ファル・イーガ・カーテン。
それは。光文明がかねてより計画していた、絶対防御布陣。光文明の防衛テクノロジーを結集した絶対に破られることなどあり得ない、鉄壁の防御網だ。
いかなる攻撃も許さぬそのシステムは、完成すればまさに光文明の威信と、秩序に対する揺るがぬ守護の心を象徴することとなろう存在。それがいよいよ完成間近となり、本日、彼らは地上へ演習に来ていたのだ。
それがたまたま、ドラゴノイドの演習と鉢合わせになった。だが勿論、ドラゴノイド側はそのようなことを知るはずもなかった。
だが、誇り高い彼らにとっては、ドラゴンが眠ると言われている火山地帯は神聖な場所。彼らにとっては光文明などよりも、ドラゴンの方が神なのだ。見も知らぬよそ者がかってにそこで演習するなど、到底看過できることではなかったのだ。
彼らは真っ先に光文明に攻撃した。……状況としては、そのようなものであった。
土煙がもうもうと上がり、弾幕が音を立てて光文明の金色の機体に向かってくるのを、暁の守護者ファル・イーガは冷めた目で見降ろす。隣に浮かぶライトブリンガー、ジェスと共に。
「何とも野蛮な武器です」ファル・イーガはそう感想を呟いた。
「あれで、我々に傷をつけられるとでも思っているのでしょうか」
「例えば、自然の民はそれが叶わぬことを知っている。誰が強いか、誰が支配に値するかを知ればこその、秩序の民なのだ」小さな金属の球体に影のようなオーラを纏わせたジェスは、そのオーラを爆風に揺らめかせながら言った。
「それが分からぬこと、真に崇める者は何かに目を閉ざされ、自らを強者だと思い込む傲慢さこそ、奴らの最大の欠点」
「予言者様にお見苦しい光景をご覧にいれ、申し訳ございません」
「よい。私は現場主義だからな」
飛び舞う銃弾の音など全く意に介さぬと言うようにファル・イーガとジェスが語り合う中、一撃、ひたすら大きな爆撃音が響いた。
「ヒィーーーーハァーーーーッ!!!」鋭く響く、若いドラゴノイド兵の声。
「だーーー、クッソつまんねぇよドラグストライクのアニキぃ! あいつらさっきから1ミリも攻め込んでこねえぜ!? オレらの砲撃守るばっかじゃん! ちげえんだよオレらのしたい戦いはよ! こんなんじゃねえだろ!? もっと肉と肉のぶつかりあい! 接近戦こそオトコの味よ! なぁ兄貴もこんなんじゃねえって思うだろ!? おもうよな!? なぁっ!!??」
そう早口でぺらぺらとまくしたてるのは《凶戦士ブレイズ・クロー》。相当に気性が荒く、戦いとなると体の止まらないタチの戦士だ。
そんな彼を「落ち着け!」と低く響く声で制したのが、今回ドラゴノイド軍を率いていた若いドラゴノイドの将官《爆竜兵ドラグストライク》だった。
「奴らは得体が知れん、先に行ってはあいつらの思うツボ……」
「そんじゃダメなんすよオレのパッションが悲鳴を上げてんすよあーもう我慢できねえじっと砲撃してるなんて戦士のやることじゃねえんだよオレのこの血が! この爪が! もっとアツい戦いを求めてやがんだ! アニキちょっくら2、3体ぶっ壊してきますぜ! 一番乗りはこのオレだ! ィイイーーーハァアーーー!!!」
「おい! 俺の言うことを聞かんかーーっ!!」
そう言ってブレイズ・クローは巨大なアイアンクローを片手に装着。ドラグストライクの制止も聞かずに、いの一番に光文明の防御編隊に突入していく。
「標的、接近を確認」量産型の小型ガーディアン、《蒼天の守護者ラ・ウラ・ギガ》のうち一体のレーダーが、彼を捕えた。
「私が防御を行います」
そう言ってラ・ウラ・ギガも、ついに不動のまま砲撃を放っていた光文明の編隊の中から一機、抜け出てブレイズ・クローを迎え撃った。ガキン、とガーディアンの体を形作る超合金と、ブレイズ・クローのアイアンクローがぶつかり合って音を立てる。
だが、所詮は火文明の武器と、光文明のテクノロジー。音は、ブレイズ・クローのアイアンクローの先端が割れた音。
