Saga of Creatures   作:hinoki08

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春風妖精の冒険 5

 

「おかーさん! おかーさん!」

 ビーストフォークの少女が興奮気味に言った。

「どうしたの」

「あのね! 妖精さんがお花のお舟に乗って、川を下ってったよ!」

 目をキラキラさせながら話す彼女。だけれども彼女の母親は「そんな馬鹿な」と一笑に付す。

「何かの見間違えよ」

「違うの! 本当に見たの! 手をふったら、ふり返してくれたんだよ!」

 けれど、ビーストフォークの母は依然として信じる雰囲気ではない。笑って、娘の頭を撫でながら言い含めた。

「妖精さんたちはね、妖精の里から出てこないのよ。妖精の里から出てきたら、闇文明の悪い貴族たちに、お嫁さんにしようと攫われちゃうのよ」

「ほんとなのに……」

 ビーストフォークの少女はむすっとむくれたままだった。

 

 ●

 自然文明の、とある土地を流れる川。川自体はそう太くないが、流れは全くもって緩やかだ。河口が近いのだ。

 その中に、巨大な桃色の睡蓮の花がゆらゆら流れていく。ポップルとクルトを乗せた花の舟だ。

 川沿いで拾った長い木の枝をオール代わりにして、ポップル達は川下りを続けている。クルトは陽気に包まれてうたた寝中だ。気持ちのいい晴れの日に、緩やかな川の流れ。川沿いにはびっしりと、スノーフェアリーの里では見なかった木々が生えている……だが、そのうちポップルは、何かひそひそ声がすることに気が付いた。

「見てみて、あれ妖精じゃない?」

「本当だ、妖精なんて久しぶり」

「何百年ぶりかしら?」

「私はまだ生まれてないよ」

 ポップルはそれに気づいて、あわてて周りを見渡す。話し声は穏やかで、危険そうな感じは一切しないのだが……問題は、周囲だ。ビーストフォークなどを始め、周囲に声を発する種族は見当たらない。おかしいな、とポップルは思った。

「神様、神様」

「んー……なあニ?」

「声がするよ」

 しかし、ポップルは驚いた。クルトは寝ぼけた声で「エー? なんにも聞こえないヨ」と返してきたのだ。

 そんな馬鹿な、実際声がするのに。……ポップルはさらに聞き耳を立ててみる。

「大きい睡蓮だねえ。君が咲かせたの?」

「聞こえてる? ごきげんよう」

 バラバラに聞こえる、様々な声。なんだか、自分に話しかけているみたいだ。どうしよう。いったい、だれが話しているんだろう。周りには、樹や草花しかないみたいだけれど……。

 と、そこまで思い至った時。先日孤高の願と交わした会話を、彼女は思い出した。どの種族とも言葉が通じると言う孤高の願に対して、した質問の一つ。あたしもできるようになりますか、と言う問いに対して、彼はこう返してくれた。

『うん。相手が意思もつ種族である以上、意思の疎通は特に難しいものじゃないからね。相性もあるが、できると思うよ』

『相性?』

『どの種族と特に話しやすいかは個人差や生まれつきの素養に寄るかな。君の場合は……そうだな』と、孤高の願は腕を組んで言った。

『君たち妖精……とくに春のスノーフェアリーは、生まれつき植物と縁が深いからね。ツリーフォークなんか、話しやすいだろう。ツリーフォークとは先天的に話せる妖精も多かったって聞くよ』

 ツリーフォーク。寒いスノーフェアリーの里の近くでは、やはり生息していなかった。普通の木々とは一線を画した、意思と理性を持つ草木の種族だと聞く。

 本当にこの声がクルトに聞こえていないとすると……もしかして。

「あのー、皆さんもしかして、ツリーフォーク?」ポップルはオールを川底に突き立てて、動きを止める。そして恐る恐る、声を上げてみる。すると……川沿いの木たちがわっと、俄かに沸き立ったようだった。

「言葉が通じた!」

「ごきげんよう、お名前はなあに?」

「本物の妖精なの? 私、会うのは初めて!」

 もっともっと鮮明に、聞こえる言葉の数々……ポップルは感動した。ツリーフォークと、言葉が通じる! 

