「ゲットが倒れただぁ!?」
「こっちだよ、早く来て、ボーグ!」
ミサイルボーイに案内されて、ボーグがやってくる。案内された演習場では、見事にゲットがひっくり返って、ジョーに介抱されていた。
「ボーグ! 悪ぃ、オレがついてながら……」
「ジョー、何があった!?」
ジョーに抱えられたゲットは、顔を真っ赤に上気させて完全に伸びてしまっている。ボーグが小突いてみても反応はない。
「演習の最中にふらついて、ぶっ倒れたんだ。思えば最近疲れ気味だったけどよ、心配ねえって頑固に言い張るから、ついオレたちも大丈夫だって思って……」
「基地に運んで寝かせとけ!」ボーグは急いだ声音で言う。「おい、誰でもいいから医者呼んで来い!」
「あ、ボーグ」ムラマサが手を挙げた。「医者なら、マイキー先生が近くに来てるって情報が入ってるぞ。オレが呼んでこようか?」
「マイキー? ちょうどいい。ああ、頼むムラマサ」
「了解!」
そう叫び、ムラマサは指笛を吹く。途端にドスドスと、デューンゲッコーが一匹駆けてきた。ムラマサ専用の騎乗用デューンゲッコー、《ムラマサ・リザード》だ。
「じゃ、すぐ帰ってくるからな!」
「あー、こりゃ完全に、オーバーワークだな」
紅戦線の基地の中、ベッドに寝かされたゲットの体温を測りながら、マイキー先生、こと《特攻隊長マイキー》がそう言った。
彼は昔は二つ名の通り某部隊の特攻隊長を任されていた身だが、今は戦士稼業はほぼ引退し、サイボーグ手術の医師としての仕事を主に行っている。特別な本拠地は持たず、火文明全土のヒューマノイド基地を気ままに行ったり来たりしている身だ。
「おーばー……」
「がんばりすぎて体に必要以上に負担がかかったって事」腑に落ちない様子のミサイルボーイに、マイキーは噛み砕いた言葉で説明した。
「大丈夫、休まなきゃいけないことに代わりはないけど、そんなに大ごとでもない。今のところは皆、オレにまかしときな。ボーグの奴にもちゃんと、心配ないって伝えてくれ」
「うん、ありがとな、マイキー先生!」
紅戦線の面々は口々にそう言って、ゲットをマイキーに任せ、またゾロゾロと演習場に帰っていく。
「なあ、そう言えばさ、ホーバスの兄貴」ミサイルボーイが口を開いた。
「マイキー先生とボーグって、どういう関係なの? 結構仲良さそうな感じだけど」
「ん? 知らなかったのか」と、ホーバス。「同期だよ。確か同じ機神装甲に師事していたはずだ」
「ん……あれ?」
「やあ、ゲット君。目が覚めたかい」
「マイキー先生!?」
やっとゲットも目が覚めて、ぴょこんと飛び起きた。だがそれと同時に、ふらりとめまいがする。
「あー、まだ無理して起き上っちゃ駄目だ」
「でもオレ、演習が……あれ、オレ、なんで寝てんの?」
「疲れてぶっ倒れたんだぜ。で、オレが呼ばれた」マイキーは冷静に言いなおし、水で絞ったタオルを新しいものに取り換えて、ゲットのおでこにあてがい直した。
「倒れたって……」
「ジョー君たちから詳しいこと聞いたぜ。最近、頑張りすぎてたんだろ? 体に限界が来ちまったんだよ。特にキミはまだ子供なんだ、大人の奴ら以上の特訓をしたら、限界がすぐ来るのは当たり前だ」
てきぱき話すマイキーの口調に、ゲットの方もウッと言葉が詰まる。確かに最近、メニュー以上の訓練はしていた。
「練習は二倍したから二倍の速さで実力が上がるってもんじゃねえんだ。自分が一番よく伸びるバランスを見極めるのも、戦士には必要な技術だぜ。特に、子供のうちは……」
「オレ、子供じゃない! 二つ名だってもらったんだぞ!」
「え、ウソ、貰ったの!?」マイキーが一瞬素で驚く。ゲットはフンと胸を張った。
「へー……すげえな、ゲット君。まだ10才だろ? オレはまだだったなぁ……」
「ふふーん! だろ!?」
