「な……なにを勝手なことを!」アクア・グラップラーはポップルを抱えたまま叫ぶ。
「貴様、やはり海賊『盗賊の盾』か!」
「誰が貴様の言うことなど!」アクア・レンジャーも語気を荒げる。「貴様のおかげで、我々ブルーグレー商会もしばしば迷惑をこうむっている! 引っ込むのは貴様の方だ!」
……当のポップルはと言うと、終始混乱しっぱなしであった。
何故、ビーストフォークまで自分を狙い始めるんだろう? クルトでは無くて自分を? ……自分の事なのに茫然としたまま何も言えない状態のポップルを、ぶんとアクア・グラップラーは放り投げる。
「バディAR、妖精はまかせた!」
「了解だ、コードAG!」
ポップルが何か動く暇もなく、アクア・レンジャーは彼女をキャッチ。アクア・グラップラーは海面を蹴り、思い切り飛び上がる。
「粉々に砕いてやる!」
そして例のキックを、海賊船に向けて炸裂させようとする。ポップルも「あぶない! 逃げてください!」と思わず叫んだ。
だが、盗賊の盾は全く落ち着いたもの。碇付きの縄を下ろしたかと思うと、するりとそれをつたって自分も甲板から降り、船の外壁に片手でしがみつく。そしてもう片手を使って……先ほどの巨大な盾で、アクア・グラップラーの蹴りを受け止めた!
「なっ!?」
アクア・グラップラーも驚いている様子。あれほど強烈な蹴り技の持ち主が、たかだか自然文明の盾ごときに蹴りを止められた……と、それだけでも驚くのは当然だが、実際に受け止められた彼にしか分からない衝撃が、さらにあった。
「吹っ飛びな!」
盗賊の盾がそう言い、盾をぶんと振ったと同時に、アクア・グラップラーは……自分自身の蹴りの威力を逆利用されるかのように、勢いよく水平線の果てに吹き飛んで行った。ジャポン、とどこか遠くで水しぶきが上がったような音が聞こえた。
「コッ、コードAGーーーィ!」
相棒が吹き飛ばされたのを見て、アクア・レンジャーは叫ぶ。
「お、おのれいっ!」
彼は赤いナイフを構えたが、次の瞬間、もう一度甲板に上がった盗賊の盾は言った……碇つきの縄を一気に引き上げながら。
「お嬢ちゃん! 微動だにすんじゃないよ! その素敵なお顔が吹っ飛ぶかもしれないからねぇ!」
その言葉にポップルは一瞬びくりとすくみそうになるが、次の瞬間、彼女がぶんぶんとその碇を空中で振り回している様子を見て、一気に言葉通り体を固める。もしかして……。
「喰らえ!」
その、もしかしてだった。盗賊の盾は碇の縄を、思い切りアクア・レンジャーに向かって投げてきた。しかも……アクア・レンジャーが反応する暇もない速さで。
碇の端がポップルの頭をギリギリかすめない距離で飛んできて……そして重々しいそれは、アクア・レンジャーの顔面に直撃! 彼の首から上が、一気に飛び散った。
「きゃあっ!」
ポップルは叫ぶが……それだけでは終わらなかった。
アクア・レンジャーの体からも力が抜け、彼女が解放されたその刹那……グルン、と体に巻きつく衝撃。縄は、回転してクルトごとポップルを縛り上げていった。
「心配すんな、お嬢ちゃん! 奴は見たところ、すぐ回復する類のリキッド・ピープルさ! これしきじゃ死なんよ!」
盗賊の盾はそう叫びながら、最後に勢いよく縄を自分のもとに手繰り寄せる。ドシン、とポップルと、彼女に抱きしめられたままのクルトは海賊船の上に落下した。
彼女の言葉通り、海からまた水が集まり、アクア・レンジャーの頭の上に集まる……たちまちのうちに彼は元のリキッド・ピープルの戦士に戻った。
「くっ……おのれ、まだまだ!」
彼は海賊船に飛びあがり、ナイフを再度構えようとする……だが、次の瞬間気が付いた。ナイフを持ってない。
盗賊の盾はにやっと笑って「これかい」と、縄に巻き込まれた彼のナイフを見せびらかす。どさくさに紛れて、ポップル達と一緒にかすめ取ったらしい。
「あ、そ、それは……」
「なかなかセンスいいじゃないか、あたしのコレクションに加えさせてもらうよ」
「か、返せ、ドロボー!」
そう叫び、丸腰のままそれでも飛び掛かってくるアクア・レンジャーに「ドロボー結構」と、盗賊の盾は向かい合う。盾に刺した剣を一本引き抜いて。
「あたしは『盗賊の盾』さね!」
そしてその剣で、向かってきた彼の体を真っ二つに切り裂く。