 見た感じ、本当に植物にしか見えないが……それでも確かに、知性を持っているのだ。ポップルはパッと笑顔になって、元気よく挨拶する。

「こんにちは! あたしスノーフェアリーの、春風妖精ポップルって言います」

「やっぱり本物の妖精だ!」

 ツリーフォーク達は俄かに沸き立つ。

「ようこそ、ここはツリーフォークの村よ!」

 

「すごーい! おばあちゃんから聞いた通り! ビーストフォークとは全然違うんだ!」

「久しぶりだわ、若木の頃を思い出すわ!」

「昔はね、妖精がよくここに遊びに来てくれたのよ。みんな、あなたみたいにかわいい子たちだったわ」

「春の妖精は、ツリーフォークの友だちよ。歓迎するわ!」

 口もなく、ざわざわ聞こえるだけなので、誰がどの言葉を言っているのかはまだ見当がつかなかったが……それでも、胸が躍る。こんな日が来るなんて! 

 彼ら、彼女らがフェアリーに友好的なのも、ポップルには嬉しかった。昔はスノーフェアリーだって、里から出ていたんだ、と目から鱗まで落ちる。

 クルトはぽかんとしている。ポップルは笑って「神様、この人たち、ただの木じゃないよ。ツリーフォークだよ。あたし、ツリーフォークと話せるみたい」と説明した。

「えー! ホントー! ツリーフォークってアレ? 《スターライト・ツリー》みたいな感ジ!?」

 ……スターライト・ツリーってなんだろう。ポップルは思った。

 ちなみに、光文明が領土とする天空に存在する、光文明の植物種族なのだが、彼女はそれを知らなかった。

 だがとにかく、今はツリーフォーク達だ。

「もう長い事来ないんだもの。枯れるまで会えないと思ってたわ、本当に驚きよ」

「あたしもビックリしてます」とポップルは返す。

「フェアリーは里から出ないものだって言われてましたから……」

「そうだったの!? ここだけじゃなくていろんなツリーフォークの村に、妖精たちは行ってくれていたはずよ」ツリーフォーク達は驚いている様子。

「君みたいな子がまた来てくれて、うれしいな」

「今日はどうして、ここに来たの?」

「あたし、冒険してるんです!」と答えるポップル。

「この川を下って、新しい所にいこうと思いまして」

「なるほど」口を揃えて言うツリーフォーク達。

「ねえねえ、私たちを魔法でおめかしさせて!」幼い声が甲高く聞こえてくる。

「おばあちゃんたち、いつも春の妖精が来るたびにおめかしさせてもらったって言ってたわ!」

 おめかし? 何のことだろうとポップルは一瞬思ったが、春の妖精が魔法ですることと言ったら相場が決まっている。

「いいよ!」とポップルは返事し、川底に刺したオールを引っこ抜く。またゆっくりと、睡蓮の舟が河口に向かって流れていく。

 ポップルはオールを持っていないほうの手でタオパブの杖を握り、念じた。すると、春の力が放出され、川沿いのツリ-フォークたちに降り注ぐ。そしてそれを受けた彼ら、彼女らの体には、次々に、花が咲き乱れた。

「わあ、素敵!」

「ありがとう!」

「やっぱり花を咲かせると、気持ちがいいわ」

 ツリーフォーク達の喜ぶ声が聞こえてきて、ポップルも心底嬉しく心が躍る。カチュアを始め、自然文明で魔法を教える者は、魔法は他者のために役立ててこそ、と一番最初に教えてくる。花を咲かせる自分の魔法でツリーフォーク達が喜んでくれるのが、ポップルにとっては本当に幸せだった。

 ゆったり川を下りながら、魔力も川の流れに沿って下流へ、下流へと流れ、川沿いのツリーフォークたちに順番に降り注いでいく。たちまちのうちに、ツリーフォークの村は春爛漫の花盛りだ。

「すごーイ……」クルトもうっとりしてため息をついている。一見似たように見えるツリーフォークでも、個体差があるのだろうか、赤、白、黄色、桃色にオレンジ。大きい花、小さい花。尖った花弁、丸い花弁が入り乱れて、様々な花の甘い香り、さわやかな香り、種々の芳香も複雑に絡まり、夢のように幻想的な光景だ。

