Saga of Creatures   作:hinoki08

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銀髭団の戦い 6

 

 骨と暗闇の騎士。その姿の登場に、話の通じない凶暴なギガベロスが怯えて縮こまる。一方騎士は醜いキマイラなど眼中にないと言わんばかりに、銀の拳とゼノ・マンティスを見下ろしていた。

「生意気な獣どもだ……千年前と、少しも変わってはおらぬ」

「……喋った……?」

 銀の拳は目を瞬かせる。今まで彼らが戦ってきた、理性なき闇のクリーチャーとは明らかに別格であることが推し量られた。

「なんだ、誰なんだ、お前……!」

「名乗れと言う前に自分から名乗るという、戦士の礼儀すらもわきまえぬのか。……前言撤回だ。千年前からすら堕ちたな、野蛮な民よ」

 彼の冷たい一言とともに、ギガベロスもグルルと唸り声を上げる。だが間髪もいれずに、彼はこうも継ぎ足し、そして剣を抜く。

「まあ良い、許そう。所詮は獣。我らが聞くほどの名もありはすまい」

 

 彼らこそがデーモン・コマンド。

 ダークロードの呼び出す、巨大で凶悪な悪魔兵たち。闇文明の戦力の中でも、トップクラスの実力を誇る猛者たちだ。

 青銅の鎧たちの前に現れた憎悪の騎士ガミルもそう。そしてこの銀の拳の前に現れた《暗黒の騎士ザガーン》こそ……まさしくアザガーストが地上に召喚したデーモン・コマンドの本命であった。

 

 ●

「よう殺してくれたものだ、獣ごときの分際で」

 ぐふぐふ、と笑いながら、ガミルは青銅の鎧たちにそう言い放つ。周囲に飛び散ったワームやキマイラ達の肉片を一瞥しつつ。

「う……うるせえ!」青銅の鎧は精一杯、怯むまいと口を開いて抵抗した。

「てめえも、どうせ闇の戦力だろ!? フィオナの森を壊すもの、おれ達の敵には変わりねえ!」

 

 青銅の鎧は槍を構える。だがそれよりも早く、ガミルはただでさえ巨大な彼の身長ほどもある湾曲したサーベルを抜き、ぶんと振り回した。

 木々が入り組んだフィオナの森では、間合いの長すぎる武器はかえって不利になる、はずである。だが目の前の悪魔にそのようなことは関係なかった。

 彼が剣を振り回しただけで、木々はすっぱりと切れ、次々に地面に落ちる。そして青銅の鎧に迫ってくる刃。

「あぶねえ!」と言う炎のたてがみの声が無ければ、まずかった。その声を聞いてとっさに反応ができ、攻撃をかわせたからいいものの、まかり間違えばあっさりとやられていた。と青銅の鎧は痛感した。

「その槍、面白いのう。武器が魔法の道具も兼ねているというわけか」ガミルは自分の攻撃を避けた青銅の鎧を見て笑う。

 青銅の鎧はじりじりと間合いを取りながら、彼をじっと睨みつけていた。そんな彼をガミルも見つめ、そして言葉が続く。

「実は、わしのサーベルも似たようなものでな」

「……なに?」

 青銅の鎧がそう反応した、次の瞬間。ガミルの切った木の切り口が、ずるずると黒く腐っていく。闇に飲み込まれていくように。そして柔らかく腐敗したその中から……出てくるものがある。

 青銅の鎧たちは目を見張った。

 それはパラサイトワーム。しかし、ただのパラサイトワームではない。

『自分たちが先ほどまで戦い、そして討伐したはずのパラサイトワーム達』だ。それが、またうめき声をあげて木々の切り口から生まれてきている……。

「殺したはずなのに、と思うておるだろう。獣ども。だが、これがそなたらは解さぬ闇の秘儀」

 ガミルに切り倒された木々から栄養を食い尽くし、再度成体になったパラサイトワーム達は再び、ゆっくりと彼らに向かって歩みを進める。

 青銅の鎧たちは、息をのんだ。仲間の死体を喰らう事以上の生命への冒涜が、そこには間違いなく存在していた。

 だが彼らのそんな表情も、ガミルは非常に気に入った様子。彼は告げ足した。

 

「生命なぞを尊ぶお前達とは違う。我々の魔術は、死を操り、死を自由にするのだ。それを叶えたが、闇文明よ」

 

 そして彼が片腕を上げると同時に、ゆらりと生き返ったパラサイトワーム達は銀髭団にその口を向けた。

 