その勢いでさらにスパン、スパンと八つ裂きにするや否や……それがくっつくより前に、海に叩き落とした。
「さっ! お嬢ちゃん、行くよ!」
そしてポップルの返答も待たずに彼女は舵を操作し……アクア・グラップラーが吹き飛んだ方向とは逆に、船を進めた。
●
「あ、あの……ありがとう、ございます?」
ようやく落ち着いたのか、リキッド・ピープル二人は追ってくる気配もない。縄を解かれたポップルは、盗賊の盾にそう言った。
状況は相変わらず呑み込めないが……少なくとも、彼らから乱暴されていたのを、彼女は助けてくれたようにも思える。
「ん、いいってことさ」
舵を切りながら盗賊の盾は答えた。小さい海賊船には、彼女一人しか乗っていないようだ。
「えーっと……あたし、何もよく分からなくて……」
とにかくも、落ち着いたのだから少しでも状況を理解したい気分だった。なぜ自分が狙われて、彼らは何で、彼女は何者なのか。
「あの……盗賊の盾、さんでしたっけ? あたし、春風妖精ポップルって言います。こんにちは」
「お、自分から自己紹介ができるなんて、お利口だね、感心感心」
「ボク、クルト」
「おー、君も偉い偉い」
ひとまず、盗賊の盾は手荒なことをしてくる様子はない。気さくな態度だ。
「あのう……何がどうなってるんですか? あたし……何で、乱暴されたんです? 水文明の人や盗賊の盾さんに、迷惑なことした覚え、ないんですけれど……」
ひとまずポップルは、それから先に聞くことにした。
「ん。それかい」盗賊の盾は凪を確認してから舵から離れ、ポップルと向かい合う。
「うん、あたしも迷惑な事されてないから安心しな。説明してやる。あんたが憎くての事じゃないよ。奴らは……と言うかまあ、正確には奴らを動かしてる上役さんは、あんたをさらって、どっかの金持ちに売り飛ばそうってハラだったんだろうさ」
「……?」
それを聞いて、いよいよポップルの頭はまっさらになる。売り飛ばされる? 自分が?
「……あ、大丈夫。あたしは、あんたを奴らから助けようと思っただけだから、安心して。ケチな海賊稼業で暮らしちゃいるが、盗みはすれど非道はせずがポリシーでね。子供を売って飯を食うほど、落ちぶれちゃいないよ」と、盗賊の盾が自分自身について話してくれたが、ポップルはやはりそれよりも前の段階で止まっていた。
「???」
売り飛ばす? それって、野菜とか、織物を店で売るみたいに、自分が店で売られるって事? それが、ポップルには理解できなかった。
だって、野菜や果物が店に並んでいるのは見たことがあるけれど、自分のようなフェアリーが並んで売られている所なんて、見たことない。少なくとも、ポップルは知らない。それなのに自分が売られる? 自分は売られるようなモノじゃないのに? 全くもって、彼女には理解が及ばなかった。
盗賊の盾は彼女のそんな様子を見抜いたのか「あー……お嬢ちゃんには難しかったかね」と言ってくれた。
「まっ、平たく言えば完全に奴らの勝手な都合だから、あんたが悪く思う必要はないよ。大丈夫さ」
「そうなんですか……良かったです」ひとまず、ポップルは納得した。そして、先ほどの盗賊の盾の言葉にようやく追いつく。
「あっ、盗賊の盾さん、あたしを助けてくれたんですね! ありがとうございます……! それに、すっごくかっこよかったです!」
「なーに。当たり前の事さ。でも、ありがとね。そう言ってもらえて嬉しいよ」
彼女は素直に、そう嬉しがる。そのうち「……さてと」と一つ咳払いをした。
「あたしの方も、あんたらについて聞かせてもらえやしないかい? どうもここら辺にいるには、妙な組み合わせだ。そうそう里から出ないはずのフェアリーが、子供だけの旅……それに、そっちは、光文明のライトブリンガーかね?」
「エッ!」驚くクルト。「わかるノ!?」
「ああ、昔ちょっとね。いずれにしても、そんなお偉いさんの護衛と見るには、ちっと不自然だ……お嬢ちゃんたち、どんな関係だい?」
「え、えっと……」ポップルはどもる。盗賊の盾は親切な相手には違いないが、孤高の願の件もあって、自分たちの事に関しては慎重でいなきゃ、と言う思いも湧いてくるのだ。
だが、彼女がもごもご黙っていると……盗賊の盾は「……どうやら、訳ありみたいだねぇ」と、また口を開いてきた。
