Saga of Creatures   作:hinoki08

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サイバー電撃戦 2

 

 火山要塞ヴァル。その中にある紅戦線の基地で、紅戦線一同は大いに盛り上がっていた。

「いやー、腹いっぱい食えるって最高だわ!」と叫ぶタイラー。

 ドラゴノイドから食料を巻き上げ、戦勝祝いで大盛り上がりだ。ただでさえ火文明には食料が少ない。ヒューマノイドもドラゴノイドも、数少ない食料を必死で奪い合っているのだ。それだけに、たまに腹いっぱい食べられる日の盛り上がりは凄い。

「よっ、ゲット。ちゃんと食ってるか?」

「今日一日で三日ぶんくらい喰うぜ!!」

「それはやめろ」

 ゲットとジョーも仲良く会話していた。

「ずっとこんな日だったらいのにな!」

 ゲットはぼやいた。戦士として従軍しているとはいえ、まだ食べ盛りの子供だ。日々の少ない食事には彼はいつも不満を抱えていた。

「おうよ。そのためにもよ、もっとドラゴノイドぶっ潰すぞ」

 ジョーも同意してくれる。

「オレも戦場に連れてってくれる!?」

「そりゃ、ボーグ次第だろ」

 まだ無理だろうけどな、という言葉は、ジョーは口に出さなかった。

 

 

「すみません! ユーカーンさん!」

 一方こちらは切り立った火山の間、ボルシャック渓谷。ドラゴノイドの本拠地が、ここにある。

 派手なとさかを持つドラゴノイドの隊長、《騎兵曹長キュラトプス》は赤い鎧をまとった年かさのドラゴノイドに頭を下げた。

「大切な食料を奪われました……」

 キュラトプスは普段戦士なら絶対に流さない涙を目に浮かべている。ドラゴノイドの軍隊だけでなく、子供まで腹を空かせている中貴重な食料を奪われたのだ。ドラゴノイドと言う種族に強く誇りを持つ彼が傷ついても仕方がない。

 だが、赤い鎧のドラゴノイド戦士、名前を《爆勇士ユーカーン》と言われた彼は、キュラトプスを責めることなく告げた。

「自分を責めるな。悪いのはあのヒューマノイドどもだ」

 ユーカーンは、ドラゴノイドの王である。彼が身に纏う鎧は、ドラゴンの末裔として相応しいことを証明した証。彼はそれ故、多くの尊敬を集めるのだ。ヒューマノイドにとっての機神装甲のようなもの。

「報告は聞いている。ヴァルボーグが直々に来たんだとな。手落ちがあるとすればそれを予測できなかった俺にある。むしろお前はよくやった方だ。今はゆっくり体を休めろ」

 鷹揚なユーカーンの態度に、キュラトプスはまた涙腺が潤む思いだった。だが、そこは毅然と「は! ユーカーンさん、ありがたく思います」と礼をし、下がっていった。

「ヒューマノイドめ……」

 一人きりになった部屋で、ユーカーンは悔しそうにつぶやく。

 身体を守るウロコもない。敵を引き裂く牙もない、貧弱な種族のはずなのに。ドラゴンに連なる種族である誇り高き自分たちに食らいつく、目障りな存在。

「覚えていろ。必ず潰してやる。火文明はドラゴンのもの、そしてドラゴンの末裔たる俺達のものだ……」

 

 

「昨日の戦い、どっちが勝った?」

「ヒューマノイドの方だぜ!」

 一方その頃、マシン・イーター達は海岸線を練り歩いていた。彼らはどちらの味方でもない。どちらからでもお呼びがかかりさえすれば、仕事に駆け付ける。ピコラとピーカプが適当にだべっているのを、ジージョは少し後ろの方から聞きながら道具の手入れをしていた。

「ん……?」

「どうした。ピコラ」

「海、青いね」

「は? 海はそりゃ、青いだろ……」

 そう言いかけたピーカプの言葉が詰まったのに、ジージョとピーポも反応する。「どうした?」とジージョが言いかけた時、彼らも言葉を飲み込んだ。

 海が青い。だが、普段の青さでもない。青い塗料を流し込んだように真っ青に染まり、しかもそれがずんずんと、津波のように海岸線めがけて押し寄せてくる。

「な、なんだ!?」

 彼らは慌てて望遠鏡を取り出した。押し寄せてくるのは津波ではない! 青い体をした戦士たちだ。

「まさか、水文明……?」ピーポがボソリと呟いた。

「水文明だと?」と、ジージョも乗っかる。「だけど、一族郎党引き連れて遊びに来ましたって雰囲気でもねえな」

「見ればわかるさ」

「自然の土地に、闇が進行してきたって風の噂に聞いた」ジージョはハラハラしつつ呟いた。「まさか、この火の土地にも……?」

「ピーカプ。ピコラ。お願いがある」ピーポはあくまで落ち着いた声で言った。

「このことを知らせてきてくれ。ピーカプはドラゴノイド、ピコラはヒューマノイドの所に」

「二種族に知らせるのか?」とジージョ。「あいつら素直に共闘するとは思えないぜ」

「だとしても多く居るに超したことはない。僕たちはここで見張りを続ける。良いね」

 若いマシン・イーター二人はうなずき、全速力で駆けていった。間に合えばいいのだが、と年配の二人は心配しつつ、観察を続けた。

 