ギリギリと、まずブレイズ・クローの方が押し切られているかのように見えた。
「ク、ククク……」
「パワーは私よりも下。ファル・イーガ様、このまま押し切れます」
ラ・ウラ・ギガは冷静に構え、リーダーのファル・イーガに通信を送る。ところが、手ごたえを感じたブレイズ・クローは怯むどころか……急に大笑いしだした。
「アヒャヒャヒャヒャヒャコレだよコレコレぇ!!! 打ち合いなんかじゃねえ、体同士のぶつかり合い! サイコーだぜえ!! これぞ争い! これぞ生きがい! これぞ戦士の生きる道よぉ!」
そして引くどころか、アイアンクローを更にラ・ウラ・ギガに押し当てる。すると、どうだ。メリメリと音を立てて、超合金のボディに先端を失ったはずのアイアンクローが食い込んでいく。
「たまんねえぇ! お前結構つえぇんだな! もっと戦おうぜ!? オレをもっと楽しませてくれよぉ!」
「なに……こ、こやつ……」
そして、ビシリ、とラ・ウラ・ギガの体にひびが入り始めた。すかさずアイアンクローを引き抜き、お返しとばかりにラ・ウラ・ギガに猛攻を浴びせ始めるブレイズ・クロー。
「ヒヒヒヒヒヒ!! 最高かよっ!? こいつらの体!! アーマロイドより殴りがいあるぜ! あー戦ってるっていう実感がマジ湧いてくる!! サイコーだ! こいつら、サイコー!!」
そしてそれが、契機だった。
「ちっくしょ、ブレイズの奴自分ばっか戦いやがって……!」
「オレらも行くぜ! 銃弾じゃ物足りねえ、この体であいつらをボッコボコにしてやらぁ!」
「火文明の歓迎をしてやるぜ、よそ者さんよぉ!」
「俺もだ! ほら、お前も行くぜ、サンドリヨン!」
ブレイズ・クローの一切遠慮抜きの戦いが、好戦的な他のドラゴノイドたちに火をつけたのだ。彼らはドラグストライクの「お、おい、お前ら!」という声も聞かず、一人、また一人と光文明の部隊に向かって特攻していく。
それと同時に、「標的を確認!」「私が守護に当たります!」と数体のガーディアン達も飛び出して……たちまちのうちに、山頂は乱戦状態となった。
「な、なんだ、こりゃ……」
茫然とするゲット達。戦いに夢中のドラゴノイドたちは彼らに気づくよしもなかったが……唯一、いまだに戦況を冷静に見守っていたドラグストライクは「む?」と、彼らの存在に気が付き振り向いた。
「ヒューマノイド……? 悪いが、見ての通り今は交戦中だ。貴様ら如きに構っている暇はない。立ち退け」
「言われなくても、オレたちだって喧嘩は売りに来てねえよ」と、マイキーが言い返す。
「オレらはただ状況を教えてほしいだけだ。何があった?」
「フン……野蛮なヒューマノイドに教える情報などあるか」
「んだとぉ!?」クウザの上からゲットが立ち上がって抗議しようとする。マイキーはそれを静かに制した。
と、その時、光文明の流れ弾が飛んできた。しかしドラグストライクもさすがの手練れ、手に持った丸い戦斧の刃で、軽々と弾き返す。砲撃は反対方面に飛んでいき、岩山を直撃した。大きな音を立てて、岩が崩れる。
「それともなんだ」と、ドラグストライク。「貴様らも、奴らと一緒に始末されたいと言うのか。俺は一向に構わん。見たところ、ザコしかおらんようだしな」
「マイキー先生!」さすがに、ジョーの方も面白くなく思ったらしい。「いいのかよ、言われっぱなしで……」
「……隊長」フレンディオスもざっと体をかがめ、臨戦態勢だ。「ご命令を下されば、いつでもあ奴の喉笛に……」
だが、マイキーはジョーとフレンディオスを「早まんじゃねーよ」軽くいなした。そしてドラグストライクに向かい合い、静かな口調で口を開く。
「……『奴ら』って言ったか、兄ちゃん」
「なに?」
「『奴ら』が何者か、知ってるのか?」
ドラグストライクは、う、と口をつぐんだ。だが、嘘をついても分かってしまうと判断したのだろう。素直に「い、いや……」と返す。
「兄ちゃん。あれは光文明だぜ」
「えっ!?」