「まあ、訳ありも当然か。クルトだったっけ。あんた……そんなひょうきんな顔して、追われてるのかい? 随分恨まれてるようだね」
「エ!!」再度、クルトは驚く。ポップルもだ。
「なーに、驚くことじゃないさ」と、盗賊の盾。「さっきの話、聞こえてたんだよ。大体、察しはつくさ。お嬢ちゃんはあんたを守ってたし、あんたは誰かに殺されかけてる身だ。けど……たぶん闇とかそこらの連中じゃないねぇ。そう言う奴らなら、お嬢ちゃんはさっさとあんたを信頼できる自然文明の大人に預ければ済むこった。それができないってことは……信用できる大人ほど頼れなくなる、そんな構造があるんだね」
ポップルは生唾を飲み込む思いだった。何もかも、このビーストフォークにはお見通しのようだ。そしてついに、盗賊の盾は言った。
「あんたが追われてるの、お仲間の光文明じゃないのかい?」
「……」
ポップルがなんて返そうかと迷っている所「す、すごイ……」と、クルトの方からそれを認めてしまった。
「な、なんで分かったノ? 予言!?」
「話しを聞いて察しはつくって、言ってんだろ……」
「そ……そうです」ポップルは震えながら言う。
「でも! 信じてください! クルトさんは悪い事なんてするはずないんです! だからあたし、誤解が解けるまでって思って、クルトさんを庇って……!」
だが、そのパニック気味の言葉も、盗賊の盾の低い声が遮った。
「落ち着きな! あたしは別に、その子を光文明に突き渡す気もないから」
「えっ……?」
「言った通りさ。あたしゃごろつき稼業が長いんだ。どんな文明のどんな種族だって、タチの悪い奴は顔見りゃわかるさね。その予言者、びっくりするぐらいタチの悪さとは無縁だなんて、すぐわかる。お仲間に追われるべくして追われてるなんて、思ってないさ」
彼女の言葉には、これまた嘘は無いようだった。
「それにあたしは無法者さ。光のこた、特に嫌いでもないが、自分の感じ方を捻じ曲げてまで忠義を誓ってやるほどのもんでもないと思ってる……だから、安心しな」
ポップルはほっと、肩の力を抜く。クルトも一緒だ。いや……そんな言葉では表現しつくせないほど、張り詰めていた糸が一気に切れるような思いだった。これを共有できる大人が現れてくれるなんて、思いもしなかった、
盗賊の盾はやはり色々察してくれたようで、言う。
「まあ、あんたらの考えも及ばない何かが渦巻いてるんだろうね……とりあえず、しばらくあたしが匿ってやろうか。あの水の連中も、あれじゃ諦めないだろうし、あんたら二人だけじゃ危険だ。二人そろって追われる身じゃあね」
「ほ、本当ですか!」ポップルは明るい声音で言う。
「ほんとうに、ありがとうござ……」
「お礼なんか結構」盗賊の盾は、その言葉すらも遮った。
「子供を守るのは、大人の務めだよ。無法者でも、それくらいは知ってるもんさ……それも知らないやつは、無法者じゃねぇ、ただの外道さね。……むしろ、大人が子供守ることに恩を着せちゃあ、この世も末さ」
無法者を名乗る割に、その言葉は暖かくて……ポップルは本当に、ほっと心が温かくなる思いだった。
良く分からない事にさらに巻き込まれてしまったものの……ここまで優しくて、しかも自分たちの事情を受け入れてくれる相手に出会えたのは、幸運と言わずして何というべきか。
「ねえネエ! 盗賊の盾サン!」クルトも元気よく話しかける。
「なんだい?」
「さっき、光文明の事ちょっと知ってたみたいだったけド……?」
どうやら、クルトとはずっとその事が気になっていたようだ。盗賊の盾は少し笑って「あー、昔ちっと、光文明に行ったことがあってね」と軽く返してきた。
「……え?」
その言葉に固まる二人。
「光文明……来てくれたこと、あるノ?」
「さすがにシルヴァー・グローリーは無理だよ!」笑って盗賊の盾は返してきた。
「でもまあ、スターライト・ツリーの森に入ったことがあってね。スターライト・ツリーの宝石の実を取ってこようと思って……いや、あれはキツかったね! ジャイアント・インセクトじゃそう高くまで飛べないから、火文明からアーマード・ワイバーンを生け捕りにして手なずけて、なんとか届いたよ。実を手に入れたはいいけど、イニシエートに癖者扱いされて追われるし……いやー、死ぬかと思ったね」