 ●

 デーモン・コマンドはフィオナの森の各地で同時多発的に表れ、暴走を始めた。銀髭団の対処などでは、とても間に合わない力を持って。

 事態はどんどん、最悪の方向に向かいつつあった。

 

 

 無垢の宝剣、誕生の祈達は、目を見張るしかなかった。つい先ほど目の前に現れたばかりの闇文明の攻撃の凄まじさに。ワームやキマイラ、またデーモン・コマンドとも訳が違う、実体のない破壊攻撃までもが現れだした。

 先ほどソード・バタフライを飲み込んだ大地から湧き出る手。あれが何本もうじゃうじゃと伸びてきて、たちまちのうちにジャイアント・インセクト達を根こそぎ揉み潰したのだ。

 そう。彼らの目に今映るのは、彼らが生まれ育ったフィオナの森ではなかった。

 全てが枯れ果て、ジャイアント・インセクトの残骸だけが散らばる、地獄そのもの。地獄……闇文明が……世に呪われた悪魔が住まうと言われている地獄。

 銀髭団の面子はどうにか命を落としていない事だけでも、まるで奇跡のようだった。

「大丈夫ですか……王子」黄金の翼が物陰に隠れつつ、震える声で彼に話しかける。

「あの手は……何だ、魔術か?」誕生の祈もささやく。

「わからない。でも、どうにかして、止めないと……!」

 無垢の宝剣は目を見張る。だが、どうすればこの巨大な力を止められよう。

 その時だった。

 

「おや……そこにいたのか、自然文明の王子」

「ふふ……随分と、便りのない戦力だな」

 

 キマイラ達のうめき声とは違う、明らかに知性を持つ種族の声が二つ響いてきた。

「姿を表せ」

 そしてそれと同時に、もくもくと煙……闇文明の魔術、《デス・スモーク》が湧き上がる。ぱっくりもぐもぐ、とでもいう調子に、デス・スモークは一瞬で彼らを覆い隠す茂みを靄の中に包み、食べつくした。

 そして彼らの前に立っていたのは、ビーストフォークとはまるで違う姿。黒い鎧と軍服に身を包んだ人型種族の男女。

 そう。ダークロードの将軍、バラガとダーク・フリードであった。

 

 

「あなた達は……」

「お初にお目にかかるな。我々こそは闇文明の地上侵攻作戦、《闇の牙作戦》指揮官。邪剣バラガと魔将ダーク・フリードと言うもの、以後、お見知りおきを」

「もっとも、知っていようともう意味は無かろうが。ふふふ……」バラガは相方のその挨拶に、静かに笑った。

 黄金の翼と誕生の祈はさっと王子を庇うように前に立つ。誕生の祈が強い口調で問いかけた。

「地上侵攻作戦……ということはやはり、一連の事は、お前達の故意の差し金であったわけだな。ダークロードよ」

「当然だ」短く、バラガが返答する。

「許されることではないぞ!」と、黄金の翼。

「許されるか、許されないか……」怒りをあらわにするその声とは裏腹に、落ち着き払った声でダーク・フリードは返した。

「そのようなもの、誰が決める? お前達の崇める精霊と予言者か? フィオナの森の意志か? ……そのようなものからの許しが、地上を追われた我々に、一体何の価値があるのだね」

 ダーク・フリードは語りながら、水晶玉に念を込めた。ぽこ、ぽこと夜の空気を切り取ったように真っ暗な闇のマナが地下から湧き上がり、彼女の持つ水晶玉に集まっていく。

「お前たちの仲間も、今頃苦戦していることだろう。『デーモン・コマンド』を、フィオナの森の各地に召喚して頂いた。我々は死皇帝に誓ったのだ。今日、貴様らを皆殺しにするとな……」

 実際、彼女の言葉はその通りだった。

 無垢の宝剣は息を呑みつつ、ずんずん黒く染まる水晶玉を持つダーク・フリードをまっすぐに見つめ……そして、言った。

「どうして、ですか……?」

 その言葉には、仲間の二人とは違う。

 敵意でも、殺意でもない感情がこもっていた。

 

「なんで、こんな酷いことをするんですか?」

 

「酷い?」ダーク・フリードはそれを軽く笑い飛ばす。

「我々の千年の屈辱すらも知らぬから、そのような戯言もほざけるのだ」

 

