Saga of Creatures   作:hinoki08

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銀髭団の戦い 7

 

 護りの角フィオナ。

 森と同じ名前を関するホーン・ビーストの長老。フィオナの森の守り神にも、等しき存在。

 その呼び声で、自然の種族たちはいっせいに目覚め、戦いだすと言う。

 

「フィオナの森の……化身か」

 ザガーンも、目の前の相手が何者なのかを理解したようであった。だが、やはり彼も死皇帝の信頼厚きデーモン・コマンド。その超然とした態度は揺るがない。

「だが、誰が来ようと関係ない。我らは地上進出を果たすのみ」

「愚か者めが……」フィオナは彼をぎろりと睨み返す。

「森は、貴様らを歓迎してはおらん。なぜ分からぬ」

「歓迎など要るものか。覇王様を否定し、我らを追い出した愚か者共からの歓迎など」

 ザガーンは棍棒でギガベロスに合図。ギガベロスは気を取り戻したように再び臨戦態勢に入った。

「我らは、支配するのだ。邪魔者は全て壊し、支配する。……それが我々、闇文明よ!」

 ザガーンの指令と共にギガベロスは再び、攻撃を仕掛けてきた。かろうじて今まで戦えていたとは言っても、明らかにパワーの足りていないのは銀の拳とゼノ・マンティス。満身創痍なのは、その二人の方だった。

 フィオナ一人が来たところで、形勢を逆転されるなどあり得ない。そう見えてはいた。

 

 だが、フィオナはそれよりも早く、透き通るような遠吠えを発した。

 

 森のエネルギーに訴えかけ、眠りについていた自然の命達を目覚めさせるその力。それは……既に目覚め、戦っていた身にも、働きかける。

 

 フィオナの森のエネルギーが、銀の拳とゼノ・マンティスに集まった。そして光に包まれた彼らは、ずんずんと巨大化し、姿を変えていく。

 あれは……? ザガーンははっと気が付いた。「進化」の力だ! 

 

「ありがとよ……フィオナさん!」

「キョオオォォォッ!!」

 そしてそのような声とともに光を放つエネルギーがパラパラとほどけ始め……ザガーン達の前には、見知らぬ姿が立っていた。もちろん、先ほどのダメージを回復したような、無傷の姿で。

 フィオナの森と同じ緑色の体をした、巨大な姿の、四本腕の戦士。

 二本脚で逞しく立つ、鎧のような装甲を見に纏ったカマキリ。

 銀の拳とゼノ・マンティス……改め、《大勇者「大地の猛攻」(ガイア・スマッシャー)》と《大昆虫ギガマンティス》。

 森を荒らす闇文明に対する彼らの怒りが究極の力を呼び起こしたのだ。進化の力を。

「怒れ、偉大なる勇者よ」厳かな声で、フィオナは言った。

「その拳には勝利が宿る」

 

「生意気な。いくら膨れ上がろうとも、獣は獣」ザガーンは今度こそ、自ら棍棒を構えた。

「悪魔に敵うと思うな」

 だが。大地の猛攻と化した銀の拳は今までの力とは全く違う勢いで、獲物を振り上げた。そしてその武器にもフィオナの森のオーラが宿り、巨大なハンマーへと姿を変えていく。

 ガツン、と激しい音を立てて、ザガーンの棍棒と大地の猛攻のハンマーがぶつかりあった。

「それは、こっちの台詞だ」

「……!」

 ザガーンも感じ取ったらしい。自分の想定をはるかに上回る力量がそこに宿っていることに。

 火花が飛びそうなほどに激しく武器と武器がしのぎを削り合う中、大地の猛攻は叫ぶ。

「ここは、おれ達の森だ! おれ達でないものが、この森で勝てると思うな!」

「キョォッ!」

 ギガマンティスもその声にこたえるように、大振りの鎌を振り下ろす。

「グジャルギィッ! グギュッ!」とギガベロスはのたうつような動作で、自分も無理矢理にフィオナの森をなぎ倒しにかかる。だが、それは敵わなかった。

 木が意志を持ち、彼に絡みついてくるのだ。ツリーフォーク《からみカズラ》だ。

 勿論、ギガベロスのパワーを押さえつけていられるほどにからみカズラは強くない。滅茶苦茶に振り回される彼の怪力に、牙に、からみカズラは削られていく。

 だが、その数瞬の時間にも、意味はあった。

 ギガマンティスの鎌から放出されたエネルギーが、大地に流れる。大地に散らばった、犠牲者となったジャイアント・インセクトの残骸に。そしてそれは少しずつ、エメラルドグリーンの光に姿を替え……マナとなっていく。