……当たり前のようにつらつら話されるその言葉に二人はぽかんとした。しかし……先に口を恐る恐る開いたのは、ポップルの方。しかも先ほどまでの恐怖や戸惑いじゃなく……楽しそうな色に、顔色を染めて。
「そ、それで……どうなったんですか!?」
「もう、必死でスターライト・ツリーの森をかくれんぼよ! スターライト・ツリーの実の一つなくなる程度でも、秩序のバランスが崩れる事は許せないってね。光の武器は本当にすごくてねぇ。光の銃弾とか、浴びれば体が動かなくなる光線とか。あたしの盾も壊れそうになったさ。真っ向から立ち向かって勝てねえって思ったことはあんまりないけど、あの時はそのうちの一つさ! けど、徹底的にかくれんぼしてやったらそのうちどうにかまけてね、ワイバーンと共に命からがら、地上に帰ってこれたってわけだ。光文明は空気も薄くて……あとちょっと粘ってたら、息が詰まってたかもしれないねぇ。本当、運が良かった」
「……」
クルトは相変わらず絶句している。無理もない。光文明で育った彼にとっては、他文明の種族などそうやすやすと光に侵入できない存在だったのだ。しかし……ポップルは先ほどまでの不安もどこへやら、すっかり顔中キラキラさせて「すごい……すごいです!」と返した。
「海賊さんなのに、そんな空への冒険もしたんですか!?」
「え……あ、そういや、まだあたしの自己紹介をしてなかったね」盗賊の盾はその質問を受けて、何かを思い返したように言った。
「あたしゃ、今は見ての通り婆さんで、ショボい海賊暮らしで口に糊してる身だけれど……若いときは海に限らず、世界中駆けずり回ってお宝を集めた大盗賊でね。盗賊の盾様とききゃあ、当時は自然に限らず、火にも水にも、ちったぁ知られたもんだったよ」
「……」ポップルは口をあんぐりさせた。
「こう見えても義賊としても、けっこう頼りにされたもんさ。火文明に分捕られたとか、水文明に騙し取られたとか、そう泣いてるやつらのものを分捕りかえしてきたりとかね。……いい思い出だよ。やっぱりヤクザもんだって、感謝されればうれしくってね。大好きなはずのお宝の輝きよりも、ありがとうございますの言葉の方が、ふしぎに何倍も心にしみたもんだ」
「そ、それって……」
なんだか、聞き覚えがあるような。
「あのっ!」
「ん?」
「あ、あたし、スノーフェアリーの里で、盗賊の盾さんと凄く似たお話を聞いたんですけど……」
そうだ。ポコペンに話された話の、ビーストフォークの冒険家と似ている。話を聞いている限り、そっくりだ。恐る恐るポップルはポコペンから聞いた話を覚えている分話すと、盗賊の盾はハハッ、と笑って軽く言った。
「そりゃ、たぶんあたしだ。いやぁ、もう結構前の事なのに、妖精の里にも知られてるなんて、光栄だよ!」
最も人の事死んだみたいに話すなんざ縁起でもねえけどね。そんな彼女の言葉も耳に入らないほど、ポップルは高揚していた。
信じられない。あんな風に話される、あこがれの冒険家が……話とは違って、生きていて、目の前にいる。
女の子は冒険家になんかなれないわよ、と言われたのに、その世界一の冒険家だって自分と同じ女性で。そして、優しくて、頼りがいがあって、本当に尊敬できる大人。そして……自分を助けてくれた。
信じられない。本当に、こんな日が来るなんて。こんな光景を、目のあたりにするなんて。
「……? どうしたんだい?」
「盗賊の盾さん!」
ポップルはその場で、思わず言った。深く、深くお辞儀しながら。ほぼ、突発的に。……しかし、その時それ以上に彼女が言いたかった言葉なんて、あるはずがない。
「あたしを、弟子にしてくださいっ!」
●
「……と、言うわけで帰還いたしました……」
「まさか盗賊の盾が現れるとは……」
アクア・レンジャーとアクア・グラップラーの二人は命からがらアカシック3に帰還し……アクアンの前で経過報告をしていた。
「…………」
アクアンは先ほどから無言。無言のまま、小型端末をカタカタ操作している。
「(な、何か言ってください、社長ォォ!)」
「(黙られてるのが一番怖い……)」