と、声を発したのはドラグストライクだけではない。ジョーとゲットもだ。誰も、光文明なんて存在と空の上に住んでいるということしか知らない。その姿など、知る由もなかったのだ。
「マ、マイキー先生、なんで知ってんの!?」と、ゲット。
「ん。ヒューマノイド専門の医者っつてもな、一応他のいくつかの種族の事は勉強すんのよ。その延長で知ったんだ。……ま、オレも実際に見るのは初めてだし、あんまり深くは知らんが」
マイキーがドラグストライクに向かい合う。
「あの、おたくの部下たちの攻撃を食い止めている飛行機型の奴らが、『ガーディアン』。守りの部隊だ。でもって、後ろに、つるっとした奴らが沢山いるだろ?」
「うむ……」
「良く見てみな。ガーディアン達は基本的に、あくまで攻撃を止めているだけ。砲撃自体は、あいつらが行っている」
彼らが目を凝らして見てみれば、確かに、マイキーの言葉通り。見知らぬ身からすれば、光文明は一様に輝く合金の体を持った面々にしか見えないが、よく見てみればかなり明確な姿の違いはある。
前方でドラゴノイドと取っ組み合っているのが翼を持った流線型の体をしているものが多いのに対し、後方からレーザーの砲撃を次々撃ち込む機体は、その殆どが翼すら持たずに宙に浮く、勾玉のような曲縁で構成された抽象的なボディをしていた。
「あいつらはたぶん《イニシエート》っつー種族だ。どうも、光の主力で攻めの部隊らしい。ガーディアンに守らせつつ、安全圏から遠距離攻撃、って所か」
事実、その知識は正しい。
ガーディアンとイニシエート。これが光文明の軍隊の主力を成す、二大種族だ。
ガーディアンは、光の種族と秩序を守るために生まれ、守護のためその生の全てを捧ぐ、忠実なる空の守護者たち。
イニシエートは光文明の最大種族であり、主戦力。ライトブリンガーの命令の下戦い続ける、予言者の使徒たちだ。
「ふうむ……なるほど」
「で、兄ちゃん」と、マイキー。
「オレはあんたに情報をくれてやったぜ。当然、見返りくらいあるよなぁ? オレらと違って野蛮じゃないドラゴノイド様だったらよ」
グッ、とその言葉を受けてドラグストライクの表情が曇る。
「やだ……アタシらの隊長……カッコよすぎるわぁ……」
ゲットを背中に乗せたクウザが、うっとりして呟いていた。
ぐぬ、と苦虫を噛み潰したような顔になるドラグストライク。だが一息おいて、「……しょうがあるまい」と言った。
「先に言っておくが、俺たちとしても訳の分からん事態だ。普段通りに演習に来たら……奴らがこの山頂にいた。軍事演習を行っていたようだが……俺達が立ち退くように言って攻撃するなり、あちらも反撃を仕掛けてきて、今に至るというわけだ」
「軍事演習……? 光文明が、地上で?」
「うむ。神気取りで天に住まう奴らが、何の目的かまでは分からぬが……」
「たしかに……妙だな」
「いずれにせよ、我らは引き下がれん。あのような奴らなどより、我らには信じる神が……ドラゴンがある。その聖地を、あ奴らが汚しているのだ」
ドラグストライクはキッと光文明を睨みつける。
「生かしてはおけぬ!」
「そっか、頑張れよ。じゃ、ジョー君、ゲット君、お前ら。オレたちは帰るぞ」
ドラグストライクの言葉をあらかた聞き終え、そっけなく踵を返そうとしたマイキー。そんな彼にゲットは「えっ!?」と言った。
「マイキー先生、オレたち戦わねーの!?」
「バカ言えよ、戦闘準備もしてねーし……ドラゴノイドの戦にわざわざ首突っ込む義理もねぇだろ。オレが来たのは、状況把握のためだよ。ボーグに何が起こったか報告した方がいいからな」
「えー、だからってさぁ……」
ゲットは口惜しそうだ。ものすごく楽しそうに戦うドラゴノイドたちを見て。ジョーも少しのあいだ黙っていたが、それでもやっぱり彼の方は大人だ。
「ま、ゲット。確かにアイツらに加勢する義理はねえや。それにお前は病み上がりだしな。心配すんなよ。どうせすぐボーグやオレたちがボコにするって」
「えー……」