 森を荒らす者への怒りに姿を変えた今、本来は奪う側であるジャイアント・インセクトすらも、命を与える魔術師に近しい存在になったのだ。

 そのマナは自然の化身の上に、護りの角フィオナの立派な角の上に留まる。そして彼はそれを輝かせ、呪文を唱えた。

「《パワー・チャージャー》!」

 彼のその掛け声とともに、オーラ・ブラスター以上に純粋無垢なパワーのオーラが、大地の猛攻の上に、ギガマンティスの上に降り注ぐ。さらにパワーを増す大地の猛攻。

「ふむ……」

 その攻撃も受け止めつつ、ザガーンは冷静に分析する。なるほど、強がるだけのことはある。目の前の獣人の力量はさらに増している。

 

 

 パワー・チャージャーの光はそれだけではない。フィオナの森中に、降り注いでいく。

 フィオナの森で怒りに燃える自然文明の民全ての上に、フィオナの力が与えられていく。

 徐々に、徐々に、森の各地で、自然が闇を圧倒し始めた。

 

「ぐっ……」黄金の翼たちと戦うダーク・フリードやバラガの下にも、その異変はもちろん届いていた。

「これは、どのような……先ほど以上に、パワーが増している!」

「小賢しい、野蛮な文明が……我々に魔術で立ち向かおうなど!」

 なんとしても。

 なんとしても、死皇帝に誓った事だけは、果たさなくては……。

 

 だがそのような争いの最中だった。

 ダーク・フリードの水晶玉が、何も念じてはいないのに真っ黒に染まった。

『あーあー。いけないよ、君たち。君たちだけで頑張ろうとしないで。僕だって、森が憎いのは同じなんだからさー、ね?』

 

 ●

「ギギュ……」

 ギガベロスも異変が分かったのだろう。自分に食い掛かるギガマンティスの力が明らかに増していると。彼は三つある頭のうちの一つを、くるりとフィオナの方へ向けた。

「ギギャァッ!!」

 そして彼は、ギガマンティスを振り切り、無理やり大口を開けてフィオナに飛びかかる。大地の猛攻も、それに気が付いた。

「あぶねえ!」

 彼は満身の力を込めて……ザガーンの棍棒に、自らの獲物を今までで一番の力を込めて叩きつける。そして……とうとう、暗黒の騎士ザガーンの身を翻させることに成功させた。

 その隙をついて大地の猛攻は彼から離れる。ギガマンティスも後に続いた。

「ギュ、ギュグググゥゥッ……!!」

 しかし、ギガベロスの方が速い。彼の一つの口がとうとう、フィオナに噛み付いた。だが……。

 

 フィオナの森の木々のように、哀れなジャイアント・インセクトの甲殻のように、オーラに輝くフィオナの角は噛み砕かれはしなかった。

 

「愚か者が!」フィオナは、ギガベロスを痛みなど一つも覚えていないと語りかけんばかりの形相で睨みつける。そして刈ればぶん、と頭を一振りするなり、ギガベロスの白い巨体が彼の頭を離れ、宙を舞う。

 そして次に落下してきたその瞬間……フィオナは、ギガベロスの頭の一つを捕えた。

「ギュガ!?」

 ほどなくして、ギガマンティスがもう一つの頭を、大地の猛攻が、最後の頭を捕える。

 もはやあの狂ったようなギガベロスのパワーも、意味をなさなくなっていた。

 三人がかりで押さえつけられ、ギガベロスは最期に、苦悶の叫びをあげた。「ギュ……グギュグググ……」生まれた時と、同じように。

 

「グギュラジャギュアアァァァァアアアッ!!」

 

 そして次の瞬間。ギガベロスの体は三つに裂けた。「ァァァァアアアアアァァァ……」と、悲鳴の余韻を残し、彼はどさりとフィオナの森に沈んだ。

 

 

