俺達冒険派遣業 ~黒いのは会社だけで充分だ~   作:八切武士

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 旧帝国軍(仮)の遺跡へ足を踏み入れた派遣社員一同。
 警戒しながら探索するが、人気はなく、まるでマリーセレスト号事件じみた現場に緊張を強いられる。(フリードリヒ除く)

 果たしてお宝発見なるか?


業務契約 6:~ダンジョンて言ったら、やっぱりお宝だよね~

 

「ボク、ワクワクしてきたーヨ」

 

 フリードリヒの奴は相変わらず能天気だが、ま、流石に俺も同感だ。

 この未知の何かと出会えるかもしれないという期待と緊張、背筋にゾクゾクとした感覚が走る。

 

「早く回って帰りましょ、ここも臭いし……ちょっと気味悪い」

 

 独りうんざりしている様子の翠に、俺は少し違和感を覚えた。

 前に組んだ時の感じだと、翠はうんざりといった態度の中にも、幾分か俺たちと似た様な何かを感じている感があったのだが。

 今日は妙にノリが悪い、というか、少し怖がっている様な響きがある。

 遺跡の雰囲気に簡単に呑まれる程には素人じゃ無い筈だが。

 

 しかしこの遺跡、見た感じ、木材もコンクリもさして風化していないが、拡張したと思わしき箇所は手掘りの鶴嘴と鑿の跡がついている。

 

「こりゃ大戦もんだな、全然機械を使ってねぇ……チッ、雑な掘り方しやがって、小鬼に掘らせやがったな」

 

 今日日穴掘りをしないドワーフは珍しくないが、三衛門は昔気質なドワーフで、大戦中は散々退避壕やら、地下通路だのをほじくったくちらしい。

 穴倉にかけては一家言ある。

 装具ベルトからピックハンマーを引き抜いてコンクリを打ち欠き、小片を口に放り込む。

 

「うぇ……」

 

 この手の奇行はいつもの事だが、翠はどうにも慣れないらしく、顔が引きつっている。

 ま、俺だって多分微妙な顔はしてると思う。

 

「どう、ミツエモン、おいしーね」

 

 喜んでるのはバカだけだ。

 

(つーか、飲み込みやがったこのおっさん)

 

 こんな事するからドワーフは石食って硬くなるとかいう都市伝説が無くならんのだ。

 

「まじぃ……ソーダが腐ってやがる、ここぁ間違いなく帝国の施設だぜ」

 

 三衛門のおっさんは大戦中に参加した戦闘の事は余り喋らない。

 いつも酔っ払ってくっちゃべるのは、どこそこの土はまずかった、あそこの島のトンネル掘りには骨を折った、最初の内は三度三度ちゃんと白い飯が食えただの、殆ど出稼ぎ労働者のノリだ。

 たまに戦闘の話をしたかと思うと、内容は三八式の長銃は長すぎてうざいだの、殺しと死体だけだ、つまらん、で終わる。

 まぁ、それはそれで納得できるのでいい、ぶっ放すのが好きなおかげでたまに誤解されるのだが、別に俺も殺し合いそのものが好きな訳じゃない。

 少なくとも話が長くて絡み酒な戦中派に比べれば、余程呑んでて楽しい相手である。

 今迄呑んだ相手だけの話だが、どうもドワーフっていうのは、戦闘をいさおしとして誇らしく語るか、楽しそうに愚痴るのだが、エルフっていう連中は、戦闘の個々の技術の評価に終始するか、厭世的に戦いの空しさを自戒だの説教する奴が多い。

 

 ま、そう考えると、三衛門は少し変化球なタイプか。

 

 しかし、日本が帝国名乗ってバチバチ戦り合ってた頃の施設となると、何か遺産技術が残されているかもしれない。

 うまく回収できればいい金になるかも。

 

 ま、それもヤバ過ぎて宇宙軍に吹っ飛ばして貰う羽目にならなければだが。

 

