辺境伯は狙われている   作:彼岸花

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最早投稿クソ遅なのがデフォ、辛み


姿奪い

「き、貴様ら……」

「おお、根性あるなぁ。」

「やった側のセリフか?」

 

正直耐えられるとは思わなんだ。

一応はグランマリスに連なる騎士の端くれという事だろうか。

 

「頑強さは流石にアンジェのボディありきだろうがな。」

「比較対象にしてやるなよ……アンジェはそれこそ大型の肉食獣のようなモノだが、お前は大木か巨岩。或いは霊峰と呼ぶのが正しかろう。生物と比べることがまずおかしい。」

 

と言っても上には上がいるものである。

かつて北方にて狼王に惨敗を期した際には手酷くやられた。

剣と斧と槍とをひとくたにしたような異形の武器もさることながら。

尤も深い傷……今尚我が身体に刻まれた、貫通痕。

徒手で腹を貫かれる程の圧倒的暴力。

 

「主君の身体を相手に躊躇いもないのか……!?」

「何を今更、我ら主従である以前に騎士の同胞よ。お互い半死半生の叩き合いは常。」

「我が母ともあろう人がもうお忘れか……否、母と呼ぶかすら怪しいがね。」

 

?どういうことだろうか。

 

「我が祖母の、そのまた祖母の祖母。最早高祖母とさえ呼べぬ、かつてのジクリド伯。そうだろう?」

「……なるほど、出来損ないの頭でも理解出来たか。」

「六代前からのジクリド秘中の秘、『姿奪い』の魔法。母が死に潰えたおぞましき邪法よ。

何がなんでも触られんなよマサムネ、五指で触れられたらどんな豪傑も術中に嵌る。」

「よく分からんのだが……それが家伝の魔法ということか?しかしお前は……」

「私の『透化』は別さ、父方の血か因子の妙か。」

 

魔法の遺伝というのは奇妙なモノ。

多くの場合、親から子へ継がれるか、何も継がれぬか。

かと思えば隔世遺伝で孫の世代に発露し。全く別系統の魔法へ変質することも有る。

グランマリス王家にもアンジェ同様、治癒の力を宿さぬ者は少なからず居た。

 

「ジクリドが何故これを隠していたか、分かるかマサムネ。」

「……………」

「分からないか、だろうな。」

 

くそう。

やはり私は頭が回らない。

多分リズベットやアンジェ、ラインハルトですら答えを導き出せるのだろう。

だがやはり、こういう時の我が頭脳はまるで役に立たぬ。

とにかく勘が鈍いのだ。

 

「一切の痕跡もなく一瞬にして身体を乗っ取れる……それこそ、我が国きっての豪傑。アンジェの不意を突ける程にな。邪に扱えば如何様にも国を覆せると思わないか?」

「……なるほど、正面からの戦闘では役に立たぬとはいえ末恐ろしいな。」

 

魔法というのは戦いだけのモノに在らず。

ロウダン一家の『酒精を強くする』というだけの魔法。

かつての人々がそうあれと望んだ力の一端が今に齎されている。

だからきっと、目の前の女は……今アンジェの姿をした先ジクリドもそうなのだろう。

 

「国に反旗を翻し、どさくさに紛れて王家を乗っ取る……それが奴の算段だった。」

「……あと一歩だったのだ!あと僅か!それを貴様の先祖が!」

「初代アマツカゼ。グランマリスに帰属した最初の当主。その初仕事は北征、ジクリド。」

「ああ。グランマリスが最も弱き時代、唯一の超人と言って差し支えないこの女はそりゃあ強かった訳だ。そんなのが反乱を起こしたモンで相当な被害が出たろうな……それを叩っ切ったのがお前の御先祖だよ。」

 

アマツカゼの起こり。領地に知らぬ者は居ない。

そのジクリドとアマツカゼの末が時同じくして揃うのも、奇縁というべきか。

 

「忌々しいアマツカゼの民!浅ましくも極東の異人共が我が物顔でこの国に蔓延る!

それをおめおめと認めるなど許されるか!?この国は私が守ったモノだ!

北壁で犬死にした貴様の愚かな母や賊上がりのアマツカゼでは___」

もう良い、喋るな。

元より決まっていた事だが、お前は殺す。

 

壁に叩きつけられ、息も絶え絶えに座り込む先ジクリド。

話してる間に興奮して少し回復したのか、壁を背に立ち上がろうとするのでもう一発。

地を踏み砕かん勢いで寄り、渾身のアッパーを腹に叩き込む、

嗚咽を漏らして這い蹲るところに更に蹴り。

殿下の身体ならそうそう壊れはせぬ。

存分に苦しんで狂死しろ。

 

 


 

 

___あーあ、やってしまった。

馬鹿でやんの。本当に我が母なのか?

