俺達冒険派遣業 ~黒いのは会社だけで充分だ~   作:八切武士

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 勝てば官軍、負ければ賊軍。
 敗軍の末路とは全く悲しいもので……

 ファンタジーぽく、魔法と邪教の臭いがしてまいります。


業務契約 8:~黒い太陽~

 

 手が震えていた。

 俺が三衛門の手から書類を引き抜いて目を通そうとした時、背後で鋭い怒りの声が上がり、何かが砕ける音が響く。

 

(おいおい、今度は何だよ……)

 

 振り返ると、隅の急ごしらえの衣装棚が置かれている辺りに立っていた翠が、鬼女の形相で地面を踏みにじっている。

 

「おわぁ」

 

 余りの形相に目を下に逸らすと、地面に管玉と勾玉、そして黒曜石の欠片が飛び散っているのに気が付いた。

 どうやら、組み合わせると翠が胸にぶら下げている小型の照魔鏡と似た様なものが出来そうだ。

 

「こ、コワイネ……ミドーリ、君にそんな顔は似合わなーいね、さぁ、ボクに笑顔を見せてクダサーイ」

 

 フリードリヒの発言は俺の頭痛を酷くしたが、少なくとも翠の注意をひきつけるのには役に立った。

 翠が放つデスレイ並の視線に、フリードリヒがマジびびりしているのを尻目に、俺は軽く咳払いする。

 

「げほ、えーと、一体どうしたんだ?二人ともおかしいぞ」

 

 三衛門ぐいぐいとウィスキーを空にするのが忙しい様なので、俺は翠に目を向けて問いかけてみた。

 

「ここに居たのよ……黒い太陽、あいつ等がね」

 

(黒い太陽、邪な外道神道、黒神道か?)

 

 黒い太陽は、翠達が信仰している大体真っ当な神道とは異なる、道に外れた信仰、外道の宗教として黒神道と呼ばれる特に悪名高い宗派の一つである。

 何しろ宗教に疎い俺でさえ心得てる位だから相当なもんだ。

 

 何故格別に悪名高いのか。

 

 黒い太陽の連中は、戦時中、どうやったのか軍部の一部に潜り込み、連中の黒い信仰の力を戦力として利用する為の研究を行なっていたのが大きい。

 黄泉の黒き太陽を信仰する奴等の力は特にアンデッドを作る技に優れていた。

 死んでも生き返る兵士、砕け散るまで戦いを止めない兵士。

 

 使い所は十分にある。

 

 実際、戦時中それなりの戦果をあげていた報告があり、敗戦した後は大日本帝国が行なった悪行の一つとして、世界中から激しい糾弾を受ける原因となった。

 後世の検証じゃ、軍神さまの内幾人かはリッチだのヴァンパイアだのの上級アンデッドだったらしいなんて話もある。

 兵隊にアンデッドを使うなんて、別に新しい発想じゃないが、曲がりなりにも近代国家が後ろ盾になっていたというのは激しく問題……であるらしい。

 殊に黒魔術の技術研鑽部隊として組織されていた731部隊は広く報道され、そのまんまの黒い太陽って名前の映画が作られ、世界中に日本の悪行というものを宣伝していた。

 

 ちなみに、731部隊については、黒魔術に対しての対抗技術研鑽が主であり、実際にヤバイ事をしていた部隊は別にあったという説の方が今は主流だ。

 そちらの部隊については厳重に秘匿され、戦後は人員と資料ごと連合軍に根こそぎ持って行かれたとか、抹消されたとか……

 

 俺は学校の道徳の時間に見せられたが、正直子供に見せるもんじゃない……後で調べても事の真偽はよく分からなかったが、あの映画で解剖されてる子供の死体が映画の為に用意された本物だって話が出てきてまたぞろ気持ち悪くなったもんだ。

 どんな崇高な意思でおつくりになったか知らないが、子供の死体を見せもんにする必要があったのか……見た方はたまったもんじゃないぜ、って、ま、怒るならそんなもん受け持ちの生徒に見せた先公に怒るべきか。

 と、まぁ……とりあえず、原因が分かってみれば翠がマジギレしてる理由は簡単だ、黒い太陽が信仰してるのは日輪にとぐろ巻く黒き蛇、黄泉路照らす太陽、天照大神信仰の悪趣味なカリカチュアだ。

 確か天照大神を祀っている系列じゃ、あの信仰自体が死霊術士達の妄想から生まれたまがい物であり、神格として認めていない。

 いや、認めていない所か、信徒は入信した時から不倶戴天の敵として繰り返し、繰り返し教育されている。

 真面目に教育を受けている敬虔な信者であればある程、憎悪の様な感情すら形成されているだろう。

 