 当面の問題は遺跡の中に残っていて、まだ英霊のお仲間入りされてらっしゃらなかったりする旧帝国軍人の方々だ。

 説得して新しき未来の門を受け容れて頂ければ良し、そうならなければ少々厄介な事になってくる。

 基本向こうが先に撃ってこれば正当防衛で終わるが、寝覚めが悪いし、何より、ガチで殺し合いをしていた世代の彼等が持ち出してくる兵装によっては俺達だけで対応可能なのかが問題になってくる。

 

 大体、単なる小銃弾でも最初の一発がいいとこ当たったらそれで終わりだ。

 

 ほんと、俺もよくこんな商売を好き好んでやってると思う。

 

(そんなもんが絶対居るって訳でもないさ……)

 

 どうも遺跡自体とそれに伴う小物の消失、出現にはズレがあるらしく、その小物が生き物となると更にそれが激しくなる。

 遺跡が旧帝国軍のものだからと言って、そのゆかりの者が必ずセットとは限らないって事だ。

 かと言って、一人の帝国軍人の代わりに猛り狂った穴居人が2ダース位湧いている可能性もあるので、安心できる訳ではない。

 

 浮動遺産の中では確かな事等、何一つ無かった。

 

 しかし、この遺跡、手掘りでも結構広く空間が掘られている。

 三衛門はいい加減な掘り方と言っていたが、床はきちんと平らに均(なら)されているし、壁の補強もしっかりしていて、崩れてくる心配は無さそうだ。

 ここは湿っぽくて何処と無くかび臭いが、幸い、さっきまで居た場所に比べれば臭気はどうと言う事も無い。

 集中できそうだ。

 広い通路の左右には部屋の様な空間が幾つかある。

 斧を抜いた三衛門とフリードリヒが先行し、一つ一つ空間をクリアリングしていく。

 ドアがつけられている部屋は少ない。

 手前左の部屋はどうやら通信室らしく、木製の机に古めかしい通信機が設置されている。

 通信機自体は大戦時代に使用されていた有線型のモデルだ。

 床に通信魔法用の祭壇も置かれている。

 通信文書を浮かべる水桶の中には半分程の水が残っており、積まれた半紙に黄ばみは無い。

 

「この遺跡、まだ大して時間が経ってないな……」

「少なくとも年単位は無さそう……月、数週間位かな」

 

 机の表面をなぞった翠の指にはうっすらと埃がついているが、机に埃のカーペットが生成されるにはまだ程遠い。

 まだ、せいぜい見えにくい筋が引かれる程度。

 ここを掃除するものがいなくなってからしばし、遺跡は何処を漂っていたのか、守人達は何処へ行ったのか。

 

(あるいはまだどっかに居るのか……)

 

 知りたくてたまらない。

 はやる心を抑えつつ、俺は次の部屋へ移動する。

 通信室の向かいは食堂だった。

 簡素な木目そのままの食卓が二台、片方のテーブルには三人分の食事がのっている。

 かさかさに乾いた飯、味噌が沈殿した汁物、縮んだ漬物、多分何らかの野菜の煮物だったもの。

 既に腐敗臭がしない程乾燥している。

 

「数ヶ月の方っぽいな」

「ま、確かに誰も居ないんなら、そっちの方が楽でいいけど」

 

 翠の台詞は確かに正論なのだが、それでは何かが足りないと思ってしまう俺はまだこの稼業じゃ、素人の域を抜けらないままという事か。

 

「油断すんじゃネェ、旧軍の遺跡なんざ、肥溜め並にくそったれな遺産まみれだって事を忘れてっと、五体満足じゃ帰れん」

 

 酒臭い三衛門の声は潰れ、しわがれている。

 普通の遺跡で三衛門がここまで緊張を露にしているのは見た事が無い。

 戦中派のトラウマと斬って棄てるのは簡単だが、聞きかじりの知識の万分の一でも事実だとしたら。

 

(死にたくなきゃ、俺も気を引き締めていかないとな)

 

 次は一つ奥、左手の部屋を改める。

 その部屋は丈夫そうなドアに簡単な南京錠がついていた。

 

(外開きか)

 

 一応扉に警報や罠の類が無いかを確認する。

 普通の生活スペースにそんなものをつけるイカれた輩は少ないが、ここは遺跡でしかも旧軍の施設だ、用心に越した事は無い。

 目に見えて分かるものは無し。

 