 その言葉に、無垢の宝剣は目を瞬かせる。それを一瞥するとダーク・フリードは告げた。

「恐れるな。我々も貴族。憎々しい蛮族とはいえ王族に払う礼儀はわきまえているつもりだ。……化け物どもに下品に食い荒らさせはすまい。我らの魔術で、跡形もなく消してやる」

 そして彼女の水晶玉からほとばしるエネルギーに連動するように、地面がバカリバカリと割れ、そこから漆黒の手が伸びた。ジャイアント・インセクトを殺しつくした手が。

「《デーモン・ハンド》……奴を仕留めろ」

 ダーク・フリードが冷たく言い放つ。黄金の翼と誕生の祈は王子を守ろうととっさに動き、剣の一撃と波動弾を喰らわせた。

 ……だが、実体のないデーモン・ハンドの手に、彼らの攻撃が通ることなく、それらは無残にすり抜ける。

「イノセント!」

「王子!」

 そして、デーモン・ハンドが無垢の宝剣に触れようとした……その時だ。

 呪文のような音色が響いた。

 

 デーモン・ハンドはふらりと迷い、無垢の宝剣から手を離す。彼らは何事かと身構えた。デーモン・ハンドたちは次々と裂け目に逃げ帰るように消え、その裂け目すらもずしずしと地響きの音を立て、地面は元通りになっていく。

「なんだ、これは……!?」

「……魔力で対抗されている? 魔力の供給が、思うようにいかない……」

 ダーク・フリードは自分の水晶玉を見て、そう結論付けた。

「どこだ、自然の魔術師がいるな!」

 ダーク・フリードのその声を聴き、バラガはすっと剣を構えた。そして「そこか!」と茂みを切り裂く。呪文の聞こえる方向を。

 

 だが。そこにあったものは、再度彼らを驚かせた。

 

 それは、動物ではなかった。台座に座る僧のような姿をしているが……そこにあるのは。まぎれもなく植物。木であった。その木がぶつぶつと呪文を発し、闇文明の魔力を打ち消しているのだ。

「あれは……?」

 無垢の宝剣たちも驚いた。その木、《念仏エルフィン》の姿に。

「まさか……《ツリーフォーク》……?」

 

 ●

 

 ぐはっ、と血を吐き、青銅の鎧は倒れ伏す。倒しても倒しても、パラサイトワーム達、ガミルが連れてきたキマイラ達は、ガミルの魔術で立ち上がる。

「(どんな攻撃も、どんな作戦も奴の前では意味がないんだ!)」

 そんな、あきらめの気持ちすらわいてきた。ぐふぐふと笑うガミルには、全くダメージはない様子。

「どうした? もう呪文を使う余裕もないようだが……」

 悔しい。だが。全くだ。マナを生み出す余力自体が湧いてこない。炎のたてがみも、無敵の咆哮も、自慢の怪力が弱って来ている。力尽きるまでいたぶられるのも時間の問題だろう。

 無理だ。こんな相手に、どうやって勝てというんだ。青銅の鎧のその諦めは、ガミルにも届いているようだった。

「これしきで諦めるとは、全く、お前達の甘さがうかがえるのう」

「そんな、こと……」

「野蛮なけだものが、一丁前に武器など持って立ち上がるのが間違いなのだよ」

 そしてガミルは最後に、サーベルを煌めかせ、青銅の鎧に向かって振りかざした。

 

 その瞬間。

 青銅の鎧の体に、急に今までと同じように力がみなぎった。マナのエネルギーを直接供給されているような感覚。

 ……誰だ? 誰が、助け舟を? 

 

 いずれにしても……戸惑っている暇はない。反撃のチャンス。青銅の鎧は間一髪攻撃をかわした。まずはあの倒しても倒しても甦る化け物共を倒さないと、ガミルまで攻撃を届けることもできない……そうだ! 彼は思いつき、槍に魔力を充填した。

「ほう、まだ元気があったとは?」

「死を自由にするのがあんたらの魔術……ということは。おれ達が殺すからいけねえんだ。あんたらのその範疇に行かなきゃいいだけのこった!」

 青銅の鎧は槍に込めた魔力を思い切り放出した。……パラサイトワームではなく、森の大地に向かって。

 

「《ナチュラル・トラップ》!」

 

 そして、その掛け声と同時に……ぼこぼこと、地面の底からツタが湧き出したちまちのうちにパラワイトワーム達を縛り上げた。

「キー、キィィ……」とうめきながら、ワーム達はツタに飲み込まれていく。そして彼らの全身が見えなくなった頃……ツタはなおもギリギリと彼らを締め上げる。明らかに、彼らの元の体積よりも、ツタの締め付けているものの方が小さくなっていく。

