Saga of Creatures   作:hinoki08

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1・サイバー電撃戦
サイバー電撃戦 1


 

 また。闇の侵攻の傍ら動き出した文明もあった。水中都市、水文明。

 そう、この文明も、闇に勝るとも劣らない被害を受けていたのだった。

 

 海に生きる彼らにとっては海の災害など想定の範囲内。海岸線沿いの自然文明に壊滅的被害を与えた大津波の多発もそれ自体は彼らの海上基地を脅かすに値しない。だが爆発した火文明の火山、その熱いマグマが水文明の治める水域に全て流れ込んでしまったことは彼らの想定を超えた災害。冷たい水に包まれて生きてきた彼らにとって、耐えきれる事態ではなかった。

 

 ●

「海岸線基地B24とC39から43も、連絡が不能になったわ……」

 エラーの文字が浮かぶモニターを見つめて、女性型サイバーロード《コーライル》は呆然としてつぶやいた。

「これで火文明海岸線周辺の拠点は全滅よ!」

「全体的な水温も上昇しつつある。マグマの流出が原因だな……」彼女の横で、環境データを紐解いていたウォルタも呟いた。

「火山近くの水域のデータが送られてこない。既にリキッド・ピープルたちが生存不可能なレベルに達してきているのか……」

 ウォルタは計算ソフトを開き、次の瞬間唖然として歯噛みした。

「火文明の拠点から500海里域までの推定水温は90度超。海はすっかり煮えたぎっている……」

「信じられない。私達の技術を持ってしても、崩壊が止められないなんて……」

 次の瞬間、ウォルタのモニターが動く。

『もしもし、こちらミルポロ。大変なお知らせがあるんだ。海底火山が連鎖的に活動を始めたよ』

「海底火山!?」ウォルタは慌てて繰り返した。

『うん。僕の天文台のある水域近くで噴火があったみたい。《フィッシュ》の死体が大量に流れてきてるんだ。僕も危ないからもうすぐアカシック3に避難するけど、出来る限りのデータはまとめてから行くね』

 フィッシュとは、読んで字のごとく野生の魚たちの事だ。

「そうしておけ」ウォルタの命令とともに、通話は切られた。

「海底火山! なんてことだ、この数百年大規模な動きはなかったのに」

「惑星中のマグマが活性化しているんだわ、やっぱりあの爆発の影響……?」

 コーライルはオロオロしながらウォルタと話し合う。

 陸から流れ込み、水中から湧き出すマグマは水中都市の住民たちにとって脅威以外の何でもない。

 支配種族サイバーロードの暮らすアカシック3は非常事態にもひ弱な支配種族たちが守られるように最高技術をつぎ込んだ防御態勢を固め、内海に位置しているため今のところ目立った被害は受けていないが、海中に散らばる拠点が大被害を受けているとあれば放って置けるはずがない。

 おまけに、サイバーロードたちの頭を悩ます事実がもう一つあった。

 彼らを治めるサイバーロードの「皇帝」が、このことに対して何一つ言わないことだ。彼は自分の部屋に籠り、側近のウォルタにすら連絡を取らないままでいる。

 彼はサイバーロードの中でも著しく発達した頭脳の持ち主。その為たとえ側近ですら計り知れないところがある。だがしかしこのような非常事態だと言うのに……とウォルタは激しく焦っていた。

 

「やむを得ん、コーライル。私達だけでなんとかしなくては」ウォルタは言った。「ことは一刻を争うんだ。もうグズグズしていられない。『エンペラー』の治めしこのサイバー文明を守り抜くことこそ、私達の役目だ」

「なんとかって、何をするつもり……?」コーライルは不安げに問いかけた。ウォルタははっきりと言い切る。

「戦争だ! 我々はこれより海を捨てなくてはならぬかもしれない、その時のため戦争を仕掛け他文明の領土を奪い、拠点を広げるのだ!」

 そのウォルタの言葉を聞いて飛んできた舌っ足らずな声があった。

「せんそう!!??」

 振り向けば、下半身が竜巻状になったサイバーロードがニコニコしながら飛んできていた。

「せんそう、やるの? わーい、おもしろそう!! ボクものる、ボクもまぜろー!」

 彼の名前は《トロピコ》。幼いように見えるが、優秀なサイバーロード技術者の一人である。

 

 ●

 

