけ分からん粒子に“タキオン”なんて名前がつけられたのもそれにひっかけてあるらしい。
未来にしか飛ばない遺跡と未来に向けて流れる粒子。
科学って言うのも安直だ。
ま、ネーミングは兎も角、このタキオンバロメータって機械のおかげで俺達は割と逃げ時が分かる様になったんだから、民間へ安く供給する道筋をいち早くつけた宇宙軍に感謝すべきだろう。
今は、一般のご家庭向けに置き時計に仕込まれた商品がある位、一般的だからな。
勿論、俺達は一人1個以上は携帯してる。
命綱だ。
「まぁ、その為の業者ですから」
「いやいや、お願いしますわ……じゃ、今から県警に電話しますんで、ちゃっちゃーと、始めて下さって結構なんで」
駐在さんがパトカーの無線でしばし連絡を取りあう間に、俺達は装備の最終点検をする。
おれは腰に装着した装具ベルトにホルスターと道具が互いに干渉して音を立てない様に納まっているか確認し、たすきがけにした弾帯をぶらぶらしない様締め直す。
弾帯にはショットガンの弾がきっちり押し込まれている。
体の各所を覆ったしなやかな抗刃、抗弾プロテクターもしっかりと所定の位置にあった。
正直鳥熊みたいな大物相手には防御力に不安の残る代物だが、プレート入りのハードタイプは値段も高いし、重量も嵩む。
趣味じゃない。
どうせ殴られたら無傷じゃ済まないのだ。
他の連中も自分の装備をしっかりと点検している。
三衛門は古風な具足に身を固め、額には鉢金、腰の装具ベルトには斧、背のスリングホルスターに九十九式短小銃といったこしらえだ。
ちょっとした歩く歴史博物館である。
具足の端々にはアイヌの文様があしらわれており、本土から伝来した技術を取り入れ、三衛門のご先祖が打ったものらしい。
強靱化の魔力鍛造で打ち出されたそれは、俺のプロテクターなどより遥かに防御力は高いだろう。
らしい、様だばかりで済まないが、実際にあの鎧が大口径の拳銃弾を至近距離から弾いたところを見た事があるから、あながちウソって訳でもない。
翠の方はいつもの巫女装束の上に、鶴と亀が描かれた千早を着て、勾玉や管玉で飾られ、中央に照魔鏡が配された首飾りを下げ、背には破魔弓と破魔矢を担いでいる。
長い髪は白い和紙(奉書と言うらしい)でしっかり縛り、邪魔にならない様に纏めてあった。
やっぱ見た目はいいな、実にいい。
それだけなら凛々しい巫女さんで済むが、腰には俺達と似たり寄ったりの装具ベルトが巻かれている。
しかし、武器がぶら下がっている俺達に比べ、彼女の場合はベルトについているのは救急医療用品が主である。
世界の病院の多くは宗教団体によって運営されているか、直接運営はされていなくともそういった組織と仲良くしている。
治療魔法の使い手は普通宗教者なのだから、当然と言えば当然だ。
ま、俺は巫女ナース、シスターナース、イロイロ(怪我にそんな余裕があったら)選べるから結構お得じゃないかとは思うが。
翠も一応看護資格自体は何年か前に取得したらしい。
そんな資格持ってるんだったら、普通に教団の病院に勤めれば、こんな危なっかしい稼業で命を危険に晒すよりなんぼかましだと思うのだが……ま、人の事情に立ち入ってもしょうがない。
ちなみに、遺跡の中は治外法権だ、翠が医者しか処方できない薬をマニュアル診ながら処方しようと、緊急手術しようと、法律違反には問われない。
(おいおい……合法的に人切り刻みたいとかじゃ……ないよな……多分)
フリードリヒは大あくびしながらベルトを巻いている。
開襟シャツにブラックジーンズ、靴は一応ジャングルブーツだが……後は手袋してる程度。
相変わらず遺跡を舐めた格好だが、鎧を着ると肌でものを感じ取れなくなるとか、無茶な事を言って防具つけないんだからしょうがない。
ま、実際、あいつはDNAは人間でも、やっぱり人間じゃないから俺がどうこう言ったってしょうがない。
フリードリヒは奴の住んでる方ではベルセルカー、狂戦士、この国じゃ、鬼とか言われてた連中……強靭種の血を引く一人だ。
翠みたいな魔法技術的応種と同じく、DNAは人間と一緒だがイカレタ能力を発揮する。
ま、俺に言わせりゃこっちは野蛮人だがな。
生身で撃たれても、まだ戦えるってのは常軌を逸していると思う。
こいつら直接魔法も効かないし、鬼ってのも妙な連中だ。
ちなみに、回復魔法も効かない。
ま、アイツの回復力はゴキブリかプラナリアって感じだから必要ないだろう。
しかし……いつも思うのだが、この連中に混じっていると、俺一人で軍人みたいなかっこしてるのが馬鹿みたいに思えてくる。
気にしてもしょうがないんだが……
「よし、行こう」
俺が口にだして言うと、それぞればらばらに返答が返ってきた。
ここまではイヤになる程いつもどおりだった。
To Be Countinued...
「あの時は、あんな事になるなんて、誰も思わなかったんだ……」
なんて書くと、ホラー映画の冒頭みたいですが、まぁ、アクション映画かな?
何しろ殴る手段がありますので。