ノレアは冷ややかに、嘲笑うように突っ伏した女を見下ろす。

マサムネ・アマツカゼという男は甘い。

自分にだけ厳しく、家族に、仲間に、とかく身内に死ぬほど甘く、時に敵にさえ甘い。

この間など自らを殺そうとした南国の娘を引き取ったとか。やりそうな事だ。

慈悲深く、他者を責める事を良しとしない人格で大抵の事は笑って見逃すような快男児だ。

救国の英雄として絶大な活躍をして尚、自らに投げられる罵りさえもを許している。

 

一方で。

誰もがそうであるように、マサムネ・アマツカゼとて例外ではなく。

触れてはならぬ逆鱗というのが存在した。

 

一つ、彼の前で領地や領民へ悪意有る態度をみせる。

とはいえ親しみを込めた皮肉やら揶揄程度は然と理解する区別がある。

二つ、主君……女王やアンジェらへの不敬。

これもまぁ、時に親衛隊らと一緒に馬鹿をやる事さえある。

 

 

 

 

三つ。

彼の前で決して彼の祖を。

特に父母を蔑んだり、貶めるような発言や態度を示してはならない。

これはグランマリスの貴族では赤子でさえ知れた事。

マサムネの本質を理解せぬ愚かな法衣貴族でさえ二度と超えぬ境界。

 

初陣から幾度かの戦いを重ねた頃だったか。

野盗の掃討など小規模な軍役でなく西部の。初となる大戦。

単騎騎馬民族の強襲を蹴散らし、軍の長を仕留める武功を上げて。

女王直々に最も猛き騎士として労い、彰されたことがあった。

帯剣貴族らにとっては最上の栄誉であり、その頃にはマサムネの人智を超えた武は誰もが知るところであって。

異端の男騎士はその評価を大きく覆した。

 

しかし、くちさがない者というのは何処にもいるもので。

男爵だったか、子爵だったか。

爵位ある母を持ち、家柄だけで貴族になった偏屈者がいた。

そういった者ほど不思議と口と自信だけは過剰で。

酒と相まって『誇り高くもグランマリスの騎士に男などが混ざるとは』などのたまう。

ラインハルトなどその場で女を縊り殺さんと睨んでいたが……当の本人は今更だと笑い、それを穏やかに窘めていた。女の周りも当然、これ以上を口走る前に止めようとはしたのだが。

打てど響かぬ男騎士の微笑に腹を立てた女は二の矢を放つ。

 

『異邦人の男など、無茶な戦いで母同様いずれ討死___』

 

その言葉を聞いた瞬間、女王は古参の配下に目配せした。

『殺してでも黙らせろ』と。

聡明かつ苛烈なる紅蓮王らしくその指示は迅速で。

時同じくしてアンジェらも剣に手を掛けていたが……

 

ばしゃり。

 

それが人体から聞こえた音であると気付くのに皆時間がかかった。

数瞬後、自らに跳ねた血に気付き悲鳴を挙げる者が出て。

言葉の余韻すら許さず、マサムネが杯で殴り倒したのだとようやく理解する。

敵を鎧諸共両断する剛剣を振るう腕力。

一切の容赦なく振るわれたそれは容易く頭蓋を砕き、女を地に突き飛ばして。

血溜まりの中、朦朧とする意識で馬乗りになるマサムネを捉えて漸く。

女は自らの過ちを自覚した。

 

 

 

言葉にする事すら憚れる惨劇の後、皆一つの学びを得た。

それが彼の前で決して彼の祖を貶めてはならぬという答え。

 

……それはそうと、止めた方が良いなこれ。

アンジェの身体ごと殴り潰しかねない。

幾ら丈夫といっても限度がある、もっとフィジカル強い奴に殴られてるし。

 

「止まれ止まれ、殿下のボディごと殺す気かお前は。」

「これでも一応正気は保っている。」

「それはそれで怖いな……さて……」

 

確実に折れただろう。

姿奪いの魔法はあくまで本人の精神を抑圧し、乗っ取るというモノ。

アレだけ手酷く潰されて正気とは思えぬ。

魔法を解除して逃れたか、そのまま折れて死んだか。

あらゆる魔法は術者が死ねばその力を失う。

故にこそ、結局行き着く果ては避けようのない圧倒的暴力なのだ。

 

「う、ううううぅ………」

「あ起きた。殿下ー?大丈夫ですか殿下?」

「ん……何だここは……部屋の中で嵐でも吹いたのか?」

 

壁は砕け、床にはヒビ。家財道具の一切が吹き飛んで最早役立たずの紙切れが散乱していた。

なるほど、嵐とは言い得て妙だ。

 

「当たらずとも遠からずといったところですかね……」

「あう、痛ぇ……痛えよぉ………」

 

容赦が無さすぎる。

一応は治りやすいよう丁寧に折ってはいるが……

骨折だけで両手の指でも足りぬレベルだ。

可哀想に、殿下の化け物じみた再生能力を加味しても十分はかかるだろうか。

 

「申し訳ない、殿下。」

「他に手段がなかったとはいえなぁ……」

 

酷い混乱であったが一先ず一件落着?