 一方その頃。

「俺らの相棒《アーマロイド》をなめんな、トカゲども!」

 声が飛んだかと思えば、また片方から声が飛ぶ。銃撃も一緒だ。

「そちらこそ《アーマード・ワイバーン》に歯向かおうなどと考えるなよ、地を這うしかできねえ下種どもが!」

 火文明の土地だ。

 火山地帯に拠点を築く文明。そんな彼らにとっては大爆発そのものが終わってしまえば、噴火の被害から立ち直るのは比較的慣れたものだった。今ではすっかり、ヒューマノイドとドラゴノイドは以前のように内戦を続けている。

 むしろ内戦は激しくなったほうだ。大災害の影響で元から貧しかった土地が更に荒れ果てたのだ。資源や食料を彼らが必死で奪い合うのも、やむを得ない。

 因みにアーマロイドとはヒューマノイドたちの使うロボット兵士たちだ。アーマード・ワイバーンはドラゴノイドの使役するパートナーで、名前通り武装したワイバーン。これらに飛んで戦うドラゴノイド兵士たちは《ドラグライド》と呼ばれている。

 この場所の戦争は、ドラゴノイド兵たちのほうが有利かのように思えた。だが、一撃の砲撃により戦況が変わる。

 

 

 ドォォン! と戦場に響く音。ドラグライドの一軍の中核にそれは命中し、何人かのドラゴノイド兵たちは地上に落下する。

 砲撃を打ち込んだヒューマノイド、《一撃必殺のホーバス》は、そのまま地面に落ちたドラゴノイドたちに銃口を向け、よく通る声で言った。

 

 

「何か言い残すことはあるか?」

 

 

 だが、ドラゴノイド兵もそれに怯むような腰抜けではない。ホーバスが彼の右手と一体化している銃で追撃したにも関わらず、彼らは怯みもせずにするりと逃がれる。そして地上用の武器を構え、ヒューマノイド兵たちに襲いかかる。

 しかしやはりヒューマノイドにもそれで怯むような臆病者は居ない。

 

 

「やめときな、怪我するぜ」

 

 

 そう言ってドラゴノイドたちの砲撃を受け止めたのは《喧嘩屋タイラー》。

「ホーバス、てめえ情けねえぞ!」

「悪かったな。此れでも何人かは仕留めたが」

 冷静なホーバスに、タイラーはちっと舌打ちする。その横から、「てめえらの腐った魂を浄化してやる!」と叫びながら猛然とした勢いで走り寄り、ドラゴノイドにチェーンソーを振りおろした戦士が居た。

 

 

「くらえ、必殺・絶対真空一文字切りぃぃぃ!!!」

 

 

 少々長い必殺技名を叫びながら、ドラゴノイド兵の兵器をたちまち真っ二つにしたのは《切断伯爵ムラマサ》。

 ドラゴノイドは流石に戦況不利になったかと、ひとところに固まる。ワイバーンたちも主人の意向を汲み取ったか仲間たち同士で集まった。だがそれを待ってましたとばかりに飛んで来る声があった。

 

 

「レディース、アンド、ジェントルメン。ふっとびな!」

 

 

 そう言いつつ、少し年若い兵士《爆弾小僧ミサイルボーイ》は真っすぐワイバーンたちに向かってミサイルを連射した。ワイバーンたちは逃げに少々遅れ、彼らは一気に撃墜される。

 クッ、と悔しそうにドラゴノイドの指揮官が銃を構えてヒューマノイド軍の隊長に襲いかかった。彼は待ってましたとばかりににやりと笑い、両手と一体化したトゲ付きの鉄球を振りおろす。

 何回かの打ち合い。ヒューマノイドの隊長のほうが実力的には上のようだったが、ドラゴノイドの指揮官も龍の末裔の根性で受けきれないほどではないようだ、

「これだけか!」ドラゴノイドの指揮官は得意気に言ったが、彼は不敵に笑った。

「そうだな、しばらくぶりに本気を出すか」

 次の瞬間だった。

 彼の鎧がガシャガシャと変形し、たちまちのうちに見上げるほど巨大な鎧となる。選ばれた戦士しか身にまとうことを許されないヒューマノイドの最終兵器《機神装甲》だ! 

