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「むかーしむかしなぁ、とっても勇敢なビーストフォークの冒険家がおって……」
昨晩の事。ポコペンは子供たちに、昔話を語って聞かせていた。
「世界中の色々なところで宝箱を見つけて、大金持ちになったんだそうな。けれど冒険家はそれでも、冒険をやめんかった。金よりなにより、冒険こそが一番の楽しい事だったからのう。自然文明のいたるところを飛び回ってな、ジャイアント・インセクトの群れの中から、コロニー・ビートルの住み家から……いくつもいくつも、お宝を見つけた。それだけやない。乱暴者のヒューマノイドがぶんどったお宝や、ずるがしこいサイバーロードがだまし取ったお宝も、みーんなみんなうまく奪い返して、自然文明の皆には本当に尊敬されとったそうじゃ」
「それでそれで?」
ポップルとポレゴン、そしてポコペンの体の中に住んでいる子ペンギンはみんな表情をキラキラさせて話に聞き入っている。
「そのうち奴は、地上の冒険に飽き足らずに、とうとう闇文明のお宝を探しに出たんだと。ここよりずーっと南の魔境湿地には、闇文明への入り口があってな、そこの沼にもぐりこんで、何日ももぐり続けてとうとう抜けた先は、何ともおっそろしい闇文明の国よ。肉が腐り堕ちたような生き物が、普通にずるずる歩いとる。まともな奴なんて一人もおらん。みーんな、腐った肉をむさぼりあって生きとる。そんな国でも、ダークロードの王様は素晴らしいお宝を持っとると言われていての、冒険家はその噂一つを頼りに、恐ろしい地獄を必死でさまよって、やがてお城についたんじゃ」
子供たちは息をしんと殺している。闇文明なんてこのように物語でしか聞くことはないが、はるか昔光文明に背き、秩序に背いた彼らはその罰として恐ろしい地獄に押し込められたのだ、と聞いている。いったい、どれほど恐ろしい国なのだろう。ポップルは想像力を必死で働かせながら、昔話を聞いていた。
「お城の中も危険がいっぱいじゃ。なんせ恐ろしい闇文明の王様のお城だからの、それでも奴も名うての冒険家じゃ、とうとう王様が留守にしているすきに、王様の部屋にもぐりこんだ! そして見事な玉座の隣には、真っ黒で大きな宝箱があったのよ。冒険家はさっと駆け寄ってそれに手をかけた……その時」
「その時?」
「宝箱が、急にぎろりと目を開けて冒険家を睨んだのじゃ! ……奴はなんとただの宝箱じゃない、《パンドラボックス》だったんよ」
「ぱんどらぼっくす……?」と、子ペンギン。
「覇王ブラックモナークがその昔、戯れで作り出したっていう種族じゃ。宝箱の姿をした生き物での。ダークロードの宝物を守るのが仕事なんじゃ。ダークロードは皆よくばりで残酷やからのう。奴らは、泥棒には見境なく襲いかかるようしつけられとる。特にそのパンドラボックスはなが~~い間、来る日も来る日も泥棒に浴びせかけるため、呪いの言葉をためとった。そんな中やってくる足跡に、パンドラボックスもわくわくしとる。それ、そんな中、手がかけられた。パンドラボックスは待ってましたとばかりに大口を開けて……」
ごくり、と息が呑み込まれる中、ポレゴンは満を持して大声で言う。
「ギャーーーーーッ!!!」
「キャーーーーー!!!」
子供三人も、その大声に合わせて悲鳴を上げた。
「あとは、もう分からん。ただ、その冒険者が自然の土地に帰ることは、二度となかったそうな……どっとはらい」
「怖かったー……」と、ポレゴン。
「そんな怖いのがいるんですか? 闇文明って……」
「もちろんよ、ポップル。闇文明はおっかないんじゃ。優しかったら、はなから地上を追放されとらんからのう」
「父ちゃん、ぼく、きょう怖くておトイレいけないよぅ……」
「よーしよし。家主さん、子供怖がらせるのが上手いですねぇ」