 ●

 

『こちらリキッド・ピープルA部隊。トロピコ様にご報告を申し上げます』

 軍の後方にいる司令官のトロピコに、無線で第一報が送られてきた。

『異常ありません。水温はやや高めですが、我々の生存および戦闘に支障をきたすレベルではありません』

「おっけー」

『海岸線近くに軍隊の姿は見えません。上陸は可能かと思われます。危険度Eです』

「おっけーおっけー。じゃあまずかいがんせんをかためよ。ほうこくはそれだけ?」

『はい』

「じゃあとっととおかにあがっちゃって」

 トロピコは通信を切ると、今度はもう一つの画面に向かって話しかけた。

「うぉるた。こーらいる。いまのところもんだいはなしだよ」

「ああ、こちらも聞いていた」

 ウォルタとコーライルも、遠方から監視しつつ指示を出すのだ。

「ぐんたいのすがたすらないってさ!」奇襲なので当然と言えば当然だが、それに超したことはない。ウォルタはにやりと笑った。

「なんだ、この程度か」

「早く海岸線基地を固めましょ。それでシミュレーション通りよ」コーライルもニコリと笑って言う。

『こちら、リキッド・ピープルA部隊。上陸可能です』

「じょうりくしろ」

『かしこまりました!』

 そしてトロピコの指示通り、数百体のリキッド・ピープルが陸に上がった、その時だった。

 

 サイバーロード達は監視用サイバー・ウイルスから送られてくる画像を見て、目を疑った。

 ジュウ、という一瞬の音とともに、水蒸気爆発。最初に上陸したリキッド・ピープルの部隊は、大地に触れたとたん蒸発した。

 

「え……?」トロピコは目を見張る。シミュレーションにはなかった。上陸時の地表温度だって、問題ないレベルを観測していたはずだが……。

『トロピコ様、こちら、リキッド・ピープルA部隊。不測の事態が起こりました……』

 通信が入ってくる。かすれ消えるような声で。

『大地の中に、何者かがいます……』

「なに……?」

 次の瞬間、トロピコもその言葉の意味が分かった、大地が音を立てて割れる。そしてその中から……マグマの体を持つ怪物たちが出現した! 

「な、なんだ、これ!? でーたにはないぞ!」

『奴らは液体岩石内に生息……』通信の声が途絶えつつある。『危険度A……』

 それで、彼との通信が途絶えた。彼も蒸発してしまったのだ。

 

『うぉるた! こーらいる! こいつら、なにもの!?』

 監視画像をアカシック3で見ていたウォルタとコーライルも、ぎょっと驚く。コーライルが急いで、画像をデータベースの検索にかけた。

「ひょっとして……《ロック・ビースト!?》」

 ロック・ビースト。火文明に昔、存在を知られていた野生動物、マグマの中に住む恐竜たちだ。だが、ここ数百年の目撃情報はなかったはず。なぜ、このタイミングで目覚めた! 

「マグマの活性化のせいか……?」ウォルタは震えた。

 

『こちらB部隊! トロピコ様、こ、これ以上の進行は極めて困難です!』

 悲鳴のような通信が入ってくる。トロピコを乗せたカプセルは沖合に浮かんでいるものの、望遠鏡を通して見える景色からは、パニック状態になったリキッド・ピープル軍の姿が見える。

 ロック・ビーストたちはその間にも次々に大地を割り、目覚めていく。

『どうしましょう……』通信機から狼狽えるコーライルの声が聞こえてきた。

「こーらいる。ろっく・びーすとについてのじょうほうをボクのたんまつに。いそいで」

 トロピコは前線からの悲鳴に「すこしまっていろ。ぼうえいたいせいをとれ。せんりょくをへらすな。このご、ひゅーまのいどやどらごのいどもくるんだ」と命令し、カプセルの中で複数のモニターを起動させた。

「ボクらのせんそうだ、あんなかいじゅうごときに、じゃまさせられない」

 彼らのマグマのボディを封じ込めることができれば、計画通りに行く。

「さいばーろーどのちのうを、あまくみるんじゃないぞ」

 

 ●

 

