Saga of Creatures   作:hinoki08

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銀髭団の戦い 5

 

『んー、デーモン・コマンドぉ? それくらいの強敵なのかい? 銀髭団って』

「はっ、恐れながら……」

 

 水晶玉からは気の抜けた口調、しかし地の底から湧き上がるような低い音が響いてくる。

 死皇帝アザガースト。水晶玉の向こうにいるのは偉大な覇王ブラックモナーク亡き今、地底深くで闇文明を統治するダークロードの最高権力者だ。そのためダーク・フリードの口調も、いつになく物々しい。

「侮れない相手とは感じました。用心には用心を、と思い……」

『まぁ、それならいいよ。テキトーなのを二つ三つ見繕ってあげるから。待ってなさい』

「はっ」

『ところで、状況報告は?』

「はい。銀髭団一同、森の中に逃げ込みました。ワーム軍、キマイラ軍が後を追っております」

『へぇー、森の中。ん、この交信が来ているのってもしかすると……もう魔境湿地から結構、内部の方に進んじゃった感じかなぁ?』

「はい」

『なるほどー。それで森の中、ねぇ……』水晶玉の向こうのアザガーストは薄く笑っている様子。

『テキトーなのじゃだめかもね……君たちの扱える範囲で、なるたけ力の強いのをまわしとくよ。どっちにせよ、待ってなさい』

「は、ありがたき幸せにございます」

 一旦、水晶玉の通信は切れた。だが程なくして、水晶玉がずんずんと黒く染まり始める。死皇帝の強大な魔力が供給されている証拠だ。ダーク・フリードとバラガは、顔を見合わせてにやりと笑った。

 

 ●

 フィオナの森の中。キマイラにパラサイトワームたちは銀髭団を追って進撃を続けてゆく。

 体の小さいものはまだ木と木の間を縫って動くが、中途半端に体の大きいものは手当たり次第に樹木をバキバキとなぎ倒し、無理矢理に道を作っていく。痛みも、考える力もない彼らにとっては、平野でも森の中でも同じこと。ダークロードに命じられたまま、目の前のものを喰らい尽くすのみ。

 ……の、はずだった。

 

「きやがったぜ」

 と、呟く青銅の鎧。他のビーストフォーク戦士も共に、木の上に身をひそめていた。彼らは自分たちの目視できる範囲にパラサイトワームが来たことを確認し、位置につく。

「みてろ、おれ達の力を……」

 

 

 ガサリ! 葉が揺れる音がして、上から青銅の鎧が降ってきた。パラサイトワーム達は待ってましたとばかりに口を開ける。

 だが青銅の鎧は持っている槍を構える。すると、その先端が急に緑色の光を帯びた。

 そしてそれに呼応するように、むくりと地面から湧き上がる光の球体。惑星のエネルギー、マナだ。

 青銅の鎧はマナを生み出すことに長けた魔法戦士。彼の槍もタオパブの木でできており、魔法の杖も兼ねているのだ。

「聞け! 偉大なる大地のとどろきを!」

 更に、彼はマナを産むだけが能ではない。一瞬のうちに青銅の鎧の槍の先端に集まる緑の光。彼が地面に着地しきるより早く集まりきったそれは、青銅の鎧の言葉に呼応するように鮮烈に輝いた。

「《オーラ・ブラスター》!!」

 膨れ上がり、周囲に飛び散るようにはじけたマナのエネルギーは、ビーストフォーク戦士たちを包みだす。そして……青銅の鎧は今まさに自分を喰らおうとしていたパラサイトワーム達を、マナの光に包まれたその素手で殴りつけた。

 そして、次の瞬間。

 あれほどの脅威であったワーム達の軟体がめり、と凹んだと思うと、彼らはたちまちのうちに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。

 自然文明の呪文、『オーラ・ブラスター』。自然のうちに生きる民たちのパワーを森の力で大幅に増幅させる魔法だ。

「よし、いいぜ、ブロンズ!」

 赤く長い体毛をたなびかせたビーストフォーク《炎のたてがみ(バーニング・ヘアー)》はそのパワーに任せ、メリ、メリと若木を根こそぎ引き抜いた。そして、それを小枝のように振り回し、ワーム軍をなぎ倒しにかかる。ワーム達は悲惨な鳴き声とともに、次々につぶれていった。

 それでも、体がひしゃげてもなお立ち上がるワーム達を見て、青銅の鎧はまたマナを充填し、今度は別の呪文を唱える。

「偉大なる大地よ、我に力を! ……《アルティメット・フォース》!!」

 すると、どうだろう。彼の槍から放出されたマナは先ほどまで彼が立っていた木に宿り、……そしてその木全体がマナの色に光り輝き、大きく広がった枝の節々から、噴水のようにマナの粒子を自然文明の面々の頭上に降り注がせたのだ。

