辺境伯は狙われている 作:彼岸花
投稿が遅いって?
リアルで退職とか色々あって……申し訳ない……
「さぁ、いざ参られよ。一人ずつ順番などの必要はない。戦場に、首の取り合いには礼儀こそあれルールはない。生き残ればそれが全てだ。」
「うぉぉ……本物だ……」「無理だろ……絶対死ぬ」「デッカ……どういう体格なんだ。」
ログマルム侵攻後に新たに騎士になった十数人。
前回の北方戦線を経験して居らぬ歳若い(といっても私とそう変わらないが)騎士らと対峙する。
「ほらほら行った行った、この国最強の騎士が手づから腕前を試してくれるなんてそう無いぞ。」
「しかし領主様、あれほどの剛腕。私どもでは小突かれるだけで致死になるやも。」
「大丈夫だ、奴が本気なら素振りの風圧でお前らは粉微塵だよ。そうならないって事は十分に加減してるという事だ、少なくとも死にはせん。」
私としてはさっさとかかってきて欲しいのだが。
いかんせん体格差と放つ殺気故か、皆が怯えてしまっている。
「お前もお前だ、せめて殺気は抑えろ。」
「無茶を言うなよ……武器は柔木だ。鎧越しに食らっても痛いだけよ。」
「……盾持ちは前に!クレイモア持ちはすぐ後ろにつけ!」
「ん……なるほど。まさに教本通り、オーソドックスな陣形だな。」
実戦に於いて教えが全て役に立つとは言えないが、咄嗟に思い出せるのは良い。
短期間の内に促成で育てた騎士としては満点である。
「……前進して制圧する!」
「指示を出しているのは……あの騎士か。」
ロングソードとカイトシールドを持つオーソドックスな剣盾持ち。
それを崩した
判断が早く、また混乱状態を直ちに鎮圧するのにも長けている。
「行動に間違いはない、判断も良い。後は実戦を覚えれば、だな。」
戦列に向けて走り出し、直前で急停止。
猛進する私に怯み、大盾の騎士以外がよろけて戦列が乱れた。
……とにかく必要なのは経験だな。
戦場で盾というのは基本的に無敵だ。
同じ鍛えの鉄と鉄とでぶつかり合うならば、剣や槍では叶わない。
重くのっぺりとした盾は、それらを防ぐ為の絶対。
仮に私の刀……『不壊』たる大太刀を力任せに叩きつければ砕けるだろうが。
そうでない武器の場合、どうするか。
一つは鈍器を用いるという手。
甲冑騎士にも有効な
我らが王女アンジェはこれを得意とし、戦列に……というか、地に叩き込む。
常人なら諸手でも持ち上がらぬような巨槌を小枝のように振り回すからな。
グランマリス広しと言えど半tを超える私を打ち上げられるのは彼女くらいだろう。
或いは盾諸共斬り伏せる、技術でもって。
……言っておいてこんな事を言うのも何だが、多分出来るのは極数人だろう。
師母や我が配下でも卓越した者、それから亡母くらい。
なら実戦に於いて現実的に、盾を無力化せしめる手段とは?