「いやー、ゲット君、才能あるなー! あ、いけね。話がずれるとこだったわ。そうだな……じゃあ、特に『体が未熟なうちは』だよ」マイキーは慌てて軌道修正。
「二つ名まで貰ったとなりゃ、ゲット君の気持ちはもっとよく分かるぜ。他の奴らに早く追いつきたかったんだろ?」
「うん……」ゲットもコクリとうなずいて同意する。まさに、彼の言うとおりだった。
『小さな勇者』それが、彼に与えられた二つ名。「小さな」が取れるためにもっと頑張れ、とボーグは自分に言った。
だから、早く強くなりたい、と思っていたのだ。この数日間。マイキーはその旨をまるまる聞いてから、再び言葉を重ねた。ゲットをもう一度ベッドの上に寝かせながら。
「そうだな。確かにそう言われりゃそうもなるわな。ボーグの奴、いっつも一言余計なんだよ、昔から。けれどな、ゲット君。オレたちはヒューマノイドなんだぜ。体をサイボーグにして、強化する種族なんだ」
「っていうかさ、マイキー先生」大人しく布団をかぶりながら、ゲットは言う。
「オレもサイボーグ手術したいよ。他の奴らはもっとしてるだろ?」
「それはできねえ相談なんだよ。問題は、まさにそこなんだ」マイキーは指一本立てて、釘を刺した。
「サイボーグ手術して機械化したところは、もうそれ以上成長しねえんだ。けど、いうなればそれ以上に強くはなれねえってことだ。だからこそ、サイボーグ化の後の強さには、素体になった肉体の体力が大きく関わってくる。サイボーグ化部分の割合を増やして強化するのは、体の成長が止まる歳になってからだ。身体が成長していく間は、素の肉体をしっかり鍛えて、基礎体力をつけることが肝心なんだよ」
実際、ゲットの体にはまだあまり改造が施されていない。彼に与えられているのは、主に装着式の武器だけ。ちなみに、紅戦線の中では同じく年少の部類に入るミサイルボーイも同じようなものだ。もっとも彼はゲットより年上だからか、ゲットに比べれば重装備を許されているが……。
「そのためにも、無理は禁物なんだ。今のうちから取り返しがつかないくらい体ぶっ壊してみろ。ゲット君の夢の機神装甲どころか、一生補給兵が関の山になるぞ」
「げ! マジで!?」
「マジマジ。そんな奴何人か見てるぜ、オレは」
「ウソだろ……」
「ホントホント。オレ、ゲット君が生まれる前から医者やってんだぜ……?」
ゲットは急に、布団をかぶって震えだした。よっぽど、マイキーの言うことが怖かったらしい。
マイキーはそれにケラケラと面白そうに笑うと、「そうそう、ゲット君にお土産あるんだ」と言いだした。
「ほれ、これ」
その言葉に、ゲットも恐る恐る布団から顔を出す。……そしてその途端、ゴーグルの奥の目を輝かせた。
マイキーが荷物から取り出したのは、小さな袋。そしてそれに入っている、丸い物。
「オレ特製のキビ団子。甘いもんなんてめったに食べれねーだろ? ほれ、あのオッサンどもが帰る前に全部食っちゃいな」
「やったー! マイキー先生大好き!」
ゲットはさっと袋をひったくって、ぱくぱく片っ端からキビ団子をほおばり始める。マイキーは「喉に詰めんなよ」と苦笑した。
「んー! あめー!! おいしー!!」
「そったそっか。そりゃ、良かったぜ……」
と、その時。急にドシドシと重みのある足音が聞こえる。ゲットとマイキーはお互いぎょっと肩を飛び上がらせた。
「わわ! 誰か来る!」
「とっとと食えゲット君!」
焦り始める彼ら。そんな二人を知ってか知らずか、足音は遠慮なく近づいてきて、バンと音を立てて扉が開くと共に、止まった。
「何やってんだ、てめーら……」
呆れた顔をして、ボーグがそこに立っていた。
「ボーグ、お前急にくんじゃねえよ! あっ、案の定喉に詰めちゃったろうが! ほらゲット君、落ち着いて! オレが背中トントンってするから、ほら!」
「相変わらずピーチクパーチクうるせえな、てめぇは……」