 そして数秒もしないうちに、ツタは再びほどけた。その中には……干からびたようなワームの残骸と、黒いマナがあった。ダーク・フリードの生み出すマナとは一風違った、ブラックベリーのような黒さをしたマナ。

「なに……?」ガミルもさすがに、目を見張る。しかも、それだけではない。自分の魔術に応えるワームたちの命が、見当たらないのだ。戸惑う彼を認め、青銅の鎧はにやりと笑った。

「命とマナは近しい存在だ。マナの魔術には、こう言う応用もあるんだぜ。ワーム達の命は皆、マナに変換させて貰った」

 青銅の鎧はそのマナを、傷ついた仲間たちに放り投げる。元が闇のクリーチャーとはいえ、自然の魔術師である青銅の鎧が変換したまなら、彼らの体を癒すには十分なエネルギーだった。

 しかし、一体誰が自分たちに味方を? 

 青銅の鎧がそう思った瞬間。ふわりと彼の目の前を飛び交うものが現れた。

 美しい、妖精のような木々。それがひらひらと飛び回り、癒しの波動をビーストフォーク達に降り注がせている。

「これは……《ラブ・エルフィン》……?」

 ラブ・エルフィン。

 自然の魔術師の味方をすると言われているツリーフォーク。だが青銅の鎧も、実際に彼らが動いているのを見るのは初めてだった。

 ツリーフォーク……それは、フィオナの森の植物の中でも進化を遂げ、意志を持つに至った植物の種族。虫族だけでなく、彼らまでも闇文明の侵略を前に動き出した……? 

 

「おのれ……」

 抵抗に苛立ったようにキマイラ達と共にサーベルを構えたガミル。だが、さらに軍勢が現れた。大地を揺るがす咆哮が響く。

 そして、「それら」が姿を現すと同時に、キマイラ軍はあっという間に小動物のように一瞬で、文字通りに「蹴散らされ」た。硬く、たくましい蹄の立ったひと蹴りずつで。

 

 

「待たせたな、銀髭団よ。お前達ばかりを戦わせ、すまなかった」

 

 四足で歩き、ビーストフォーク以上に獣そのものの外見をした種族……ながらも、彼らは凛とした口調で青銅の鎧に語りかける。

 森の奥底から姿を現した強く、美しい獣たち。彼らこそは《ホーン・ビースト》。

 獣たちの王とも言われる……フィオナの森の守り主にも等しい、気高い霊獣種族。

 ちょっとやそっとの事では目覚めない彼らが、今、立ち上がって自分たちの目の前にいる……その事実に青銅の鎧は目を疑った。

「あんたたち……目覚めてくれたのか?」

 彼の問いかけに、ホーン・ビースト達はコクリと頷いた。

 

 

 そう。時同じくして、フィオナの森に変化が現れた。

 キマイラやパラサイトワームのみならずデーモン・コマンドまで現れ銀髭団が、ジャイアント・インセクト軍が傷つき倒れる中、とうとう「森そのもの」が立ち上がったのだ。

 森を構成する木々そのものにして意志を持つ種族、ツリーフォーク。

 そして森の守り主、ホーン・ビースト。

 彼らが目覚め、そして闇文明に立ち向かい始めたのだ。

 

 最初に森に入ったキマイラ達は、とうとう、森そのものから攻撃を受けた。今まで一方的にへし折り貪ってきた木々に逆に縛り上げられ、エネルギーを搾り取られ、ホーン・ビースト達の見事な角の餌食となっていった。

 

 ●

 そして。それは勿論、銀の拳の下でも。

「ガギャアッ!」

 先ほどまでゼノ・マンティスと激しく争っていたギガベロスが、急に「何かしら」の攻撃を受け。もんどりうって後方に倒れた。

 ザガーンも「む……?」と、何者かに気が付く。しばらくギガベロスにいたぶらせ、ようやく弱った銀の拳へ満を持して振り上げた棍棒の手を一度止めて。

 神々しいオーラとともに、森の奥から現れたその獣に。

 

「待たせたな。銀の拳よ」

「……気配は嗅ぎつけてます。森の節々で。ホーン・ビーストやツリーフォークが目覚めて、戦い始めましたね……」

 銀の拳はにやり、と不敵に笑って言った。

 

「あなたが目覚めさせて下すったんですか。『フィオナ』様」

 

 そのホーン・ビースト……《護りの角フィオナ》はコクリと一つ頷いた。

 

 

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