静止により走行の運動エネルギーを破壊力に変え、上半身の振りも全て脚に。
無論死なないよう__しかし、確実に無力化出来るよう__
力任せに蹴り飛ばす。
大盾にめり込む前蹴りは持ち主の身体を水平に突き飛ばし……
勢いのまま後衛の二人を伴って壁に叩き付けた。
「ギュッ!?」
「そういな学生ん時、狂乱した野馬を蹴り殺してたな……考えたくもねぇ。」
肺が圧迫された音、苦しいだろうがこれも経験だ。
死なないだけマシだと思ってくれ。
「さぁ陣の真ん中を破られたぞ、どうする。」
意外なのは恐慌状態だったのも束の間、包囲する全員が然と剣を突き刺しに来た。
若く、未熟だがやはり士気は高い。
ジクリド領の民は一度戦い始めれば覚悟が決まる気質なのだ。
手近な一人の頭に柔らかい木剣を叩きつけて兜越しに意識を刈り取る。
空手になったところで後は一人一人、掴んでは投げ転がしていく。
武器を失った時のレスリングも習ってはいるのだろうが。
不慣れ故に対応が遅い。
十秒も経たず死屍累々といった具合である。
「弱いな。」
「もうちょいビブラートに包んでやれよ。」
「めちゃくちゃ弱い。」
「どうやってるんだそれ……」
「気合いだけじゃどうにもならんところがある……実戦不足だな。」
「実戦ってもなぁ……ここの実戦じゃそりゃ北方の化け物共だぞ。」
「……仕方あるまい、一つ教官殿の
「マジ?」
「大マジだ。」
サンバルトの時のように手本となる騎士もいない。
寧ろ雑兵に規範を示さねばならぬ騎士がこれだ。
少しばかり厳しくやらざるをえないだろう。
ボロ雑巾のようになった騎士共が目を覚ますまで暫し放置。
各々誤差はあれど、何とか一時間程で全員が覚醒した。
よろよろと起き上がった皆がまず目にしたのは、巨躯の騎士。
つまりは私だが……その反応はまぁ、大方予想通り。
殆どの者が私が真に男であった事に驚愕している。
先と違い今の私は兜を外していた。
2mと50、異様な巨漢たる我が身に合わせて作られた特注の鎧。
足先から頭の天辺まで、全て足せば優に100kgは超える。
兜もまた、防御力と視界の確保を両立した非常に重いもの。
アマツカゼ伝来の鎧は私にはとても着る事叶わず。
初陣を鎧無しで飾った私を哀れみ、女王陛下より賜った品であった。
鍛えた鋼に、貴金属として使われる金と重き金属を溶かしこみ整形。
完成まで国随一の技術者たちを総動員したと伝え聞く。
その甲斐もあってか、長らくこの鎧は我が生命を守ってきた。
カチ割られた兜も、抉り抜かれた腹も熟練の職人により既に跡すら残らず。
狼王との戦いの名残は我が身体に刻まれるのみとなったが……
少なくとも、これが無ければ今の私はここにいないだろう。
……話が逸れたな。
要は私の姿を、巨躯の騎士であると知る者は多いが案外素顔は知らぬモノだ。
王都でさえこの体躯を見られてさえ私であると即座に看破する者は少ない。
存在自体が、市井には怪しいとされているのだとラインハルトは言う。
男の騎士。
珍しい、どころではない。
私の知る限りグランマリス、サンバルト、ログマルムの何処にも存在せぬ。
恐らくは遠く極東や、西方圏。エギルラーンも同じだろう。
250cm以上の身長、半t以上の体重。
およそ人のそれではない。
ある意味で、彼女らの反応は当然であった。
……驚愕と共に少しだけ落胆の色も感じなくない。
これも当然である。
私は仮面の貴公子などという、若い女子の好む美男子ではない。
親譲りの黒い髪を短く刈り、顔立ちも無骨極まりなく。
王家に連なる証明たるくすんだ緑の瞳が無くば極東人そのものであって。
お世辞にも、この国で広く好かれるような容姿ではなかった。
そしてこれから行う事を考えれば、恐らく私の好感度は地の底だろうな。
難儀な立場である。
「……ようやく起きたか、■■■■共。」
「「「「「!?!?!?」」」」」
「なんだその反応は?眠ってる間にママが恋しくなったか?私はグランマリスを守る騎士であるからして、貴様らを
ある日………
「固いな……」
私は軽く鍬を地に振り下ろし、弾かれて渋顔。
僅かに削れた土を掬い、舐めてその理由を得心する。
「灰か、ジクリド西端の山は確か活火山だったな……十数年に一度灰を吹くと。
それがやや湿気った気候と合わさり、ガチガチに凝固したのがこの地の問題だ。」
「我が領土は初代ジクリド伯……【竜殺し】殿が悪竜を討ったのが興りというのはご存知ですか?」
「ああ、かの高名なドラゴンスレイ。戦場では始祖マリスと並んだ剛の者だと。」