「ありがとう!」「ありがとう!」と、ひっきりなしに聞こえてくる声。ポップルは照れて笑って「どういたしまして」と返した。

「何かお礼をしなきゃ」

「この後、どこに行くの?」

「まだ川を下るつもりですけれど」ポップルは聞く。「この先、何があるんですか?」

「ここを下ると、もうすぐ本流よ」

「すぐ、海につくよ。見たことはないけれど」

「海の近くはしょっぱくて、僕たちはいけないんだ……あっ!」と、一人のツリーフォークの声。

「みんな、お礼の品が思いついた!」

「あ! そうか!」

「妖精さん、ありがとう! 今からお礼するよ!」

 彼らがそう言った瞬間、急に森がざわめく。ポトン、ポトンと、ツリーフォーク達は乾いた古い枝を落とし始めた。

 しゅるしゅると、それが勝手に地面をはい回る。ポップルは驚いたが、よく見るとつる草のツリーフォーク達の仕業だった。彼らが蔓を伸ばして、枝を運んでいるのだ。

 大量の枝が集まり、つる草のツリーフォーク達がそれを自分の蔓でまとめ上げる。最後に彼らがぷつんと自分の蔓を断ち切ると……そこには立派な筏が出来ていた。

「海の近くは水がしょっぱいから、お花の舟じゃしおれちゃうわ」

「ここから先は、このお舟で下っていくといいよ!」

「あなたの咲かせたお花は、私たちの村で一緒に暮らせばいいのよ」

「本当ですか!?」ポップルは嬉しそうに言う。やはり、自分で咲かせた花がしおれるのは、あまりうれしくない。

 そっと自分の前に浮かべられた筏に、ポップルはクルトと一緒に乗り込む。軽くて、乗り心地がとてもいい。

 そしてポップルは今まで自分を乗せてきてくれた睡蓮の花をそっと、流れの緩やかなところに置く。ありがとう、と言葉を残して。

「うん、すごく素敵なお舟です! 皆、ありがとう!」

「いいのよ、こっちも妖精とまた会えてよかった!」

「また来てね! 今度は海のお話を聞かせて!」

 筏はまたゆっくりと河口に向けて流れていく。

「みんなとってもお洒落になったわ」

「今日は一晩お祭りだ!」

「ジャイアント・インセクトたちよっといで!」

「種を遠くに運んでおくれ!」

 ツリーフォーク達が喜んで歌う声を聴きながら、ポップルは後ろに向かって手を振る。クルトも、会話は全く分からなかっただろうがとりあえず手をぶんぶん振っていた。

 

 

 ●

 ……と、いう一連の事があったのが、何を隠そう、アカシック3でアクアンがスティンガー・ボールの映像を見つけてから数時間後のこと。

 彼はエメラルに借りた諜報部のデータルームで、自然文明のデータを紐解いている真っ最中であった。

 二日前の映像とはいえ、水文明の技術や論理計算を用いれば、ターゲットがどこに進んだかは絞り込めるのだ。その方法を用いて彼女の現在位置の候補のデータを集中的に読み解き、ポップルの痕跡を探っていたアクアンのもとに……サイバー・ウイルスからの情報が届く。彼の借りている情報管理用コンピューターに、急にメッセージが届いたのだ。

『座標NT-AT6789024SS-T67123より。半径2km以内の範囲に、異常レベルのマナ・エネルギーの発生を感知。波長がやや特殊。災害、損傷被害などは確認できず』

「特殊……!」アクアンはもちろん、それに目をつける。そして送られてきたデータをすぐ展開した。

 送られてきたマナ・エネルギーの波長は……やはり彼の読み通り、春の魔力によるエネルギーだ。

 間違いない、すぐそこに来ている! 

「キャンドルちゃん、地図を!」

「はいですわ!」

 フェアリー・キャンドルがプログラムのボタンを押すと、当該の座標周辺の地形データが展開される。……それを見て、アクアンは驚いた。該当の座標の半径以内には……先ほど本社で見たスティンガ-・ボールの画像の観測地点と、ひとつながりの川の流域がある! 