「(ったく、戦いたくて戦いたくてしょうがねぇんだな)」マイキーは心の中で思った。そう言えば、ボーグと自分も昔はこんな子供だったなぁ、と思いながら。
「フレンディ、アッシュ、クウザ。下山するぞ。クウザ、ゲット君に流れ弾当たらんように気をつけろよ」
「……御意」
「ウッス!」
「はーい! 了解!」
三対のアーマロイドも元気よく返事をして、踵を返す。クウザの背中の上でゲットは場を見ていた。「アーーヒャヒャヒャヒャ!! イイぜ! イイえ!! 最高だぜぇぇぇ!!!」と叫び続けながらラ・ウラ・ギガと取っ組み合うブレイズ・クローをはじめ、ドラゴノイド達の戦いぶりが聞こえてくる。まあ、そんな中だ。ゲットが戦いたいのも無理はないか。……そう、マイキーは思い、ここは慮ってと声をかけてやろうとした。……その時だ。
「……ゲット君……?」
ゲットはゴーグルの奥底で目を細め、何かを見つけた様子であったのを、彼は認めた。
「なにが……」
「……なんだ、あれ……?」
「え……?」
さて、戦闘意欲に火のついたドラゴノイド部隊の勢いは負けてない。ガーディアン達は次第にその見事な装甲にひびが入り、崩れかけていた……と、その時。ふと、あるものがゲットの目に入ったのだ。
イニシエート部隊から、数体のイニシエートが不意に音もなく、攻撃する様子でもなく空中に飛びあがったのだ。その中心にいるのはローズゴールドの機体を持つ《希望の使徒トール》というイニシエート。
目の前の敵に夢中なドラゴノイドたちも、帰ると決めたマイキー達の目にも入っておらず……火文明の中では唯一、ゲットだけがその不審な動きに気づいたのだ。
「ゲット?」ジョーも振り返る。「どうした……」
だが、異常は瞬時に、誰しもの知るところとなった。
「希望の使徒よ。覚醒せよ」光文明部隊の後方。ジェスが呟いた。彼の呟きは、トールに下される命令そのもの。
「汝の歌は夜明けの風なり」
戦場がたちまち、ドラゴノイド兵達を揺るがすかのような、爆音波に包まれたのだ。
いや、爆音波などと言う言葉は、相応しからぬ表現かもしれない。それは、音楽だった。血腥い戦場に相応しからぬ、荘厳華麗な音楽。オーケストラのような何重にも響く壮麗かつ、複雑な伴奏。そしてその音色を背に、マグマの熱にも負けじと響き渡る歌声は……甲高く無機質な機械音でありながら、余りに気高く、透き通った美声であった。
やがて、誰にも分かった。それは、イニシエート達の伴奏。そしてその中響く歌声は、トールから発されている音。ローズゴールドの体のイニシエートが、高らかに光文明の聖歌を歌い上げているのだ。
「チッ、なんだっつーんだよ、うるさいだけじゃねえか、脅かしやがって!」ドラゴノイドたちは不意を取られたのもつかの間、その歌声自体には何の攻撃力もないらしい……とわかるや、また悪態をつきつつ攻撃に戻ろうとする。……だが、その瞬間、彼らにも、この歌声の意味が分かった。ただの賑やかしではない。
その歌に合わせて地面に散らばったガーディアンやイニシエート達の破片が、吸い寄せられるように戻り……彼らの機体のひびが、塞がっていく。打撃攻撃でひしゃげた部分も、流れるようにたちまち元通り……。
「なんだなんだ、あいつら勝手に治ってんよ!」ゲットが驚いて叫んだ。光文明はトールの歌に包まれ、戦争の疲弊を一方的に治していく。
希望の使徒トール。彼は、光文明が誇る一番の聖歌の歌い手。
その秩序だったあまりに美しい歌は、仲間の機体の疲弊を癒す力を持つ。ファル・イーガ・カーテンの防御の要の一つと言ってもいい存在だった。
「むうっ、こんなことが……」さすがに、ドラゴノイドたちも不意を突かれひるむ。ドラゴノイド部隊に混ざっていたキュラトプスとて、その限りであった。
しかし、そんな彼らを励ます声が、また響く。
「ヒョーーーッッ!! 治ってくれたの!? めっっちゃ嬉しいじゃん!! 壊れたのが治ったってのは!! とどのつまりそいつは殴り放題じゃん!! お前ら、マジでサイコーだな! なあ、皆もそう思うよなぁ!? なっ!?」