 フィオナの森の生み出す芳醇なマナ、それがあってこそ、自然文明は真価を発揮する。

「ブロンズ、今日も冴えてるな!」

 炎のたてがみのように、樹木をまるまる一本振り回して戦闘する像のビーストフォーク《無敵の咆哮(マイティ・シャウター)》はそう戦友を褒め称えた。

「当たり前よ! これでもマナの魔術師だぜ!」

「それも一流の……な!」と、炎のたてがみ。

 マナばかりではない。森林の中での生まれ育った彼らとワーム達では、身のこなしにも差が出る。大型の闇クリーチャー達が無理矢理に木をなぎ倒しながらでないと進めなかったのに対して、炎のたてがみや無敵の咆哮は閉所で不利のはずの大ぶりの武器も軽々使いこなしていることからも、それが窺い知れるだろう。

 

 だがしかし、やはりダークロード二人の注意を引いたのは青銅の鎧の技術だった。

「あれは……魔術?」と、ダーク・フリード。

「そうに違いない。それも、戦闘技術に比べ、魔術はそこそこ高度だ……」

 と、彼らが会話していた時、青銅の鎧の下にマナの色と同じ光に輝く魔法陣が現れた。「おっ」と彼は言う。

「悪い。呼ばれてるから先行くぜ」

「おう! ここから先は俺らに任せとけ!」

 そしてそれきり、青銅の鎧は魔法陣に吸い込まれ、居なくなってしまう。自然文明の空間移動呪文《ディメンジョン・ゲート》だ。マナの供給のため、誕生の祈が発動させたもの……と、いうこと自体は、もう彼らにはさほど気にすることではない。

 空間移動までできるとなると、魔術としては本当に高度の域だ。

 ダーク・フリード達も、プライドを刺激される。魔術と言えば、この我々の、闇文明の特権のはず。そう教わって育ってきた。それなのに野蛮な自然文明如きが何を生意気な……! 

 

 

「フュリ、フュリフュフュフュリフュリ……」

 スティンガー・ワームは虫の翅を引きちぎられ、呻いている。身動きの取れなくなった彼に向かって、誕生の祈は言い捨てた。

「安心しろ。私は貴様らの主人とは違う。せめて、最後は楽に眠るがよい」

 彼女はそっと触るような手つきで、自らの手のひらに湧いたエネルギーの球体を静かにスティンガー・ワームの体内に埋めた。スティンガー・ワームはうめき声すら発さなくなり、やがて眠ったように死んでいった。

「相変わらず結構な魔法の腕だな、バースちゃん!」

「いえ……青銅の鎧さん始め、先輩方にはまだまだ……」

 ジャイアント・インセクト達も相変わらず助けてくれる。仲間を殺した闇文明を許さない、と言う思いが、彼らにも芽生えているかのようだ。

 

「王子、あそこです!」

 上空を飛んでいた黄金の翼が、スワンプワームを見つける。「よし!」と、無垢の宝剣が答えた。

「ソード・バタフライ。飛んでくれ!」

「キーィキーィ!」

 普段は獰猛なのに、今ではビーストフォークを背中に乗せて戦ってくれる所からも、それがよく分かろうもの。ソード・バタフライは無垢の宝剣と共に、先に進むことに手こずっているスワンプワームに突撃していった。勿論オーラ・ブラスターの力を纏っている。

 ……スワンプワーム。

 デスブレード・ビートルは確かに困りものだった。だが、それでも愛すべき自然の一員であったことにも、自然のため勇敢に戦ってくれたことにも変わりはない。それを無残に食べつくしたのが、あのワーム。

「デスブレード・ビートル。仇は討つよ!」

 超スピードで突っ込んできた彼らにスワンプワームが気づいた次の瞬間、彼の上体は無垢の宝剣の剣と、ソード・バタフライの翼によって斬り裂かれ、ぼとりと地面に落ちた。

 その中から、消化されかけて溶けた青い鋏の破片が零れ落ちてきたような気もする。ソード・バタフライは悲しげに「キ……」と呟いた。

 

 地上に降り、フゥ、と無垢の宝剣もため息をつく。ソード・バタフライも仲間の仇を討て気が緩んだのか「キィ……」と疲れ気味に鳴いた。

「君たちも……仲間を失うのは、悲しいの?」

 黄金の翼や誕生の祈のもとに帰らなくては、と思いつつ、無垢の宝剣は少しだけ戦いをやめ、そう問いかけた。語る言葉を持たないジャイアント・インセクトでも、気持ちはわかるのだろう。ゆらり、と毒鱗粉が飛び散らない程度に、彼は翅を動かした。