「……ほう、ギガベロスを……」

 目の前の光景に、ザガーンも素直に感心したようだ。そんな彼に次は貴様だ、と言わんばかりに大地の猛攻はきりりと目を見開き、彼に向かい合った。

「見たか。これが、おれ達の力だ」

 そして、そう言い放った彼のもとに、また自然のエネルギーが集まる。ただでさえ大きい大地の猛攻の肉体が、また、さらに膨れ上がり、様変わりしていく。

 一度ならず、二度までも、進化の力が森の王に宿る。

 

「これが、貴様らに荒らされた、森の怒りだ!!」

 

 唸るような咆哮とともに、メリメリと大地の猛攻の皮膚が盛り上がり、角が伸び、大地の猛攻はさらなる進化を遂げた。《大勇者「ふたつ牙」(デュアル・ファング)》に!! 

 ガキィン!! と激しい音を立てて、ふたつ牙はザガーンに切りかかる。そして……それを棍棒で受けとめたザガーンは……森の王の怒り具合とは裏腹に、滔々と語った。

「なるほど。先ほど以上に、パワーが増しているな。今日は随分と、お前たちへの評価を変える日だ。先ほどの非礼を詫びよう。礼儀知らずなりに大した戦士よ。名程度は名乗ってやる価値はあった」

「何をいまさら……」

「お前たちが死の克服を拒むことの惜しさよ。もはや名乗っても意味がない時となって、斯様な思いを抱いてしまうとはな」

 

 その瞬間。

 ぴたりと、ふたつ牙の体の動きが止まった。

「え?」無論、自分の身が急に言うことを聞かなくなったふたつ牙は呆気にとられる。何事だ? 

「こ、これは……?」

「キョキョ……?」

 フィオナとギガマンティスも同じだ。

 いや、体が動かないどころの話ではない。何者かに、生命力を吸い取られるような……。

 キマイラやパラサイトワーム達の物理的な暴力とは違う、寒気を感じるような恐ろしさが、迫ってきている……。

 そう、ふたつ牙が気が付いた時だった。地下から、ゆらり、ゆらりと現れてくる、黒い影。その影が、自分たちにまとわりつく。それと同時に、力が次々抜けていくような。

「何事、だ……」

 そして、ふたつ牙の言葉に答えるように、ズルズルと地面に裂け目ができていく。その影が現れる裂け目が。

 その裂け目から、声が聞こえた。

『やーぁ。うちの若い子たちを、結構苦労させてくれたようじゃないか。君たちも千年のうちにそこそこ進歩したんだねぇ』

 

 その声が響くと同時に、ザガーンは急に臨戦態勢を解いた。戦いの放棄? ……さにあらず。

 騎士が仕える君主を前にして、無粋に武器を構えたままでいられるものか。ただの野蛮な戦士ではない、そのような品格礼節をわきまえればこそ「騎士」なのだ……そうとでも語らんばかりの彼の態度が、一層起こった事態の異様さを自然の戦士たちに直感させる。

「な、何者だ、貴様は……」

『んー、覚えてないかなあ? 千年前……覇王ブラックモナーク様の部下の一人をやらせてもらっていて……今は闇文明の皇帝。死皇帝アザガーストってもんなんだけど』

「……『アザガースト』……!」

 その名を聞き、フィオナの顔はさっと青ざめる。

『あはは、思い出してくれたかい? フィオナの化身。若い子たちが苦労してるからねー。ちょっと僕も出てくることにしたよ。大体あんたがしゃしゃり出てきてるんだ。僕がしゃしゃり出てくる権利くらいあるよねぇ?』

「こ、これは、なんだ……?」と、ふたつ牙。

『ああ……君は知らない? 《ゴースト》だよ。中でも特に僕のお気に入りの子たちだ。可愛いでしょー』

「アザガースト、貴様……」一体、それは何の感情なのか。「まだ、斯様なことを、懲りずに……」とうめくフィオナの声は無視し、アザガーストの声は今度はザガーンに話しかける。

『ザガーン。頼んどいてなんだけどさ、もうここは僕が貰っちゃっていい?』

「無論でございます。ダークロードこそは我らが主。主に仕えるが我らの誉れ。主君に道を譲らぬ騎士がどこにおりましょう」

『君のそういうとこ、だいすき。さーてと……』

 声だけを響かせて、アザガーストは身動きの取れないギガマンティスとふたつ牙に言う。

 