リキッド・ピープルの方がサイバーロードより体格も大きく力も強いはずなのだが……彼らはこういう時、サイバーロードが支配種族たる所以を、ひしひしと感じる。とにかく自分達より格上なのだと思わせてくる、不思議な気迫があるのだ。サイバーロードと言う種族は。恵まれない体をカバーする彼らのあまりに高い知性が、それを齎すのだろうか。
アクアンは、操作を終えたのか「キャンドルちゃん、これ」と端末をフェアリー・キャンドルに渡す。フェアリー・キャンドルは「了解ですわ」と、その端末を頭のひれで掴み、アクアンの座る椅子から離れた所に跪く二人の目の前に付き出した。
二人が見たのは……彼らには実感も湧かないほど桁の高い数字と……その後ろにつくコスモの記号。
「えっ……」
「こ、これは……」
「もしもあなた方がこれでこの仕事を降りるとして」フェアリー・キャンドルが説明する。「現状、発生する損害ですわ」
「ぶっ!」アクア・レンジャーは驚いて変な声が出た。
「こ、こんな価値があったんですか!? 春のスノーフェアリーとは!」
「……何か、勘違いしてない?」漸く二人に向かって口を開いたアクアン。普段は不敵に笑うその口角は珍しく下向きになっていて……その声音からも、明らかに彼が不機嫌なことが読み取れた。
「これはね、ボクがあのスノーフェアリーを探すために費やした金額なんだけど」
「……」とうとう、言葉を失う二人。リキッド・ピープルに血など流れてないが、それでも血の気が引ける思いだ。
「エメラルの野郎……途中からなんか感づいたみたいで……何かと理由つけて吹っかけてきやがって……」
「……ですから勿論、彼女にはこれを補って余りある値段が付きますわ。……お分かり?」
リキッド・ピープル二人はガタガタ震えだす。
「ボクはね、別にいいんだよ。金さえ儲かればボクはいいんだ。金以外に興味なんてない。これと同じ利益が叩き出せるんなら、別にスノーフェアリーにこだわりはしない。問題は……」
アクアンは震える彼らに、言い放つ。
「キミらがそれだけ、金持ってるかって事なんだけど……」
「申し訳ありませんでした、社長ッ!」
「我々にもう一度チャンスを!」
「チャンスも何も、いつから仕事降ろされる気でいたの?」アクアンは言う。
「何勝手に帰って来てんだよ! スパイラル・ゲートを動かすマナだってタダじゃないんだよ! リキッド・ピープル一往復分のマナ・エネルギーの代金、キミらの給料から天引きだからね!」
「は、はひぃッ!」二人は口をそろえて返事する。
「と、いうわけですので」フェアリー・キャンドルが言う。「即刻、仕事へお戻りください。あなた方の負った責任の重さを、お忘れなく」
「あ、あの、秘書殿……」恐る恐る、アクア・レンジャーが口を開いた。
「なんです?」
「実はアカシック3に帰還してきた理由なのですが……その……私、武器を紛失しまして、新しく調達する必要に迫られまして……」
「経費で落ちるとお思い?」
「思ってませんッ! 失礼いたしますッ!」
口をそろえて、二人は社長室を出ていった。パタンと閉まる扉。
「……社長はともかく……」
「……サイバー・ウイルスにまで威張られるオレたちって……」
社長室の扉を背に、そう呟くアクア・レンジャーとアクア・グラップラーであった。
「……こうなればコードAGよ、何が何でもあの妖精を!」
「うむっ、バディAR,いかなる時でもオレ達は一緒だ!」
そう話しながらアカシック3の武器屋を目指す二人に「よーう」とかかる気さくな声。アクア・サーファーだ。
「お前ら、もう計画立てたか? 今度の休暇に、皆で久しぶりに海上で遊ぼうって……」
「……すまん、オレたち二人はキャンセルだ」と、アクア・グラップラー。
「え?」
「もう一生、休暇なんて取れないかもしれん……」
「我々の分も思い出を作って来てくれ……」と、アクア・レンジャー。
「……? お、おう?」
去っていく二人の後ろ姿を見ながら、アクア・サーファーは思う。
「何かしらんが、大企業の社員も大変だなー……軍隊に入ってよかったわ」
「社長、いかがなさいますの?」
「諦めるわけないだろ」アクアンは秘書の問いかけに淡々と返す。
「でもまあ、船か……ちょっと厄介だな、移動場所の演算がしにくい」
そう言いながらも彼は地図ソフトを起動し、またバタバタと計算を始めている。……どうやらまた、諜報部ビルに籠ることになりそうだ。と、フェアリー・キャンドルは思った。