 機神装甲をまとった敵にも、流石にドラゴノイドの指揮官はひるまない。だが、力の差は歴然たるものとなった。ヒューマノイドの隊長はしのぎを削る、という言葉など一瞬にして使うに値しなくなった相手に向かって、言い放つ。

 

 

「わかるか。相手よりでかい武器を持っているやつが勝つんだよ」

 

 

 次の瞬間戦場に巨大な音が響き渡ったかと思うと、ドラゴノイドの指揮官はあっという間のうちに吹き飛ばされていた。

「て……」それでもなんとか生き残った指揮官は、悔しそうに言った。

「撤退、撤退だ!」

 去っていくドラゴノイドたちを見つめ、ヒューマノイドたちは笑った。

「もう二度と逆らうんじゃねーぞ、トカゲ共がー!」

 機神装甲を許された戦士の一人《機神装甲ヴァルボーグ》、本名を《不死身男爵ボーグ》という男に率いられたヒューマノイドの軍隊、《紅戦線》は、ヒューマノイド軍の中でも屈指の実力を持っていることで有名だった。

 

 

 ●

 火山要塞ヴァル。

 火文明の中心近くに位置する要塞都市。ヒューマノイドの本拠地である。そして、紅戦線の基地もここにあった。

 その基地の中、不服そうに転がっている少年兵が居た。

「つまんねー!!」

 少年兵は展望用の窓からも離れ、むくれていた。

「なんで皆戦いに行ってるのに、オレは留守番だよ!? オレだって戦士だぞ! 紅戦線の! 戦士!」

「すねんな、ゲット。それ言ったらオレだってそうじゃねーか」そんな彼を、若いヒューマノイド兵士が諌めた。彼の名前は《爆炎野郎ジョー》。

「留守番じゃねーぞ。基地の防衛だって、戦士の重要な仕事だ」

「でもジョーはこの前の戦闘に行っただろ?」

「行った」

「死ね!」

「なんでだよ!」

 むくれたまま見張りの任務に当たろうとしない少年兵にジョーはいささかしびれを切らす。

「いい加減にしろよ、ゲット!」

 彼は小さな体の、ゲットという名の少年兵をひょいと起こした。

「紅戦線の戦士ならわがまま言うんじゃねえ!」

「こんな時だけ都合よく戦士扱いすんなよ! オレを一人前だって認めてくんないくせに! 戦闘にだって出してくれないくせによ!」

 ゲットはすねて反論する。

「二つ名だってもらえねえし……」

 火文明の戦士は、皆二つ名をもらえてはじめて一人前となるのだ。ジョーなら「爆炎野郎」、ホーバスなら「一撃必殺」、タイラーなら「喧嘩屋」、ムラマサなら「切断伯爵」、ミサイルボーイなら「爆弾小僧」というように。

 ゲットにはまだ、それがない。ゲットは、ただのゲットという名の少年でしか無いのだ。

「オレだって火文明の戦士なんだぞ!」

「二つ名はまだもっと実力が上がってからだっつうの。オレだってお前の歳にゃ従軍してたけど、まだ二つ名はなかったぜ」

「だってよぉ…………」

 実際、子供で従軍することは火文明では珍しくもなんともない。戦闘を何より重んじ、愛するのが火文明の気質。悪く言えば子供でも戦争から逃げることは許されない、少し擁護して言うのならば、子供の頃から戦闘を望むような奴らばかりなのだから、チャンスは与えられる、といった具合だ。

 だが、それでも未熟な少年兵はやはり裏方の仕事を任される。紅戦線の隊長であるボーグは特に実力主義で、弱い兵士は抱え込まない。ゲットが所属を許されているだけでも、だいぶ見込まれている証拠だった。だがそれでもゲットはそれが不満だった。

「オレだって、戦場で戦いたい…………」

 ため息をつくゲットを見て、ジョーもため息をつく。

「はー……ほれ、ゴタゴタ言わずに見張りしろっての。そのうちボーグも認めてくれっから」

 ジョーに説得され、渋々ゲットは見張り台に座る。

「ジョー、オレ、絶対戦場に立つぞ。それで、めっちゃ活躍する」

 だが、ゲットは彼の話を止める雰囲気はないようだった。ジョーも任務に素直に戻ったなら良いか、とばかりに、素直にそれを聞いていた。

「絶対、機神装甲を着られるくらい強くなるんだ!」

 ゲットが紅戦線に拾われて以来彼と兄弟のように親しいジョーは、ゲットの夢を何回も聞いたことがある。

 機神装甲。それは、ヒューマノイド戦士の夢そのものだ。紅戦線の面々はみんな、機神装甲ヴァルボーグのその雄姿にあこがれ、自分もああならんと日々鍛錬を重ねている。

「頑張れよ。頑張れば、できっから」

 ジョーはぽんぽんとゲットの頭を叩いた。

「だから任務はサボるなよ。サボればサボった分だけ機神装甲は遠ざかるぜ」

「そ、そんな方向に話持ってく!?」

 焦るゲットに、ジョーは「おい」と指をさす。

「見ろよ、帰ってきたぜ!」

 

 下を見れば、紅戦線の戦士たちが食料を抱えて帰還していた。ドラゴノイド軍との食料の奪い合いが、今回の戦闘の目的だった。

 

