辺境伯は狙われている   作:彼岸花

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毎週投稿、ギリギリセーフってことにならない?


身内の情は案外ぞんざい

「…………」

「…………」

「…………………………」

「…………………………」

「………………………………遠い!!!」

「距離ばかりは仕方ありませんよ。」

 

アマツカゼ領から出て十日ほど。

グランマリスの北の果て、もう一つの辺境領。

 

北方戦役の最前線たる領地は、当然ながら相応に遠い。

アマツカゼ領から王都までなら三日と少しで着くが、そこから北へ更に数日。

果てなき道を延々と進んでいく。

また、単純な距離以上に問題となるのは間に幾つもの領地を挟むことである。

極めて弱小の領主騎士から、爵位を持つそれなりの領主まで。

王女たるアンジェがそれを通過するとなれば、一応は挨拶をせねばならぬ。

未来の王を素通りさせたとあれば彼女らのメンツに関わるからだ。

 

貴族社会とはメンツと意地でその大半が成り立っている。

見栄も張れぬなら貴人足りえない。

そしてまぁ、そう。

見栄である。

だからやたらと煌びやかで、長ったらしい。

あくまで『殿下の急なご来訪故質素にはなりますが……』と前置きしているが。

『本来私の力はもっと大きいですよ』と言葉にしているようなモノだ。

尤も、それらに疎い私でさえ分かる。

殿下もそれは把握しておられるだろうし、領主達も折り込み済であろう。

……それにしても本当に長く時間を取られた。

アマツカゼ領に戻れるのは一体いつになるだろうか……

 

当の北方戦役に向け、テレジアの速成教育もちゃくちゃくと進んではいる。

私と試合えば十中十で敗北こそするが、数回は瞬殺を免れている。

これまで我流であった剣に確かな武を当て嵌めていくのだ。

異様な成長も納得である。

師母に曰く、遠からず遠征隊に混ぜても問題ないと。

サンバルドへの出向に際して最も有意義な拾い物であった。

 

現実逃避もつかの間、漸く辺境領の街が見えてくる。

極東式の建築を基調とした我が館と違い、防塁や城下と一体化した城。

更なる向こうに北壁を臨む戦いの為の城である。

仮に北壁が陥落したその時に、最期の一兵まで抗う為の構造。

彼の地の民にとって、蛮族どもは身近な脅威だからこそ死力を尽くす。

勇敢な兵によって北方戦線は支えられていると言っても過言ではない。

 

平積みの城壁の出入口、唯一分厚い木で作られた城門の前に女が一人。

恵体である。

アンジェやラインハルトには叶わずとも、リズベットと同等程度には。

荘厳である。

少なくとも見てくれには完全武装の厳しい女騎士であった。

美麗である。

美の女神を縊り殺し、その美しさを簒奪したなどと嘯くその美貌。

 

ジクリド辺境領伯であり、我らの同期。

一つ歳下の(アンジェからは二つ下か)友人であった。

 

「……久しいな、友よ。」

「ああ、待っていたぞアンジェ!マサムネ!」

「本当に久しいな、二年振りか?」

「私としてはもっと気軽に遊びに来て欲しいんだがなぁ……」

 

三者一様にニヤリと笑うと、拳を突き合わせる。

 

「改めてになるが、ジクリド伯ノレア。二人を心から歓迎する。」

「おう、今回も我が優秀なる第二王女が策を授けて下さる。神妙に拝領せよ。」

「お前そんなキャラか?」

「ふざけてるだけだ……ほらノレア、お前の為にわざわざ箱で持ってきたぞ。」

 

そう言って私は木箱を投げ渡す。

大きさはそれなりだが、中身が中身故実に軽い。

苦もなく受け止めたノレアは一瞬硬直した後、何かに気付いたように急ぎ外装をひっぺがす。

 

「マジか……こりゃ……」

「お前の好きなヤツだ、私にはどうも何が良いんだか知らんがね。」

 

小さめの箱にびっしりと、余すことなく詰められたのは異国の煙草箱。

国内唯一の貿易港たるアマツカゼでしか得られぬ嗜好品であった。

 

「ちょ、ちょっと待てよ……へへ、マサムネ火ぃ頼む。」

 

彼女は手早く封を切り、そのうち一本を咥えると自らの剣を寄せて火をせがむ。

その間にも僅かに隙間の空いた煙草の箱に鼻先を突っ込んで香りを楽しんでいた。

 

「酷い絵面だな……動くなよ。」

「分かってる、早くしてくれ。」

 

刹那、腰に差した打刀を一閃。

剛力による不条理な速度で振られた刀身は、ノレアの手前で剣を掠めて通過。

掠めた一瞬、金と金が擦れ合う負荷で火花が散り、見事煙草に適切な火を灯す。

 