ボーグはズカズカ入ってきて、ゲットの背中をどんと一突き。途端にげほっ、と鈍い音がしたかと思うと、「あ、ありがと、ボーグ……」と彼も言葉を取り戻した。そうは言いつつ、まだ口の中で団子をもぐもぐしながら。
「ったく、おい、マイキー! オレに無断で物食わせんなっていつも言ってんだろ!」
「いいじゃねえか、菓子くらい! 食い盛りだろ!」
ボーグはちっと一発舌打ちすると、「オレも貰うぞ」と、一つだけキビ団子を摘み上げて口に放りこんだ。
「……ん、ちゃんと砂糖使ってるじゃねえか」
「お、わかったか。最近じゃめったに出回らねえからな。手に入れんの骨が折れたぜ」と、マイキーはため息交じりに、しかし笑いながら返した。
本当に、口下手な奴だな、と思いながら。意識が戻ってよかった、と素直に言えないのが、この男だ。子供の頃はもう少し腕白だったけれど、でも、不器用な所はその時からだ。
●
ぽつん、と水が顔の上に垂れてくるのを感じて、ポップルは目を覚ました。体中が重い。自分の周りに見えるのは、いつも朝起きるたび目に入る自分の部屋とは似ても似つかない、どこかの洞窟。
そうだ、彼女は思い出す。昨日は一晩中、クルトを庇ってガーディアン部隊から逃げ回っていた。それこそ、夜が明けるまで。そのうち朝日が出てきたあたりに……ようやく、彼らの姿が見えなくなったのだ。
そのうち、体の疲れと眠気がどっと出てきて……この洞窟を見つけて、泥のように眠ってしまったのだった。
「神様!?」
彼女はふと、寝ている間にクルトがやられていはしないかと怖くなり、周りを見る。だけれども、クルトは無事、彼女の隣に寝ていた。寝顔そのものは安らかだが、やはりガーディアンに銃撃された痛々しい傷跡はそのままだった。もうバチバチと火花を放ってはいなかったが、その代わり、傷の中に見える内部機関……科学やテクノロジーと無縁な文明に生きてきたポップルにとっては、想像もつかないもの以上の何物でもなかったのだが……は黒く焦げて、すすけていた。
夢じゃない。
流れ星のように降ってきた光文明の予言者。その彼をなぜか排除しようとするガーディアン。それを助けてしまった自分。そして、真っ暗闇の中での逃避行……全部、全部、現実だったのだ。
彼女はそっと体を起こす。ごつごつした地面の上で寝ていたからか、疲れが取れるどころか節々に痛みが残っている。そろそろと洞窟から顔を出すと、ガーディアンの姿は見えない。
その代わり、そこには彼女にとって見覚えのない環境が広がっていた。雪も氷も、何もない。ただ緑なだけの木々、ただ茶色いだけの土。一年中常冬のスノーフェアリーの里では真っ白な雪や霜を掻き分けた先に見られるその色が、当たり前のようにありありと鎮座していたのだ。
知らない所に来てしまった。本当に、里から遠くに来てしまった。外の世界など何も知らない自分が。その事実が、ぞくりとポップルの上にのしかかってきた。
大丈夫? ちゃんと、里に帰れる? ……と、思った時、彼女の心に追い打ちをかけるようにもう一つの不安も湧いてくる。
仮に、里に帰れたとしても……彼らは、待ち伏せしているのではないだろうか? そう考えた瞬間、ポップルはさらに身がすくんだ。帰る場所が封じられているのではないか、常に帰る場所に守られてきた幼い少女が、そのような疑惑を前に恐怖を感じるなと言う方が、土台無理な話だった。
「ポップルちゃん……?」
後ろから、声がした。クルトが起きたようだ。「神様! 大丈夫!? 痛くない!?」と、ポップルも駆け寄り、彼を抱き上げる。やはり彼は、飛ぶことができないようだった。
「うん、痛いのは最初から大丈夫なノ。ボクたちの体、痛みとか感じるようにできてないかラ」
「何が……あったの?」