 ドン、と大きな音がして、鉄の扉が破れる。

「ボーグさん! 大変! 大変だよ!」

 紅戦線の基地の扉が叩き壊されたと思ったら、現れたのは大きなハンマーを持った幼いマシン・イーター。ピコラだった。

「ピコラか……また随分と急いでるな」

 扉が壊されたことには特に何も言わずに、ボーグは急いでいる様子の彼に言った。「何の用だ? またドラゴノイドか?」

「ううん。海岸線に、侵略者が来たんだ!」

「侵略者!?」その話を聞いていたヒューマノイド兵士たちも、一斉に反応する、どやどやとピコラの前に集まり、彼の話を聞いた。

「そう。彼ら、たぶん、水文明だよ」

「水がうちに何の用だよ」と、タイラー。

「そう言えば、自然が闇に侵攻され始めたらしいと聞いたな」ホーバスが言った。

「あいつらも同じ考えか……?」

「わかんないけど、多分そう。お願い皆、ガル海岸に向かって!」

「勿論だ。……ふざけやがって、何が水文明だ。データをこねくり回しているだけのヘナチョコ共が……」ボーグは言った。そして、紅戦線の全員に向かって言う。

「お前ら、すぐ準備しろ! 戦争だ! オレ達火文明を舐めたことを思い知らせてやれ!」

 おおっ!! と大きな声とともに、彼らはさっと武器の準備に取り掛かった。だが、その中の一つの小さい影に向かって、ボーグは叫ぶ。

「おい、ゲット」

「な、なんだ!?」

 ゲットはパッと笑顔になって、嬉しそうに振り向く。だが、帰ってきたのは非情な一言だった。

「お前は留守番だ!」

 

 張り切っていたところに水を差されて、ゲットもむきになって言い返す。

「なんでだよ! 大変なんだろ!?」

「大変だからこそだ、他文明の戦争なんざ、数百年ぶりだ」だが、ボーグも全くためらわずに言いかえす。「お前みてぇな経験の浅ぇガキは足手まといだ!」

「なんでだよ、オレだって……」

 そう言いかけたゲットだが、準備を終えてぞろぞろと出撃に向かうヒューマノイドたちに交代でポンポンと頭を叩かれながら言われた。

「ま、ガキにゃはえーんだよ」とタイラー。

「二つ名貰えるくらいになってから大口叩けよ」と、ホーバス。

「オイラたちの武器の手入れしといてくれよな!」とミサイルボーイ。

「《デューンゲッコー》の世話もサボるんじゃないぞ」とムラマサ。ちなみに、デューンゲッコーとは主にヒューマノイドたちが飼っている家畜である大型トカゲの事。

 交代に馬鹿にされて、悔しそうにしているゲットの頭を最後にポンとたたいたのが、ジョーだった。

「まあまあ、皆口悪いけどお前のこと心配してんだよ。留守、頼んだぜ。ピコラ、この基地の警備と、こいつの相手、頼んでもいいか?」

「うん、いいよ!」

 ゲットはまだ何か言いたげだ。しかし、ボーグの「紅戦線、出撃!」と言う大きな声と共に、あっという間に紅戦線の戦士たちは要塞から離れていった。

 

 ●

 ガル海岸に向かう最中の紅戦線を出迎えたのは、ジージョだった。

「早かったじゃねえか、お前ら」

「まあな」ボーグは答える。

「だが、余りその必要もなさそうだぜ。聞いて驚けよ。ロック・ビーストが目覚めたんだ」

「ロック・ビースト!」ホーバスが驚いた。「本や昔話にしか出てこないぞ」

「まあな。でも、水文明の奴らには相性は最悪だったらしい。あいつら、慌てふためいて……」

 その時だった。海岸の方から、すさまじい叫び声が聞こえた。

 あの野太い声は、水文明のもののようには聞こえない。

「なんだ!?」ジージョは驚いて望遠鏡を取り出した。ヒューマノイド戦士たちも、目を改造しているものは遠くにピントを合わせる。

 そこには、信じられない光景があった。

 ロック・ビースト達が、そのマグマの体を透明な物質に覆われて、逆に苦しんでいる!! 

 

 

 沖合の様子を眺めながら、トロピコはにこにこ笑っていた。

『トロピコ様。標的《メテオザウルス》《ストーンザウルス》《ガルザウルス》《ボマーザウルス》四対共にこちらに攻撃はできない模様です』

「よしよし。いいかんじだね。さすが、ぼくのはつめい!」

 透明な物質の正体は、サイバー・ウイルスだった。サイバーロードの技術で生まれる、極小の人造生命体だ。トロピコ……サイバーロード屈指の天才バイオエンジニアは新種のそれを、送られてきたデータを参照し急遽作り出したのだ。ロック・ビースト対策として、彼らの体を覆い隠して体温を栄養として奪う、爆発的な繁殖力と成長速度を持つサイバー・ウイルスを。

 六角形に輝く、ガラスのように透明なそれらはがっちりと絡みつきながら、ロック・ビーストの上でさらに繁殖を続ける。その体がマグマの熱で蒸発するよりも速い速度で。

「なまえ、なにがいいだろ……《すてんどぐらす》とか、どうかな?」

 我ながら良いネーミングセンスと思い、トロピコはほくそ笑む。そんな彼の耳に通信が入ってきた。

『トロピコ様。こちらDグループ。火文明の軍隊を確認致しました!』

「けいかくどおりにいくんだ」トロピコは言う。

「さくせんめい《でぃーぷ・おぺれーしょん》かいし。ぜんいん、はいちにつけっ!」

 

 

 

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