「ん………………あぁぁ〜〜〜〜〜」

「ひでぇツラだ。」

「ずっと切らしてたんだ、許してくれ。」

 

スパーと煙を吐きながら満面の笑みを浮かべる友人。

煙無き日々が相当なストレスだったのだろう。

瞬く間に顔色が鮮やかになり、肌の色艶さえ増したように見える。

 

「一度は禁煙出来てたのに、またヤニカスに逆戻りか。」

「人生は酒と煙草、そして可愛い娘がありゃ勝てる。」

「そういや娘はもう五つか……早いモンだ。」

「お前が急に孕んだ時はまぁー学内が荒れたからな。前代未聞だろ。」

「いやまさか、適当に買った種が当たるとは思わなくて……」

 

今から六年と少し前。

一般兵ならばその期間は一年足らず、しかし騎士である我々は成人まで教育を受け続ける。

騎士たる武は勿論、為政者としての知識、戦場で戦友を失わぬ為の応急処置……

今の私はこんなだが、一応私も一通りの事は習っている。

 

私らの世代が十五の成人を迎え、もうじき卒業といった頃……

 


 

「やべ、多分出来たわ。」

「何がだ?」

「……子供。」

 


 

 

 

学内は騒然、前代未聞のカミングアウトに阿鼻叫喚の大騒ぎとなった。

 

「何食わぬ顔でしれっと言うやつがあるか?」

「未確定だったし……いや、本当に当たってたんだけどさ。」

「しかも私に言うカタチだったせいで本当に酷かったぞ……時と場所ってのがあるだろう。」

 

いや、本当に酷かった。

当たり前といえば当たり前なのだが……

学内に男は私しか居ないのでさもありならん。

 

「当然疑念を向けられ、錯乱したアンジェがメイスを振り回し……」

「……その時は本当にすまなかった……言葉もない……」

 

私の目でさえ追えぬ早業で頭をカチ割った後にその凶刃……

凶槌?はノレアの方へと向く。

頭から噴水が如く血を吹き出しながら私がアンジェを取り押さえ、それぞれ肋と腕を折られながらラインハルトとリズベットが足を拘束。獲物を絞殺する蛇が如く万力の力でアンジェを絞め落とした。

 

「生まれて来た子が黒髪や緑眼じゃなくて良かったが。」

「疑いは一発で晴れたからな。」

 

極東人の血とこの大陸人の混血は、容姿でそれぞれの特徴が混合する。

そんな中、この黒髪ばかりは実に強く引き継がれるのだ。

遺伝の妙というか……私やモミジなどは、瞳の色でアマツカゼや極東の民に多く見られる黒眼は持たぬ。

代わりにグランマリス王家、それと近い血である証の緑眼を父から継いだ。

まぁ私などは、特に鮮やかな翠を持つクラウディア殿下と比較したら酷いのだが。

かの姫の瞳は透き通った翠玉の如く。

また、アンジェや我が妹らの瞳も深く美しい翡翠の輝き。

私は……そうだな、朽ち行く緑青というのが一番近いだろうか。

 

「仮に生まれたのが黒髪緑眼なら……そうだな、卿に責任を取って貰っただろうな。」

「事実無根だ、勘弁してくれ……」

「冗談だ、変な事を言って悪かった。だからそのメイスを下ろせ殿下。貴殿らと違い私はただの人間だ。」

「口は災いの元、我が郷里の言葉だ。」

「あ、特に助けてはくれないんだな友よ。」

 

振り下ろされんとする戦槌を必死に諸手で押しとどめる友人は実に滑稽である。

もう少しこのまま見てるのも良いか。

 

権力者とはサディストである。

アマツカゼ領などは比較的、市井と近しい感性と暮らしをしてこそいるが。

民から搾取し、虐げる。

サディズムの才覚は、支配者に欠かせぬモノである。

戦人にも強烈なサディズムとマゾヒスティックは欠かせぬモノ。

 

辺境伯であり、国随一の強者たるマサムネもその例に漏れず。

マサムネ・アマツカゼは結構鬼畜であった。

 


 

 

 

「よーし、それじゃあもっかいやるぞ。」

「さっきより高い?」

「勿論、ずっとずっと高くだ。」

 

全身に力を込める。

地を蹴る脚、撥条の如き背筋、そして抱える腕へ。

全身の肉という肉を連動させ、人外の膂力を余す事なく上昇に回す。

無論、その中でも手の内のか弱き存在へ余計な負荷は与えない。

薄絹を織る繊細さと鋼鉄をも引きちぎる剛力を両立させ、遥か空へ幼子を放り投げる。

 

「あ、しまった。」

「ふぁぁぁぁぁあ………!!!」

 