いずれにしても、それが疑問だった。クルトは確かに、お調子者で陽気な様子。神話や説教で聞かされていたような、秩序を守護する絶対者……と言う光文明のイメージからは確かに遠かったが、一方で、あれほど激しく殺意を向けられるほど悪いことをする相手にも思えない。とにかく、昨日からそれがずっと引っかかっていた。
けれど、クルトの方も「うーン……」と長い間考え込んだ後、申し訳なさそうに言った。
「ボクにも、わからないノ……なんで、ああされたのカ」
「ええっ……!?」
「ボク、悪い事してないヨ……なんにも、心当たりないノ……!」
そんなことが、あるのだろうか? ポップルはさらに混乱した。
確かに、光文明の神様たちは優しいだけの存在じゃない、とは言われている。千年前に闇文明を罰したように、秩序に背くものには罰を与える、だから悪事を働かず正しく生きるように、と、教えられてはいる。
けれど、何も悪くない相手に理不尽に罰を与えるような存在でもないはずだ。そう教えられて、信じて生きてきた。
「あ、たしかニ地上にご飯食べにいっちゃう事とかはあるけド……! それに、この前集会の時間にお昼寝しすぎテ遅刻しちゃっテ怒られたシ……今でもお祈りの文句を覚えられなかったりするけド……」
「……マイペースだね、神様」ポップルは先夜に引き続きの彼のマイペース具合を改めて実感して、今一度思う。
「でも、やっぱりどれも殺されるほどの事じゃないよね……」
「ボクも、そう思ウ! 皆、一杯怒るけド、でも優しいモン。みんな、許してくれるモン……」
彼は確かに悠悠自適だけれども、一方、聞けば聞くほど共感を覚える相手でもあった。
自分も、良く怒られる。けれど、虐められている訳じゃない。自分に厳しいコートニーだって、本当は自分を可愛がってくれているんだと知っている。
「……あ、そうだ。神様、予言者なんでしょ? なんでこうなったのかわからないの?」と、ポップルは一つ、思ったことを口にして見せた。
「できないノ。そもそもボク、予言ができないノ」
しかし彼は、そのような衝撃的な一言を返してきた。
「……え?」
「ボク、生まれつき、予言の力が弱くテ、皆みたいに未来を見れないノ。一番弱い予言者って、皆ボクのこと言ってル」
予言ができない予言者……。なんということだろう。クルトはとことんまでに、光文明においてイレギュラーの存在であったようだ。
「ごめんネ、頼りにならなくテ……」
しゅんと縮こまるクルト。けれど、ポップルの心の中には失望以上に、さらなる共感が湧いてきた。イレギュラーなのは、彼女にとっても同じことだったから。
一体、本当に何があるんだろう。この彼に、何故、狙われなければいけない理由なんてあるんだろう。
そして……自分はなぜあの時、とっさに体が動いたのだろうか? 逃げ切れたからいいようなものの……一歩間違えれば、たぶん、自分も一緒に殺されていたかもしれない。
確かに常日頃、困っている人は助けなさいとは言われているけれど……けれど、あんな危険な状況で、何故怯むより前に勝手に体が動いたんだろう。……何かに、突き動かされるような感触があったような気もする。とにかく、自分はクルトを助けなくてはならない、と一瞬のうちに感じた……。
「……ううん。大丈夫だよ、神様。未来が見えなくても、理由が分からなくても……あたしが、神様と一緒だから」
とにかく、事実がどうあろうと、今飛べもしなくなったクルトを守れるのは、自分しかいないのだ。守りたいと思った理由も、彼が追われている理由もよく分からないけれど……少なくとも、困っている人は助けなさい、と言うのは、守るべき自然文明の掟の一つ。
逃げよう、クルトと一緒に。ポップルの頭には、その選択肢一つが残された。クルトが悪いことをしていないのならば……いずれ光文明の他の予言者たちも、誤解を解いてくれるに違いない。
