仮面ライダー555 パラダイス・エンディング 作:明日葉のキッシュ
…ほんとに短いな。
ある青年がいた。
名前は窓位純喜。
彼には夢がなかった。
いや、厳密にはあったのだが、今その夢は彼の心の片隅で、消えてゆくのを待っていた。
今日も今日とて彼は、コンビニのバイトに黙々と向き合い、自宅に帰る途中であった。
ひとつ、またひとつと足を前に出すたび、速度が遅くなる。
将来への不安。
夢がないことへの不安。
前方の道を照らしてくれる光がないのだ。
キィーーーーッ!
その不安は、近くで発された耳をつんざく音にさえ気づかせなかった。
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同時期、西洋洗濯舗 菊池━━
「たっくんと真理さんって、結婚式とかあげないんですか?」
大学生くらいか、それより少し上くらいに見える青年がそう言う。
「「は?」」
『たっくん』と『真理さん』と呼ばれた2人、青年より10何歳は年上であろう男女は、突然の言葉に驚いていた。
「いやいやいや、なんで私が巧と…」
「なんで俺が真理と…」
2人とも口では否定しているものの、特に真理の方は顔が赤い。
「だって、去年のゴタゴタの後から露骨にイチャイチャしてるし、年齢的にも、そういうの考えたっておかしくない時期じゃないですか?」
巧と真理は2人とも、世間的にはアラサーと呼ばれる年齢。
むしろ結婚しようと言うには少し遅いくらいだ。
「いや、でも、もう私なんてあと3年もしたら40になるし…ウェディングドレスとかももう…巧だってタキシードとかはもう…」
「おい」
実際のところ、巧と真理は事実婚のような関係になっていた。
数年の失踪期間こそあれど、十数年の付き合いなのだから、おかしいということもないだろう。
「とにかく、今度そういうの見に行ってみましょうよ!」
「おい待て条太郎、なんでお前がついてくるんだ?」
「だって2人だけで行ったら、絶対歳から遠慮して妥協する気がして…」
2人とも、それは図星であった。
結婚式をしたくないわけじゃない。
真理に関してはそう言うのに憧れた時期も確かにあるわけだが、その頃との歳の差が遠慮を招いていた。
「…どうです?2人の結婚式なんて聞いたら、啓太郎おじさんすっ飛んで帰ってきますよ!」
条太郎の叔父、この店の店長であり、今は海外にいる男、菊池啓太郎。
20年前は啓太郎、巧、真理、そしてもう1人を足した4人で店を切り盛りしていた。
なぜ海外にいるのかといえば、彼の夢、『世界中の洗濯物を真っ白にする』ことのためであり、菊池の海外支店はそれなりにうまく行っているらしい。
2人としても、テレビ電話越しを除くと10年近く啓太郎とは会えていない。
「まぁ、確かにそうね」
決してそのために結婚式をする、というわけではないが、年齢という壁を越える踏み台にはなった。
巧と真理はお互い目配せをし、何かを決断したような顔をして。
「じゃ、じゃあ、結婚するか」
「そ、そうだね!」
2人とも顔が真っ赤であり、条太郎はニヤニヤしながらそれを見ている。
いつもはもう少しおとなしい条太郎なのだが、どうもこういう話になるとテンションが上がるらしい。
「よーし、じゃあ2人の結婚式大作戦!ファイトーおー!」
「「お、おー!」」
かくして、2人の結婚式の計画が始まったのである。
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そしてまた同時期、西洋洗濯舗菊池2号店…ではなくラーメン店中花━━
「よし、じゃあ今日は店じまいだ。明日の仕込みは俺がやっとくから帰っていいぞ〜」
「はーい!お疲れ様です!」
このラーメン店の店長、海堂直也。
そしてその店員、ケイ。
外はまだ昼過ぎくらいの時間だが、店先の暖簾はもうしまわれている。
「そういえば、なんで今日早仕舞いなんですか?」
「え?あぁ、ちょっと個人的な用事があってだな…」
海堂はどこか遠慮気味というか、あまり話したくないといった感じだった。
ケイはそれを見てさらに気になったのだが、一応社会人という区分に自分が存在する以上、深掘りは失礼だろうと自分を諌めた。
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店から車で10分ほどのところにある墓地。
海堂はそこにある、2つの墓石の前に立っていた。
右手には紫と白の花が数本、もう一方にはバケツと柄杓をかかえていた。
「………」
静かに墓前に立つ海堂。
本来海堂直也という人間は、もっと明るいというか、もっと言えば気の向くままに動くお天気屋だ。
40を過ぎ、そこら辺も20年前よりかは落ち着いた気もするが、流石に今ほどにはなっていない。
「………」ソソクサ
やっと動き出し、持っていた花を飾り、バケツの水を墓石にかけ磨き、ポケットに入れていた線香も火をつけて置いた。
すっかり手入れされた2つの墓石、誰の墓なのか。
「…木場、結花」
木場勇治と、長田結花。
彼らは海堂にとっては仲間、もしくは家族ともいえた存在であった。
かつて3人でひとつ屋根の下で暮らした思い出が、否応にも脳裏に浮かぶ。
「これでお前らの灰もあったら完璧だったんだけどなぁ」
このお墓は数年前、店の経営が安定してきた頃作ったものだ。
去年スマートブレインに殺されたヒサオとコウタの墓も、近々作ってやるつもりでいる。
墓石には、『木場勇治』と、『長田結花』と彫られている。
本来なら墓石には『〇〇家の墓』と彫るのが一般的なのだろうが、2人の境遇を聞くと、とても木場家や長田家とは彫れなかった。
そして2人ももちろん、海堂と同じオルフェノク。
亡くなっているという事は、骨も残らず灰となって消えた。
しかし海堂は2人の亡骸、灰を埋めてやる事はできなかった。
木場の灰は乾が彼ごとオルフェノクの王を倒した時に散り散りになってしまい、結花に関してはそもそもどこで死んだのかすら知らない。
「はぁ…」
歳を重ね性格が丸くなるたびに、後悔の角は鋭くなっていく。
あの時木場とちゃんと話せていれば。
結花の気持ちを真摯に受け止めていれば。
せめて、2人の最期をしっかり看取ることができていれば。
後悔の念は尽きる様子がなかった。
「……帰るか」
とぼとぼと墓地をあとにし、明日の仕込みをしに店へ帰る。
その背中はどこか寂しさと悲しさを抱えていた。
ひとつは未来への絶望を抱え、ひとつは現在への希望を抱え、ひとつは過去への後悔を抱えている。
この3つの運命が、あるきっかけで複雑に絡み合うことを、まだ誰もわかっていなかった。