「……にひひ、まさか、バカ正直に川を下ってるだけだったり?」

「あらまあですわ」

「この河川沿いに控えているスティンガー・ボールはと……」

 ポップルの下っている川の流域は、流れも穏やかで危険な種族も住んでおらず、早くにスティンガー・ボールを送り込め、定着させられた地域なのだ。なので追跡は簡単なもの。アクアンは検索にかけ出てきた個体あてに、命令信号を打ち込む。映像をリアルタイムでこちらに送信しろ、と……。

 ほどなくして、届く映像。下流近くの水面は穏やかで、ひらひらと葉っぱが流れていくばかり。だが……ほどなくして、そこに現れた姿。しかも今度は昼間の、鮮明な画像だ。

 筏に乗ったその姿は、まさに二日前の映像に映りこんでいたスノーフェアリーと同一人物。しかもあの時と同じように、大人の姿などかけらも見せない一人旅だ。

 フェアリー・キャンドルは今一度、舌などないのに舌を巻く思いだった。見つからないと思っていた春のスノーフェアリーが……本当に見つかってしまうなんて。だがアクアンはそんな秘書の様子に目もくれず、モニターの向こうのポップルを見つめながら思いきり口角を釣り上げて笑い、呟いた。

「……みーつけた」

 そう言いながら、通信端末でとある二人に文書を打ち込む。スパイラル・ゲートで至急移動し、待ち伏せているように、と座標を指定し。

 

 

 ●

 ツリーフォーク達の言うとおり、川はすぐ太い本流に合流し、流れは更にゆっくりとなった。彼らの与えてくれた筏はポップル達を揺らすことなく、すいすいと流れてくれる。

 そのうちクルトが、お弁当に持っていた木の実を一つ落とした。幸いなことに水に浮いたので、あわててクルトは拾い上げたが、それにかぶりついて驚いて一言。

「ポップルちゃん! 水がしょっぱいヨ!」

「え、ほんと!?」

 となると、いよいよ海に近づいてきているのだ。ポップルはオールを漕ぐ手に力を込める。そして、やがて彼らの視界に開けてきたのは……川など比べものにもならないほど、広々と開けた青い海。

 

「ワー……きれイ……」

「ほんと……! 海ってこんなにきれいだったんだ」

 スノーフェアリーの里からでも、海を見に行こうと思えばできた。ポレゴンと一緒に髑髏の海を見た、だから初めて見るはずではないのだが……。数日筏で川を下り見えてきたそれに、ポップルは底知れない感慨を覚える。

 髑髏の海のおどろおどろしさとはまた違う、穏やかで優しそうなさざ波……同じ海と言っても場所が違えば何もかも違うのだ。ポップルはその事を良く実感した。

「はやく海に出よう!」

 彼女はより一層オールを漕ぐ。すぐに舟は河口を抜け……海に出た。

 

「すごイ! すごーイ! お空より真っ青!」クルトははしゃぎっぱなしだ。波に揺れても、ツリーフォークの筏は良い乗り心地。

「あ!」ポップルは視線の先に白いものを見つける。砂浜だ。

 スノーフェアリーの里近くから見える海は、切り立った崖の下のもの。砂浜を見るのは、初めてだった。

「神様! あそこに行ってみよう! あたし、砂浜で遊びたい!」

 クルトは砂浜の概念を知らなかったらしいが……やはり大はしゃぎ。

「いくいクー! お空の雲みたイ!」

 ポップルは筏の向きを変えて、砂浜に向かって進みだす……だが、その時。

 

「遊ぶなら、もっと良い場所があるぞ、お嬢さん」

 

 声が聞こえた。

 こんな開けた場所で、ツリーフォークもいるはずもないし……どこから? ポップルはびくりと怯える。しかしほどなくして分かった。それは……水中から聞こえてきた声。

 

「我々が、連れて行ってあげようか!」

 そして次の瞬間……青い体をし、赤いマフラーと銃、ナイフで武装した戦士が水の中から飛び出した! 

 

 ポップルはとっさに、クルトを庇うように抱きしめる。ガーディアンのようには見えないけれど、彼らも光文明の刺客か!? 

「神様……この人たち、光文明?」ポップルは胸の中に抱きしめたクルトに言う。しかしクルトは、全身を横に振った。

「知らなイ……何、この人たチ!」

 クルトが知らない種族……? そう怪訝に思った瞬間、みしり、と筏に下の方から衝撃が走る。

 あぶない! 彼女がそう感じ浮遊結晶を作ったその時……海の底から足が伸びてきて、筏がバラバラに蹴り飛ばされた! 