ブレイズ・クローだ。
彼のこの落ち着きのなさがいいか悪いかはおいておくにして……このような状況で戦闘を心底楽しむ彼が良き発破となるのも、また事実であり。
「へっ、ブレイズの言うとおりだぜ」そう言いつつ、大きな砲台を構えたのは《超砲手ボルカノドン》。
「今度は、歌ごときに直されねえよう木っ端みじんにしてやらぁな! くらえや! ボォ・ルゥ・カァ・ノォ……」
ドォン、と彼も砲台を発射。それを喰らった白金のガーディアン《月光の守護者ディア・ノーク》の体が、半分以上を一度に損傷する。……それは、再生しなかった。どうやら一定以上の完全な損壊には、あの聖歌はさすがに意味がないらしい。
それを見て、キュラトプスもゴーグルを正す。
「……負けてはられんな! そうとも……」
彼も、自分の相手であったガーディアン、傷を完璧に治した彼に向かいながら……言う。
「それしきでこの俺をひるませられると思ったら、詰めが甘いわ!」
再び活気を取り戻す戦場。歌い続けるトールの歌声を邪魔するように、何重にも響くドラゴノイドたちの声。
「嬉しー! 楽しー! お前メッチャ殴りがいあるな!! オレも楽しいぜ! 死ぬまで殴り合ってたいくらい気持ちいいよ! サイコーだよ!! おめーらなんでこんなに殴ってて楽しいのに空の上棲んでんだよ!? なっ!? もっと戦争しようぜ!? もっと殴りあおうぜ! なっなっ!?」
「……理解不能。完全に正気の沙汰ではない。非秩序の極み……」
中でもやはりよく響くのが、一体のラ・ウラ・ギガに殴り掛かり続けるブレイズ・クローの声だ。ジェスはその声に、表情など存在しない身でもそのオーラを不快そうに歪める。それをファル・イーガも敏感に感じ取ったようだ。
「ジェス様……」
「想像していた以上に、下品な連中だな。ファル・イーガ。あれを……ただし、本気は出しすぎぬように」
「かしこまりました」
ファル・イーガも浮かび上がる。相変わらず早口でラ・ウラ・ギガにまくしたてるブレイズ・クローをはじめとするドラゴノイドたちの上空へ。
「えー!? なんで!? オレは正常だよ!? お前達の方が変だろ!? 戦ってボコりあってんの、最高に楽しいじゃん! なんで楽しいことを楽しいって言ったらだめなの!? ナアナア!」
「オラオラぁ! もいっちょいくぜぇ! ボルカノ……ドォォン!!」
「はっはっは!! なんだ、どうって事はないではないかぁ!」
と、叫び続ける彼らの上……トールの歌声とは絶対に混ざりあわない火の戦士たちのがなり声とはまるで異質な声が響く。
それは歌ではないのに、むしろ吐き捨てるような冷たい台詞であるのに……トールの歌い上げる聖歌と完璧に調和するような、厳かな声。
「少しだまっていてくれないか?」
そしてその瞬間。月光のような優しい光……しかし、同時に目を突き刺すような光がパッ、と彼らを包み込む。そして、その光を浴びた次の瞬間に……。ドラゴノイドたちはふらりと、地面に倒れ伏した。
「な!?」ゲット達も驚く。しかし一番驚いているのは先ほどまで暴れまわっていたのに急に倒れてしまったドラゴノイドたちの方だ。
「な、なんだよ、これ……?」ブレイズ・クローがうめく。「体が、動かねえ……」
光文明。最先端の発達を遂げたテクノロジーと、聖なるパワーを融合した独自の技術を持つ彼らは、水文明の科学的なプログラムとも、自然や闇の魔術とも一味違う……そして、いわば両者のいい所取りのようなテクノロジー呪文を扱う。魔術のような生まれつきの素養や儀式的なポーズを必要とせず、なおかつ科学のように即物的な体系や設備に縛られすぎもしない。まさに、完璧を愛する光文明らしい代物だ。
今、ファル・イーガがそれを放ったのだ。
ファル・イーガ・カーテンを任せられし指揮官、暁の守護者ファル・イーガこそ……光文明が誇る、テクノロジー呪文のエキスパートガーディアンだ。