(しっかし、キレ過ぎだろ、昔なんかあったのか)

 

 正直無信心な俺にしてみれば、ちっと退くものがある。

 それにしても、三衛門の様子も尋常では無い。

 

(まさか、このおっさん、関係者だったんじゃないだろうな……)

 

 三衛門は戦中派だ。

 軍人なんてのは上から命令されりゃ、どんな任務だろうとやらなきゃならない。

 可能性はあるだろう、が、しかし。

 

(マジだったら、翠とおっさんの間で血を見るな……勘弁してくれ)

 

 正直、おっさんを射的の的にした挙句、怒り狂ったネコの様に掴みかかる彼女の姿が目に浮かんでしょうがない。

 間違いなくやるぞ、この女。

 俺は三衛門が見ていた書類に目を落とした。

 

(……志願素体、全身満足たる者4体、欠損有りたる者8体、5番、左脚欠損、6番、内臓器に破裂、病巣に侵されたるものあり)

 

「ふぅ」

「どしたねクロウ、元気ないネ~、疲れたか、ボクは元気一杯ヨ」

 

 そりゃそうだろう、強靭種が並の人間より先にへたばったなんてきいた事が無い。

 

(……名を書く事叶わぬことくちおしけれども、いずれも、死してなお護国の鬼たらんとす勇兵なり)

 

 胃が痛くて、ちょっとばかり胸焼けがしてきた。

 

「はぁ、いや、別に、とりあえず、この先を調べてやばそうだったら、さっさとものを引き上げて外の警官に通報しよう、戦利品はしばらく換金できないかも知れないけど、あのカルトが絡んでちゃ、零細派遣業にゃ荷が重い」

「神宮にも連絡するからね」

「そっちは任せるさ……」

 

 さっきよりは少し落ち着いた声で宣言する翠に俺は肩をすくめる。

 多分、天照大神系列の総本社、伊勢神宮の事だろう。

 餅は餅屋、あっちで引き受けてくれるならその方がいい。

 俺は書類をたたみ、ポーチにつっこんだ。

 

 

 もう一つ奥にある左右の部屋は研究者の居室らしく、白衣と書類が多かった。

 ついでに宝飾品のケースに入った黒い照魔鏡が又1つ出てきたが、今度は翠も叩き壊さず、黙って俺に渡してくる。

 証拠品として持って行きたいが自分じゃ持ちたくないらしい。

 適当にベルトに装備したポーチにそれを突っ込んでおいた。

 あまり気色のいいもんじゃないが、ま、いいだろう。

 研究者の部屋の次はどんづまりになっており、でっかい観音開きの鉄扉が閉じていた。

 

「うへ」

「きもちわる~いね」

「ック、ウィ~」

 

 鉄扉の中央には左右の扉にまたがって巨大な黒い太陽がぎらぎらと禍々しい輝やきを発し、下方では黄泉醜女(よもつしこめ)と黄泉軍(よもついくさ)が平伏している。

 黒い輝きをいうのを想像するのは難しいが、実際に見てみるとそうなんだから仕方が無い。

 

「死人を威伏する呪法……下に居るわよ、間違いなく」

 

 一旦くたばった奴等なんて嫌いだ。

 奴等に銃火器の効きがいまいちだし。

 大体、臭くて汚い。

 

「一旦引き上げるか?」

 

 俺が言いかけた時、三衛門が黙って扉を引き開けていた。

 ドワーフの体重と腕力にあっさり屈した扉は音も無く開き、半分に割られた太陽から黒いものが消える。

 

「俺ぁ、いくぜ……確かめておきてえ事があるからな……無理についてくんじゃねぇ」

 

 ヨタヨタと俺にまで分かる瘴気の中、扉の向こうの下り坂に足を踏み入れる三衛門の背を見て、正直迷う。

 しかし。

 

「何ぼーっとしてるね、クロウ、おいてっちゃーうヨ」

 

 頭の上で腕を組んだフリードリヒが三衛門の後をちょろちょろと追い、翠まで毅然とした足取りでその後に続いていた。

 やれやれ、これじゃ、又俺が馬鹿みたいだな。

 俺はため息をついて先行した3人の後を追った。

 先頭に回り、念の為に愛用のベレッタを片方、銀の弾頭をフルロードした弾倉にチェンジしておく。

 少々割高だが……まぁ、保険だ。

 

To Be Countinued...

 

 




 さて、更にきな臭くなってまいりました。
 派遣社員達の明日はどっちだ?
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