「悪竜は矮小なる人を嘲っていましたが、人を超越した彼女の武勇に傷付き、切り裂かれ、瞬く間に血溜まりに倒れました。トドメの一撃と剣を振り上げた初代ジクリドを見、自らの死が避けられぬと知ると悪竜は呪いの言葉を吐いたと伝わっております。」
隣にいるのは先の殺人めいた鍛錬でも最後まで立っていた若い騎士。
手合わせに全員ノした際、全体を纏めて指示を出していた者。
間違いなくあの中では随一の逸物だろう。
「呪詛をか?」
「はい、『お前の治る土地は子孫代々永劫に恵まれぬ死の大地となるだろう!』と。妄言だと切り捨てたジクリドが剣を突き立てた途端、そこにあるはずの悪竜の骸は巨山へと変じ、以降領地を蝕み続けているのです。」
「はた迷惑な話だ……さて……」
削れた大地を指先に摘み、再度舐めとる。
「うーん……酷いな。」
「分かるものですか?」
「愚かだが、最低限知識はある。噴かれた灰は空を覆い、陽の光を奪って冷害を齎す。一方で地の底深くから肥沃な栄養を吸い上げて大地を掻き混ぜている……はずだが、この灰土にはあまりに栄養がない。」
「奇妙ですが、それが呪いなのです。」
「とはいえ0ではない……耕せば使えない事もなかろう。」
私は鍬を目の前の騎士に投げ渡すと、次々に控えている若騎士どもに放っていく。
今日の鍛錬はこれにしよう。
「ここから……そうだな、今日一日で向こうまでを目標としよう。」
「……畑作ですか?」
「ああ、騎士とはいえやった事くらいあるだろう?」
「私は一応、小領地も小領地の領主騎士なので……」
振り返って見れば手馴れた構えの者、一方で恐らく初めて持っただろうなってない者。
双方が入り乱れていた。
だが農耕は良いトレーニングになるのだ。
辛くなるが、頑張って貰う。
「この土を耕すのは相当骨だが、耕し切った時お前たちは次のステージに進めるだろう!」
「「「えぇ………」」」
「疑ってるな?しかし私も郷里では百姓と共に畑を耕し、漁師と網を引いている。騎士としての鍛錬と生活は切り離されたモノではないのだ。さぁ、構えよ、腰は低く、だが屈むと痛めるぞ。注意しろ。」
「よーし、今日は北壁の改修工事を手伝うぞ。」
「……マサムネ殿……一つよろしいか。」
「構わんぞ、どうした?」
「我らは騎士です、戦う為の存在である筈。しかしここ最近は教導と称して民らに混じり、農作業など……そして今度は土木作業の手伝いとは。このような事で強くなれるのでしょうか。」
なるほど。
実際、昨日一昨日は一度も剣を握っていないからな。
焦る気持ちが出るのも無理はないだろう。
私は破砕用の巨大なハンマーを頭上に掲げ、古くなった壁に向かう。
そこはつい先日、ノレアと共に発見した老朽化した区画であった。
「グランマリスの剣は常に一撃必殺。守りに長けた中段構えこそあるが、その真髄はやはり
そしてそれは、他の武器であっても変わらない。
全身の筋肉を連動させ、振り上げたハンマーがしなる程の速度で叩きつける。
彗星の墜落と間違う程の轟音と共に、強固に見えた壁の一角を木っ端微塵にした。
技は使っていない……というより、グランマリス剣術は下手な技量は不純なのだ。
私やアンジェは振り下ろし、リズベットは渾身の刺突。
そのどちらも、一撃が全身全霊。
あらゆる障害を砕く最強の攻撃たらんとするのだ。
「技を磨く必要がないわけじゃない、しかしな。お前たちはまだ鍛える余地がある。
少なくとも、今はその方が効率的に強くなる……だからとにかくトレーニングだ。」
後は食事だな。
痩せた土地だから、どうも食が細い。
野分で我が領地からありったけの食料を運ぶよう頼んだ。
賢馬たる我が相棒なら単騎でその日のうちに領地まで走るだろう。
その後通常の隊商が来るのに二週間弱。
それまで徹底的にイジメ抜き、肉に限界のストレスを与える。
壊れかけの状態で負荷を受ければ受けるほど、回復した時の成長は凄まじい。
私もアンジェも、ラインハルトもそうやって鍛えてきたのだ。
超人たる人外の我らとは勝手が違うんかもしれないが、彼女らに出来ぬ道理はない。
すっかりくたびれているのは最早見るまでもないが、あと数日は地獄に付き合って貰う。
「さぁ、文句言わずさっさと取り掛かるぞ!死んだ後には好きなだけ休ませてやる!」
何だかんだ着いてくるジクリド騎士どもには期待が持てるのだ。
願わくは一人も脱落せず、このブートキャンプを完遂して欲しい。
グランマリス剣術は大体示現流。
外したら多分死ぬけど先に殺せればOK!
マサムネはアマツカゼの剣とグランマリスの剣が入り交じってる。