『君たちはただただ目障りだねぇ。……消えてくれよ。そうだ。せっかくだから、その進化のエネルギー……貰っちゃおうかな』

 

 気の抜けた口調だと言うのに。

 その声音は、今まで森に現れたどの闇の怪物よりも、ぞっとするようなものだった。

 

 ギガマンティスとふたつ牙は身の危険を感じ、自分たちを縛り上げる霊体超獣、ゴーストを振りほどこうとする。が、それも叶わない。すでに抵抗するだけの力、体を動かすだけの力が、ゴースト達に吸い取られてしまったことが推し量られた。

 にゅるり。アザガーストの声が発される地の裂け目から、這い出てくるものがあった。ワームだ。赤ん坊のワーム。彼はつるつると無抵抗なギガマンティスの腹を這い上り、その口の中に入り込む。

「キョ……キョウッ……」

 そして、次の瞬間だった。

 この世のものとも思えない凄まじい音を激しく上げて、ギガマンティスはその赤ん坊のワームに体の中から食べられ始めた。

 音にもならない断末魔の悲鳴を上げて、彼はゴーストに縛られたままのた打ち回る。そして……やがてその叫びも聞こえなくなり、彼は地面に倒れ伏した。それでもなお聞こえる、彼の体内を食い荒らす音。バリバリ、グシャグシャ。誇り高い大昆虫の体が、遠慮なしに蹂躙される音が森の中に響く。やがて、その音すらも止まった。……と、思った、次の瞬間。ギガマンティスの体内で何かが膨れ上がり、メシメシと音を立て……やがて彼の甲殻が割れた。

 

「コォォォ……」

 唸り声をあげて、そこからワームが現れた。真っ黒で、鮮血のような赤い口をして……そして、今まで現れたどんなワームよりも巨大な……ギガマンティスのように巨大なワームが。

 ギガマンティスの進化のパワーを糧にし、進化したパラサイトワーム。《魔獣虫カオス・ワーム》だ。

『若い子たちってねえ、とっても真直ぐだよねえ。王族に、汚い死に方はさせられないって。そう君の坊ちゃんに言って自分たちで手を下そうとしたんだよ。まねできないなー』

 もはや言葉を発するのも辛くなってきたふたつ牙の耳に、アザガーストの声だけが響く。

 

『僕だったら、君みたいなけだもの、この程度の死がお似合いだって思っちゃうもの』

 

 身動きの取れないふたつ牙の眼前で、ぱかりと開くカオス・ワームの大口。その中から、ずるりと出てきた。

 ああ。

 ゼノ・マンティスの持っていた鎌じゃないか。

 

 ポロリ、と、大勇者の目から涙がこぼれた。戦いを始めてから、一度も流したことのなかった、流すまいと思っていた涙が。

 目の前に迫る赤い鎌。あんまりに、無念。あんまりに、みじめだった。

「……ちく、しょう……」

 それが、大勇者ふたつ牙……自然の王銀の拳の、最期の言葉。その言葉を言い終わるなり、彼の上半身は鎌に切り裂かれ……ばくり、と音を立てて、カオス・ワームの体内に飲み込まれた。

 彼の流した無念の涙の跡、彼の守った森の大地がその最期の弱さをただ受け止めた証の丸い水跡は、ただの流血とワームの汚い唾液に一瞬で塗り潰されて、消えてしまった。

 

 

「銀の拳……」

 その様子を見て、フィオナも震え声で呟く。

『じゃ、邪魔者もいなくなったし。次はあんただよ』

 ……そのアザガーストの言葉が響いた時だった。

 

 森が、揺らいだ。

 フィオナの激しい慟哭によって。ツリーフォークやホーン・ビースト達を目覚めさせた時よりも、更に大きな叫びによって。

 

「何故、何故、お前が……!!」

 

 森全体が、比喩ではなく本当に揺らいでいる。王の悲惨な死を目の当たりにした森の化身の嘆きによって。みしみしと、地響きがする。……その瞬間、ザガーンが異常に気が付いた。

「アザガースト様。何者かが……!」

『なんだって……?』

「コォ?」カオス・ワームも動揺する。だが、さらに次の瞬間……カオス・ワーム達の目の前が、にわかに暗くなった。

 太陽を覆い隠すほどの巨大な生物が、いつしか、目の前にいる。

 

 

 

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