アンジェの身体を奪う事自体容易ではなかろうに。

どのようにして不意を突いたのか……など、疑問こそ残れど。

一時の安息を得ることが出来そうだ。

 

下手人のマサムネは心底申し訳なさそうに肩を竦めている。

単純で愚直な男だから、こういった時感情の全てが出る。

何処か幼子のように愛らしいところも殿下達の琴線に触れたのだろう。

 

 

 

 

 

 

「…………!ノレア、お前……!!!」

「殿下?」

 

驚愕の声をあげる殿下に振り向き、その顔を見直そうとした刹那。

我が身体は泥沼に絡め取られた。

指先から痺れるように自由を失い、自らの意に関係なく突き動かされる。

微睡みのように重たい頭の中、絶対と呼べる友人に手を伸ばす。

 

____逃げろ(助けて)

言葉を言ったか言わぬか。

その余韻すらが呑み込まれていって。

今度こそ私は意識を手放した。

 

 

 


 

どうなっている!?

アンジェの身体に巣食った先ジクリドを殴り倒し。

その心が折れるまで手酷く痛めつけたが。

 

その瞬間、ノレアが豹変し私に向かってきた。

間違いない、操られている。

しかしノレアは努めてアンジェに触れていない。

擬態を警戒し、直接触れるような距離からは外れていた。そのはず。

 

いつから?何故?

あるいは()()()()か?

ノレアは教えてくれた、姿奪いの魔法。

発動の条件は五指で触れること。

 

『五指で触れて』さえいれば。

それは時を問題としないのではないか?

領主としてはともかく親として優れたとは言い難い先ジクリドが、その秘奥を、その奥の手を。愛してもいない子に教えたりはするだろうか?

或いはそれはスペアだったのかもしれない。

緊急時が為の奥の手だったのかもしれない。

 

どちらにせよ私は、完全に不意を打たれた。

跪いて真横にいたから、その一瞬は致命的。

私は抵抗一つ許されず額に触れられる。

 

「とうとう手に入れたぞ!最強の肉体!」

 

先ジクリドの狙いは当初よりマサムネの身体であった。

超人を超えた超人。

獣憑きの中でも至高の剛体。

 

先ジクリドは百年前の敗因を、一重にフィジカルの差であると考えていた。

今のマサムネには及ばずとも、極東から流れてきた猛者の血はグランマリスにはなかったモノ。

生まれついての強者であったジクリドは自分より強き者との戦いにあまりに不慣れで呆気なく討ち取られた。

故に強き血を、より強き身体を求め続け。

忌々しくも仇敵、アマツカゼにそれは現れた。

 

五指が触れ、即座に凄まじい脱力感が襲う。

膝をついた格好であったが、そのまま地に伏してしまいそうな。

しかし。

 

瞬き一つ。

再度意識を覚醒させる。

 

我が身体は未だ我が意のままに。

それを確認し即座にノレアへ向き直る。

顔を掴んだ格好のまま硬直していた。

 

これは……どういうことだ?

姿奪いが不発に終わったということか?

しかし発動の条件は確かに満たしていたはず。

ならば、理外のアクシデントによって妨げられたのだ。

 

「ノレア、今のお前は……」

「………………!」

 

不用意に声を掛けた。

不用心と悔いこそすれ、目の前の友に問わずにはいられなかった。

瞬間、凄まじい速度で抜刀されたブロードソードが眼前に迫り、身を翻して回避。

剣先は此方の回避と同時に軌道を変え僅かに私の頬を掠めて血が滲む。

 

速く、鋭い。異様なまでに。

ノレア・ジクリドは素晴らしい騎士である。

しかし、あくまで只人である。

 

化け物の成れ果てたる私とは、膂力や反応速度に圧倒的な差があった。

どう足掻いても覆しようのない身体の差、それがあったはず。

しかし今の剣技は余りに素早く、狂気すら孕んでいた。

 

更に上段からの袈裟切りに堪らず抜刀すれば紙一重に鍔迫り合い。

そう、鍔迫り合うのだ。

少なくとも膂力で拮抗している……!

 

同時に気付く。力が入らぬことに。

踏ん張りは効くが、何かが足らぬ。

闘争に於いて我が身体に過剰な程の破壊を与える何かが欠けている。

 

どういう訳か、我が内々の鬼が消え去っていた。

そしてその先は明らかにノレアの身体である。

理解出来ぬ、理解出来る。

全くもって理解出来ないが…………

 

身体からアレを引き剥がされたらしい。

嫌に明朗な頭脳と、震える腕がそれを事実だと証明していた。

 

 




超超人体質+獣憑きの補正だったところに急に補正抜きになった男。
尚、見ての通り普通に強い。
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