「人聞き悪いこと言わんで」
とにかく昔話も終わり、ポップルとポレゴンは一緒に夜道の中、家に帰っていった。この惑星には、二つ月があるのだ。しんしんと雪を降り積もらせる雲の切れ目から、ちょうどその二つの月がのぞいている。雪明りと月明かりにぼんやりと照らされながら、二人はポコペンの聞かせてくれた昔話について話し合った。
「凄い話だったねー」
「ねー……世界にはあんな怖い生き物もいるんだ……僕たちもさ、冒険家になったら、そう言うのと会ったりするのかな?」
「するのかなー……ちょっと、と言うかすごく、怖いけど……」ポップルは少し考え込んでいう。
「でも、それも楽しみな気がする」
「あ、ポップルも? 僕も同じこと思ってた!」
「ほんと!?」ポップルは先ほどまで縮み上がっていたのもどこへやら、ぱっと表情を明るくして言った。
パンドラボックスの昔話は、恐ろしい。こんな里に生きていたら到底会えない異種族たちの話も、恐ろしい。
乱暴なヒューマノイドやドラゴノイド。卑怯でずるがしこいサイバーロード。残酷なダークロード。昔話に出てくる彼らはみんなそんな性格をしている。けれど、本当にそんなに怖い種族だったとしても、それでも実際にこの里を抜けたはるか遠くに、そんな自分たちには思いもよらない種族がいるんだとしたら。会ってみたい。会って、話をしてみたい。そう考えるだけで、ポップルはわくわくしてくる。
「ねえ、いつかさ、あたしたちもあの冒険家みたいになろう」
「うん、もちろん!」ポレゴンも同調する。「明日っから、もっと冒険頑張ろうよ!」
「あ、じゃあまずは、昔話のあの人みたいに、宝箱探そうよ! そこから、初めて見よ!」
きゃいきゃい騒ぎながら帰宅する彼らを、一人の少女が木陰から見ていた。
「ちょっと~ポコペンさん!」
ポコペンのもとにぷりぷり怒りながらやってきたのは、コートニーだった。
「あの二人に外の世界は怖いんだよって話してって言ってましたよね? 二人とも怖がるどころか、好奇心に火が付いちゃったみたいじゃないですか~!!」
「え……ほんとに?」ポコペンはきまり悪そうに頭を掻いた。
「わし、子供を怖がらせる才能ないんかなぁ……」
「いやー。そんなことないと思います」ポコペンの体の中で、親ペンギンが言った。
「この子、漸く寝付いたは良いけど、うなされてますもん」
「うーん……こわいよぉー……パンドラボックスがくるよぉー……」
「なんか……それはそれで申し訳ないの」
全く……とコートニーは一つ、ため息をついた。
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そのようなわけがあり、ポップルとポレゴンは現在、宝箱を探しにそりを走らせている。
今まで行ったことのない所に、むやみやたらにそりを漕がせて……勿論里に帰る道が分からなくなってはしょうがないから、帰り道を把握しつつだが。
昨晩降り積もった新雪の上を、ポレゴンのそりはどこまでも駆け抜けていく。
「宝箱って、どういうところにあるんだろ?」と、ポレゴン。
「たぶん、外から見えるところにはないでしょ! お城とか、洞窟の中とかだよ」
「この近くにお城なんてないから、洞窟探した方がいいかな……ん?」
と、急に、ポレゴンの声がこわばった。
「わわあっ! まずい! まずい!」
「なに!? どうしたの!? ……って、きゃあ!!」
ポップルも気が付いた。
会話をしてよそ見をしていたから、気が付かなかったのだ。先ほどまで急スピードで下っていた坂の先が、ぷっつりと途切れて、がけになっている。しかも下が見えない。
ポレゴンは慌ててブレーキをかけようとしたが、とても間に合わない。そりはいよいよスピードを増して……大きく飛び出した。そしてもちろん、その勢いが少しずつ消えていき……そりはまっさかさまに急降下!