「そう……そうだよね。森は命をはぐくむもの……」

 無垢の宝剣は、先ほど自分が切り裂いたスワンプワームの死骸に目をやった。……憎い敵軍、そうでしかないはずの存在を眺め、彼には何か、思うところがあるようだった。

「それなのに、なぜ、こんなにたくさんの命が……」

 

 その瞬間。

 ぞわりと広がる悪寒。バカリ、と地面が裂けた。

 

「キィ!」

 野生の勘だろうか。反応するのは少しの差ながら、ソード・バタフライの方が早かった。彼はその翅で、無垢の宝剣を突き飛ばした。

 そして次の瞬間地面が本格的に割れ、黒い手がのぞき……一瞬のうちに、ソード・バタフライを掴んだ。

「ソード・バタフライ!」

 無垢の宝剣は叫ぶ。だが黒い手が、彼の鱗粉すらものともせず、掴み上げた。

「キィィィ……」

 断末魔とともに、ソード・バタフライはそのまま黒い手に揉み潰され、腐って溶けて行った。間違いない。無垢の宝剣は感じた。これは……闇文明の魔法だ。

 闇文明が自分たちの反撃に対し、またしても高等の戦い方で応戦してきた。

 

 

 そして同じ頃。銀の拳と、彼と共に戦っていた巨大ジャイアント・インセクト《ゼノ・マンティス》も言葉を失っていた。

「おい……なんだ、こいつは」

「キョキョキョ……」

 そう呟く二人の前に立ちはだかる者は、二体。一体は先ほどまで戦っていたギガベロス。だが他もう一人……いきなり森を切り裂き現れたのは、明らかにパラサイトワームでも、キマイラでもなかった。

 まるで骨の身体の中に闇が渦巻いているかのような白と黒の体をした、巨大な騎士……それが、ギガベロスと共に彼らを見下ろしていた。

 

 

 ●

「可哀想じゃない……お父様。ザガーンを地上に送るなんて」

「んー、そうかい?」

 闇文明の本拠地、ダークロードの住む魔霊宮。その最上部にそびえる死皇帝家の宮殿で、アザガーストと……透き通るような長い金髪を持つ、美しい女性ダークロードが話をしていた。彼女の名前は《暗黒皇女メガリア》。死皇帝アザガーストの娘である。

「そうよ。いきなり彼レベルなんて……かのブラックモナーク様に、『つまらん。やつを戦場に出したら、一方的に勝つに決まっている』……とまで言わしめた悪魔でしょ?」

「でも、素直で忠義で良い子だよ。だから、若い子たちの指示に従ってってのも安心して頼めるしさぁ」アザガーストは相変わらず、ヘラヘラした口調を崩さず、傍の娘に話しかけていた。

 死皇帝アザガースト。その姿は何とも名状しがたい、光文明に負けず劣らずの抽象的なものであった。ダークロード達は基本的に人型をしているのに、彼は見上げるほどの巨大なオブジェクトの体を持ち、かつての自分の器であった人型を磔にしたように飾っている、ナンセンスですらある容貌の持ち主。

 そんな彼は、娘と一緒にダーク・フリード達の信号を受信する水晶玉を眺めながら、自然文明との戦争の成り行きを見守っていた。

「それにしても、自然って意外と凄いのね、お父様。あれほど魔術が進展しているなんて……」

「ん……? ああ、今の若い子はそう思うのかな? そう言えばダーク・フリード達も、随分びっくりしてたしね」

 え? と言い返す娘に笑いながら、アザガーストは水晶玉に更に魔力を送る。

「さーて、まだまだだよ……! たった一人じゃ足りないさ。あれだけ頑張っているんだから、僕たちも結構本気で相手してあげるね、ふふふ……」

 

 

 そしてほどなくして。フィオナの森の数か所で、同じような姿の存在が現れた。

 青銅の鎧たちの前にも……白い、垂れ下がった皮膚を持つグロテスクな騎士が、急に地面を割るようにして現れた。彼は数体のキマイラを連れ、言葉にならない笑い声をあげていた。

「なんだ……何だ、お前は……?」

 キマイラ以上に生命を感じさせないその姿に、青銅の鎧は息をのむ。

 戸惑う彼らに、その騎士……《憎悪の騎士ガミル》はもう一度、ぐふぐふと笑って見せた。

 

 

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