「神様。傷口、塞いであげる。こっち来て」
ポップルは先ほどまでの話を切り上げる。そして洞窟の壁にもたれかかって三角座りに座ると、膝の上にクルトを乗せた。
そして片手で杖を握り……傷口に向かって、魔法を詠唱する。そして、次の瞬間、クルトの痛々しく裂けていた傷口から……目を見張るほど鮮やかな山吹色の大輪の花が咲き、傷跡を覆い隠した。
「わア!」クルトもひょうきんな声で驚く。沈んだ気持ちは、少し飛んで行ったようだ。
「すごイすごーイ! ポップルちゃん、これ、地上の魔法!?」
「うん! 魔法だよ!」ポップルもつられて、つい素のまま明るくなる。
「でもあたし、まだまだ新米だからあんまり多くの魔法は使えないの。神様とおんなじだね。あたしができるのは、宙に浮くことと、こうして、お花を咲かせることと、あと……」
と、彼女が言いかけた時、クルトの体に咲いた花から、ぽわりとマナが湧き上がる。朝日のように光り輝く、金色のマナ。クルトの体と同じ色のマナだ。
「あ、出てきた!」
「こレ!?」
「うん! マナを作り出すこと! ……って言っても、お姉ちゃんたちみたいにまだうまく操ること、できないんだけどね……」
マナはすうっとクルトを癒すように染み込んでいく。「ううン! すごいヨ、ポップルちゃん、すごーイ!」とクルトは感激したように叫んだ。
「ありがとう……!」と、ポップルも、照れて笑った。
ポップルは、スノーフェアリーの中でも珍しいほどの、超高純度の「春」の力を宿すスノーフェアリー。
姉のコートニーも「春」の力を宿すが、彼女はそれ以上だった。だから、彼女はスノーフェアリーが基礎とする浮遊結晶以外、氷の魔術は一切使えない。浮遊結晶すら、習得するのに酷く時間がかかった。代わりに花を咲かせることと、マナを増やすことが、彼女の得意とする魔法だ。
だからこそ、二つ名が「春風妖精」。「春」の力は珍重されるが、彼女はその自分の価値を知らない。ただ「春」とはイレギュラーなのだという自覚が、最近少し芽生えてきた程度だ。
●
夕刻。
赤い夕陽の光を受け雲は鮮やかな紅色に染まる。紅色の雲海の中からは僅かに声が聞こえてくる。「おいおいサンドリヨン、あんまり飛んでくんじゃねーぞ!! まだおチビなんだからよー!」……光文明の声ではない。地上種族で雲まで高度に居られるとなれば、大方火文明のドラゴノイドがワイバーンを遊ばせているのだろう。
そのさらに上空には、一糸乱れぬ統率のガーディアン達に守護されるシルヴァー・グローリー。そのさらに頂点からそれら空の全てを見下ろしつつ、カティノが他のライトブリンガー達と会話していた。
「ジェス。例のプログラムのダウンロードが完成しました。待たせましたね。計画を進めてください」
「承知した」
「キリアス。……クルトについては?」
「まだ、見つからん。いったいどこへ雲隠れしたやら……」
「そうですか……いえ、しかし、ご安心を。私の予言に、狂いはありません」カティノは呟く。紅色の雲の間から見える下界を見下ろしながら。
「必ず、秩序が実現するはずなのです。私には見えます。《聖霊王》の威光の輝きが。それが実現するためにも……」カティノは呟く。
「この世の秩序を乱さんとする、愚かな下々の者の……邪魔が入ってはならぬのです。その我らが意志を象徴するものこそ、鉄壁の防御網『ファル・イーガ・カーテン』。そしてそれは……クルトの事も同じこと。もしもそのような邪魔が入らばその際は……」
金属の球体である彼に、表情はない。波打つほどの感情も。彼は全く無機質に、無感情に、その言葉を言ったのだ。
「何があっても、消すのです。秩序の御名の下、聖霊王の御名の下」
夕日が、水平線の向こう側に沈んでいく。予言者たちはリーダーのその発言に対し、口を揃え、「秩序の御名の下、聖霊王の御名の下」と復唱した。