「キャアア!」と、悲鳴を上げるポップル。
「ポップル! 君! 君の、浮遊術、お願い!」
「え、……あ、そっか!」
ポップルは急いで杖を手に呪文を念じる。すると空中に浮遊する結晶がそりの下に生成され……急に消える、下に落ちる感覚。代わりに彼らは、結晶にそりごと乗って、宙に浮かんでいた。間一髪、助かった。
「あぶない所だったー……」
「ホントに……」
二人はほっと溜息をつく。だが、ほどなくして、その崖の下の方に、茂みに隠れるように、ひっそりと洞窟があるのに気が付く。目を凝らさないととても分からないようなものだったが、ポップルがそれをいち早く見つけた。
「ねえ、あそこに洞窟がある!」
「あっ、ホントだ」
「せっかくだから、行ってみよう」
ポップルは結晶を操り、ふわりと洞窟の前にそりを着地させる。そりから降りた二人は、しんと静まり返った真っ暗な洞窟の中に入っていった。
本当に、自然そのままの洞窟だ。ゴツゴツとしていて歩きにくい。光るコケが大量に生えているから、かろうじて周りが見えなくもない。子供の彼らだからまだ楽に進めるが、大人は入るのも一苦労だろう。
とりあえず、行き止まりまでいこう。二人はそう話して、洞窟の中へ、中へと進んでいった。すると……ポップルたちは気が付く。少しずつ、洞窟が明るくなっていく。コケの光ではない。これは……純天然のマナが湧きだしているのだ。進めば進むほど、洞窟内は外と同じように明るくなっていく。
それも、ただのマナでもない。自然文明から産出するマナは、おしなべて緑色をしている。だけれどもこの洞窟には、それ以外の色のマナも湧きだしているのだ。リンゴのような赤色、スミレのような青色、黒スグリのような漆黒に、タンポポのような金色……。
なんてきれいな光景。ポップルたちがそう思った矢先だった。とうとう、行き止まりが見えてきた。
そこは、広間のようになっていた。色とりどりのマナの光に包まれて、明るく、優しく、暖かく照らされたその先には……一つの木箱があった。大きく、豪華に彩られた木箱。
「宝箱……!?」ポップルは呟いた。
「うそ、ポップル! 僕たち宝箱見つけちゃった!?」ポレゴンもはしゃぐ。
「あけよ!」ポップルは急いで走り寄ろうとした。しかし次の瞬間、ぴたりと足が止まる。
「どうしたの?」
「ね、ねえ……ポレゴン、まさか、まさか……とは思うけど」
「うん?」
「パンドラボックスだったらどうしよう?」
それを聞き、ポレゴンもぞっと肩を震わせる。好奇心が勝っていても、昨日の話も怖い事には怖い。宝箱をいざ前にしてみて、彼らにとってはパンドラボックスの存在も現実的なものになってしまった。
「あ、はは……まさか……ここ、闇文明じゃないもん……」
「だ、だよね……? でも……」
結局、彼らは歩み寄る勇気は出ない。
その代わり、ポップルの長い杖を目いっぱい伸ばしつつ、そろぉりと箱に近づけていくことにした。じりじりと歩み寄りながら……とうとう、こつん、と杖の先が箱に触れる。
途端、箱が輝いた。そして……杖も光り出し、二者は共鳴するように点滅し合う。緑色の自然のマナを吹き出しながら。
そして最後に、ゆっくりと、宝箱が開き始めた。ポップルとポレゴンはいよいよびくりと縮こまったが……結果として、それはパンドラボックスなどではなかった。
それは、宝箱だった。正真正銘の、宝箱。
大きな箱の中に……洞窟に湧き出るどんなマナよりも鮮やかに輝く、五つの宝石が入っていたのだ。
燃え盛る業火のような赤色、優しくさざめく湖水のような青色、静まり返った深い宵闇のような黒色の宝石が一つずつ。そして、まぶしく輝く陽光のような金色の宝石が二つ。
ポップルもポレゴンも、息をのんだ。これほどきれいなものを、二人とも、見たことはなかった。彼らが今まで冒険と称して見てきたものの何よりも、それは光輝いて見えた。
なるほど。ポップルは思う。
昔話のあの冒険家も、冒険をやめられなかったわけだ。たとえ死ぬことになったって。
お金持ちになるとか、尊敬されるとか、そんな事はどうでもよくなるくらい、きっとこうして宝箱を開けた瞬間はとってもきれいで幸せな時間なんだろう。
彼女はそうひしひしと噛みしめて、しばらくポレゴンと一緒に宝箱の中身に見入っていた。
暫くして、彼女は言った。
「ねえ、持ってかえろ?」
「そうだね、せっかく僕達が見つけたお宝だし……」あっ、としかし次の瞬間。ポレゴンはどもる。
「でも、見つかっちゃったら、叱られたりして……」
「そうねぇ……」
宝を持って帰りたいのはやまやまだけれど、コートニーに叱られるのはポップルも怖い。ただでさえ、今日もお稽古事をさぼって外出しているのだ。
「じゃあ、一つだけ! 一つだけなら、ばれないでしょ」
ポップルは宝箱の中に手を伸ばし……二つある金色の宝石のうちの、一つを掴んだ。他の宝石はカットされていないにも関わらず、それだけは……美しいハート型をしていた。
「この色なら、二つあるからきっと大丈夫だよ」
「うん、そうだね……! 本当にきれいな宝石!」
フフ、と笑い、二人は再び宝箱の蓋を閉めた。