垂直に投げたつもりが力みすぎてあらぬ方向へと。

上空数百m、落下するまでに十数秒。

地を掴む脚に再度人外の膂力を宿して駆ける。

駆け、跳ね、飛び、着地点で見事に抱き留めて一先ず安堵。

 

「悪かったな……怪我ないか?」

「ううん、楽しかった!」

「なら良かった、一度母上の所へ戻ろうか。」

「んん、もっとやって欲しいのに……」

「案ずる事はない。成すべきを成したら幾らでもしてやろう。」

 

マサムネ・アマツカゼ、子守り中である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻りました。」

「バカかお前は!」

「ぬおっ。」

「………ぎゃあああ!!!痛ってぇ!?」

 

高さの不足を補うべく跳躍し、腰の入った鉄槌が我が面に降り注ぐ。

並大抵の攻撃は斬打ともに通らぬ身だが、彼女程ともなると別。

顎先に命中していたら意識を刈り取られてもおかしくなかった……

幸か不幸か、打撃は額に命中し拳を痛めたアンジェは手を摩りながら涙目になる。

 

「何してるんだよ……」

「いや……お前も見てたろ、このバカが何してたかは。」

「……まぁ、楽しんでたし良いんじゃないか。」

「マジかお前、母親の自覚とかないのか!?」

「愛してはいる、けど親なんてお前。思ってるよりぞんざいに愛してるモンだよ。」

「なんて酷いヤツだ。」

「心当たりくらいないか?」

 

一瞬目を瞑り、アンジェは尊敬する母王を想う。

 

思い出されるのはかつての日々。

玉座の前で(リズベット)と痴話喧嘩に興じ、母の親衛隊にボコボコにされた事。

極めて強靭な身体を持つ私はともかく常人よりマシ程度のリズベットは死にかけた。

アイツついこの間も私とラインハルトにシメられて死にかけたよな。

恋のライバルとしてはさっさと死んで欲しい所があるとはいえ、可愛い妹である。

 

何だかんだ小生意気な一つ下の妹と、清廉無垢な末の妹を可愛いがっている。

ぞんざいに扱う事と、愛している事は矛盾しないのだ。

だから母が私たちを雑に扱うのも………うーん……

原因が自分らにある自覚くらいはあるので、何も言えぬのだった。

 

「母ってよりまぁ……妹たちの事に置き換えたら分からんでもない。」

「そういうモンだ、それにあの子は私よりずっと秀でたモノを持ってる。」

「……超人体質か?」

「それも凄まじいヤツ、殿下と同じくらいかもしれんな。」

「なるほど……そりゃ、心配もしないか。人材オタクのリズベットが喜びそうだが。」

「ノレア卿は常人も常人、ただの人間ですからね。優れた騎士ではありますが。」

「クソ、他人事だからって好き勝手言いやがって。」

「鳶が鷹を……いや、雀が鷹を生むと言ったところでしょうか。」

「意味は分からんが多分褒めてないな、ありがとよ。」

 

生まれの差、それでしかないので気にしても仕方ないと思うのだがな。

それに我が領には超人でも獣憑きでもないのに私に傷を負わせられる者さえいる。

未だ武勇にて私と比肩される我が母も……超人としてはかなり恵まれぬ方だったと聞く。

常人の数倍の筋力と、数倍の頭脳に、数倍の生命力。

強兵なのは間違いない、しかし戦場に限ればその有利は些細なモノだ。

常人の十数倍、果ては数十倍。私やアンジェ、狼王のような例外なら百倍すら凌駕する。

そのような怪物が犇めく魔境にて、母は専一に技を磨き無双を誇った。

私とはまるで違う武の極致。

故にこそ、私はいつも母が誇らしい。

 

「さて、お前が我が子と戯れてる間アンジェと色々と詰めていた。」

「概ねリズの予想通りではある……が、ここでお前の意見を問いたい。」

「私のですか?」

「お前の視点は私らの理詰めのそれとは違う。野生の勘というか……」

「マサムネは馬鹿だけど嫌に勘が効くからな、あの時の本陣帰参もそうだろ?」

「……まぁ、そうですね。本陣に近付くというのに敵の層が浅い。一兵一兵の練度や数が最前線に劣るのは言わずもがな、狼王ほどの逸物が我が無策の吶喊を読んでいない筈がない……そう思い当たり、本陣が直前で馬を返しました。結果的にそれが功を奏しましたが。」

 

マサムネ本人は気付いていないが、周りの者は皆知っている。

この男、自分で思っているより遥かに頭が回るのだ。

通常に脳を稼働させれば一領主として過剰な程には知性がある。

その上で、それを放棄している。

一振りの剣として、一体の兵器として自らを戒めている。

膨大な思考のリソース全てを、闘争に振り切っていた。

 

怯えず挫けず考えず、故にこそ天津風は無双の兵である。




性懲りも無く新キャラが出る小説はここです。
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