 そして浮遊結晶で浮かび上がろうとしたポップルを、間一髪、その足の持ち主がガシリと掴む。

「見たか! このAGの蹴りの威力を!」

「コードAG! 売り物故傷はつけぬようにと、社長からの命令だ!」

「勿論わかっているぞ、バディ!」コードAGと呼ばれたその男は勢いよく返し、ポップルを掴み寄せた。

 さらに、赤いマフラーの男も彼女の前に立つ。……彼らは、水面に立つことが出来るようだった。

 どうにしても、彼らもクルトを狙っているんだ……! ポップルは一生懸命、杖を掴む。

「さて、気の毒だが少々眠ってもらおう」

 彼が赤い銃をポップルの方に向ける……そのタイミングで彼女は思い切り、杖を振って殴った。攻撃魔法が使えない彼女の苦肉の抵抗だった。「おわ!」と赤マフラーの男は声を上げる。

 だが、彼女は目を疑う。彼の腕に当たったはずの杖は……まるで水を通り抜けるように、彼の体をすり抜けた。

「(もしかして……リキッド・ピープル!)」彼女はぎょっとする。

 リキッド・ピープルも、ポップルにとっては闇文明同様、話でしか聞かない存在。液体の体を持つ、海の世界の兵士たち……そんな存在が、どうしてクルトを狙ってきたのだ!? 

「驚いたではないか……! 顔に似合わず意外と大人しくないな」

「お願い! 分かって! 神様は……クルトさんは絶対悪い事なんてしてないんです! 何かの間違いです!」ポップルは叫ぶ。

「クルトさんを殺させたりなんて、絶対させませんから!」

「クルトサン……?」

 目の前の二人のリキッド・ピープル……マフラーの男《アクア・レンジャー》と、コードAGこと《アクア・グラップラー》……ブルーグレー商会お抱えの戦闘員たちは、揃ってきょとんと眼を見合わせた。

「……何を言ってるかわからんが、我々はクルトサンなぞに用はないぞ」

 と、アクア・グラップラー。

「え……?」

 今度はポップルも、きょとんとする。てっきり、光文明の刺客だと思っていたのだが……。だがそうなっている暇もなく、すぐにアクア・レンジャーが返してきた。

「我々が用があるのは、君の方だ!」

 ? 

 ますますポップルは訳が分からない。どうして自分が、初めて出会ったこの種族に狙われる必要が? 

 だがそんな混乱する彼女の疑問にも答えず、アクア・レンジャーは再度銃を構える。

「なに、殺しはしない! ただの麻酔銃だ、安心したまえ!」

「やめテ! ポップルちゃんに乱暴しないデ!」クルトがポップルの腕の中から抗議したが、アクア・レンジャーもそれで銃を引っ込めるわけがない。

「悪くは思わないでもらおう! こっちも好きでやってはないが、サラリーマンは社長命令には逆らえなくてな!」

 彼が、引き金を引こうとした……次の瞬間、彼の赤い銃は跳ね飛ばされる。遠くに飛んだそれは、ぼちゃんと海に落ちた。

 え? 二人のリキッド・ピープルも、ポップルもクルトも面食らう。彼の銃を叩き落としたのは、一本のナイフ。

 彼らの後ろにはいつの間にか、小型の海賊船が迫っていた……その上から飛んできたのだ。

 

 

「見てらんないね。女の子を誘うならもうちょっと、マナーってもんを心得な」

 

 そしてその海賊船の上に……一人のビーストフォークが立っていた。年配の女性の、黒豹のビーストフォーク。巨大な丸い盾を持ち、そのふちには幾つもの形状をした武器がびっしりと、円を描くように突き刺されている。

「き、貴様……まさか!」

 リキッド・ピープル戦士たちは彼女の事を知っているようだった。黒豹のビーストフォークは笑って「おや、あたしを知ってるのかい」と低い声で言う。

「まあ、この海域でこの《盗賊の盾(マイティ・バンディット)》様を知らないなんざ、もぐりだからね。さてと……」

 彼女は悠々と、落ち着き払って告げた。

「とっとと帰んな、お二人さん。その妖精は、あたしが貰う」

 

 

 

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