(中から音はしない……)

 

 この程度の錠前、まともなピッキングツールが使えるならトイレの鍵を開け閉めする位簡単にやれる。

 俺は軽くテープで錠前本体を扉に固定し、軽くいじる。

 すぐにバネ仕掛け鉄棒が軽い音を立ててずれたのを確認し、そっと外す。

 

(ま、そりゃ仕掛けなんてないか)

 

 扉を開けると、中から黴臭くていがらっぽい腐敗臭が流れ出てきた。

 逆の脇から中を探ってみると、見つかったのは米の袋、乾燥林檎の詰まった樽、サツマイモ、みかんの缶詰、どれも食料品ばかりだ。

 ネズミに一部やられているが、保存食ならまだまだいけそうだ……自分で試してみる気にはなれないが。

 

「ん、けっこう美味し~ね、ボク、リンゴ大好き」

 

 俺が試す迄も無かった様だ。

 

(この変態胃袋め)

 

 思わず口まで出かかったが、カビを口に入れてまで口に出す事でもないので黙っておく。

 食料庫の向かいの扉は他と違い強固な鉄扉がつけられ、食料庫のちゃちな奴とはモノが違う南京錠が太い鉄閂、というかボルトロックをとめていた。

 

「おお~、お宝の臭い、プンプン~です」

 

 全くだ、しかし、やばさも同じ位である。

 大体、開けるのはいつも俺なのだ。

 慎重に調べる。

 

(ここも、外から見る限り、機械的な罠は無い……見えにくい所、閂の裏だのにマジックシンボルだのも書き込まれて……ないな)

 

 俺はベルトに通したダクトテープを又びびびと引き出して錠前を固定し、ピッキングツールを引っ張り出す。

 ま、一分はかからなかった。

 カチと音を立てて横棒がリリースされ、錠前の右から突き出る。

 元々、無人状態で放置する事を考えてつけた鍵でもないのだろう。

 保安上の措置という奴だ。

 特に見えないスリットから針だの刃だのが出て、盗人に毒を注入しようという気配は無いし、レリーフの毒蛇が実体化して噛み付いてきたりもしない。

 いや、そんなレリーフは元から付いてないけども。

 

(ま、それが普通だよな……)

 

 しかし油断してると、時たま本当に冗談みたいな仕掛けにぶち当たる。

 極限状態に陥っていた施設だったり、後から遺跡に湧いて出た誰かが仕掛けたり、あるいは経年劣化が妙な罠を熟成してたりする事もあったり……廃墟探索というのは気苦労が絶えない。

 正直、鍵にいちいちこんなちまちました事をするんなら、C4辺りをほんの少量盛ってぶっ飛ばしたくもなるが、生憎とまだ危険物取り扱いの資格を俺は持ってなかった。

 指とか目とか、あと、命とか失くしたくなければセコくセコく立ち回る事だ。

 テープを剥がして錠前を取り除き、閂と取っ手それぞれに紐を固定して少し離れる。

 何も言わない内に他の連中はかなり遠くに避難してやがったので、俺は気兼ねなく紐を引いた。

 閂はゆっくりと動き、外れた。

 

 何も起きない。

 

 場所を変えて取っ手を試すと、かなりきつい手ごたえと軋みを放出しながら扉が開かれる。

 食料庫に較べればどうと言う事も無い空気、特に中から鬼だの邪だのは出てこない。

 

「中にはな~にも居なーいネ」

 

 いち早く中を確認したフリードリヒの能天気な声を聞いて中を覗くと、整然と整えられた室内には、木製の銃架、木箱、金属コンテナ等がしまわれている。

 

 当たり、お宝だ。

 

To Be Countinued...

 




 洋画でフリー素材扱いされるドイツ軍よろしく、日本の心霊系番組でフリー素材扱いされる旧帝国軍の遺跡(遺構?)探索となります。
 防空壕へつながる様に出現した旧軍の遺跡……因縁めいたものを感じますが、何が出ます事やら。
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