 

 ●

「現在、自然文明には闇文明が目をつけている。闇と自然両方を相手にするのは負担が大きい」

 所は変わってアカシック3。ウォルタは仲間たちと話し合っていた。

「火文明だ。火文明を制圧する。あそこも自然同様知能レベルが低く、野蛮で未開な土地。私達の技術力なら征服は容易い」

「じゃあ、さっそくシミュレーションをしないとね」と、コーライル。

「しきは、ボクにまかせろ!」トロピコがはしゃぎながら言う。

「ずっとせんそうやってみたかったんだ! まーふぉーくのちんあつとかじゃつまんないもん! やっぱりびーむとか、どっかーんで! れーざーとか、がーんで! へいしたちもいっぱいどんどんあばれさせるんだ! やっぱこれっておとこのろまんだよな!?」

「えー、ああ、まあ、そうだな、うん、多分」と、困ったように返すウォルタ。

 ちなみに《マーフォーク》というのは、水文明の中にあるサイバーロードたちとは異なる文化を形成している種族である。少数民族のようなものといえば分かりよいだろうか。

「火文明の資料は、《サイバー・ウイルス》部隊からの映像でいいわね。丁度内戦をやっていてくれて、助かったわ」

 コーライルははしゃぐトロピコを余り相手にせず、シミュレーションを開始する。

「文明レベルはD、技術レベルもD。戦い方は野蛮なりにまあまあね。統率はBとCの中間といったところかしら。武器の主な動力は二種族ともにマナと化石燃料、後者がよりメインね。二大種族が争っていることを踏まえると、推定総戦力数より実際の戦力は大幅に下回ると考えて良いはずだわ。兵力は、ウォルタと私、そしてトロピコが自由に使える分と考えると…………」

 カチャカチャと水中に浮かび上がった電子版を高速で叩き、コーライルは戦争をシミュレーションしていく。

「勝率、平均80%」

「それでは少ない」ウォルタが言った。

「私も同感だわ。最低でも95%は超えたいわね」

「急ごう。水文明の存続のためだ」

「ねーねー、せんそうまだー?」

「お前は黙っとれ!」

 叫ぶウォルタにふんと鼻息を鳴らして、トロピコは二人の間に割り込む。

「ここのりきっど・ぴーぷるぶたいのさんわりはげる・ふぃっしゅでだいようできる! のこりはにはんめにまわしたらどう?」

「待って、リキッド・ピープルはよくても《ゲル・フィッシュ》の不足分はどうするのよ?」

「ボクのけんきゅうじょでりょうさんする! いいののあいであがあるの。それでまにあうはずだ」

 三人のサイバーロードたちは、火文明侵略計画を着々と進めていった。

 

 

 そして、数日後。

「勝率……」コーライルが言った。

「100%!」

「すばらしい!」ウォルタは喜ぶ。

「私達の科学力ではじき出した、絶対に勝つ戦争だ、エンペラーもお喜びになる!」

「まずは海岸全沿いの領土一帯を一週間以内の征服は確実だわ、そこからどんどん芋蔓式よ」

「いけるいける!? せんそういけるのー!?」

 キャイキャイとはしゃぐトロピコであった。

「ガル海岸の水温が現在下降中。ここからなら上陸できるはずよ」

「善は急げだ、早速始めよう」

「既にリキッド・ピープル、ゲル・フィッシュ、サイバー・ウイルス全部隊を待機させてあるわ!」

「さすが君だ、コーライル」

 サイバーロードたちは彼らの弱い肉体を守るためのカプセル状の乗り物に乗り込み、発進させる。コーライルの言葉通り、外では大勢の水の戦士たち……サイバーロードと同じ液状の身体でありつつ通常の人型種族並みの体格を持つ兵士、小柄なサイバーロードに変わり肉体労働や戦闘を受け持つサイバーロードによって生み出される人造種族、《リキッド・ピープル》をメインにした軍隊が待ち構えていた。

「諸君!」ウォルタは先頭に立ち演説する。

「今や我らが文明は滅亡の危機に立たされている。偉大なる『エンペラー』が治めし知性の文明の存亡をかけて、我々は戦う時が来たのだ!」

 ウォルタは片腕を上げ宣言した。

 

「これより、『サイバー電撃戦』を開始する!」

 

 沸き返るリキッド・ピープルを始めとする部隊。そして、トロピコがふわりと浮力を上げ、水面に向かって上昇しながら言った。

 

 

「おまえたち、ボクについてこい」

 

 

 その一言を皮切りに、青い身体の水の兵士たちは、一斉に地上へ向けて出発した。

 

 

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